そろそろ、話を動かし始めないといけないのは分かっててもこういうのが一番書いてて楽しいというか……
青く澄み渡った空。空気を肺いっぱいまで取り込むと、とても清々しい気分になる。
早朝の空気って何というか、とても特別な感じがするよね。
綺麗に掃除された廊下を抜け、朝日が差し込む教室に入り、自分の席に座っておもむろに頷く。
うん、実に良い一日の始まり……!今日はいい日になりそうだな──
「サリさん? ちょっといいですか?」
「うん? ミント? どうしたの?」
「えぇ……ちょっと来てください」
……え?何?
その申し訳なさそうな態度と感情は一体なに?怖いんだけど?
おかしな様子のミントに呼ばれた私。
清々しい気分がどこへやら……すっごく嫌な予感がしながらついて行くと、ある人物の前に立たされる。
「え~っと……ミント? もしかして用事は……」
「はい。シオンさんが何やら話があるそうで、私に呼んできて欲しいと……」
「いや、本人が呼びにくればいいのに……」
長谷川シオン。私はあまり関わった事が無いけど、ミントとはかなり仲が良い様に見て取れる。
抑揚の少ない声の割に感情の動きはとても賑やかに見えるけど……なんでガードの堅そうなミントとそんなに仲良くなれたのかは少し疑問……。
「んで? どうしたの?」
「ネットを覗いてたら変な噂があって」
噂ってなに……?
そう思っていたら、シオンが光り輝くスマホの画面を目の前に持ってきた。そこには──
『百鬼夜行の怪談特集!』
と、大きく書かれた如何にも胡散臭いページ。
シオンさんは私の呆れた顔を意にも介さず、画面をスクロールしていき、一つの記事を見せてきた。
『悩めるものに救いアリ? 過ぎた口に災いアリ? 気配なく忍び寄る小さな影!』
ホント胡散臭いなぁ……。
画面をスクロールしていき、本文を見る。
内容は、悩んで落ち込んでいると手を差し伸べてくれた小さな子供がいた……とか、人に害を及ぼそうとする人に容赦なく鉄槌を下す小さな子供がいた……とか。
遭遇した人曰く、気付くと近くに居ていつの間にか居なくなっている……どこか浮世離れしている存在だったとか、どこか悲しげに見えたから、未練のある幽霊のような物なんじゃないか?とか……そんな感じの事が書かれてた。
う~ん、少し既視感があるような……?
「え~っと……この記事がどうしたの?」
「サリ、貴女だよね?」
「はい!?」
いやいやいや……!そんな大層な物じゃないよ!?何この記事!
思わずスマホとシオンさんを交互に見てしまう。
すると、ミントが申し訳なさそうな顔をしながら肩を叩く。
「すみません。サリさん……」
「え、何?」
ミントの謎の謝罪に困惑していると、シオンさんが──
「実は、ミントがこの動きはサリがやってそうって言ったから調べた」
「!?」
とんでもない爆弾発言をかましてきた。
いやっ……ただの都市伝説だよね?!なんで私って分かるの?!
というか──
「ミントぉ!! ……おぉ!?」
バッ!とミントの方を見ると直角に頭を下げる姿が見えた。
そこまで綺麗な謝罪の姿勢見ちゃったら何か言いたくても言えないじゃん……。
「ちょっと……分かったから! 頭下げるの止めて? 私が悪者みたいじゃん!」
「はい……」
私はそう言いながらミントの綺麗なお辞儀をやめさせた。
……私の事を熟知している故の行動だったりしないよね?だとしたら大成功してる訳だけど。
「ミント、面白がってないよね……?」
「いえ、そんなことは決して……」
う~ん、嘘は無さそう。完全に素なんだろうね?コレ……
「面白がってる」
「シオンさん……!?」
シオンの質の悪いからかいを受けてミントが凄い挙動をする。
この二人、仲が良いなぁ……。
いつだかイズナちゃんが噂になってるって言ってたけど、まさかここまで飛躍してるなんて……
忘れかけてたけど、あの時は人の辛さが分かって辛い気持ちにはなってたから悲しげな顔してたかも?それに、助けた人のほとんどは連絡先も交換しなかったから、幽霊って思われても仕方ないかも?いやいやいや……
というか、二人は私の事だって思ってるっぽいけど、ここまでくるとホントに私の事か疑うよ……?
「というか……これホントに私なの?」
「身に覚えはあるんでしょ?」
「いやまぁ、少しは? ……うん?」
ここで私の脳内に電流が走った。
これ、もしかして私だと確定していない?と……。
「ねぇ、シオンさん?」
「……なに?」
「私の反応で本当かどうか探ってる?」
「……」
目を逸らしやがった!こいつ……!
「……いい性格してるよ。シオン」
「褒め言葉として受け取っておく」
何となく、ミントと仲良くなる理由が分かった気がする。その声色の割に気さくで裏表を……悪意を感じないんだ。
「はぁ……シオンって不機嫌って訳じゃなかったんだね?」
「何でそんな事急に聞くの?」
「自分の感じ方と声が一致しないから……?」
「……」
シオンさんとミントが顔を見合わせる。なんだろう、急に……。
「サリ、もしかして自信がない?」
「いえ、シオンさん。これは信じない様にしてるといった感じではないでしょうか?」
ミントの一言で心臓を掴まれたような感覚になった。
なんだろう、嬉しいような怖いようなこの気持ち……。デジャヴを感じるのは何故だろう?
それに、そのやり取り……私の事をシオンに話してたな?ミントのあの感情はそういう事?
「ちょっと……急に止めてよ」
「ごめん」
「すみません……」
そうしていると、少し遠くから明るく特徴的な声が聞こえてきた。
「なんや? 喧嘩か? せっかくの仲間なんやから仲良くせんとあかんで?」
「……テイカ?」
「え!? サリがここまで不機嫌そうなの珍しいやん? 何言ったん二人共……」
そう言ってテイカは私とミント達の間に立った。そんなにわかりやすかったかな?私……。
「あ~テイカ? 別に、誰が悪いとかじゃないから安心して?」
「そうなん? 二人はそう思ってない様やけど?」
「え?」
テイカの指摘を聞いて二人の顔を見る。すると物凄い申し訳なさそうな顔をしてるのが確認できた。
というか、顔を見る余裕がなくなるくらい私に刺さったの……?あの言葉……。
いや、違う。これは……似てるんだ。あの時の私と……。
「あっ、ごめん……二人とも。気にしないで?」
「ごめん、それは無理」
ハッとした私は、すぐさま謝ったが……シオンの感情は罪悪感のような物を感じたまま動かなかった。
「そりゃそうやんな……何言ってたか知らんけど」
そんな様子を見たのか、テイカがうんうんと頷きながら答える……。
わざとらしくも悪意を感じない……誰が聞いてもお気楽という言葉が似合う言い方だ。
「え?ナニソレ……無責任だなぁ」
「それがウチの誇れる所や!」
いや、誇る所じゃないような……
「誇る所ではないような気が……」
「なんやって!?」
ミントの発言と思考が被った……。
でも、テイカの言葉で一気に空気が変わった気がする。
みんなの目を視てみると、感情も少しずつ和やかな方面に行ってるのが見える。
やっぱり、私よりも場の空気が読めるし動かせてる……凄いなぁ。
ありがとう、テイカ……。これを言うのはなんか違う気がするし、こっ恥ずかしいから言わないけどね。
昼食後の休憩時間。早めに昼食を食べ終わった私は、午後の授業の為の装備を取りにA教室用のロッカールーム前まで来た。
すると中からカチャカチャと音が聞こえる……。かなり早い時間だけど……誰だろう?
「うん……? サリじゃないか」
「サキさん? ここで何をしてるんですか?」
「見ての通り……武器の手入れだ」
中に居たサキさんは、そう言ってブルーシートの上でわざとらしく腕を広げた。
あ~、武器の手入れと珍しい物を集めるのが好きとか言ってたっけ……。
せっかくだし私もやろうかな?まだ時間もあるし……。
「私もやって良い?」
「……どうぞ?」
「ありがと!」
私は満面の笑みで返事をしてから、支給されているサブマシンガン……UMP45のメンテナンスを始める。
カチャカチャという金属の音。シューとスプレーを吹きかける音が、時折静かな部屋に響く。
こういう細かい作業って黙ってしまうよね……でも、せっかくサキさんと二人きりなんだから何か話したいなぁ。
そう思った私は手の動きは止めずにサキさんに話しかける。
「サキさんって……いつもこれを?」
「あぁ……好きだからな」
「そう言えば自己紹介で言ってましたっけ」
「よく覚えてるな?」
「えへへ、そうですか? 癖……ですかね?」
「癖?」
「人の好きな事、特技とか……覚えるようにしてるんです」
「それはいいことだが……なんでだ?」
そう言うと私は少し考える。そう言えばなんでだっけ……あまりそこらへんは意識してなかったや。
「う~ん、何でと言われると……なんででしょう?」
「いや聞かれても……」
すっごい呆れた顔をされた。いや、自分でも分かんないんだもん……しょうがないじゃん?
何で覚えるようにしてるんだろう……。
「あっ、一つ思い付いた」
「思い付いたって……」
「好きな事を話している人を見るのが好きだから……?」
ミヤコの動物の動画とか?ミユちゃんの小石集め……は少し違うような?モエも……ちょっと違う気がするけど……ともかく、好きな物を話してる時の皆の感情が穏やかで、嬉しそうな顔をしてるからなのかもしれない。
「へぇ? んじゃあ、私の時の自己紹介の時もそう思って?」
「う~ん、それもあるけど……」
「ん?」
話そうとしたときにふと、朝の出来事が頭をよぎる……。
はたして、そのまま伝えても良いのだろうか?本心を指摘する事は、その人にとって嫌な気持ちになるかもしれない……。
サキさんはそんなに気にしないと思いたいけど……確証はないから。
「おい? 手が止まってるぞ?」
「……あっ、ごめん」
「どうしたんだいきなり?」
「ちょっと考え事」
「……朝のか?」
「え?」
驚いた私は、思わずサキさんの方を見ると、私の事を真っ直ぐ見ていた。
目と目が合う。その感情はとても穏やかで、それでいて少し心配している様に見えた。
「急にどうしたんですか?」
「いや、テイカが急にそっちの方に行くから見てみると、やけに深刻そうな顔をしてるお前が居たからさ?」
「……そんなに分かりやすかったです?」
「かなり」
そこまでスパっと言われると少し恥ずかしいなぁ……少し、ポーカーフェイスの練習しよ。
というか、ここまで来たら言ってみようかな?サキさんなら少しは何か答えてくれるかな?
「サキさん?」
「なんだ?」
「私についてどう思いますか?」
「なんだその恋人にする質問みたいなのは」
「……」
「すまん、そうだな……率直に言うと良い奴かな」
「良い奴?」
「そりゃそうだろう? 普通、人の趣味ってのは自分と似通ってない限りそんなに気にしないし憶えても居ない物だ。なのにお前はそれをいちいち憶えていて、尚且つその趣味に付き合う事さえある。これだってそうだろ?」
「……確かに?」
「逆に気になったんだがお前の趣味ってなんだ? そう言えば聞いてないぞ?」
「コーヒーかなぁ……飲んでる内に好きになっていって……」
「ほら、私とは全然違うだろ? 大概のものに理解を示して、否定しない。良い奴以外あるか?って私は思うな」
……ここまで言ってくれるとは、正直凄い嬉しい。というか、思った以上に私の事を見ていたんだね?
それに、私やミントと違ってそんな能力があるようには見えないのに、かなり正確に見てくれてる気がする。
「というか、なんでいきなり……」
「いや、私に対して自分に自信が無いのではと……信じない様にしている様だと言われてそれが深く刺さって」
「うん? そうなのか? というか、それだけでそんな思いつめるか?」
「いえ、そのこと自体に傷付いたとかそう言うのは無くって……」
「???」
「え~っと、私の特技って憶えてます?」
「あ~なんか言ってたな……感情がどうとかって」
「それを使って昔、色々と相談に乗ってた過去があるんです」
「へぇー」
「その時にやっていた事と、朝の出来事が重なって見えて……昔を思い出してしまって」
「はぁ……」
「だから、自分の振る舞いというか、言動というか……気を付けようかなぁ~って」
「なんというかお前……確かにそれは、自信が無いって言われるだろ」
「!?」
え?急に梯子を外されたんだけど……いや、確かに自信は無いけど。
「何で言動を省みるかは知らないけど、あれだろ? お前、嫌われるのが嫌……違う、怖いんだろ?」
「え、なんで?」
「いや、前から話してて思ったけどな? お前って時々、違うかもしれないよ?って言うんだよ。私達はそんな事分かってるのに」
「……うん」
「慎重な性格なのかとも思ったが、その話を聞いてこう思ったんだよ──自分の発言がきっかけで関係にヒビが入るのが嫌なんじゃないかってな? 実際、お前は基本的に肯定的な発言しかしないし……」
……サキの言ってることがやけに心に響く。
考えてみると感情も、人の発言も、自分の受け取り方さえも違う可能性を考えていたかもしれない。
違ったときの痛みや混乱が少ない様に?すぐに修正して嫌われないようにするため……?
ははっ……ミユちゃんに何も言えないじゃないか。
「自分の事もだけど……あれだよ、少しは私達を信じろよ。仲間だぞ?」
「信じる……仲間……」
「そうだ。間違ってても良いんだよ。私達はSRTの同期であり、お互いを高め合える仲間……だろ?」
仲間……志を同じくする仲間。
正直、まだ怖い……嫌悪の眼差しが脳裏にちらつく。親友とは違うってどうしても思ってしまう。
でも、それでも……そうはならないって少しは思ってみようかな?信じろって言ってくれたから。
「ありがとうサキさ――いや、サキ……少し、分かった気がする」
「お、おう? どういたしまして?」
私は、自分の問題に気付かせてくれたサキに感謝した。
だいぶ困惑しているように見えるけど、気付いてないのかな?その言葉が私にとってどれだけいい言葉だったかを。
だから、第一歩を踏み出そう……信じる事の第一歩を。
「あっそうだ! 今度、集めてるとか言ってた珍しい物見せてよ?」
「ん? あぁ……いいが……」
「大丈夫! 引かないってば……そんな不安に思わなくても」
「サリ、お前気付いて……」
「だから悩んでたんだよ?」
「あははっ、お前がやけに話しやすい理由が少しわかったぞ?」
「何?」
「言わないぞ? 自分で考えろ!」
「そんなぁ……」
そうこうしている内に、時間も進み私達は銃のメンテナンスを終わらせる。お互いに話し込んでいたからか、ほぼ同タイミングで組み立ても完了した。
何も合図せず、ただこぶしをサキの前に出してみる。
困惑の声が来ないと信じて。サキなら意図を汲み取ると信じて。
すると、即座にグータッチが飛んできた。サキの顔を見ると口角が少し上がってるのが見える。
私の心境はお見通しなのか、余裕そうに向けてくるその顔を前に、思わずイケメンだと思ってしまった。
そんな心境を誤魔化すかのように、私はへへっと笑ってから、メンテナンスツールを片付け始めたのだった。
あとがき
「小さくとも大きな一歩」
サリの違うかもしれないという考え……実は、基準がイズナだから起きてる事なんですよね……。
なんというか脳を焼かれすぎじゃないですか?