午前中の座学は恙なく終わり、感想を言うとすればちょっと興味のある話もあったが大半は眠くなるような内容でしたという面白味もない普通なもの。
昼休みはいつも通り一人でもそもそと弁当を食べ、午前の最後に通告された指示に従い第四グラウンドへ集合する。
既にそこそこの人数が集まっている中、居心地が悪そうに端っこに佇む椎木を見つけてそこに向かって行く。俺を見つけた椎木は安堵した様子で駆け寄ってくる。午前も言ってたけど仲良い奴が全員他学科に行ったから心細かったんだろうな。言うて俺も椎木とは少し話したことある程度だけど。
周囲に視線を向ければ、統一感のない道具が複数。これからの授業に使うものだと思うが、ぱっと見でも何に使うのか想像がつかない。
そうして周囲を観察している中、午後の始業を告げるチャイムが鳴り響くと教師が声を張り上げ注目を集める。
「それじゃあ今日の午後は各個人の練習時間に充てるが、まずは明日のテストについて説明する。人数が多いから俺ともう一人が離れて同じ説明をする。適当にばらけて説明を聞くように」
その指示をした教師の隣に控えていたもう一人が手を挙げながら少し距離を取る。そっちの方へと生徒が流れていくのを確認し、俺はこのままこっちでいいやと待機する。
生徒の移動が落ち着いたことを確認すると、残った教師は説明を再開させた。
「テストの内容は2つある。一つ目は索敵と拘束魔術のテストだ。索敵、および拘束魔術の有用性は午前中に話した通りだから、これらの習得に挑戦してもらう。それじゃあ実際のテスト内容について説明するぞー」
そう告げた教師は近くに置いてあった道具らを周囲にばらまき始める。ざっと数えて10個ほどあるそれらは形も大きさも違い、相変わらず用途が見えてこない。
「今ばらまいた物には実体のある物と魔術で作った物が混ざってる。便宜上実体のある物を本物、魔術で作った物を偽物って呼ぶな。それでテストは、スタートの合図とともにこれらの本物と偽物を索敵魔術で見破り、偽物を拘束魔術で捕まえる早さを見ることになる。一度手本として実演するから、よく見ておくように」
そうして教師はちょっと離れてろと手でジェスチャーをし、周囲のスペースを確保すると索敵魔術を発動させる。その後、素早く視線を走らせ散らばった道具の一つに手を付き拘束魔術を使用する。魔術を喰らった偽物は一度ぎゅっと圧縮されると、そのまま消え去った。
「っとこんな感じだな。偽物は今みたいに捕まえると消えるから、消えない場合はそのまま継続してもらう。それから、この2つの魔術については学校が用意した魔装具があるからそれを使うように。使わない場合は勝てんがあるから自身がある奴は無しでもいいぞ。それじゃあここまでで何か質問は?」
問いかけられるも、俺を含め生徒からは声が上がらない。見た感じ至って単純で、何も難しい要素は無さそうだ。
質問が無いことを確認すると、続けて教師は2つ目のテスト内容についても説明を始める。
「第二テストはもっと簡単だ。小市街地のトレーニング場で300m走をしてもらう。それだけだ」
「それだけって……ただ単に足の速さを競うってことですか?」
「もちろん違う。300mと言ったが、それは直線距離の話でな。当然間には建造物があるからそれらを避けて行かなきゃいけないが、そうするとタイムは遅くなる。ここまで言ったらあとは分かるか?」
「……どれだけ遠回りをせずに最短距離で行けるかを見る、ってことですか?」
名前も知らない誰かの回答に教師は頷きで返す。
「その通りだ。建物の上を走ってもいいし、魔術で飛んだっていい。守護者
なるほど。確かに単純さで言えば一つ目よりもずっと簡単だ。だが、だからこそ取れる選択肢はかなり多い。さっき先生が言った通りパルクールのように障害物を無視して最短距離を走るなり、魔術で飛んで全てを無視することも可能だし、シンプルに身体強化をして遠回りをしながらもそのロス以上の速さで走るのも有りだろう。なんなら明星みたいに空間魔術が使えるなら一瞬で終わる。
俺が取れる方法としては、誰かに魔力を貰わなければ愚直に走るくらいしか出来なさそうだけど。そうしてテストの攻略法について思考を巡らせていると、「ここまでで質問がある奴はいるか?」と声が掛かる。
それに対して先ほどとは別の、これまた名前も知らない女子生徒が挙手をする。
「それぞれのテストの合格基準を教えてください」
「ああ、それについては安心してほしい。このテストに不合格はない。ただし、その次にあるグループ課題についてだが、グループの作成は生徒に一任する。だから、誰と組むかはこのテストを見てそれぞれがよく考えるように。他に質問は?」
「せんせー、それじゃあ3日目の課題についても今教えてくれた方が助かるんですけど」
「それは明日のグループ作成前に教える。今はとりあえず明日の個人テストについて集中しておけ。それと、一応明日のテストでも成績優秀者にはAPとSPが多く与えられるから、それも目標に頑張るように」
再三にわたる確認に、今度こそ誰も声を上げずに静まり返る。
「よし、それじゃあ早速練習に移ってもらう。第一テストについてはここで練習をしてもらうが、第二テストの練習は実際の小市街地トレーニング場を使っても良い。ここの監督は古村先生で、市街地の方は俺が見ることになっている。授業時間は特に設けていないから好きな時に休んだり練習場所を変えてもいいぞ。ただし15時から20分間は先生たちも休みたいから練習は無しで頼む。それじゃあ解散」
☆
「えっと……どっちの練習からやろっか」
「俺はどっちでもいいぞ」
解散の号令を受けてすぐ、生徒たちは各々自由に行動を始めた。椎木は俺と行動を共にするつもりなのかどちらの練習からするか伺ってくるが、俺としては別にどっちでもいいと思っている。
「椎木こそどっちが良いとか無いのか?」
「私も別に……。市街地の方は1回は見ておきたいと思うけど、後でもいいし」
「んじゃ移動するのも面倒だからここで第一テストの練習からするか」
「うんっ」
方針が決まったことで早速道具を借りに古村? 先生のところへと。
「はい、どうぞ。拘束魔術を使う時は出来れば本物に掛けてください。実際のテストを模して練習した場合は、また偽物を補充するので声をかけてください」
「はい、ありがとうございます」
「魔装具の方はいりますか?」
「椎木、どうする?」
「私は欲しいかも」
「それじゃあ1セット借りたいです」
「えぇ、腕輪の方が索敵魔術でグローブの方が拘束魔術の魔装具です」
「了解です」
そうして道具と魔装具を借りると早速練習を開始する。
索敵魔術に関しては普段のギルド活動でも頻繁に使用しているから練習する必要は無いし、拘束魔術に関してもそれほど難しくはないからすぐに使えるようになるだろう。というか便利そうだからこの際覚えてしまいたい。なーに、明星から「異様に覚えるの早いよね。気持ち悪いくらい」と評された俺に掛れば簡単なことよ、がっはっは。あれは褒められてたのだろうか貶されていたのだろうか。
「神凪くんからこれ使う?」
「あぁいや、俺は無しでやってみるから魔装具は椎木が使っていいよ」
「えっ凄いね! 私も無しで出来るようになった方がいいかな」
「覚える必要を感じてないなら素直に使った方がいいだろ。ましてや椎木はこの学科を望んだわけじゃないし、テストを乗り切るために利用できるもんは利用した方が楽だろ」
「……それもそうだね。でもそれで言うなら神凪くんはきちんと覚えるつもりなんだね」
「まぁ俺は体質のこともあって手あたり次第に使えそうなものは覚えるようにしてるから」
「へ~。それも凄いよね。覚えるって簡単に言うけど、普通はできないもん」
「物覚えだけは良いみたいで。そんなことよりほら、時間も勿体ないし練習を始めようぜ」
「うん、そうだね」
雑談もほどほどに、椎木と少し距離を取ってから本物偽物入り混じった道具を適当にばらまく。
まずは肩慣らし、と呼ぶにはもはや慣れ過ぎて意識を別に咲いていても余裕な索敵魔術を構築する。索敵魔術はかなり昔から独学で学んではいたものの、七瀬さんと修行をするようになってから一番使ったのもこの魔術だ。
相手をするのが人でも魔物でも過剰と思うくらいに頻繁に使う程度でちょうどいい、というのが七瀬さんの教えだ。索敵魔術の原理は自分の魔力を放出し、魔力干渉のあった部分を感知するというソナーに近いものだ。
自然物や構造物などの魔素を持ってなかったり少なかったりするものは素通りし、人や魔物、魔術などの魔力や濃い魔素を持つ物体や現象を捉える。地中などを含めて360度カバーできるこの魔術は戦闘時においては不意打ちを喰らわないためにかなり重宝する魔術だ。
使い慣れた索敵魔術は秒で発動することが出来、偽物と本物をあっさりと見破る。ここまでは何も問題はない。
続いて拘束魔術。汎用魔術なだけあって、最近練習中の空間魔術に比べるとかなり簡単な構築だ。これくらいであればすぐにでも覚えることが出来るだろう。試しに数回、見様見真似で発動してみる。数十回ほど構築や魔力供給の調整に失敗して上手くいかなかったものの、感覚を掴んでしまえばあっさりと発動に成功する。ただし、発動するまでの速度はお察しである。
まぁ今回はテストで良い成績を取ることが目的じゃないから、焦らず確実に発動さえできればいい。何なら座学の最中にちらっと言っていた、構築を弄った中級に挑戦してみるのもいい。
今しがた発動したものは対象に直接触れていないと効果が発揮しなかったが、一部の式を変えることで触れずとも拘束することが可能になる。空間魔術の座標指定ほどシビアな調整はいらないが、それでも普通のよりはかなり難しい。……いや、まずは普通に触れた状態での発動を早くできるように練習するか。
一度拘束魔術が成功したこともあって、いったん休憩を挟むことにする。
結構集中していたようで、気が付けば40分ほどが経過していた。ひたすら一人無言でやっていたが椎木はどんな様子かと伺ってみれば、すぐ近くで両手を前に出しながらムムムと小さく唸っている。
周流を切らさない様にと少し離れた場所から見守って暫く、ふぅと溜息を吐いて肩の力を抜いたタイミングを見計らって椎木に声をかける。
「椎木、どんな感じ」
「う~ん……発動は出来てるんだけど、時間は掛かっちゃうかなぁ。他の人がどれくらい早いのか分からないし」
「合格基準もないもんなぁ」
「……そうだっ。良かったら神凪くんがどれくらい掛かるか見てみたいんだけど」
「別にいいけど、俺自身も早いかどうか分かってないからな?」
「それでもいいから、お願いします」
「りょーかい。スタートの合図を頼む」
椎木に頼まれ、試しに一度やってみることに。椎木が使っていた道具をそのまま利用し、彼女の「スタート!」という声とともに索敵魔術を発動する。これだけであれば5秒もかからない。魔力の反応のあった偽物はすぐに分かったため、偽物に左手を置きつつ、すぐ横の本物にも右手を置く。後は拘束魔術を発動するだけだが、失敗すると余計に時間がとられるため、ゆっくりでも確実に発動をさせる。
あえて本物の方が拘束されたことを確認し、立ち上がって椎木の方を見る。
「どうだった?」
「えっ、あっ、ごめん。本物の方だったから間違えちゃったと思って止めるの遅れちゃった」
「あぁ悪い。偽物は左手を当ててた方だけど、わざわざ消す必要はないからあえて本物にかけてた。先に言っておけばよかったな」
「ううん気にしないで。えっと……止め遅れちゃった分を適当に引いてみて、大体20秒、かな」
「……結局それが早いのか遅いのか分からないからなんとも言えないな」
「私からしたら早いと思うけど……。とりあえず参考になったよ、ありがとう!」
「椎木もやってみるか?」
「……そうだね、やってみよっかな」
「了解。俺の練習してた方でいいよな」
今しがた俺がやったということもあるし、そもそも練習していたのだから既に偽物が分かっている椎木の方ではなく、俺が練習していたところへと場所を移し、椎木が挑戦してみる。
「適当に本物を拘束するか?」
「う~ん……絶対の自信があるわけじゃないし、ちゃんと偽物にかけようかな。間違ってたら継続するね」
「おっけ」
スマホを取り出してタイマーを起動させながら確認を取る。そうして椎木の準備が整ったことを確かめてからスタートを告げると、彼女は早速魔装具へと魔力を供給し始めた。昼間だからかかろうじて分かる程度にぼんやりと魔装具に刻まれた魔法陣が光り、索敵魔術が発動したことが分かった。
その後椎木は地面に転がる道具のうちの一つに手を当てる。同じ道具を使って練習していたから分かるが、しっかりと正解を当てていた。タイマーに視線を移せば、ここまでで14秒。
今度はグルーブの甲に刻まれた魔法陣から淡い光が漏れ出て拘束魔術が発動するものの、偽物が消滅する前にばしゅんと拘束魔術の方が掻き消えた。
「あっ」
「まだ時間止めてないから、もっかいやってみ。魔力は気持ち多めで良いと思うぞ」
「うん」
恐らく魔力供給が足りなかったんだろう。拘束魔術に関しては魔力の過剰供給は拘束が強くなりすぎてしまう結果に繋がるが、今回は相手が人じゃないのだから問題はない。
再度椎木は魔術を発動させ拘束が始まり、そして今度こそ偽物が消滅したことを確認してタイマーを止める。
「どうだった?」
「1分8秒。最初で成功してたら40秒切ってたくらいだな」
「……やっぱり遅いよね」
「俺ら以外を知らないから何とも……」
「だよね」
あははと苦笑いを浮かべる椎木に口下手を自覚する俺はフォローも出来ずに「うぅむ……」と悩むそぶりを見せるのみ。実際、椎木レベルが普通であるのならばあまり目立ちたくない俺としてはもっとゆっくりやる必要がある。
……いや、問題ないか万が一注目を浴びたとしても、その後の実戦や魔術の質を見られれば幻滅されること間違いないだろうし。わざわざ全力で挑むほどやる気を出す必要もないが、わざと手を抜く必要もないなと、今回の合同授業での姿勢をそう結論付けた。
そもそも俺の目的は優秀な成績でも報酬でもなく、有望な協力者を見つけることだからな。
UA (388 - 330) × 100 = 5800文字 :来週ノルマ
今週ノルマ:3100文字
今回 5900文字、目標達成
今回説明が多くて文字数が稼げたけど、来週用に取っておけばよかったかな。まぁいいや頑張ろう。
きりが悪いけど、これでもノルマよりは大分増えちゃったし許して。ありがとう。
GWというボーナスタイムが終わったのにUAが多い。嬉しい。
今回も見てくださった方、本当にありがとうございます。