「恋符ーーー【マスタースパーク】!!!」
試合再開直後、魔理沙の一撃が炸裂した。再開のキックオフと同時に、つまり、ハーフライン手前から放たれたそのシュートは、白い光線となってゴールに襲い掛かっていた。前を塞ぐ物を全て薙ぎ倒すような、地面を削りながら進んでいくその強烈なシュートに、観客はもちろんのこと、魔理沙を焚き付けた霊夢すらも目を見開いて驚いていた。
「えぇ…」
ベンチから見ている紫もこれには唖然とするしかない。それだけ、魔理沙のこの技は火力が桁違いだった。
「確かにいつも通り火力に頼れとは言ったけどさ………
これは違うでしょ!!これ、明らかにあの
霊夢はこの技に縁があるのか、早口で捲し立てる。額には冷や汗を流していて、いつもの霊夢の雰囲気ではなかった。
逆に魔理沙はケロッとしている。「それが何か問題でも?」と言いそうな表情だ。
「美鈴!!」
そこに、レミリアの悲痛な叫び声が重なる。明らかに、レミリアの「スピア・ザ・グングニル」と同等かそれ以上の必殺技。今の美鈴に止められないのはわかっていた。
しかし、シュートがゴールに辿り着く前に2人の選手が立ち塞がった。咲夜とパチュリーである。
「後は頼みます、美鈴。ーーー奇術【エターナルミーク】!!」
「そうね。咲夜の言う通りよ。威力は削るからしっかり止めなさい。ーーー火符【アグニシャイン】!!」
2人の必殺技でシュートをどうにか止めようとする。無理でも、威力をできるだけ削ごうとする。だが、ナイフと炎による迎撃は、光線を少ししか削ることができなかった。
ーーー止められない。
それを見ていた魔理沙は、かつての自分ーーーこの技の元祖と初めて出会った時のことを思い浮かべていた。
「くそっ!!」
あれは、まだ魔理沙が幻想学園に入ってばかりの頃だった。当時のチーム博麗は、チーム紅月に辛勝し、チーム白玉楼に惨敗していた。それに一番ショックを受けていたのが、魔理沙だった。特に、チーム紅月との対戦では、辛勝したのがほとんど霊夢のおかげと言っても過言ではなく、自身の必殺技であった「マジックミサイル」はほとんど通用せず、新たに開発した「イリュージョンレーザー」もチーム白玉楼の前では相手にもされなかった。
その結果、魔理沙は自身の実力に疑問を持ち始めていた。ただでさえ、上記のことでショックを受けている中でのこの疑問だ。彼女が逃げ出すのも無理はなかった。
魔理沙は強くなりたかった。自分だけ何もしていないのは辛かった。だからこそ、近くに山があるためにそこに魔理沙は単身で乗り込んだ。
「わ、わたしは…」
山の中腹ぐらいに来た頃、魔理沙は泣き出した。腹の中のものが溢れ出した感じだ。
「どうして、こんなに才能がないんだ…」
彼女の脳裏に浮かぶのは、1人の天才。チーム紅月を翻弄した、紅白の姿だった。彼女は自分ができなかったことを淡々と熟す。それを見た負けず嫌いな魔理沙は、人一倍努力してできるようにしていた。
今回もそれをやろうとしたが、気持ちが追いつかない。そんな彼女の気持ちに合わせて、次第に雨が降ってくる。
「う、うぅ…」
近くにあった木の根本に座り込み、空を見上げる魔理沙。涙なのか、雨が髪をつたって落ちているのかわからないが、頬を滴が静かに落ちていく。
自分はチームに必要なのか?もう霊夢だけでいいのではないか?
こういう時に限って、どんどんネガティブな思考に染まっていく。頭の中が真っ黒に染まるような感じがする。
そういえば、霊夢と出会う前もこんな感じだった。あれは確か、サッカーをやるかどうかで父親と喧嘩した時だった。
(あの時は才能がないって、言われたんだっけ?)
流石父親だ。今更になって、魔理沙はそう思った。当時の父親が言った「遊びの範囲だけにしとけ」は、今の状況を予見していたからだろう。それも、魔理沙のことを充分に理解した上でだ。
(私は、私は…)
魔理沙は項垂れる。どうしようもない虚無感に苛まれ、何度も同じ思考をグルグル回る。
(でも…)
魔理沙は、父親と喧嘩した後のことを思い出していた。
(大好きなサッカーからは逃げたくない)
そして、何より、
(霊夢と肩を並べ合いたい!)
魔理沙にとって、霊夢は幼馴染でありライバルだった。だからこそ、霊夢の気持ちを察することができるし、霊夢の支えとなれるのは彼女しかいなかった。
魔理沙の気持ちが上向きになるにつれて、空が少しずつ明るくなっていく。雨が弱くなり始め、雲が途切れて陽が差していく。
「あら?こんなところで何してるの?」
「!?み、魅魔、先輩…」
その時、魔理沙の前に1人の女性が現れた。その名は魅魔。魔理沙の師匠である。
「ど、どうしてここに…」
「どうしてって、師匠が弟子の心配をするのはおかしいことかしら?」
話を聞く限り、どうやら魔理沙がここに走っていくのを見てたらしい。その姿は、今にも泣きそうな背中だった。だからこうして追いかけてきたとのことだ。
「魔理沙は強くなりたいらしいね」
「そ、そうだけど…」
「あの
「うっ」
魅魔の言葉に、魔理沙は苦虫を噛み潰したような顔をする。図星だった。だけど、そんな「はい、そうですか」で強くなることはできないのは、彼女が良くわかっている。
魔理沙は、少し考えた後に魅魔にこう問いかけた。
「……なぁ、簡単に強くなれる方法はないのか?」
「魔理沙?それは君が一番知ってることだよ」
「でも……」
「…まぁ、だが、方法はないわけではない」
「本当か!?」
魅魔は頷く。一体その方法はなんなのか?
「簡単さ。君も今までやってきたことだ」
「私がか?」
「そう。君は強くなるためにどのようなことをしてきた?」
魅魔のその問いに、魔理沙は思い出す。自分に才能がないから必死に努力して、それをより効果的にするために相手選手や味方など様々な方向から研究して自分のものにしてきた。
ここまで考えて、魔理沙は「はっ」とする。魅魔の言いたいことがわかったようだ。
「他人から盗む…」
「言い方はあれだが、要はその通りだ。自分に足りないものを他人から補う。それも立派な強くなる手段の一つだ。特にこの手は、君が一番得意な方法だろう?」
魅魔の言う通り、魔理沙は相手の動きを分析して良いと思ったところを取り入れるのが上手かった。それは、必殺技も例外ではない。だからこそ、チーム白玉楼戦では、3点のうちの2点は彼女が決めることができていた。
つまり、魔理沙は試合中に強くなる可能性が一番高い選手なのだ。それは、努力では言い表せない、立派な才能だった。
「先輩!!私…」
「……わかった。その代わり、しっかりものにしなさい」
魔理沙は魅魔にあることを頼み込む。それを魅魔は了承する。
「今から連絡する。だから君は今すぐ向かいなさい」
「はい!ありがとう!!先輩!」
魔理沙はこの場から走り去っていく。だが、それは前の泣き出しそうな背中ではなく、何かを楽しみにして待ちきれない背中に見えた。
魅魔は魔理沙のやる気が充分だと判断して、あるところに連絡を入れる。
『もしもし、私だが』
『何かしら?いきなり。こっちは忙しいのだけど?』
『いや、私の弟子がそっちに行ったからね。彼女に見せてあげてほしいのさ。
『ふーん。魅魔の弟子ねぇ……。その代わり、遊んでもいいのでしょう?』
『ほどほどにね。それじゃ、頼むよ、
魔理沙は山を勢いよく下っていた。障害物となり得る木をスイスイと避けながら、スピードを一切落とさず駆け降りる。
(私は、霊夢みたいに天才じゃないし、努力することしかできない)
山を駆け上った道を辿りながら、魔理沙は何か憑き物が落ちたような表情で腕を振る。
(だけど…)
「あら?あなたが魅魔の言っていた人ね?」
(私は、私なりのやり方で、強くなる。霊夢の隣に立って、いつまでも走り続けてやる!)
幽香のところにまで辿りついた魔理沙は、血反吐吐きながら、それこそ、倒れても無理やり起きて幽香についていく。そのようにして、必死に己を鍛え上げていった。その結果が、今の魔理沙を作り上げた。
「咲夜さん、パチュリーさん、思いは受け取りました!絶対に、紅魔館門番の名にかけて、絶対に止めます!!
虹符ーーー【烈虹真拳】!!!」
美鈴は必死に抵抗する。拳から放たれる気弾はシュートの光線に弾かれるが、美鈴の目には諦めの色は映っておらず、最後まで止めるために足掻こうとしていた。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
だが、このシュートは文字通りの規格外だった。美鈴の必殺技ごと全てを呑み込み、その光線はゴールに突き刺さった。
「やっぱり、弾幕は
魔理沙のその言葉の後、一瞬静まり返っていた歓声が響き渡った。
ピィィィィィィィィィ!!!!
開始5分
チーム紅月 パチュリー→レミリア 1
チーム博麗 魔理沙 1
現在 1ー1
・恋符 マスタースパーク
魔理沙のシュート技。ボールを顔の高さにまで浮かせてから八卦炉を展開、その八卦炉にボールを叩き込むことで八卦炉からボールが光線となってゴールに向かう。モーションイメージは「シェルビットバースト」。