……2章? 1章とか何も話が進んで無かったような。
5月頭の連休も終わって早々、俺の所属する第三魔術高専の普通科は合同授業が始まろうとしていた。
内容はその名前の通り、普通科の生徒が他の4学科のうち1つを選択してそこの授業に混ざるというもの。期間は3日間あり、授業内容の詳細は知らされていないが、俺の選んだ守護科では座学と実技の両方があるらしい。
そんなわけでいつもの教室と場所が変わってざっと人が200人ほど入れそうな大講義室。守護科だけで約80人いて、普通科の定員がたしか18人だったから、100人、半分ほどの席が埋まる計算になるはず。
俺が講義室に着いた時には既に着席している生徒もいたが、ほとんどは空いている状態の選びたい放題だったために、一番窓側の真ん中くらいの席に着席する。後ろの方が良かったけど、座ってから『前の方が空いてるから詰めて』とか言われるかもと考えての真ん中チョイス。我策士なり。
ちなみにクラス内唯一の友達である空良は狩猟科の方へ参加しているため、俺が気軽に話せるような奴は誰もおらず一人ぽつんと座っている。
そもそも高専は勉強するための場所でありこれから始まるのは授業なんだからわざわざ友人と話す必要もないし、だから今この場において友人がいるいないは関係ない話であって前の方で仲良く大声で喋ってる奴らうるせーな。
そんな呪詛を唱えながらぼんやりと前を見つめて時間が過ぎるのを待っていると、とんとん、と肩を叩かれる。
「隣、座ってもいい?」
「えっ? あ、どーぞ……って」
「失礼するね」
「椎木じゃん」
反射的に答えてから声の主に顔を向けてみれば、そこに居たのはクラスメイトの椎木華だった。隣の席の空良の、その後ろという位置関係からたまに話す間柄ではあったが、確かこの前の雑談では合同授業は研究科を希望していたはず。
「どうしたんだ? 研究科を選んでなかったか?」
「……抽選から外れちゃった」
「あぁ……」
「しかも私一人だけで、陽はしっかり研究科だった……」
「あー…………どんまい」
事情を聞いてめちゃくちゃ不憫に思うものの、上手くフォローの言葉が出てこずにシンプルな慰めで返す。
この合同授業は各学科に定員が決まってる以上、希望者が多い場合は抽選になることは事前に聞いていたが、椎木はその抽選に外れてしまい仲の良い国見と離れ離れになってしまったみたいだった。
俺の左隣に腰を降ろした彼女は、そのまま項垂れつつさらに愚痴を零す。
「はぁ……私、戦いとか全然出来ないのに何でよりにもよって守護科になっちゃうのかな」
「ドンマイとしか言えないな本当に。まぁでも他にも戦闘が苦手な人もいるだろうし、そんな気負わなくても大丈夫じゃない?」
「研究科だったらその気苦労も最初から無かったのに」
「そりゃそうですね、はい。おっしゃる通りです」
これまでに見たことの無いほどテンションと声の低い椎木を前に思わず丁寧語が出てくる。そんな俺の様子を見てハッとした椎木は顔の前でぶんぶんと手を振りだす。
「ご、ごめんね不満ばっか言っちゃって。そうだよね、もう決まったことだし頑張らないと!」
「いや愚痴りたくなるのも分かるし気にしてないから。俺だって無理やり苦手なことやらされたら椎木の比じゃないくらい文句言ってるだろうし」
「あはは……。でも神凪くんが居てくれて助かったよ。こっちの授業に参加する人で仲の良い人って神凪くん以外にいないから」
「国見以外も全員他の学科か?」
「そう。私だけ見事に抽選が外れて一人だけでこっちの学科に……」
「あー、そうだ。そういえば椎木の魔術適性とか聞いてなかったよな。何が得意なんだ?」
せっかく持ち直したのにまた暗黒面に足が浸かり始めたのを見て、慌てて話題を移す。きょとんとした顔をした椎木に言葉を続ける。
「ほら、合同授業で何をするか分からないけど、もし知ってたら何か助けられるかもしれないし」
「それは助かるけど。えーと……」
「言いたくなかったら別にいいぞ。……あっ、助けないって言ってるわけじゃなくて」
「あっ違うのごめんね。戦いが苦手っていうのにも繋がるんだけどね、私、魔術適性が一番高いのでCしかないの」
「へぇ……逆に珍しいかもな」
通常、魔術適性はどれか一つ以上にBかAクラスの高い適性を示す。俺が知ってる範囲だと空良が浮遊魔術で明星が空間魔術、七瀬さんが氷で速水先輩が風といった具合に。まぁ実際にそこから魔術を行使するにはまた別のセンスが必要とされるのだが、要するに椎木はそれ以前の適性が一般よりも低いらしい。
とはいえ俺みたいな例外もいるわけだし、魔術を使う気がないなら適性が低いところで何ら問題はない。
俺の言葉に椎木は苦笑いをしながら返す。
「そんな珍しさはあまり嬉しくないけどね。適性が低いからあまり使う気にもなれなくて勉強に傾倒していたのもあるからさ」
「なるほどな。戦闘が苦手な理由にそんな背景が」
「ただの言い訳だけどね。ちなみに神凪くんは何に適性があるの?」
「あー、俺もちょっと特殊でな。適性で言えばオールDランクだ」
そうして俺が過去の適性を告げると椎木は驚いた表情を見せる。今の適性はオールDでは無くなっているが、それを説明するには色々と面倒くさすぎる。
「えっ、凄いね! 私よりも珍しいじゃん! ってあまり嬉しくないかな……?」
「いや、そんなこともないぞ。一芸で敵わなくても選択肢が多いのは嬉しいからな」
「確かにそう考えると悪いことばかりじゃないのかも。……って、ちょっと待ってね、確かそんな特徴を持った体質があったはず。えっと……そう! 万能魔力だったはず」
「おー正解。よく知ってたな」
「たまたまネットで見たことがあって」
珍しい体質のくせに椎木を始め、明星やこの前知り合った御門なんかも含め、意外と知ってる人が多くて驚く。説明しなくていいのは楽でいいんだけども。
そんな感じで雑談をして過ごしているうちに周囲の席はいつの間にかかなり埋められていて、気が付けば合同授業の開始する時間になっていた。
『あーあー』
教壇の先生がマイクの調子を確かめるように声を発すると、ざわざわとした話し声は波が引いたように静かになっていく。
それを確かめた後で先生による合同授業の説明が始まった。
☆
初めに行われたのは、この3日間の授業内容の説明。初日、つまりは今日の午前いっぱいは座学オンリーで、2日目は個人個人のテストが行われる。今日の午後にはそのテストのための練習時間に当てられている。2日目の午後にはグループを作成し、そして最終日の3日目にグループによる対抗戦があるとのこと。
そうした簡単な説明を受けた後は早速座学がスタートする。
『守護ギルドの仕事は街の治安を守ることが一番にあります。街のパトロールから困っている人の手助けに始まり、事故や魔術を利用した事件の解決を担っている重要な役割です』
「……」
『狩猟ギルドが危険区で魔物を狩る一方、守護ギルドが相手にするのは犯罪者が主になります。もちろん、事故での救助活動や災害対応などもありますが、件数で言ったらやはり犯罪者対応が最も多いです』
守護科からしたら聞くまでもないどころか、普通科の俺でも知っている説明がされる。要するに
『今回の授業ではグループ対抗戦が予定されているため、そこで犯罪者対応の練習をしてもらいます。そのためまずは今日の午前中、実際の対応ケースを見ながら有用な魔術などを学んでいきましょう』
スクリーンに映った資料を目で追いながら静かに講義を聞く。有用な魔術には興味がありつつも、将来守護者になる気が無い俺はところどころ話半分に聞き流しながらそっと周囲の様子も伺う。
隣に座る椎木は自分が望んだ授業では無いにも関わらず、視線を前に固定したまま真面目に話に耳を傾けている。それ以外の生徒はどうかと言えば、頬杖を着いてあまり興味が無さそうであったり、そもそも首が下に折れていて明らかに寝ているだろうという生徒もいる。誰が普通科で誰が守護科の生徒かは分からないが、あまり真面目に受けていない人たちもいるみたいだ。ここあたりはどこの学校でも一緒なんだな。
とはいえ大半の生徒は当たり前のことながら起きているし、私語も聞こえてこない。その心中までは計り知れないが、やはり普通科以外の本科に入る生徒は明確な目標を持っていて真面目な人が多いのだろうか。
周囲の観察もほどほどに、隣の椎木を見習って俺も少し気合を入れなおして授業へと向き直った。
UA (330 - 299) × 100 = 3100文字 :来週ノルマ
今週ノルマ:3000文字
今回 3470文字、目標達成
やっぱりGWの影響でUAが多かったのかな。
今回も見てくださった方、本当にありがとうございます。