魔術高専   作:一般ゲーマー

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タイトルはたぶんそのうち変わります。

ちなみにネタバレをすると高専が舞台になる上に、なんか呪術廻戦に語感が似てますが、呪術廻戦はSNSのファンアートくらいの知識しかないです。


エピソード零-3

 スタンピードの事件から1週間が経った。

 災害が起ころうとも容赦なく月曜日はやってきたし、学校もまた何事もなく始まった。

 スタンピードの発生範囲は俺の近所を中心に半径7km程度と幅広く、出現した魔物もそれに応じて30体以上と多かった。その規模に対して犠牲者が2桁に収まったのは不幸中の幸いと専門家が評していた。

 学校の関係者は本人とその家族も含めて誰一人亡くならなかったおかげで、災害後すぐにでも学校は何事もなく始まっていた。

 

 

 事件の翌日の日曜日は貴重な休日であるのに疲れが残っていたこともあって、趣味のゲームも日課のトレーニングもせずにひたすら横になっていた。柊さんの完璧な処置によって傷は塞がり痛みは無くなったとしても、疲労感だけはどうしようもなかったみたいだ。

 そうして何もしないでいると思考は自然と七瀬さんの未来予知と厄災の話へと流れてしまって。断りは入れたのにこれでいいのかという考えがつき纏い、結局答えの出ないままあっという間に休みは過ぎ去ってしまった。

 唯一現実逃避していられた時間が、今までは適当に聞き流していた授業を真面目に聞く間だけというのは何とも皮肉な事だった。

 板書して後から軽く見直して分かった気になっていた内容が、集中して聞くとあら不思議、今までよりも理解ができるようになるじゃありませんか。あたりまえ体操。

 

 とかく、少しでも思考に隙間があると悩みで埋め尽くされてしまう状態に陥りながらも1週間を乗り切った俺はソファに身を投げていると、1つの連絡が来た。

 七瀬さん……ではなく、母の実家で一人で暮らしている祖父からだった。

 ここから1時間程度かかるほどの場所にある祖父の家に月に1回ほどのペースで行っているが、『次はいつ来るんだ』なんてメッセージが表示されている。

 前回は2週間前に行ったばかりだが、スタンピードの件もあってじいちゃんも心配しているのだろう。

 

 

「……明日、行くかぁ」

 

 

 学校には一緒に遊ぶような友達はいても、相談をできるほど深い仲は一人もいない。このまま自分だけで考えこんでも同じ思考をぐるぐるとループしそうで、誰かと話したかった。

 その場で『明日の昼頃にそっちに行く。何か買ってきてほしいものある?』と返信をして、俺は久しぶりにゲームを起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祖父の家は電車で30分、そこから歩いて20分ほどのそれなりに田舎にある。魔術の素養がある人にだけ使える転移魔術を使った移動手段もあるが、利用料金がそれなりに掛かることもあって節約のために時間を掛ける。

 歩く途中に1件だけある店にて必要なものを買い込んでから、車もすれ違わない道を進む。

 そうして年数を感じられる風貌の家にたどり着くなり、勝手知ったる様子で鍵のかかっていない玄関を開ける。不用心だとは感じるが、ここらは家も人通りも少なくてご近所さんは皆友達みたいな距離感だから鍵をかける必要もないとはじいちゃんの談。

 

 

「お邪魔しまーす。じいちゃん来たよー」

「おぉ、いらっしゃい。買い物ありがとう」

 

 

 玄関のすぐ近くの和室から現れた祖父は返事をするなり俺から袋を受け取って、それを仕舞いに向かった。その足取りも力強さも健在で、元気な姿に安心しつつ家に上がる。

 網戸が閉まった縁側付きの和室に移動し、荷物を降ろしてから続けて自分も腰を降ろす。

 

 

「無事だと聞いていたが、実際に元気な姿を見れて良かったよ。連絡を貰ってからニュースを見た時は心臓が飛び出るかと思ったぞ」

「俺も巻き込まれたから日曜はちょっと疲れちゃってて……来れなくてごめん。でもこうして無事に生きてるから問題ないよ」

「あぁ、やっと心から安心できた」

 

 

 祖父がジュースとお菓子を持ってきてテーブルに並べながら告げる言葉に、心配をかけた申し訳なさが募る。それにしても、一緒に暮らしていた祖母もそうだったが、こういったお菓子やジュースは本人たちが食べてる様子がないのにどこから出してるのだろうか。永遠の謎。

 

 

「あぁそうだ。これ、交通費とお使いして貰った分のお金だ。足りるか?」

「十分十分。今レシートとおつりを渡すから」

「いらんいらん。余った分はお小遣いにでもしてくれ」

「それじゃあ有り難く」

 

 

 お使いした時は毎回のように繰り返してるやり取りを経て、貰ったお金を仕舞う。最初は何度も遠慮していたのだが、祖父がかたくなに受け取らなかったために今では一言返されたら受け入れるようにしている。

 バイトをして出来るだけ自分の力だけで生活しようとはしているが、とはいえ高1の身分でそんなことは不可能な話で、本音を言えば微々たるお金でも貰えるのは嬉しい限り。生活費や学校に通うお金の他、家の維持費なんかも含めて祖父には既に色々とお世話になっているのだから、本当に頭があがらない。

 

 そこからはいつものように学校での生活を話したり、祖父の近況を聞いたりと普段と変わらない時間を過ごしていたが、肝心の相談をどう切り出そうか迷っていた。

 

 

「……どうした? 何か言いたいことがあるなら、何でも言ってくれていいぞ」

「……そんな分かりやすかった?」

「いいや。もしかしたらと思ってな」

 

 

 態度には出してないつもりだったが、何かを察した祖父から促してきた。自分では普段通りで居たつもりだったが、それでも見抜いた祖父に驚きながらも、相談のきっかけが出来たことはありがたい。

 厄災について詳らかに説明するのも色んな意味で難しいために、嘘を混ぜつつ内容が伝わるように話す。

 

 

「相談したいんだけど、実は……あー、ついこの間のスタンピードの時に1体だけ魔物と戦ってな。その時に助けてくれた人から、何でか知らないけどある活動に勧誘をされて……」

「ほぉ、凄いじゃないか!」

「それで、その組織は結構大きいことをやろうとしてるみたいで、俺の力が必要だって言ってくれてるんだけど」

「さすがは儂の孫。……だが、その言い方からして断ったか、まだ返事をしていないとみた」

「本当によく分かるね。まぁ、その通りなんだけど」

 

 

 ジュースで喉を潤しながら、続きを話す。

 

 

「その期待が大きくて、到底俺には出来そうにないと思って断ったんだ」

「……ふむ。儂から見た詠は、期待を向けられて不安に思うことはあっても、それに応えられるように頑張る子だと感じていたんだが」

「それは孫贔屓じゃない?」

「そうだとしても、既に断ったならこうして相談することもないだろう。優しい詠の事だ、少しでも誰かの助けになれるなら勧誘を受けたはずだ。なら……受けたい気持ちはあるが、理由があって躊躇っている、ということか」

「……じいちゃん、怖い。さすがに分かりすぎ」

「はっはっは! 儂の観察力もまだまだ衰えておらんな! それに大事な孫のことだ、分かるに決まってる」

 

 

 あまりに内心を読まれ過ぎてることに苦笑すると、祖父は豪快に笑い飛ばす。そうして俺と同じように自分用に持ってきたお茶を啜ると、相談へと話を戻した。

 

 

「――して、その理由まではさすがに分からないな。もしお金が掛かって儂に迷惑をかけるのが申し訳ないとかだったら、そんなことは全く気にせんでいいぞ」

「……あぁ、そこあたりは全く聞いてなかったな。もしかしたらそんな理由も追加されるかも」

「だから気にせんでよい。それが違うなら……勧誘を受けることにデメリットでもあるのか」

「あえて言うなら自分の時間が減るのがデメリットになりそうだけど、そこまで大したことじゃないな」

 

 

 実際は勧誘を受けた先で何をされるか、そういう説明を聞く前に断ったから全く分からないんだけど。時間を奪われのは確実だとしても、それくらいなら問題ない。……いや、バイト時間が減るのは死活問題だな。

 

 

「お金でも何かデメリットが大きいわけでもない。……魔物との戦いから勧誘されたということは、もしやかなり危ない目に遭うってことか?」

「……まぁ、半分正解」

 

 

 祖父の鋭い洞察力に、悩みの根本的な原因を突き付けられる。

 確かに、ある願いが無ければ俺は七瀬さんの誘いをその場でOKしていたかもしれない。俺が本当に力になれるのかどうかは関係なく協力したいと思う。でも――

 

 

「――じいちゃんも、やっぱり俺が危険なことをするのは反対?」

「勿論。さっきも言ったが詠は大事な孫だからな。危ないことには当然反対だ」

「やっぱり、そうだよな……」

 

 

 祖父の返答に、そりゃそうだよなと頷く。

 俺だって逆の立場だったら祖父を止めようとするし、家族が、妹が生きていてそんなことを言い出したら反対するはずだ。

 

 

「……『戦いとは無縁な環境で平和に過ごして、幸せになって欲しい』。生前ばあちゃんがそう言ってたのを聞いたんだ」

 

 

 両親と妹が亡くなってから合間合間に自己流の戦闘訓練をしていた俺を見ていた祖母が、俺に隠れてぼやいていたのを聞いてしまった。

 祖母からしても息子と義理の娘、孫の一人を同時に失ったものだから、残された孫の俺がまた同じように居なくならないか心配する気持ちも痛いほど分かる。

 俺だって二度とそんなことが起こって欲しくないからこその特訓だったのだが、その行為が逆に祖母を苦しめていたらしく、俺はどうすべきか迷った。当時はそれ以降魔術の鍛錬はやめて、体力作りを言い訳に筋トレだけに専念するようにしていた。

 

 1年前に祖母が亡くなってからもその言葉が胸に残り続けたために、俺は魔術とは関係ない一般校に進学したし、実際に魔物と戦ったりする環境とは離れて鍛錬だけをやってきた。

 

 

「ばあちゃんの気持ちも分かるし、それを大切にしたい。だけど俺を必要としてくれる人がいるなら、その人の力にもなりたい。その二つが矛盾していて、俺はどうしたらいいか分からないんだ」

「なるほどなぁ……」

 

 

 祖父は俺の相談を聞いて難しい顔をしながら腕を組む。

 大した時間話したわけでもないのに無性に乾いてしまう喉を潤すために、ジュースのおかわりを注いで一気に飲み干す。

 ……祖父は、どういったアドバイスをくれるだろうか。さすがのじいちゃんも、こんな相談に答えを出せはしないだろうが、悩みを解決する糸口になってくれればいいなと思う。

 

 

「……なぁ詠、もし儂が『詠には将来、立派な狩猟者(ハンター)になって欲しい』って言ったらどうする?」

 

 

 暫く目を閉じて考え込んでいた祖父が、顔を上げて目を見つめてくる。

 狩猟者は魔物が蔓延る危険区へと赴き、定期的に魔物を討伐して溢れない様に、街に来ない様にする職業だ。魔物を相手にする以上、怪我や死亡するリスクの高い職業になる。

 

 

「自惚れたことを言うが、詠は儂のことも大切に思ってくれてるから、今みたいにまた悩むだろう?」

「それは……」

 

 

 祖父の言った通り、もしそうなったら俺はまた悩んで動けなくなるだろう。祖父も祖母もどちらも大切であり、二人の言葉に優先順位なんて付けられない。戦いとは無縁でいて欲しいという願いと、狩猟者になって欲しいという願いは決して同時に叶えられないんだから。

 

 

「いいか詠。儂や祖母の言葉を大事にしてくれるのは嬉しい。だけどそれに縛られたら本末転倒だ。なぜなら儂らが願っているのは詠の幸せであって、悩ませることじゃない。結局最後に決めるのは自分自身なのだから、他人(ひと)の言葉なんて一意見として心に留めておくくらいでいい。儂のこの言葉も含めてな。言葉や願いを原動力や自分の糧にするのはいいが、それに縛られちゃあ駄目だ」

「……俺が俺自身の意思でばあちゃんの想いを叶えてやりたいと思ってるんだけど」

「そうして矛盾を抱えて悩んでいるのが今の現状だろう? そんな調子じゃあ大切な人が増えるたびに言葉に縛られて雁字搦めになるじゃないか」

「それでも、大切な人の言葉は尊重したい」

「頭が固いなぁ。それじゃあ別の方面の話をしてやろう。人の言葉ってのは何もその言葉通りってわけじゃない。さっきも言ったように儂にだって詠に危険なことはして欲しくない気持ちがある。でも、それと同時に詠が勧誘されて嬉しい気持ちもある。その先で大きいことを成し遂げたなんてことになったら、儂は舞い上がって近所の皆に自慢しまくるまであるぞ」

 

 

 あっはっは!と大きく笑い声を上げる祖父。

 

 

詠の祖母(珠江さん)だって同じだろう。詠が聞いたという言葉も本心だろうが、人の気持ちは相反するものが同居することだってある。詠が活躍したならば誇らしくなるし、楽しそうにしてるなら天国で嬉しそうに見てるだろうよ」

「……そんなもんか」

「そんなもんだ」

 

 

 納得できるような、できないような。

 言っていることはその通りだと理解できるが、祖母の言葉を無視する理由にはなっていない。実際に祖母に聞いたら祖父と同じことを言うかもしれないが、もう聞くことは出来ない以上、俺や祖父の想像でしかないから。

 とはいえ祖父の言う通りこの先も同じような状況にならないとも限らないし、その度に矛盾を孕んだ問に悩まされることも予想できる。結局はすべて俺自身が決めることで、俺自身がどこに落としどころを作るかに収束される。祖父はその落としどころを作りやすくするべく、アドバイスをくれたわけだ。

 

 

「いっぱい悩むと良い。それが後々詠のためになるはずだからな。それと、未だ言葉に縛られてる詠に儂から新しく言葉を贈ろう」

「これ以上に俺を悩ませようってのか、じいちゃん」

 

 

 茶化すような声に「まぁそう言うな」と返した祖父はこほんと、わざとらしい咳ばらいを一つした。

 

 

「詠は自分のしたいことを最優先に考えなさい。当然お金とか時間とか才能とかいろんな事情から何でもできるってわけじゃないが、それでも儂は詠がしたいと思ったことを一番にして欲しい。誰かの願い(言葉)がそれを邪魔するなら、儂のこの言葉(願い)で前に進んで欲しい」

 

 

 相談に対する回答はこれで終いだと言わんばかりに椅子の背もたれに体重を掛ける祖父。

 また大切な人から新しく願いを言われたが、全ては俺の幸せを願ってのことだってのは伝わった。それなら、俺は悩みぬいた先にしっかりと自分の答えを出さなければいけない。

 

 

「……じいちゃん、ありがとう」

「なに、孫の幸せを願うのは当たり前のことだ」

 

 

 俺の悩みは解決せず、答えも出せないままだけど。それでも気分は晴れ渡り、前向きな気持ちになれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




詠「それにしても、観察力が衰えてないって、昔なんの仕事してたの?」
祖父「守護者(ガード)だよ。と言っても犯罪者を追うのではなく、パトロールを主にしてたがな」
詠「マジか。初めて聞いた」
祖父「仕事柄、街の異変には気を張り巡らせてたし、怪しい動きを見逃さないように人にも気を配っていたから、その名残だよ」
詠「凄いなぁ。今でも十分通用するんじゃない?」
祖父「体の方がきついなぁ。走って追いかけるなんて到底無理そうだ」
詠「あぁ……買い物とかあったら俺も付き合うから、あまり無理しないでくれよ?」
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