ニセコイ・モウソウ 作:ぬめり
「よっすー…あれ?なんか元気ない感じじゃん、どったの悠也?」
元々予定をつけていた友達が急病で来れなくなり、サッカーの試合のチケットが一枚余ったからと舞子に誘われて、試合会場にやって来た。舞子は試合に出場するスタメンが知り合いで、その応援だという。僕はといえば、サッカー自体に興味が無いし、出場するチームも選手の名前も知らない。
ただ、つい先日あったことについて少しでも気分転換できるようなことがないか考えていた時、舞子からこの話があったため、甘んじて承諾した。
※
先日。一条の家から帰ろうと、荷物を取りに行って、鶇さんに鉢合わせしてしまった時のことだ。
「き、貴様っ…!どこまで聞いたっ、正直に言わんと命は無いと思え…!」
顔を紅潮させている鶇さんに首根っこを掴まれ、銃を突きつけられる。銃の引き金には指が掛けられており、下手なことを言えば今すぐにでも発砲、そして僕の頭が吹っ飛ぶこと間違いなしだった。
僕は何から何まで聞いた。鶇さんが一条への想いを呟いたことを。復唱すらできるくらいハッキリと。
正直に言わなければ殺されそうで、意を決して僕は伝えた。
「それは…全部…です」
僕の返答を聞いた途端に力を緩め、手を離した。そして、
「うっ…うう」
鶇さんの瞳から大粒の涙が流れた。
すると、僕に向けていた筈の銃口は、方向を変え、今度は鶇さん自身に突きつけられた。自分を自分で撃とうとしたのだ。
「んなっ!?ちょっ、ちょ何やってんだ!」
僕は咄嗟に彼女の腕を掴んで、全力で銃口から彼女自身が外れるように抵抗した。
「っ離せっ!わ、私はあんなことを聞かれて生きていられない!ここで命を断てばお嬢には悲しい思いをさせてしまう、本当に謝罪しても謝罪し切れない…それでも、私はっ、私はぁっ…」
…ど、どうすれば…。
鶇さんは滅茶苦茶に力が強い。こちらの全力をものともせず、もう押し負けそうだ。いつまで彼女を抑えていられるか分からない。しかし、もしもこの手を離してしまえばどうなったものかも分からない。
何かハッタリでも…っ!
目に飛び込んだのはコンセントが抜けた嘘発見器だった。鶇さんはコンセントが抜けているのを知らない筈だ。なら、
「じょ、冗談っ!」
「へ…?」
「今のっ、冗談でしょっ!?いやぁ結構お茶目なところもあるんだなぁ、鶇さんも!」
「…だが…嘘発見器は…」
「ちょっと使うから!」
僕は鶇さんの足下に落ちていたハンドルを取って、嘘発見器を使ってみせた。半ばヤケクソで、よく考えずにパッと頭の中に浮かんだ言葉を口走った。
「僕はっ鶇さんのことが好きだっ!」
「はっ!?な、貴様何を」
「…アレーオッカシーナーナンニモ反応シナイゾー。アッ、鶇サン後ロヲ見テー、嘘発見器ノコンセントガ抜ケテシマッテイルナー」
「へっ…?」
後ろを振り向いた鶇さんは、コンセントが実際に刺さっていないことを確認すると、ガクッと肩を落とした。
「…あ…あ、あはは、そっ、そういうことかぁ!そうだ、先程の発言は冗談…冗談だ!なんとなく言ってみただけだ!反応が無かったから少々取り乱してしまったが!すまなかったな佐藤悠也!あは、あはは…」
「で、でしょ〜?冗談冗談!ぜーんぶ冗談!最早さっき鶇さんが何言ってたか忘れてきたくらいだわ(?)いやぁーあはは…」
「っそうかそうか、忘れてしまえ!できれば一生思い出さないでくれ!」
「はいっ!了解しました、努力します!」
「あはは…ふんっ!」
鶇さんによる見事な踵落としで嘘発見器はひしゃげてしまった。
おそらく僕からこれ以上の追及をされない様に証拠隠滅を図ったのだろう。ちょっと自分がやられるんじゃないかと思った。
「ふぅ…」
残していた荷物を持って、僕はそそくさと一条の家を後にした。
…何とか切り抜けた…!
…あれ?ちょっと待て、僕はさっきなんて言ったんだ?あ…あぁ、マジか…よりにもよって何言ってんだ僕…。さっきの言葉が冗談として受け取られるのか…。
※
「…やー、別に…行こうぜ、気晴らしだ気晴らし」
「そか。あ、そういえば悠也ってサッカーについてどこまで知ってんだっけ?」
「あれだろ?ゴールキーパー以外は基本ボールを手で持ったら反則、だっただろ?」
「ふむふむ」
「後…必殺シュートで炎とかドラゴンとか出たりするんだろ」
「…キャプ翼は現実じゃないぞ」
「えっ?いちいち技名叫んだり、2人の協力シュートとかないの?」
「しない」
なんだ、ちゃんと現実的なのかサッカー業界は。時々この世界、変に現実離れしたところのある人間が出てくるが、サッカーは常識の範疇に収まっているらしい。
暫く経つと選手が入場してきた。
…やっぱり誰も知らん…。次々と選手が現れる中、見覚えのある顔が見えた。あれは確か、
「鈴屋透…」
いつかに鶇さん宛にラブレターを渡してきた奴だ。そういえば彼奴はサッカー部だった。スタメンか。遠目だがイケメンであるのが確認できる。爽やかな雰囲気の青年だ。
文武両道の人気者…ケッ、神は二物どころか三、四物くらいは与えているじゃないか。
「あ、やっぱ気になっちゃう?恋敵は?」
「…なーんのこと言ってんでしょーか」
「やだなぁしらばっくれちゃって。愛しのつぎゅ!?」
片手で口を押さえて舞子の減らず口を止めた。口が歪んでひよこのようになっている。続く言葉を発せずにむぐむぐと声が篭っている。
「なんか僕もサッカーしたくなってきたなぁ?ボールお前な?」
「ずっずびばべん(すっすみません)」
ここでボコボコにしてもいいが、なんせ人の目が多くある。やるなら後でだ…!
舞子を締めることを心に決めると、フィールドの方ではいつの間にか選手達は配置に着き、審判による開始のホイッスルが鳴り響いた。先制のボールは相手方だった。
「…ん、始まったみたいだな。舞子が応援してる人って誰だ?」
「おー痛てて…それなら、あの、後ろで髪を結んでる奴」
「あー…」
舞子の知り合いが誰かは分かった。僕もついでに来た手前、その彼に注目して応援すれば良いのだろうが、やはり、他の人に目を奪われてしまった。
応援とかいった感情はないが、視界に映れば、その姿を追ってしまっている。自分と比べてよっぽど鶇さんとお似合いの人物。
「…鈴屋透、気になっちゃう?」
「気にしてない」
口では否定しつつも、舞子の発言全くその通りだった。
試合は進んで行く。相手方のボールを鈴屋透が奪い、奪い返そうとする相手をドリブルとボール捌きで抜き去る。そして、守備の隙間を縫って先方の、確かフォワードというポジションの選手にボールを繋げる。そして、ゴールへ向けてフォワードがシュート。マークしていない位置からの攻撃に咄嗟の判断がつかず、ボールはゴールネットを揺らした。
会場は歓声を上げる。舞子もそれにつられて盛り上がっていた。応援するチームがゴールを決めたのだ。当たり前の話だ。
ナイスプレー、と評すべきだろう。素の運動神経もさることながら、フィールドを見通す洞察力も見事なものだった。
正直、いけすかないが、素直に「凄い」と思えた。
「…はぁ…」
「どうしたんだよ悠也、今のプレーすげぇ良かったじゃん。もっと楽しもうぜ、ほらほら!」
「お、おう」
─結局あまり試合に集中できず、休憩やら延長やらを挟んで2、3時間後に終了した。
結果としては、前半部分は善戦した凡矢理高校のチームだったが、後半で攻め方を変えてきた相手に対応できず、惜しくも負けてしまった。数度歓声は上がっていて、他の人からすれば良い試合だったのだろう。
「やー、負けちゃったねー!いけると思ったんだけどなぁ」
試合会場からの帰路で、舞子はそう言ったものの、顔を見てみれば案外その気持ちは悪くなさそうだった。
「…なんかごめんな、一緒に来といて、あんま、その、空気に乗れなくて…」
「気にしてないって。寧ろこっちが謝らないといけない感じ。知ってて来てるもんだと思ってたからさ。敵情視察的な?」
「すまん…帰りにまっくでも寄るか?奢るわ」
「マジ?!いやぁちょっと小腹空いてたんだよねぇー。そうだなぁ、ビッグまっくセットとナゲット10ピースと…」
「あ…厚かましい…!」
よく分かんないですけど、原作のエピソードでいえば犬の飼い主探しと縁日の間くらいの時系列って雰囲気でやりました。よく分かんないですけど(大事なことだから2回)。
話の中で、一応マックのもじり的にワックって出しましたが、原作にマクドナルドのパクリみたいな店名があったよって覚えがある方は、お手数ですがコメントで知らせてもらえるとありがたいです。後、アドバイスも。
追記:まっくどバーガーなるものがありました。ギリギリすぎる。
次回は多分原作5巻の縁日をベースにした二次創作になると思います。流石にね、書いてる奴の自我が出まくりの二次創作のくせしてヒロイン達全く出さないってねぇ、変ですよなぁ。
キャラ造形とか手探りですが、頑張ります。頑張ります…で合ってるのか?