それでもまだ16個やってるけど。時間が足りねぇ。
時間というのはいつでも平等に過ぎ去るというのに、往々にして必要な時ほどあっという間に過ぎ去る。
合同授業の最終日、グループ対抗戦。その初戦に勝つために練習をしたいものの、やれることは限られてくる。ましてや俺たちは急造のグループであり、連携なんて出来たものじゃない。ただでさえ個人個人の能力がそこまで高くないこともあって、作戦でどうにかするしかないのが現状。
そうであれば逆に練習内容もごく狭い範囲に絞られるので助かってはいたけど。
ともあれ、なんとか作戦に必要な魔術の習得だけは終わらせて当日を迎えた。
会場は市街地を模した半径1km程度は有する巨大な競技場。昨日の個人テストで使われた小市街地よりもさらに大きく、もはや高専の敷地から離れた場所に存在している。ここまでもバスで来た。高専って凄い。
「き、緊張してきた」
「まーまー、あくまで勝てたらいいな程度で考えよ。最初の目標通り、ペナルティを受けない順位になれれば御の字ってことで」
「……ま、そうだな。勝つ気ではいるけど、あんま緊張し過ぎても良くないし、負けたところで死ぬわけじゃないし」
市街地から離れた全員が入れる待機場にて、椎木と友利と並んで座りながらモニターに流れる映像を眺めていた。
既に戦いは始まっていて、今は3回戦をやっている最中だ。
ここに場所を移してから改めてルール説明が行われたが、中には初耳の情報も含まれていた。普通に考えて1グループ対1グループを順番に行うと考えていたのに、実際には同じ戦場でありながら4グループが参加する。内容自体は事前説明と変わらないものの、会場に対戦相手以外の生徒が2グループ分存在しているのは索敵の観点からして大分話が変わる。
冷静に考えればこれだけのグループと対戦回数を一日でこなすなら、一つ一つやっていくのは時間的に厳しいものがある。もっとちゃんと考えておけば良かったと思うが、今回においては俺たちに有利に働いているとも言えるから結果オーライ。
回想から意識をモニターに戻せば、3回戦がちょうど終了した。全32グループで最初は8回の戦いが行われる中、俺たちの初戦はかなり後半の7回戦目だ。
「うぅ、刻一刻と確実に迫ってくる出番が恐ろしい……」
「あっははー、今からそんなガクブルしてると、一個前の試合の最中とか気を失ってそう」
「そういう友利は随分と余裕そうだな。椎木にも緊張しない方法を教えてあげて」
「あたしは楽観的なだけだよ。それに神凪くんのおかげで初めて魔術が使えたんだし、それが楽しみなところもある」
明らかな緊張を顔に浮かべながら背筋を伸ばしてモニターを見つめ続ける椎木と、後ろに手を付いて楽な姿勢で試合を観戦する友利は実に対照的な有様だった。
「そ、そういう神凪くん普段通りに見えるけど」
「俺? 俺はまぁ……そうだな、緊張はしてるけど椎木ほどではないな」
俺はどちらかと言えば友利寄りだろうが、でも友利レベルで気楽に居れるわけではない。緊張は少なからずしている。
普段から魔物を相手にしていたり、対人戦でもかなり上澄みの実力を持つ七瀬さんとの訓練経験があろうとも、人に見られる環境というのは俺の性格上慣れることはないだろうからどうしても緊張はしてしまう。
「神凪くんの方こそ、椎木ちゃんにアドバイスとか出来ないの?」
「アドバイスねぇ……」
友利に言われて考える。
俺がどうやって心を落ち着かせているかを改めて言葉にしようと模索しながら口にする。
「……例えば、俺たちが負けたとしよう」
「えっ、アドバイスするのに最悪の仮定じゃん」
やめて、茶々を入れないで一旦聞いて。
「で、負けたところで俺たちに何か不都合が生じるか?」
「ペナルティに近づく」
「友利ちゃんが須郷くんに迷惑をかけられる」
「生じるね。ごめんね」
「えぇ……」
即座に返された二人の返事に謝罪で返す。
それは確かにそう。でも俺が言いたいのはそうではない。
「1回戦目に負けたとしても即ペナルティにはならないし、須郷の方も結局はただの口約束だから、強制力はない」
「でも、無視できないって話じゃあ」
「俺からすると目を付けられたところで入りたいギルドもないから問題ない。友利の方で悪影響があるとしても、対処法はいくつでも思いつく」
「えっ、そうなの?」
相手がどんな要求をしてくるか分からないが、それを断ったとして発生する悪影響は、精々が前に友利が言ったように有名ギルドを親に持つ須郷を敵に回すことくらい。
須郷だって高校生だし大人を持ち出してまで嫌がらせするとは考えにくい。仮に想像以上の下種で度を超した行動をするなら、それはそれで証拠を集めれば立場が悪くなるのは相手の方だ。
友利が入りたいギルドがあってそれの邪魔をされても、最悪APなんかを使って学校側に機会を作ってもらうことも出来るだろう。完璧に繋がりを断つのはただの息子である立場では不可能に近い。
「ってわけで、負けたら負けたでしょうがないと考えてる。勿論勝つ気ではいるが、何が何でも勝ってやるって気持ちではないな」
「えぇ……昨日勝ちに行くって言ったのは神凪くんでしょ?」
「勝ちには行くって。勝てなくても良いってだけで」
「う~ん……」
俺の説明にも引っかかる部分があるのか、納得してなさそうで椎木は唸り声を上げる。まぁこれはあくまで俺の考えであって、椎木の考えとはまた別だろうし、しょうがない。
「極端な話になるけど、俺は最悪死ななければまぁいいかで片付けられる考えでもあるからなぁ。あんまり参考に出来ないかも」
正確には後から色々思い返して後悔することもあるが、それを含めても、その時になっても、死んで無いならオールオッケーと無理矢理自分を騙してる感覚に近い。
そこまでは伝えずとも、ふわっとした俺の考えに友利が同意する。
「極端。でも良いね、その考え」
「凄いね、二人とも。私にはそんな考え方出来なさそう」
「そんなのは人それぞれだから、しゃーない。……ちなみに緊張する理由ってなんだ?」
「理由……?」
「例えば俺なんかは今言ったように負けるかも、なんて理由で緊張はしてない。でも人大勢の視線に晒されるって意味では緊張してるから、椎木は何なのかなって」
「あー、なるほど。言われてみれば…………私も後半の理由が大きいかも」
「そっちなら俺は大したアドバイスは出来ないな。俺自身も対処できないわけだから」
「そうだよね。ちなみに友利ちゃんの理由は……って緊張してないんだった」
「ごめんねーアドバイス出来なくて」
「ちなみに椎木。1年の時にもこういう機会なんてあったんじゃないのか? その時はどうしたん?」
「……直前までは今みたいに陽とか友達と喋って気を紛らわせて、本番になったらただ必死にやってた、かな」
「へぇ、いいじゃん。じゃあ流す程度に観戦しながら話してよーよ」
「……そうだね。そうしてくれると助かるかも。ありがとう」
最終的にはこれまでと同じ方法に行きついたみたいで、二人はこれまで以上に途切れない会話を続ける。
俺もたまに雑談に混ざりながらも、しっかりとモニターに視線を向ける。対戦相手の情報は得られないものの、地形や他のグループが取っている戦略なんかは十分に参考になる。
ここまでの数試合を見る限り、セオリーとしては犯罪者役は単独で逃げるか隠れるかして、それを捕まえるために索敵魔術を使って捕まえる二人が近くにいながら連携して追い詰めるといった方法を取っていた。
目を引いた方法としては、開始直後に空中に飛び上がり、相手の捕縛対象を見つけると同時に上空から凄いスピードで強襲して速攻をしかけたグループだろう。あんなことをされたら、相手以上の機動力で逃げ続けるしか方法は無くなる。アレが相手でなくて本当に良かった。
ひとまずは俺たちの作戦は無事に機能するようで安堵する。俺たちが勝つための戦略は、ぶっちゃけて言えばだまし討ちにだまし討ちを重ねたようなもの。前例があったら警戒されるが、意表を付ければ勝率はぐっと上がる。
万が一にもしょうもないミスをしないよう、俺は脳内でシミュレーションをしながら、モニター越しに試合を見つめ続けた。
UA (493 - 474) × 100 = 1900文字(3000文字) :来週ノルマ
今週ノルマ:3000文字
今回 3285文字 目標達成
先週投稿してなかったけど、これとは別の小説に浮気してました。そっちの方でしっかりノルマ分3000文字書いてたので許して。最近の暑さでジュース禁止は結構きつい。
新しい方も書いていくつもりなので、また1週間空いたりするかも。それもいつか出せればいいなぁ。最低限3万文字くらいは書き溜めできたら投稿しようかな。
今回も見てくださった方、本当にありがとうございます。