それは、紫の一言だった。
「紅夜、貴方ベンチね」
「え?」
気合いが漲っていた彼を、その紫の一言で一刀両断した。
「どういうことだよ、紫」
「それはそうでしょ。紅夜は入部したばかりなんだから」
魔理沙の疑問に霊夢が答える。紅夜をチームに入れたのはいいが、去年からやっているチームメンバーと比べると格段に連携の精度が落ちる。それは、サッカーというチームスポーツにおいて、ハンデになりうる物だった。
「そうね。出すとしても、後半の半分を過ぎたあたりかしらね…」
もちろん、それはこちらがリードしている前提の話である。だが、去年の試合からわかる通り、実力は互角、最後までどうなるか分からないのが現状であった。
「……わかった。なら、出れるよう祈っとく」
「紅夜って、魔理沙に負けず劣らず好戦的なのね…」
霊夢はため息をついて、未だに闘志に燃えている紅夜を見るのだった。
幻想学園 チーム紅月 部室
「お嬢様、チーム博麗に新メンバーが加入したとのことですが…」
「噂の男でしょ?そんな強そうには見えなかったわよ」
ある部室で、そのように話す者たちがいた。チーム紅月のレミリア・スカーレットとその従者の十六夜咲夜である。
彼女たちは、チーム博麗が使っている部室より豪華な部室を使用していた。上にはシャンデリアを模したであろう電灯、壁は目が悪くなりそうな真っ紅に染まっており、床にはカーペットが敷いてある。さらに、フカフカのソファーやテレビなど完備されていて、ここに住めるというぐらい充実していた。
その部室を使うのがチーム紅月である。チーム紅月は、キャプテンであるレミリア・スカーレットを筆頭に計6人で構成されていた。
「それより警戒すべきは、あの紅白よ」
チーム博麗で紅白といえば霊夢しかいない。なら何故彼女らが彼女を警戒するのか。
「そうですね。あの時もしてやられましたし」
「そうよ!あの時の屈辱は忘れたことはないわ!」
それはひとえに彼女がやったプレイにあった。
去年の試合、霊夢はMVPと言える活躍をした。攻めても攻めても霊夢に阻まれるのだ。それに加えて、攻撃の面でも強かった。同メンバーのパチュリーと美鈴のおかげでなんとか凌ぐことはできたが、冷や汗をかく場面はいくらでもあった。
「けどね、それよりも許せないのは、その後の霊夢よ!!」
「ムキー」と擬音が聞こえそうなほど憤慨しているレミリア。それに対し、咲夜がつっこんだ。
「……あの時は、お嬢様の自業自得だったはずですが…」
「それはそうだけど!!
「本人はそのつもりはないと思いますが…」
「私が許さないの!!
「それはお嬢様が調子に乗ってプリンを賭けたからだと思いますが…」
「うぅ…」
容赦ない咲夜の言葉に意気消沈するレミリア。しかし、上のことを聞く限り、レミリアの自業自得であった。
当時、レミリアはチーム博麗を下に見ていた。それは、当時はチーム紅月が強豪であり、チーム博麗は審判側だったからだ。つまり、チーム博麗の試合データがないため、試合経験皆無だということになる。だからこそ、個人、チームの実力を抜きにして、経験者たる紅月が負けるはずがないと高を括っていた。その結果が好物のプリンの賭けであり、紅月の僅差での敗北となったのだ。
ちなみに、この賭けをした時の映像も紅夜が見た試合映像の中に残っており、負けないと高を括って負け、プリンを食べられるところも映っていた。それを見た時の紅夜は、
「えぇ…」
と困惑したという。
「でも、今度こそ負けないわ!!漸く私たち姉妹が揃ったんだから!」
「ムフー」と聞こえそうなほどにない胸を張るレミリア。自信満々のその姿は、咲夜の理性を破壊しかけた。
(た、耐えるのよ、咲夜)
咲夜はレミリアに忠誠と同様の愛を抱いている。それは変態レベルと言っても過言ではないが、時々破壊されそうになる理性を無理矢理耐えるのは、流石彼女の二つ名でもある「瀟酒なメイド」であった。
(い、家帰ったら、お嬢様の服を嗅いで補給よ)
中身は残念らしい。
「あら?先に来てたのね」
すると、突然扉が開いて誰かが入ってきた。その人物は、分厚い本を片手に持っており、部室で読むのか本は複数あった。
「今日は随分遅かったじゃない、パチェ」
「…転校生について調べたの」
「なんかいい情報あった?」
「なんもないわ。小学生の時に2年ぐらい稲妻KFCにいたということだけ。あそこはどことも試合をしてないし、簡単に言えば弱小クラブよ。あとは親が転勤族でよく引っ越していたというぐらいかしらね」
そう話すのは、パチュリー・ノーレッジ。レミリアの親友にして、家族である。紅月の中では一番頭が良く、それを生かして情報を集めたりしていた。レミリアがお嬢様であることも踏まえると、情報集めは比較的簡単にできた。
「おそらく、試合は以前と同じメンバーで出てくるでしょうね」
「私もそう思うわ。それに、白玉楼の紫が向こうの監督に再着任したという情報もある。一筋縄ではいかないわよ」
チーム紅月は、過去にチーム白玉楼に苦戦している。それは主に、紫がいたからだと彼女らは分析していた。
紫は、幻想学園の中で最強プレイヤーの1人でもある。それに加えて、頭脳明晰で腹の底が読めない。正直、彼女が監督のチームとは対戦したくないのが本音だった。
「レミィ、勝てるの?」
「勝てるのじゃないわ!!勝つのよ!」
だが、レミリアのプライドがその本音を許さない。確かに、紫は強い。しかし、一度離れたチーム博麗を使い熟せるとは思えない。特に、紫と霊夢はその件でよく喧嘩している。チームスポーツのサッカーでそれは致命的だ。
「私にかかれば、我々の勝利の運命は既に決まっているようなもの。負ける道理などないわ!」
レミリアは、ホワイトボードに貼り付いているチーム博麗のメンバー写真を見て、そう自信満々に言うのだった。
幻想学園 理事長室
放課後になって夕日が空を覆う中、幻想学園の最上階にある理事長室の席には当然理事長が座っていた。その理事長とは、珍しく生徒である八雲紫が勤めている。
彼女は、手に持っているある一枚の書類を見つめていた。その書類は他の同類の書類と比べて比較的真新しく、それでいて彼女の興味を引くものであった。
「紫様、その書類は?」
「あら、藍?この書類のことが気になるの?」
「いえ、そんなわけでは…」
「ふふ、大丈夫よ。あなたにも見て欲しいから」
そう言って紫が書類を渡したのは、彼女の秘書兼従者である八雲藍である。藍は、その書類を受け取ると、そのタイトルに目がいく。
「なるほど。
藍が見たのは、ある生徒の情報が書かれた紙であった。それには、名前、生年月日など
ゆっくりとその書類を見る藍。やがて全て見終えると、その紙を紫に戻す。
「
「やっぱり、藍もそう思うわよね。あの会長もそうだったし…」
「ですが、他に何かあるのですか?この書類を見る限り、
藍が不思議そうな顔をそう言う。彼女が言う月宮とは、幻想学園のライバル校の「月宮学園」のことである。
上の会話から察することができるが、幻想学園と月宮学園は犬猿の仲である。今も、転校生である紅夜が月宮学園のスパイなのではないかと調べているところであった。
「
紫は、胡散臭い笑みから真剣な表情になる。そして、机の中からある一枚の書類を取り出して藍に見せる。
「見なさい。彼の親の情報よ」
「…………これは!?」
「そう。彼の母親は『神谷夜見』。旧姓は『月宮』よ」
その書類には、紅夜の母の情報が書いてあった。しかも丁寧に顔写真付きで。だがその顔は、藍には見覚えがあった。
幻想学園と月宮学園はライバル校故にそれなりに交流がある。その際に、理事長どうしの顔合わせもあった。藍は従者兼秘書として紫とともに顔合わせしにいった。そこにいたのが彼女であった。
月宮夜見。それは、月宮学園の理事長であり、神谷紅夜の母親である。その関係から、彼女らは秘密裏に彼のことを調べていたのだ。ちなみに、彼を試合に出さないのは、これも理由に入っている。
「チーム博麗の紅月の次の試合は間違いなくチーム白玉楼になる。けど、私は去年のこともあって出ることはできない。だからあなたが、しっかり、彼のことを見極めてきなさい」
「はい」
そうして、藍は、チーム博麗の紅月戦を紅夜を中心に観戦することになる。
翌日 幻想学園 グラウンド
「はぁ」
「結局、ベンチなのは変わらなかったな…」
目に見えて落ち込む紅夜を慰める魔理沙。彼はどれだけ試合に出たかったのだろうか。
「仕方ないさ。だから、今まで通り後半に出れるよう祈っとくよ」
苦笑いでため息をつきながらそう言う紅夜。それでも、彼の闘志は失っていなかった。現に、魔理沙は彼の闘志を感じ取っていた。
今日の天候は晴れ。グラウンドは良好。絶好の試合日和であった。彼の闘志が漲るのもわからなくはないだろう。
今回の試合は、チーム博麗の先攻で始まる。ポジションはいつも通りと言っても良かった。キャプテンの霊夢はMF、魔理沙はFW、あうんはDF、華扇はGK。試合は、幻想学園独自のミニゲーム形式の試合となるため、前後半各30分、休憩20分の試合となる。
ベンチに座った紫は、手に持っている扇子で口元を隠しながらアップをしているチーム博麗を見る。その表情はわからないが、胡散臭い雰囲気を出しているのはわかった。
「見させてもらうわね。成長したチーム博麗を」
その言葉は、同じくベンチの紅夜の耳に入っていった。
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