うん……?ダイビング部ってSRT?
序章の時もそうだったけど、タイミングが良いというかなんというか……。
どうすればいいの!? 知っちゃったからには考慮したいとこだし……。
あ~でも、一年生組は会ったこと無いか……時系列的に。
「ミユさんだったのか……どうりで途中から既視感があった訳だ……」
「えっと、ごめんなさい……紛らわしくって……」
「いえ……これはサリが神経質だっただけですので気にしないでください」
草むらの中でしゃがみ込んでいたミユさんを見つけた私達。彼女を一目見た瞬間、得体のしれない気配の正体がミユさんだとハッキリ分かった。
神経質だったのは認めるけどさ……?そこまでスパッと言われると流石に傷付くよ……ミヤコ?
「にしても、サリ?」
「はい、なんでしょう?」
「よく気付きましたね? あそこからここまでは結構離れている気がしますが……」
「あぁ……半年くらい前だったかな? 近くに居る人の方向や位置を暖かさ……? みたいなので分かるようになって……」
「なんですかそれ……」
ミヤコは眉を少し歪めて怪訝な表情をしている……。しかし、その目には恐れに近い感情が視えた……
実際にミユさんを見つけているからだろうけど……ミヤコに恐れられるのは……少し嫌だなぁ。
「というかミユさん?」
「はい……?」
「ここで何してたんですか?」
「えっと……小石を拾ってました……」
「いや、なんで……?」
「私みたいだな……って思って」
「なる……ほど……?」
その理由に少し心当たりのような物があった。
昔にやってた人助け。だんだん自分の価値が上がるような……自分を好意的に見てくれて嬉しかったような……そう言った気持ちがあった事を思い出した。
彼女もそういう理由だったりするのかな?
「あのっ……! 私を見つけてくれたのは初めてなんです……! 私、今まで認識されなかったのに……!」
ミユさんは震えながら、必死さを感じさせる声で話してくる。
そこには期待と悲しみの感情が混ざっているように視えた。
というか、全く認知されないって何?私は普通に分かったし、ミヤコもちゃんと認識してるし……でも、話を誇張する人に見えない。
「……そんなに?」
疑うわけでは無かったが、思わずそんな言葉を出してしまった。
「はい……。最近だと自動ドアにすら……」
「「え?」」
その内容にミヤコと声が重なった。
自動ドアにって……それって影が薄いで説明が付くの?
「機械にまでとなると私より……」
「私ってどうしてこんなに影が薄いんでしょうか……」
誰でも分かるほど、落胆しているミユさん。そんな光景を見ていた私とミヤコは、顔を見合わせた。
思っていることまでは分からない私ではあるが、目の動きと伝わってくる感情から何となく察した。
──ミユさんを放っておけないと。
私とミヤコは同時に頷く。そして、ミユさんに向き直り私はある提案をすることにした。
「ミユさん? 私も影の薄さには悩まされた事があるんですよ」
「え……?」
「せっかくなので私がやった事を試してみませんか? 解決までは行かなくとも緩和は出来ると思いますよ?」
そう言って、私はミユさんに手を伸ばしてみる。その手を見たミユさんは、まるで探し求めてたものが見つかったかのような……そんな眼差しで手を取った。
その時に一瞬だけ、彼女の瞳の奥に重々しい不安の色が視えたのが気になったけど、口に出すのは止めておくことにした。
──避けられる原因を今の彼女には見せたくない……そう思ったから。
「ミヤコも手伝ってね? 私の感覚は当てにならないから」
「何を当たり前な事を言っているんですか? もちろん協力します」
「ありがとうございます……! ミヤコさん、サリさん……!」
「うん! でも、その呼び方だと距離感じるよね~?」
私にいい考えがあると、少しニヤニヤしながらわざとらしく聞いてみる。
隣にいるミヤコが驚愕の眼差しで見てきたけど……嫌だったら分かるし内気な人は私達から行かないとね?
親友も初対面はグイグイ来てたし、それが少し嬉しかったのを覚えてるからさ。
「私はちゃん付けか呼び捨てで呼んでよ? 私は……ミユちゃんっていうからさ?」
そう言って、私はミユちゃんに満面の笑みを見せる。
これで心を開いてくれたら嬉しかったんだけど、彼女の感情は一気に不安が膨れ上がり……すぐに元に戻った。
なんだろう?嬉しいのは視えてるのに。どうして?受け入れられるか不安なのかな?
……いや違う。これはもっと重々しい……恐怖?
「じゃあ、サリ……ちゃん?」
「……」
「あの……? どうし──わわっ!?」
困り眉で、少し顔を赤らめながら私の名前を呼ぶミユちゃん。この姿に心臓が跳ねた。
そして、自分の意図に反して体が動き、全力でミユちゃんを抱きしめてしまっていた。
……なんでこうしたんだろう?でも、こうしないといけないという使命感のような……庇護欲ってやつなのかな?あっ、でもなんかすごく幸せ……
「サリ!?」
「あっ、ごめん……つい」
ミヤコの声を聞いて理性を取り戻した私は、抱きしめているミユちゃんを放す……。よろよろとよろけながら少し離れた彼女の顔はとても赤くなっていた。
「急にビックリしました……」
「ほんとごめんね? 内なる感情に突き動かされちゃって……」
「あっ、いえ……別に嫌という訳では無かったので……気にしないでください」
あっ……ミヤコがすっごい睨んでる……。ホント反省してます……許してください。
「はぁ……まったくサリは。えっと、私はこれからミユと呼ばせてもらいますね? 私の事も呼び捨てにしてくれて構いませんので」
「大丈夫です……。えっと、ミヤコちゃんじゃ……ダメですか?」
「……」
あっ……ミヤコが固まった。あっ……無言で近付いてく……。あっ……頭を撫で始めた。
「ふぇっ!? あの、ミヤコ……ちゃん?」
「わぁ……あのミヤコが完全に暴走してる……やるなぁ、ミユちゃん」
「言ってないで止めてくれませんか……!」
「う~ん……いいの?」
「え……? それは……」
迷ってる……可愛い。でも、ミヤコが暴走するのは初めてなんじゃ……もしかしてこれが魔性の女ってやつ?
そんな変な事を考えながら、暴走したミヤコを止めに入ったが……正気を取り戻すまでに結構時間が掛かってしまった。
そのあと、顔を赤くしながらミユちゃんに謝ってたのは……正直面白かった。
流石に日も落ちて来たので、明日も話そうとミユちゃんと約束し、その場を後にして寮へ歩き出した私とミヤコ。
話す話題が可愛い小動物の話から、さっきの出来事にまるっと変わったのは……おかしなことではないはずだ。
「見事に正気を失ったよね……私達」
「えぇ……こんな事初めてです」
並んで歩いていた私達は、自身の行動を振り返り反省していた。
「にしても、ミユちゃんの事……ミヤコはどう思った?」
「……放っておけないなって思いますね」
「だよね~。あんな悲しい顔見ちゃったらな~」
私は脳裏にあの時のミユちゃんの顔を浮かべて、感情の変化に思考を巡らせる。
呼び方を変えようとしたときの感情の変化……原因は何だろう?
パッと思いついたのは彼女の腕に嫉妬した誰かによって何かしらが起きたから?私と同じで影の薄さが原因で不気味に思われたから?辺りだけど……。
いやでも、あの石拾いの理由……自己投影……。
「でも、同期の中でトップクラスに射撃が上手いミユが何であんなに臆病に……私であればあれだけの腕……前向きになれる一つの理由にしますけど」
ミヤコがふと疑問を口にする。確かに私でも自慢しそうだ……というかする。
でも、ミヤコが言ってるのは臆病な理由……私はそこに一つ、心当たりがあった。
「それは私も思うけど……。一気に距離感を近くしたでしょ……?」
「えぇ……あれは驚きました」
「あの時一瞬、強い不安が浮かんでたんだ……」
「うん? 嫌だったという事ですか?」
「う~ん……それは違うかな? ……不快や嫌悪じゃない」
「じゃあ何なんでしょう?」
少し立ち止まり、ミヤコと一緒になって首を傾げてうんうんと唸る……。
あ……!影の薄さ!これなら納得できるかも?いや、でも合ってるかどうか……。
「う~ん、予想だけど……忘れられるのではないか──とか?」
「え……? サリ、それは一体?」
困惑するミヤコに、そう思った要素を何個か出してみる事にした。
「少しミヤコも考えてみて?」
「はい」
「影の薄さ。距離が近くなると嬉しいのに不安。何の変哲もない小石が自分みたい。ミユちゃんを見つけた私達に対する反応」
「……」
「何より……最近、機械にすら認識されなくなった」
「……確かにそれだったらありえますか」
今までの反応……内気なミユちゃんが私に必死になる理由……。私がミユだったら多分そうなる。
もっとも、ミユは私じゃないから違う可能性だってあるけど。
「まぁ……合ってるとは限らないけどね?」
「そりゃそうです。むしろ受け入れられるか不安の方がしっくり来ますよ?」
「う~ん……やっぱりそっちなのかなぁ」
しょぼくれてたらミヤコが少し笑った気がする……もしかして反応見て楽しんでる?
「でも、このことは頭に入れとこ?」
「賛成です」
「まぁ、別にそうじゃなくてもミユちゃんって、目が離せないというか……。可愛い妹のような接し方しちゃいそうになるというか……」
「分かりますけど……一番妹らしいのはサリでは?」
確かにミユちゃんより身長が低いのはそうだけどさ……?
けどさぁ!?どう考えても今言うべきじゃないよねぇ?
「私の身長を見て言ったな……? ミヤコでも許さないからね!」
「ふふっ……ごめんなさい?」
珍し……満面の笑顔じゃんミヤコ……あっ逃げた。
「絶対思ってないよね? 待て~! ミヤコ~!」
そう言ってミヤコを追いかけるが……追いつくつもりは無く、完全にじゃれ合い目的──
「ちょっとミヤコ!? 足はっや……ガチで逃げないで!? 待っ……待って!?」
全力で距離を離しにかかるミヤコ……へ~?こんなことするんだ?だったら私だって本気を出してやる!
私はミヤコの気配を追いながら、視界から消えるように動く。
少し気を抜くとミヤコの気配を見失いそうになり、かなりの疲労感に襲われる。
周囲の人間を識別するのが疲れるのは昔に経験していたけど、ここまでしっかりと意識したのは初めてなんじゃ?いや、でも……慣れてた方が今後に役立つのかな?
しばらく意識してみよ……。
ミヤコは少し先に進んだ辺りで動きが止まっているのを感じ取る。私が見失ったと思ったのかな?
ふっふっふ……驚いたミヤコを見られるチャンス!
ミヤコの側面から静かに素早く近付く……。50m……25m……10m……
「ばぁ!!!」
「うわぁっ!!! サリ、一体どこから!?」
「へっへっへ……横からゆっくりとね?」
声に出して驚くミヤコ。自分の想像どおりの反応が見れて満足~!
「凄いですね……まったく気付きませんでした。 うん?もしかしてミユに言ってたのは……」
「そゆこと! 昔はこれが素だったからさ?」
「なるほど。だったらほっとけないですよね」
「うん。SRTに居る時点でヤワじゃないのは分かってても……ね?」
「……そうですか」
ふと、風が私達の間を流れる。
靡く髪の隙間から見えたミヤコの目が、とても慈しみに満ちているような気がした……。
ミヤコのその目がミユに向いてるのか、私に向いてるのか、私には分からなかった。
あとがき
「ミヤコってミユに甘そうよね。特にこの時期は……」
ミユが何処かでミヤコがよくしてくれてるからってSRTを頑張れてるっていうのを見た気がするし……?
サリのおかげで更にSRTに対する依存が増えた訳ですけど……どうなることやら……。