アリウスの戦闘教官   作:縁の下の焼き鳥

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 「うっわ、マジでボロボロだな……」

 

 

 アリウスの戦闘教官になるのを決めた翌日、俺は黒服さんに言われた通りの方法でアリウス自治区へと着いた。

 

 アリウスは画像で見た通りだった。何処もかしこも崩れたり崩れかかった建物ばかりで、ここだけ別世界か何かかと思うぐらいの有り様だった。

 

 なんでもアリウス自治区では内戦があったらしく、黒服さんの同僚ことベアトリーチェがアリウスを一つにまとめたらしい。黒服さんの同僚だから、ろくな奴じゃないだろうなと思ってたら案の定アリウスの生徒を恐怖で支配とかするような奴でした。

 

 つまり、俺はそんなヤバい奴がトップとして君臨している所で住み込み、しかも期限がいつまであるのか分からないまま戦闘教官をしなければならない。少なからず俺にも何かしらの面倒な事をしてくるかもしれないから油断できないから困る。

 

 暫く人気のない廃墟だらけの道を歩き続けた後、俺は立ち止まって周囲を確認する。左右の腰に携えていた2丁のサブマシンガンであるK-ヴェールを両手に持ちながら。

 

 アリウス自治区に入ってから、途中で跡をつけられているのには気づいていた。最初は数人程度だったが、自治区の奥へと進むにつれて数も増えてきたので、そろそろ相手をしてやろうかなと思う。

 

 状況から考えて、アリウスの生徒達だろうし、一応戦闘教官になるんだから多少手荒でも良いよな?

 

 

 「それじゃ……少し早めの訓練といきますか」

 

 

 その言葉を合図に、アリウス自治区で銃撃音が周囲から鳴り響いた。取り敢えず今から始まるのは、一方的な蹂躙とでも言っておこう。

 

 

……………

 

 

 結論から言うと、俺はアリウス分校に辿り着き、黒服さんの同僚であるベアトリーチェに会う事ができた。

 

 道中ではほぼ休む暇もなく襲撃やら奇襲を受けていたりしたけど、それら全てを全部凌ぎつつ邪魔な奴らは制圧しながらアリウス分校を目指して進んでいったという訳。とはいえ決して弱かった訳ではなく、統制も取れてたし、何だか兵士とやり合ってるみたいで懐かしく感じる程だった。

 

 

 「えーと、貴女がベアトリーチェ……さん?」

 

 「いかにも、私がアリウス分校の生徒会長のベアトリーチェです。話は黒服から聞いています。では早速、生徒達に訓練を行ってきなさい」

 

 「えっ?それは良いんですけど、思ってたよりもすんなり進みましたね。もっとこう、適正検査的なのを受けるのかと思ってました」

 

 「必要ありません。強いて言えば、貴方がここまで来たという時点で適正アリですね。何せ道中、貴方に攻撃を仕掛けた者達に攻撃を命じたのは私ですから」

 

 「へぇー……そうなんですねぇ……」

 

 

 あの攻撃指示したのお前かよ。黒服さんの同僚だからだと警戒してたらこれだよ。黒服さんも人かどうか怪しい判定だったけど、こっちの方が数段化け物に近いや。目どんだけあるんだよ。キモすぎだろ。

 

 というか、黒服さんの同僚って事は少なくとも大人の類いではあるんだよな?そんな人が生徒会長って、世間的にはどうなん?明らかに生徒じゃないのは分かり切ってるし。良い歳した大人が何をやってるのか……

 

 そしてベアトリーチェにアリウス分校を案内をされ、着いた場所は正に訓練所と呼ぶべき場所だった。とはいえ、流石に良い設備という訳ではないようではあるが。

 

 ベアトリーチェが訓練所に来たのを確認した瞬間、先程まで訓練をしていたガスマスクを装着した生徒達が一斉に俺とベアトリーチェの前に集まってきたかと思えば、まるで軍人のように整列をした。……ここ本当に学校か?

 

 ベアトリーチェが、今日から俺が戦闘教官として訓練に参加するって簡潔に伝えたかと思えば、そのままクルリと回れ右をして帰ってしまった。

 

 取り残されたのは、ベアトリーチェの横に立っていた俺と、戦闘教官としてやって来た俺をどう思っているのかは知らないが、ジーっと俺を見ているアリウスの生徒達。正直気まずいとしか言いようがない。

 

 

 「えっと……さっき言われた通り、今日から俺がみんなの戦闘教官になります。シンって名前。よろしく……?」 

 

 

 変にウケ狙いをせずに取り敢えず普通にあいさつしてみたけど、やっぱ軍人みたいな事させられてるからか、妙にしずかだし、それに更に気まずくなったんだけど。どうしよう……

 

 

 「具体的には何が出来るんだ?」

 

 

 あまりの反応のなさに、少し心が折れそうになっていると、1人の生徒が質問を投げてきた。見た目からして、アリウスでもかなりの実力だろう、先ず雰囲気が違うし、他の生徒とは違って、鋭い目つきに加え、服装も他のと違って白いコートにヘソ出しとまできた。しかも腹筋割れてるし……

 

 

 「戦闘系なら銃撃戦とか近接戦もイケるかな。何なら今からやる?模擬戦的なの」

 

 

 早速戦闘教官らしく、模擬戦を提案してみる。最近はずっと黒服さんの所で戦闘ドローンを相手にしてたから、ドジ踏まないと良いけど。

 

 

 「今この中で1番強い人、若しくは1番強い部隊とか班はいるか?」

 

 「私達だ」

 

 

 列の中から4人の生徒が前に来て、俺の目の前に立つ。その中には先程俺に質問をしてきた奴もいて、どうやら4人の中でリーダー的な立ち位置らしい。

 

 

 「じゃあ説明するぞ。ルールは簡単、1対4で俺を無力化したら俺の負け。逆に俺が4人共全員を無力化したら俺の勝ち」

 

 「……正気か?」

 

 「俺は至って冷静だし、普通だぞ?」

 

 

 明らかにマトモな奴を見る目じゃなかった。流石に少し落ち込みそうになるけど、気を取り直して模擬戦を始めるよう促す。

 

 

 「ほらほら、もう始めて良いから遠慮せずに全員で来なよ」 

 

 

 その言葉を合図に、4人が一斉に散開する。1番実力のある部隊というのもあって流石に連携は言う事なしかな。

 

 じゃあ────やるとしますか。

 

 

……………

 

 

 煙が広がり、視界が封じられる。アツコの煙幕を使って一気に制圧をしようとするスクワッド一同。いくら戦闘に自信があるとはいえ、所詮相手はただ1人。

 

 慢心をしている訳ではない。寧ろ突如としてアリウスにやって来た戦闘教官という得体の知れない存在を警戒した上での数による制圧である。

 

 これで簡単に勝利を得られるならば、口先だけの男だった……それで終わるだけである。

 

 普通なら、4人の連携で勝敗は決したも同然である。

 

 

 「……っ、速すぎる……!」

 

 「ぜ……全然当たりません!」

 

 「何で4人も相手にしてるのに掠りもしないのッ……」

 

 

 ────普通なら。

 

 不幸か幸福か、口先だけの男ではなく、スクワッドらの猛攻を表情一つも変えずに避け続けていた。バク転、スライディング、壁蹴りなど……アクロバティックな動きでスクワッド達を逆に翻弄していく。

 

 そしてシンが動きだす。

 

 最初に狙われたのはヒヨリだった。

 

 此方へ接近してくるシンをスコープで捉え、ヒヨリの狙撃銃の銃身が火を噴く。初弾────外す。否、ヒヨリがトリガーを引く寸前には既にシンは違う場所へと移っていた。

 

 

 「うわぁぁぁん!!絶対当たらないですぅ!!」

 

 

 叫びながら再装填。再びスコープでシンを捉える。────外す。先程と同様に避けられていた。

 

 次の瞬間、シンは突然跳躍をしたかと思えばそのままヒヨリの頭上を通っていく。頭上の上でシンは体を捻り、サオリ達へ銃弾の雨を浴びせる。理由はシンプル、空中にいる自分が狙われない為の牽制である。

 

 ヒヨリは一瞬自身の上を通るシンを呆然と眺めてしまう。それが自身の命取りになってしまうのを忘れる程……

 

 

 「ヒヨリッ!!ぼーっとするな!!」

 

 

 リーダーであるサオリの言葉を聞いて我に返った瞬間、後頭部に銃口が当てられた。

 

 

 「ひっ……」

 

 「狙撃手が叫んだら自分の位置を相手にバラしてるようなものだぞ?それに敵が頭上にいるのにぼーっとしすぎ」

 

 

 ヒヨリの肩をトン、トンと2回程叩きながら「先ず1人目」と呟いた後、次の目標を無力化する為に走りだすシン。

 

 次の標的はミサキだった。

 

 迫り来るシンにスティンガーミサイルを構え、放つ。そのままシンに直撃し、爆発が起きた後に黒煙が立ち昇る。

 

 

 「やった……?」

 

 「ッ……!?まだだ!!」

 

 

 黒煙の中から低姿勢で接近してくる者が1人。無論、シンである。所々が黒ずんでいて、火傷もしており、決して無傷という訳ではなかった。

 

 次弾を装填している暇はなかった。左足にあるガンホルダーから銃を取り出し、それで迎撃しようとするも……その前にシンに足を払われてしまう。

 

 体勢を崩し、倒れた所を押さえつけられる。関節が極まり、痛みが走る。

 

 

 「ッ……!」

 

 「2人目……」

 

 

 目を細めながら淡々と告げ、シンが再び走る。

 

 次の狙いはリーダーであるサオリ。自身が狙われている事に気づいたサオリがアサルトライフルを構える。

 

 決して油断をしていた訳ではない、勿論相手を侮っていた訳でもない。相手がどれ程の実力なのか、自分達を訓練する教官として相応しいのかを確かめようとしていに過ぎない。

 

 否、そもそも前提から間違っていた。実力を確かめられているのは自分達なのだと、サオリは無表情でヒヨリとミサキを制圧していく男を見て今更ながら気づいた。

 

 迫るシンから距離を取りつつ、アサルトライフルのトリガーを引く。弾丸は全て躱しつつ、サオリとの距離を詰めてくるシン。

 

 やがて2人の距離は徐々に縮む。サオリはアサルトライフルを捨て、ナイフに切り替える。ここまで接近を許せば、最早銃は使えない。ならばと、サオリも距離を詰める。

 

 迫り来るナイフを受け流すシン。そして間髪を入れずに足を払うサオリ。足を払われた事によってシンの体勢が崩れ、サオリはそれを見逃さず、追撃を入れようとする。

 

 この瞬間、誰もがサオリの勝利を疑わなかった。既にスクワッドであるヒヨリとミサキを無力化しているとはいえ、スクワッドのリーダーである彼女が相手では流石に勝てなかったのだなと。

 

 

 「ぐっ……!?」

 

 

 ────思っていた。

 

 気づけばサオリは仰向けになっており、首を締め上げられていた。

 

 体勢を崩したシンに、ナイフで追撃をしようとした刹那……シンはサオリも気づかぬスピードで肩に腕を回しながら背後に回り込み、首を締め上げたと同時にサオリの足を掛け、共に倒れる。

 

 逃がさないよう足をサオリの腹部に交差させて拘束する。呼吸が出来ず、段々と意識が遠のいていく。抵抗しようにも、首に回っている腕を解ける気がしない。寧ろ力強く抵抗すればする程、視界が霞んでいく。

 

 いよいよサオリの意識もなくなろうかとした時、首に回っていたシンが腕の力を静かに弱める。

 

 

 「かはッ……!」

 

 

 息を切らし、必死に酸素を取り込んでいるサオリ……最早訓練所は静まり返っていた。スクワッドも、スクワッドとシンの模擬戦を観戦していたアリウス生徒らも全員が言葉を発さなかった。

 

 

 「これで3人目……後1人は────戦闘の意思は無し、という感じか?」

 

 

 唯一残ったスクワッドの1人であるアツコへと目線を向けるシン。だがアツコは自身のアサルトライフルを下ろしており、既に戦闘続行の意思は感じられなかった。

 

 ────スクワッドが負けた。スクワッドらが膝を突いている光景が、その事実をアリウス生徒達の目にしっかりと焼き付けていた。

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