ニセコイ・モウソウ 作:ぬめり
ラブコメってムズい。
最近はこれを読んで態々評価まで付けてくれる人もいて嬉しい限りですな。精進します。
ただの妄想に精進って何だよ(?)
今日は成績発表の日だった。
学校の掲示板に成績の順位表が張り出される。人によっては自慢のできる話の種になるだろうし、人によってはただの公開処刑になるようなものだった。
どうやら一条達は橘さんの意外な順位の低さに持ちきりだった。何故か橘さんはドヤ顔をしていた。
「─そうだ、聞き忘れてたけど悠也、お前はどうだった?」
ふと、一条は話題を僕の方に向けてきた。
「え?僕?僕は102位」
僕はありのままの順位を答えた。
「「「…」」」
え、何?転校生組が僕の方に目を向けて来たんだけど。
「今の今まで気づいてなかったけど、佐藤くんアナタ…眼鏡に反して勉強出来ないのね…」
「貴様何をやっとるのだ…?眼鏡の癖に…」
「私も他人の事は言えない口ですが…意外です…眼鏡なのに」
視線は冷ややかなものだった。一体眼鏡に対してどういった印象を抱いているのだろう。
「僕は何も悪い事なんかしてないはずだが…?」
「いやーお三方の気持ちは痛い程分かるよ。この佐藤悠也って奴は基本的に勉強については手を抜いてるんだわ」
舞子が僕の隣に来てやれやれと首を振る。なんなのだ。確かに勉強が嫌で大して復習やらしていないが、赤点は…あんまり取っていないぞ!あんまり…!
「橘さんは大概すぎるけど、佐藤くんも結構危ないんじゃない?」
宮本さんが成績について言ってきた。
「正直言って…次の数学のテストがヤバい。綱渡り状態ですな、はは」
「言い方にあんまり危機感無い所が危なっかしいわね…」
「…数学のテストといえば、そうですわ楽様!よろしければ放課後、私の家で勉強を教えて下さいませんか!?」
僕の数学のテストの発言をきっかけに、橘さんは一条へと飛びついた。何て羨ましいやつだ。遂には橘さん、朝まで勉強などと泊まり込みをする発言すらしだしている。
その様子に桐崎さんは怒り心頭だった。
「─別に勉強くらい教えてやるけどさ、何も泊まり込んでやる事じゃねーだろ?」
「いえその点についてはですね─数学のテストが明日なので」
「そうだったの!?」
へー明日か。成程そりゃ仕方ないかもなぁ…ん?明日?明日って…次の日?あー次の日か。
「…オイオイ死んだわ僕」
「佐藤くん…その様子だとあなたも忘れてたみたいね…」
呆れ顔で宮本さんは僕の方を見た。
いや、だってなんか全体的に授業が印象薄いんだよ。殆ど描写されていないというかなんというか、本当にやってるっけ?って感じで…。
「…一応友人として苦しむ姿は見たくないし、勉強を教えてあげたいとは思うのだけれど…私は小咲ちゃんに数学を教えないと彼女も危険なのよね…うん?あ…そーだー、鶫さん何とか出来ないー?」
何故か態とらしく語尾を伸ばしながら、宮本さんは鶫さんに声をかけた。
「いや、別に、それなら舞子に頼むから。な?舞子」
鶫さんだから、というのもあるが、女子と勉強というのは気まずいところがある。ここは舞子という男子がいるのだから、僕はそこに目を向けた。
「ん…あー…俺はちょっと今日他の用があってー、すまん悠也」
「え」
「ということだそうだけど、鶫さん大丈夫ー?」
また態とらしく確認を取る。何を考えとるんだこの人は。
「いえ、私はお嬢の護衛があるので…」
「私なら大丈夫よ鶫、ほら…その、恋人として!心配だから、私、あの2人の所に行くつもりだし」
「ならば尚更…!」
「多分泊まりになるだろうし、どうせクロードに交代するでしょう?偶には私抜きでさ、羽を伸ばす、っていうの?それも悪くないんじゃないかしら?」
「ですが…」
「はいはい、桐崎さんもそう言ってることだし、佐藤くんに数学、教えてやって」
鶫さんと目が合った。気まずい時間が流れる。別に数学が赤点だからといって何とか追試にはならないレベルではある筈だが…もう勉強するという方向にある。
あんまりしたくないんだけどなぁ…腹を括るしかないのだろうか。
「…その…よろしくお願いします…?」
「はぁ…仕方ない。やるからにはビシバシといくぞ」
「じゃあ、放課後に図書室で集合しましょう。私が小咲ちゃん担当で、鶫さんが佐藤くん担当ね。いいわよね小咲ちゃん」
宮本さんは近くに立っていた小野寺さんに確認を取った。
「うん。大丈夫だよ」
大丈夫か。
完全に勉強をする流れになった。もう逃げられそうにない。
一応転生する前にも高校生活は一度経験しているし、受験だって経験している。その抑圧感から解放された反動か、勉強したことなんて殆ど忘れているのだ。前提として転生前でも勉強は嫌いだった。その抑圧をもう一度経験するとか普通に嫌だった。
数学なんて転生前も今も大嫌いな教科だった。そんな教科をビシバシか。ははは…はぁ…。
※
放課後になって、約束通り図書室へ集合した。前に来た時より、テスト前というのもあって人が混み合っている。1人で机に突っ伏して教科書とノートを開いている生徒や、僕らの様に集まってテスト前の追い込みをしている生徒もいた。普段は静かな図書室だったが、この時期に限ってはある程度の声がしている。
…前に来た時…いや、考えるのはやめよう。
机を確保して、宮本さんと小野寺さん、鶫さんと僕といった感じで2人ずつ隣り合って席に座っている。
最初に学力の確認として鶫さんが出した問題を幾つかやった。
「─貴様…基礎的な所すら怪しいではないか…。そういえば、前回の数学のテストは何点だったのだ?」
「あー、47点かな」
なんとか記憶にあった部分が多く出ていたので前回は何とか赤点を回避できているのだ。あの時は自分の記憶に助けられたぞ、ふふふ。
「何故そんなしょぼくれた点数でやり遂げた風な顔をしているのだ…。とにかく、このままではマズい。基礎固めから進めるぞ」
「へい」
僕の勉強方針が決まった。
経験した人生の年数は僕の方が多い筈で、それにも関わらず周りの方が余程しっかりしているのは、十中八九どころか十中丸々僕が悪い。僕の人生の浅さというのが如実に現れているな。
頼りの無さすぎる僕の面倒を見てくれる友人達のなんと頼り甲斐のあることか。
鶫さんとか、桐崎さんもそうだが、アメリカ育ちでここ一年に日本にやって来た筈なのに普通に日本が淀みなく流暢に喋れているのって、凄いことだ。そういうのもあって元々の頭の作りが違うところがあるだろうが…勉強ができるというのは少し羨ましいと感じる。
しかも美人だし…美人…。一条が羨ましいなぁ…。
「…おい…おい、真面目に聞いているのか?ほら今の説明通り因数分解をやってみろ」
「へ?あ、はいはい…」
あー、半分くらい頭に入ってなかった。どうしよう。問題は…これか。
「えーと、こう?X^2で括ってから、b^2-a^2を分解して…」
「そうだ。出来るではないか?」
「いや鶫さんの教え方が上手だからだって」
半分聞いてなかったけど。
「…そうだろうか?」
「そうそう」
この調子で因数分解の問題を鶫さんから幾つか出されて解いていった。途中で±や数字の計算を間違えたり、4つ記号が使われていて若干混乱した所もあったが、大方は出来た。
「ふむ…少し凡ミスは目立つが…この部分だけでもカバーできるくらいには…では先ほどの体たらくは何だったのだ…?」
「ははは…さっきも言ったけど、鶫さんが教えるの上手いからだって」
「…貴様…三角比の公式はどこまで覚えている?」
「えーと…cosが…あれ?」
「必要条件と十分条件は?」
「何が違うんだっけ?」
「確率は?」
「なんかこう…何だっけ?」
「集合は?」
「何それ?」
「では─」
─こういった感じに色々と質問されていった。殆ど、いや、全く覚えていなかった。いやはや僕の記憶力はなかなかのもんである。ヤバい方向で。悪い意味で。
「─貴様が何故出来ないのか分かったぞ」
「というのは?」
「基礎的な問題から出来ないのではなく、もっと前の根本的な…公式を一切覚えていないだろう貴様」
「おおー…確かに」
「『確かに』ではないわ!もっと危機感を持て!それでも高校生か貴様!テスト範囲の公式を纏めてやるからそれを死ぬ気で覚えろ、話はそれからだ!」
「は…はい」
…何だか分からないが急に鶫さんが怒り出したぞ。
僕は鶫さんがノートに猛スピードで書いてくれた公式達を見た。結構多いな…。というか、この量をとっくに覚えているってことだよなぁ。桐崎さんの事もありながら…。普通に凄いなぁ…。
「全く…」
隣の席でそう呟いた鶫さんをチラリと横目で見ると、頬杖を付いていた。ほんの少しだけ疲れている様子で、まぁ僕のせいかと思ったが、よく見たら目元に薄く隈ができていた。
「あれ?鶫さん寝不足?」
「む?」
「いや…隈がちょっと」
「ああ…先日、アメリカ時代の、言うなれば友人が日本に来てな…」
「まさか喧嘩とか?」
「そういう訳ではない。いや、そういう側面が全く無いとは言えないが…ただ…その…」
「その?」
鶫さんは視線を逸らして何かを言い淀んだ。それが気になって、僕は聞き返した。
「…貴様には関係ない。何も、一切、微塵もだっ…!そんなことより、さっさと覚えてしまえ。そちらが先決だろう」
「…? は、はい…」
鶫さんへの話題はこれで終わって、数学の勉強を進めていった。
※
その後、数学テストの答案が返却された。
まず話題に上がったのは橘さんだった。彼女の結果は38点。惜しくも追試だったようだ。だが、その結果に橘さんは強かな笑顔を湛えて、また一条に勉強を教えてもらうように言っていた。
「そういえば佐藤くん何点だった?私たちと一緒に勉強してたけど…」
小野寺さんが僕のテスト結果を訊いてきた。
「93点」
「へ?」
「え…佐藤くんって、鶫さんに公式とか基礎問題を教えて貰ってただけよね…?」
僕のテスト結果を小耳に挟んだ宮本さんがこっちに寄ってきた。
「そうよね鶫さん…」
「は、はい…それ以上は何もしなかった筈ですが…?」
「あ、あれだろ?悠也、お前帰った後も徹夜で勉強したんだろ…?な…?だってそうじゃなきゃ普通に俺、お前に負けてることに…」
後ろから肩を組んで、震え声で一条が現れる。何でそんな青ざめた顔をしとるんだお前は。全体的な成績でいったら天と地の差があるくらい、お前の方が優等生だろうが。
「いや全然。普通に鶫さんの教え方が良かっただけだって。公式を覚えてから、そんでそれを使って基礎問題に慣れて…いやー、できるまで帰さんとか言われた時は肝冷やしたわ」
「お、応用問題もあったんだけど…」
「基礎を応用してるだけだろ?てか、僕もちょっと間違ってるし、まだ完全には出来ないっての」
「え…えぇ…」
一条がドン引きしている。どうしたんだよ一応友達だろうが。何で距離置いてくの?ねぇ?ちょっと?
「あまり気にしていなかったが、他の教科の成績の内訳はどうなっている?」
鶫さんも鶫さんで顔を引き攣らせて話しかけてきた。どうしたってんだ一体。
しかし内訳か。どうだったかな。結構ヤバかったな。
「確か…現国96点、古文77点、歴史43点、地理53点、理科41点、とかだったかな。いやー思ったより地理が何とかなったかなーなんて…あれ?」
周りにいた皆んなが一斉に僕の元から離れていく。
「…何?どうしたの?何が変なの?」
「いや…別に…」
何?何なの?
※
この時、話を聞いていた人間は、細かな差異はあれど一様にこう思ったという。
「─なんだこいつ…」
と─。
以上、毒にも薬にもならん、希釈された味の薄いカルピスみたいな回でした。思いついたからしょうがないね(言い訳)
この話をやる時に高校一年の数学範囲を調べたのはここだけの話。頭が痛かった。
時系列としてはポーラが一度日本に来て、何やかんや鶫誠士郎と一条楽との間に何かあった後。まぁ、原作7巻の順番通りですな。でも原作とはちょっと違うかもしれない。そこらはご想像にお任せします。
次回はまた思いついたらです。てか次で10話ですね。もう二桁かぁ。