吐瀉物に愛を込めて   作:マウスブン

3 / 9
ご招待

二〇一七年、東京。かつて盤星教と呼ばれた団体の拠点は、いまや夏油一派のアジト兼店舗として機能していた。祭壇の奥から漂うのは、線香の香りではなく、どこか薬膳料理のような、あるいは焦げたハーブのような独特の芳香だった。

 

「ほら、ご挨拶なさい。夏油様よ」

「……どうも」

 

母親に背中を押され、不承不承といった様子で頭を下げたのは、女子高生だった。制服の着こなしはラフで、その瞳には大人への不信感が露骨に滲んでいる。彼女は母親の耳元で「帰ろうよ、どうせ詐欺だって」と毒づくのを隠そうともしなかった。

 

夏油傑は、法衣の袖を整えながら、穏やかな営業スマイルを向けた。

「ようこそ。……ふむ、なるほど」

彼は少女を一瞥しただけで、その背後にへばりつく低級呪霊――人間の澱が凝り固まった、ヘドロのような存在――を視認した。

 

「あんた、何ニヤニヤしてんの? キモいんだけど」

「こら! すみません夏油様、この子ったら反抗期で……」

「構いませんよ。疑うのは知性のある証拠だ。だがねお嬢さん、最近眠りが浅くないかい? 特に午前二時頃、金縛りにあったような重みで目が覚める。右肩だけが異常に凝る。違うかな?」

 

少女の表情が凍りついた。図星だったのだ。

「……なんで、それを」

「顔色を見れば分かるさ。体内に毒素が溜まっている証拠だ」

夏油はすっと立ち上がり、少女の背後に回ると、トンと肩を叩いた。その瞬間、少女の体からドス黒い靄が引き剥がされる。夏油の手の中には、蠢く小さな球体が握られていた。一般人には見えないその「食材」を、彼は慣れた手つきで懐から取り出した小瓶の液体――特製の酵素シロップ――と共に、手元のシェイカーへと放り込んだ。

 

シャカ、シャカ、シャカ。

 

静寂な広間に、バーテンダーのような軽快な音が響く。親子はポカンと口を開けてその様子を見守っていた。

「はい、お待ちどうさま」

差し出されたのは、ショットグラスに注がれた深緑色の液体だった。表面には不気味な泡が立ち、鼻を突くような生臭さを、強烈なミントの香りで強引に蓋をしている。

 

「……なにこれ」

「私の特製デトックスドリンクだ。少し苦いが、今の君の症状にはこれが一番効く」

「え、飲むの? 無理無理、絶対ヤバいやつじゃん」

「飲みなさい! 夏油様のご厚意よ!」

 

母親の剣幕と、夏油の静かな威圧感に押され、少女は意を決してグラスを呷った。 ゴクリ。喉を通る異物感。雑巾の絞り汁に大量のハッカ油を混ぜたような冒涜的な味が、口いっぱいに広がる。

 

「んぐっ……!? うぇ、まっず……!」

少女は涙目になりながら口元を押さえた。だが、その直後だった。

「……あれ?」

今まで肩に乗っていた鉛のような重みが、嘘のように消えていた。視界がクリアになり、体の中から力が湧いてくるような感覚。呪霊が祓われたことによる身体的解放感だった。

 

「すごい……ホントに肩、軽くなった」

「だろう? 毒を以て毒を制す。体内の循環が正常に戻ったんだ」

夏油は満足げに頷いた。この数年で、彼のレシピは進化していた。非術師(サル)の体でも耐えられるよう、呪霊を液状化し、中和剤と混ぜ合わせることで「ギリギリ飲める健康食品」へと加工する技術。

 

「どうだい? 味はともかく、効果は保証するよ」

「う、うん……まあ、スッキリはしたけど……」

少女は複雑な顔をした。体調は劇的に良くなった。けれど、口の中に残る後味が、生理的な拒絶を訴え続けている。

 

「良かったわねぇ! ありがとうございます夏油様!」

「いえいえ。また身体が重くなったら、いつでもいらっしゃい。次はもっと飲みやすい『ベリー風味』も試作中だからね」

 

夏油がにこやかに手を振ると、親子は顔を見合わせた。

「あ、ありがとうございます……また、そのうち……」

「し、失礼します……」

 

二人は逃げるように、しかし礼儀正しく頭を下げて去っていった。その背中は「もう二度と飲みたくない」という恐怖と、「でも効いたのは事実だし……」という葛藤の間で揺れ動いているようだった。

 

扉が閉まる。夏油は残されたグラスを手に取り、ふっと笑った。

「やれやれ。やはり一般人の舌には、まだこの深みは早かったかな」

彼は自分用にキープしておいた特級呪霊の干物を齧りながら、次の予約客の名簿に目を落とした。世界を変えるための地道な啓蒙活動(テイスティング)は、今日も続いていく。

 

 

 

 

日の最後の「患者」を見送ると、夏油傑はこわばった肩を回しながら、店舗の裏手にある居住区画――通称「厨房」へと足を向けた。重厚な扉を開けた瞬間、熱気とともに、スパイスと呪力が混濁した濃厚な香りが鼻腔を打った。

 

そこはかつて講堂だった広い空間を改装した、巨大な調理場だった。

 

「オー、夏油。遅いじゃないカ。こっちの仕込みはもう限界ダヨ」

 

鍋の前で巨大な中華鍋を振るっていたのは、ミゲルだった。アフリカ由来の呪具である縄ではなく、今はその手に業務用のお玉を握りしめ、真っ白なコックコートと高いコック帽を身につけている。その姿は一流ホテルのシェフさながらだが、鍋の中で煮えたぎっているのは、高級牛肉と乱切りにされた低級呪霊の混合シチューだ。

 

「すまないね、ミゲル。今日の客は少し手強くてね。味見に時間がかかった」

「コノ『蠅頭』の佃煮、下処理が面倒くさいヨ。足を取るだけで一日終わル」

「だが、その食感がアクセントになるんだ。ラルゥ、そっちの火加減はどうだい?」

 

夏油が視線を向けると、ハート柄のエプロンを着けたラルゥが、オーブンから天板を取り出しているところだった。

「バッチリよぉ傑ちゃん。特級仮想怨霊のパイ包み焼き、こんがり焼き上がったわ」

「美々子と菜々子は?」

「あの子たちはデザート担当。クレープの皮に呪力の残穢を練り込んでる」

 

夏油は満足げに頷き、部屋の奥に鎮座する業務用のプレハブ冷蔵庫へと歩み寄った。鈍い金属音と共に重い扉を開く。中から溢れ出した冷気が、彼の黒い袈裟を揺らした。

 

そこには壮観な光景が広がっていた。 棚という棚に、美しくパッキングされた「料理」が隙間なく並んでいる。呪霊ハンバーグ、呪胎のテリーヌ、怨念と香味野菜のマリネ。タッパーや真空パックには『2017年産・2級・激辛』『特級・濃厚・要加熱』といったラベルが几帳面に貼られていた。この数年、彼ら「家族」が一丸となって狩り集め、研究し、調理し続けてきた血と汗の結晶。何千、何万食という分量が、今か今かと解き放たれる時を待っていた。

 

「……素晴らしい」

夏油は震える手で、その冷たいパックの一つに触れた。

「これだけの量があれば、足りるだろう。腹を空かせた彼らを満たすには」

 

彼は振り返り、調理の手を止めて彼を見つめる家族たち――ミゲル、ラルゥ、美々子、菜々子、そして他の幹部たちを見渡した。彼らの瞳には、夏油への信頼と、これから始まる「祭り」への高揚感が宿っている。

 

「時は来たよ、私の家族たち」

 

夏油は厳かに宣言した。それは宣戦布告であり、同時に開店の合図でもあった。

 

「これより我々は、呪術界の要――東京都立呪術高等専門学校ら相手に、盛大なパーティを開催する」

 

彼は不敵な笑みを浮かべ、冷蔵庫の扉を閉じた。

「お偉い上層部の老人たちも、若い学生たちも、招待状で歓迎しようじゃないか。彼らの凝り固まった常識(した)を、私たちの『料理』で唸らせてやるんだ。……さあ、百鬼夜行(フルコース)の準備を始めようか」

 

二〇一七年十二月二十四日。 後に伝説となる、史上最悪にして史上最も理解不能なテロリズムが、幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

冬の寒空の下、東京都立呪術高等専門学校の学長室には、重苦しい空気が漂っていた。夜蛾正道は手元の人形に針を通しながら、低い声で問いかけた。

 

「悟。傑の様子はどうだ」

「……どう、とは?」

「高専を追われ、宗教団体を乗っ取ってから十年。奴も少しは大人しくなったのではないかと言っているんだ。最近は呪術師としての資格も一時的に戻され、積極的に呪霊を狩っているという報告も上がっている。あの頃の過激な思想も、少しは鳴りを潜めたのではないか」

 

夜蛾の言葉には、かつての教え子に対する、父親のような僅かな期待が滲んでいた。しかしソファで足を組んでいた五条悟は、その期待を無惨にも切り捨てた。

 

「学長。残念ながら、それはあり得ないっすね」

五条は目隠し越しにも分かるほど、冷ややかな表情を浮かべていた。

「僕も先日、遠目で傑を見かけましたよ。あいつ、廃ビルの陰で呪霊を祓ってたんですがね……『狩る』なんて雰囲気じゃなかった。まるで特売日のスーパーで野菜を選ぶ主婦みたいな顔で、『おや、これは脂が乗ってるな』とかブツブツ言いながら、嬉々として呪霊をパッキングしてましたよ」

「……パッキング、だと?」

「ええ。ジップロックに。それも業務用のデカいやつに」

 

夜蛾の手が止まった。理解が追いつかない。

「……奴は、まだあの『研究』を続けているのか」

「悪化してますよ。昔は『耐えて』飲み込んでたが、今は『楽しんで』仕込んでる。方向性が変わっただけで、狂ってる度合いはマシマシです」

 

その時だった。夜蛾が顔を上げ、窓の外を鋭く睨んだ。

「……来たか」

高専の結界が、異質な、しかし懐かしくもある強大な呪力の侵入を告げていた。

「悟! 校内の準一級以上の呪術師を正門に集めろ! 傑だ!」

 

警報が鳴り響く中、高専の正門前には緊張が走っていた。パンダ、狗巻棘、禪院真希、そして乙骨憂太。一年の生徒たちが身構える中、空から巨大な影が舞い降りた。 それは、翼を広げた巨大なペリカンのような呪霊だった。だが、その大きく膨らんだ喉袋からは、魚ではなく、密封されたタッパーやクーラーボックスが異様なほど詰め込まれているのが透けて見えた。

 

「よっと」

鳥の背から軽やかに降り立ったのは、袈裟に身を包んだ長髪の男。夏油傑。その背後には、白いコックコートを着崩した外国人の男や、エプロン姿の少女たちが従っていた。

「な、何なんだ、あの人たちは……」

乙骨が困惑して呟く。敵意というよりは、何か得体の知れない「圧」に気圧されていた。夏油は生徒たちの警戒心など意に介さず、真っ直ぐに乙骨へと歩み寄った。

 

「君が乙骨憂太君だね」

「え……あ、はい」

夏油はすんなりと乙骨の懐に入り込むと、その右手を両手で包み込むように握手をした。

「初めまして。夏油傑だ。素晴らしいね、君のそのリカちゃん……実に芳醇だ。熟成された極上の『スープ』が取れそうだ」

「は……?」

乙骨が呆気にとられていると、夏油は馴れ馴れしく彼の肩に腕を回し、耳元で囁いた。

 

「どうだい、乙骨君。私と一緒に世界を変えてみないか? この世に溢れる呪いという名の食材を、美味しく調理して、皆の胃袋に収めるんだ。君の力があれば、きっと世界中の飢餓を救う『恒久的な炊き出し』が可能になる。アフリカの一部地域だが実証済みなんだ。」

「えっと……あの……」

乙骨は助けを求めるように仲間を見た。真希やパンダも、武器を構えたままドン引きしている。

「何言ってんだこいつ」

「ヤバい奴って聞いてたけど、ベクトルが違うぞ」という心の声が聞こえてきそうだった。

 

「その子たちから離れろ、傑」

 

鋭い声と共に空間が歪む。五条悟が二人の間に割って入った。

「やあ、悟。久しぶりだね」

夏油は悪びれる様子もなく、爽やかな笑みを親友に向けた。

「元気そうで何よりだ。どうだい? 先日お歳暮で送った『二級呪霊の燻製・山椒風味』は。食べてくれたかい?」

「食うわけねぇだろ。即行で焼却炉に放り込んだわ」

五条は露骨に顔をしかめた。

「箱を開けた瞬間、異臭騒ぎで家がパニックになったんだぞ」

「おやおや、食わず嫌いは良くないなぁ。あれは噛めば噛むほど味が出る、自信作だったんだが」

「そういう問題じゃねぇよ。……で? わざわざ食材搬送用の鳥まで出して、どういうつもりでここに来た」

 

五条の低い問いかけに、夏油はパッと両手を広げた。まるで新作メニューの発表を行うシェフのように。

「パーティのお誘いさ」

「パーティ?」

「そうだ。お集まりの皆々様、よく聞いてくれたまえ」

 

夏油の声が、朗々と響き渡る。

「来たる十二月二十四日! 日没と同時に、我々は『ホーリー・ビュッフェ・ナイト』を開催する!」

「……は?」

真希が思わず声を漏らした。

 

「場所は呪いの坩堝・東京新宿。我々一派が総力を挙げて集めた『千の食材(呪霊)』を用意する。下処理は完璧、味付けも一流だ。思う存分、皆で腹いっぱい食べようじゃないか!」

夏油の瞳は、狂気的なまでの純粋な善意で輝いていた。

「地獄のようなこの世界を、美味しい楽園に変える。それが私の『大義』だ」(※夏油の主観によるものです。)

 

静寂。 あまりの突拍子のなさに、誰も動けない。ただ一人、五条だけが呆れ果てたように吐き捨てた。

「……食うわけねぇだろうが。全員が腹壊して終わりだ」

「安心して欲しい、悟。呪術師なら耐性がある。いくら食べても大丈夫だと、私の身体で実証済みだ」

夏油は自身の引き締まった腹をポンと叩いた。

「栄養価も高い。呪力も身体能力も一時的に得られるよ」

「お前……マジで言ってるのか……?」

五条は若干引きながら、拳を握りしめた。

「このまま行かせるとでも思ってるのか? ここでお前を捕らえて、そのふざけたクーラーボックスごと没収してもいいんだぞ」

 

一触即発の空気。しかし夏油は余裕の笑みを崩さない。

「やめとけよ、悟。今日ここで、そのビュッフェパーティーを開きたいのかい?高専だと溢れかえるよ」

夏油は背後の鳥の喉袋を指差した。

「それにここには『調理前』の新鮮な食材も大量に入っている。もし君がここで暴れれば、この袋が破れて……活きのいい呪霊たちが、この学舎に溢れかえることになる。衛生管理上、あまりよろしくないんじゃないかな?」

 

それは明確な脅しだった。ここで戦闘になれば、生徒たちを巻き込んでの乱戦になる。しかも「生」の呪霊をばら撒かれるという最悪のオプション付きで。

「……チッ」

五条が舌打ちをして構えを解くのを見て、夏油は満足げに頷いた。

 

「賢明な判断だ。では、現地で会おう。最高のコース料理を用意して待っているよ」

夏油は再び鳥の背に飛び乗った。

「行こう、家族たち。仕込みの続きだ」

「ウィー。忙しくなるネ」

ミゲルが肩をすくめ、一団は空へと舞い上がった。

 

「十二月二十四日。皆様の『ご来店』を、心よりお待ちしている!」

 

去り際、夏油が投げたウインクに、乙骨は寒気を覚えて身震いした。

「……五条先生」

「なんだ、憂太」

「あの人……本当に料理人のつもりなんですか?」

「……残念ながらね。でも安心していいよ。あいつの料理よりは、コンビニ弁当の方が一億倍マシだから」

 

遠ざかる鳥の影を見上げながら、五条は深くため息をついた。 かつて共に最強だった親友は、最強に厄介な料理長となって、クリスマスの夜をカオスに陥れようとしていた。

 

 

 

 

高専の大会議室には、重苦しい沈黙と、胃薬のような苦い緊張感が漂っていた。ホワイトボードには新宿の地図が貼られているが、そこには「ビュッフェ会場A」「デザートコーナー」といったふざけた書き込みが、伊地知の震える手によってなされていた。

 

「……報告します」

伊地知が、ハンカチで額の脂汗を拭いながら口を開いた。

「夏油一派の動向ですが、以前より彼らが『食材』と呼んで貯蔵していた呪霊の総数……私の試算では、宣言通り二千体もハッタリではありません。各地の冷蔵倉庫、および冷凍コンテナのチャーター履歴からも、それだけの『在庫』が確保されていることは確実です」

 

「二千の料理、か……」

学長の夜蛾は苦虫を噛み潰したような顔で腕を組んだ。

「だとしても、統計的にその殆どは二級以下の雑魚(ジャンクフード)だ。特級などのメインディッシュは数えるほどだろう。対する術師(シェフ)の数も、向こうは精々数十人。戦力差は歴然としている」

 

夜蛾は出席している術師たちを見回し、卓をドンと叩いた。

「いいか、我々はあくまで『食事の拒否』だ。新宿まで出向いて、奴らの振る舞う呪霊を食べてやる義理はない。こちらの力を見せつけてやる必要がある」

 

「んー、でもさあ」

パイプ椅子に浅く腰掛けた五条悟が、口元の飴を転がしながら言った。

「そこが逆に怖いよね。傑は馬鹿じゃない。自分たちが圧倒的に不利な状況で、素直に負け戦を仕掛けるとは思えないんだよ」

五条はサングラスを少しずらし、青い瞳を細めた。

「あの二千体、ただの数合わせじゃないかもよ? 例えば、めちゃくちゃ凝縮された『特濃ソース』になってるとか、食べた瞬間に強制的に術式が付与される『ビックリ箱』とかさ。……あいつ、僕たちに無理やり食わせるための『秘策』を用意してるはずだ」

 

五条の言葉に、会議室の空気が一層凍りついた。「無理やり食わせる」という単語の響きが、死の恐怖よりも生々しく術師たちの胃を締め上げたからだ。

 

「……上等だ」

夜蛾が立ち上がった。その背中には、教育者としての怒りと、一人の人間としての切実な拒絶感が漂っていた。

「総力戦だ。OB、OG、それに御三家、アイヌの呪術師連盟にも協力を要請しろ。使える手駒は全て使う」

 

夜蛾は拳を握りしめ、低い声で宣言した。

「絶対に食わん。今度こそ夏油という馬鹿の目を覚まさせる。……これ以上、あいつの悪趣味な創作料理で犠牲者を出すわけにはいかん!」

 

「「「了解!!」」」

 

伊地知たちが慌ただしく連絡に走る中、夜蛾は再び腕を組み、深刻な顔で思考を巡らせていた。表向きは総力戦による完全封鎖。だがその内実はもっと個人的で、切実な計算に基づいていた。

 

(……仮に、万が一、食べることを回避できなかった場合だ)

夜蛾は心の中で、必死にそろばんを弾いていた。

(相手が二千体。こちらが五十人なら、一人あたり四十皿……これは致死量だ。胃が破裂する。だが、もし五百人集めれば? 一人あたり四皿。……これなら。これなら、何とか吐かずに耐えられるかもしれん……!)

 

「数を集めろ……一人でも多く……!」

「学長? 気合入ってますね」

「当たり前だ! 胃薬の準備も忘れるなよ伊地知!」

 

こうして、高専側もまた「飽食」を防ぐための背水の陣を敷くこととなった。決戦の日、クリスマスイブまで、あと僅か。




感想、高評価、お気に入り登録、入れていただいた方々ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。