ニセコイ・モウソウ   作:ぬめり

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千葉県のYさんて今も継続して橘万里花に誕生日プレゼントを送っているそうな。本当に彼こそオタクの鑑と言って過言ではありませんな。


第三話

 夏休みである。

 いや、なんか早くないかな夏休み。目まぐるしすぎない?終業式とか何があったのか微塵も覚えてねぇよ。全てがモノローグで吹っ飛ばされた気がする。最早モノローグさえあったのか怪しい。

 

 しかしそんなことは置いといて、夏休みといえばイベントはつきものなのだ。つきものではあるが前世では一度もそんなものに遭遇したことはなかったのでドギマギしている。

 一条に呼ばれて勉強会に訪れたのだ。宿題あんのめんどくせー、と自室のベッドで寝っ転がっている時に連絡があった。なんでも「女子ばっかりで気まずい」とか。なんて羨ましい悩みなのだろうか。隕石200個くらい頭に落ちねーかな。

 

 無論集合場所は一条の家。一条の家は集英会の本拠地でもあり、あいも変わらずゴリゴリのヤクザが家の中にいる。

 物々しい雰囲気の和風な邸宅、物々しい玄関、物々しい置物、物々しい廊下、そして得物をハダカでぶら下げる銃刀法違反まっしぐらの物々しい輩。お化け屋敷に入る方が幾分かはマシだろう。

 

 マフィア組や色んな意味で豪胆な橘さんは兎も角として、感覚が麻痺しているのだろうか、舞子や小野寺さん、宮本さん達一般人組も平気でいる。僕はといえば、恋だとかでドキドキしているのとは違うドキドキが襲って小刻みに震えている。胸の高鳴りではなく心不全である。どうやらこのことは誰も気付いていないようだった。良いのか悪いのかは分からないが。

 

 僕の方がおかしいみたいだが、平気な方が本当はおかしい…そうだよね?ね?

 

 身が張り裂けそうな程重苦しい、慣れる気のしないヤクザの本拠地の中を歩いて、やっとこさ一条の自室に着いた。大した距離でもない、寧ろ近いのだが、なかなかどうして長く感じてしまった。

 勉強会が始まると思いきや、何やら鶇さんが「た、たまたまネットで見つけて」とやや苦しい言い訳をした嘘発見器を机の上に置き、結局それに話題を取られていた。

 

 小野寺さんのどストレートな質問にテンパる鶇さん、冗談とはいえ女性に胸のサイズを訊きぶん殴られる舞子、面白いものが見れている。

 小野寺さんの番が終わり、次は誰になるだろうか。

 

「じゃ…じゃあ次佐藤くん!」

 

「ふぁっ!?」

 

 小野寺さん!?何言ってんの!?ここ流れ的に桐崎さんでは!?

 とか思いつつも、しっかりと計測用のハンドルを持ってしまう自分だった。どうしてか律儀にやってしまった。

 

「じゃあ私が質問するわ。あんまり佐藤くんと話したことないし」

 

 質問に手を挙げたのは宮本さんだった。とてつもなく座った目をしていた。瞳孔もなく、ただただ一色に塗りつぶされている目だ。その姿が若干カートゥーンアニメのデフォルメ作画に見える。

 言葉を発する時、眼鏡がキランと輝いた気がした。

 

「この中に…仲良くなりたい人はいますか?」

 

「…それは、どういう…?友達的な?」

 

「皆まで言わなくても分かるでしょうに。“色んな意味”でよ」

 

 一瞬、電撃みたいなものが宙を走った感覚がした。空気がピリついた。主に宮本さん以外の女性陣の周りが。

 

「……そりゃ、そんな、もちろん、い、いな『ビーッ!ビーッ!』…いぃ…」

 

「「「「…」」」」

 

「あは」

 

 一気に押し黙る女性陣。いや宮本さんも自分で訊いといて何汗垂らしてんの。

 沈黙と張り詰めた空気が漂う中、1人笑い声を漏らした舞子集。笑い声は静かに消えていった。

 

「マ、マジか!?悠也そうなの!?」

 

 最初に声を出したのは一条だった。

 

「い、一条…う、うぅ…うおおお!ぼ、僕ぁ今から腹を切らなければならない!介錯は頼んだぞ我が友よ!!ぬあああぁぁぁ!!」

 

「やめろっ!早まるな悠也っ!」

 

 生き恥を晒して死を選ぼうとした僕は一条に羽交締めにされた。

 

「…っ、こいつ思ったより力強い…!ま、まさか本気で」

 

「いや、まぁ、流石に冗談だよ」

 

 すっと、一条の腕の中で暴れるのを止めた。本気で死のうとするなんてまさかそんな。

 

「ホッ…何だよ」

 

「半分はな」

 

「!?…ってか、何で宮本はあんなこと…」

 

「…?友達のお付き合いには色々あるでしょ?佐藤くんもどうしてそんな風になってるのよ」

 

「あー、成程そういう…」

 

 一条が「しまった」とでも言いたげに僕の方に目線を向けた。

 僕は固まって、これをどう誤魔化すか脳をフル回転させた。フル回転させた結果…

 

「あ、あははは、いやそりゃ分かってましたけどぉ?!そ、その上で、あれだよちょっと小っ恥ずかしいっていうかぁ!?今頃っ、ハッキリ言えないお年頃ってゆーか!」

 

 誤魔化した。…これは誤魔化しといえるのか。顔がすんごく熱い。今鏡を見たら真っ赤っかだろう。でも、これが僕の限界だった。お願いだからすり抜けてくれという思いで精一杯だった。

 

「ふーん」

 

 …な、なんかいけたぞ…!

 

「「「ホッ」」」

 

 宮本さん以外の女性陣はもしかすると自分かもしれないという不安に近しい動揺から解放されて胸を撫で下ろした。

 おいコラ。「ホッ」て何だ「ホッ」て。哀しくないか。僕が。

 気まずい…。

 

「なぁ、一条」

 

「ん?どうした?」

 

「腹ぁ痛くなってきたからトイレどこかおせーてくれ」

 

 ふふ…居辛くなった場所から退避するための奥義が一つトイレ戦法…遂に発動する時が来てしまったか…!(今考えた)。

 

「…」

 

 で、トイレに逃げ込んだ訳だが、どうしましょう。腹が痛くなったと言った手前数分間待つ必要があるだろう。誰も来ないし若干薄暗い。淋しい。

 

 ─先程のことで、気持ち悪いとか思われていないだろうか。

 少なくとも桐崎さん、小野寺さん、鶇さん、橘さんの4人は一条楽という人間に惚れている。これは覆しようもない目の前に現れている事実。そんな中で、もしかしたら自分に気があるのかもしれないなどと一瞬でも思わせたのは、一応友人であるという立場からすれば、どうなのだろうか。友人とはいえ、一条や舞子のように彼女らと関係が深いとはいえない。そんな中での現状だ。どうしても心配してしまう。

 

 現実問題あの4人の内の1人、鶇誠士郎のことが好きだ。もし気持ち悪がられていたとしたら、怖い。好意抜きに、1人の友人として考えたとして…ドォン!

 

 思考を遮って銃声が遠くで鳴った。

 

「うおっ、鶇さんか…?」

 

 急に抗争が始まった可能性は捨て切れないが、銃を所持しているのはあの中だと鶇さんだけ。多分、舞子がちょっかいをかけて、それに怒った鶇さんが発砲した、というところだろうか。

 ワーキャー盛り上がってるんだろうか。下手に途中で戻ったら、水を差してしまうかもしれない。いや、自分が居なくなったから伸び伸びできている可能性もあるのだろうか…。

 

 いくらか煩悶した後、別に脱糞も鬱憤も何も出したりしていないが、トイレから出る時は大体手を洗うという習慣付いた行為をしてしまった。しかもハンドソープもついでに使った。自分は何をしているんだろうか。分かってはいたものの、想像以上に動揺していたようだ。

 恨むぞ宮本さん…悪気があったようには思えないが。

 

 皆んなのところに戻ろう。

 

「それにしても馬鹿みたいに広いなぁここは…」

 

 廊下をトボトボ歩いて一条の自室に向かっていると、皆んな帰りの支度を済ませて部屋から出ているところだった。もうそんな時間が経っていたか。

 相当な腹痛でトイレに篭っているとでも思っているのか、それで気を遣って、若しくは単純に忘れてか、皆んなは帰ろうとしている。

 

 …あれ?そういや結局勉強したっけ…?まぁ…いいか。勉強嫌いだしな…!

 

 部屋に荷物を置いたままだから、取りに行ってそのまま流れで帰ってしまおう。

 

「おー悠也、結構長かったな。皆んな先に帰るってさ」

 

「おう。結構ピーピーだったが、もうスッキリよ」

 

「そっか。大丈夫そうだな」

 

「んー」

 

 けっ、のほほんとした顔しやがってモテモテ男がよぉ。羨ましい。

 少し方向を変えて、部屋に入った。

 

 すると、

 

「私は 一条楽が 好きだ…!」

 

 嘘発見器を使って、そして頬を赤く染めて、一条楽への想いを呟く鶇誠士郎がいた。

 

「…」

 

 嘘発見器に反応はない。シンとしていた。

 僕の目にはコンセントが抜けているのが見えたが、どうしてもその所為とは思えない。彼女の表情が物語っている。それに先ず僕は、事実を知っている。何よりも確証のある事実を。

 その事実を今、まざまざと見せつけられた。

 

「……へ?」

 

 あ、こっち見た。

 

「あ…!あ…!」

 

 彼女の顔は、頬から赤が広がって、みるみる内に赤一色に染め上がる。瞳には涙が浮かばせた。それが僕の視界に確認できてすぐ、残像でもできそうな勢いで僕に迫ってきた。

 

 

 勉強会とは名ばかりの、ただただ友人達と遊んだだけの帰路、歩みを共にしていたのは宮本るりと小野寺小咲だ。

 

「…ねぇ、るりちゃん」

 

「どうしたの?」

 

「どうして佐藤くんに、あんなこと聞いたの?」

 

「あんなこと…か…まぁ、とある友人とどことなくシンパシーを感じた、ってところかしら。それで試しにね」

 

「へぇー…でもあんまり揶揄っちゃダメだよ?」

 

「はーい」

 

 …ま、その友人は小咲のことなんだけど。

 

 るりは黙って小咲へと視線を向けた。

 先程の発言とまるで自分が関係ない、関係するとは夢にも思っていないように、普通に歩みを進めていた。天然か無神経か、それは宮本るりには分かりかねたが、憐れみか、ため息を吐く。

 

 自身が小咲のことを応援、揶揄っていたともいえるが、その行為を思い返し、今まで彼女がしてきたあの赤く染まった表情のことを考えると、どうしても佐藤悠也という人間の反応は似ているのだと感じられた。

 

 ウジウジして目の前の好きな人に何も言えずにいる、そんな小野寺小咲(あなた)に。




なんだこれ。
書いてる内にこんな終わり方が頭に浮かんでそのままやってしまった。どうしよう。
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