吐瀉物に愛を込めて   作:マウスブン

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フルコース

ビュッフェ会場と化した新宿の路上は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 

「ぐ、あぁ……! 攻撃が、通らな……」

「ひぃッ! 化け物……!」

 

高専から派遣された数名の呪術師たちが、次々と宙を舞う。彼らを薙ぎ払ったのは、丸太のように肥大化した夏油傑の腕だった。 戦闘開始から数十分。手近な料理を片っ端から胃に収め続けた夏油の肉体は、元の倍近いサイズにまで膨れ上がっていた。法衣の縫い目は悲鳴を上げ、はち切れんばかりの筋肉が、紫色の呪力の光を帯びて脈打っている。

 

「おやおや、もう満腹かい? マナーがなっていないな」

夏油は右手で呪術師を吹き飛ばしながら、左手では『二級呪霊の骨付きリブ』を豪快に齧り取った。

「んん、ジューシーだ。運動した後のタンパク質は格別だねぇ」

 

彼は咀嚼しながら、足元に転がる敗北者たちを見下ろし、指をパチンと鳴らした。

「ウェイター。お客様たちを『実験用特別試食エリア』へご案内しろ」

 

「アイアイサァ!」

「オマチドウサマァ!」

夏油の使役する低級呪霊たちが、ギャルソンの蝶ネクタイを着けて湧き出した。彼らは動けない術師たちの手足を引きずり、会場の奥――ドス黒い瘴気が漂う一角へと運んでいく。

 

「や、やめろ! 何をする!」

「アーン! 試作メニュー『ヘドロの煮凝り・激辛デスソース和え』death!」

「んぐッ!? ぉごッ……げぇぇぇぇ!!!」

 

無理やり口をこじ開けられ、未完成の「失敗作」を流し込まれる術師たち。絶叫と嗚咽、そして強制的なパワーアップによる暴走した呪力のスパークが、狂乱の宴を彩るBGMとなっていた。

 

「ふふ、良い音楽だね」

夏油は鼻歌交じりにステップを踏み、次なる獲物(料理)を物色した。

「次はどれにしようかな。パスタもいいが、そろそろ和食で締めたい気分も……」

 

その時、一人の巨体がテーブルに歩み寄った。パンダだ。

「…このままじゃ皆があのゲテモノを食わされる」

「パンダ……!」

真希が止めるのも聞かず、パンダは震える手で『呪胎の唐揚げ』を掴んだ。

「俺はパンダ(呪骸)だ。毒耐性はあるし、味覚だって人間とは違う。これくらい……!」

 

ガブッ。 パンダが思い切り料理を頬張った。一瞬の静止。そして――。

 

「ヴォェッ……!!!」

パンダが膝から崩れ落ちた。

「ま、マズい……! 古い雑巾と腐った竹をミキサーにかけて、ガソリンで揚げた味がする……!」

「大丈夫かパンダ!?」

「だ、だが……力が……湧いてきやがる……!」

パンダの身体から呪力が噴き出しパンプアップしていく。不味さと引き換えの絶対的な力。

 

その光景を見て、狗巻棘と禪院真希の顔が引きつった。

「しゃけ……」

「……ハッ、やるしかねぇってのかよ」

真希は冷や汗を流しながら、覚悟を決めた目でビュッフェ台を睨んだ。戦って負ければ、あの奥で「ヘドロ煮凝り」を食わされる。ならば、ここで比較的マシそうな「唐揚げ」を食って勝つしかない。究極の選択。

 

「棘、せーので行くぞ。……なるべく、火が通ってそうなやつを選べ」

「すじこ……!」

 

二人は震える手で、皿の上の「何か」を手に取った。 聖なる夜、学生たちは涙目で、人生最悪の食事へと挑みかかった。

 

 

 

 

「あぁ……なんて……なんて美しい光景なんだ」

 

新宿の路上、破壊されたビュッフェ会場の中心で、夏油傑は両目から大粒の涙を流していた。 彼の足元には、パンダ、狗巻、そして禪院真希が折り重なるように倒れていた。彼らは白目を剥き、口元からは泡と、消化しきれなかった呪霊の残骸を垂れ流している。だがその肉体からは確かに強力な呪力の残穢が立ち昇っていた。

 

「今、私は猛烈に感動しているよ」

 

夏油はハンカチで涙を拭い、鼻をすすった。

「見たかい? 彼らは不味いと知りながら、自ら進んで私の料理を口にした。仲間のために、勝つために、己の味覚と尊厳を犠牲にして、力を得ようとしたのだ」

 

彼は倒れている真希の、痙攣する手を愛おしそうに見つめた。

「これこそが、私が望んだ世界だ。術師が術師を守るために、呪いを糧とし、慈しみ、敬い合う循環。それが今、私の目の前で完成したんだ」

 

「……みんな、ッ!!」

 

遅れて駆けつけた乙骨憂太が、その惨状を目にして絶句した。 仲間たちが倒れている。その口の周りには、禍々しい紫色のソースや、得体の知れない生物の触手がへばりついている。殴られた傷よりも、精神的なダメージの方が深刻そうに見えた。

 

「夏油……! よくもみんなを……こんな目に……!」

「誤解しないでくれたまえ、乙骨君。彼らは被害者ではない。未来のための尊い先駆者(パイオニア)だ」

夏油は諭すように言った。

「最初は誰だって抵抗がある。だがいずれ慣れるさ。この深い味わいも、喉を通る時の絶望感も、全ては力になると思えば愛おしくなる」

 

そして夏油は、ふと思い出したように乙骨の背後に浮かぶ影――特級過呪怨霊・折本里香を見上げた。

「そうだ、乙骨君。一つ提案があるんだが」

「……なんだ」

「その里香ちゃんのことだ。全身とは言わない。尻尾の先だけでも、定期的に切断して高専から送ってくれないか? クール便の着払いで構わない」

 

夏油は真剣な眼差しで、商談でも持ちかけるように続けた。

「やはり特級の味は格別でね。特に怨念の詰まった部位は、フォアグラのように濃厚で舌の上でとろけるんだ。君たちにとっても、定期的な剪定(トリミング)は呪力の暴走を防ぐのに役立つはずだ。Win-Winだろう?」

 

プツン。 乙骨の中で、何かが完全に断ち切れる音がした。

 

「……なんだよ。お前はただの……」

乙骨は刀を抜き放ち、憎悪と殺意を込めて叫んだ。

 

「ただの食いしん坊じゃないか!!!!!! 来い、里香!!!!」

 

『ユ゛ウ゛タ゛ァァァァ!!!』

 

顕現するリカ。圧倒的な質量と殺気。 だがそれを見上げる夏油傑の反応は、恐怖ではなかった。 彼の喉がゴクリと鳴り、口の端からダラダラと大量の涎が溢れ出したのだ。

 

「あぁ、素晴らしい……。なんて美味そうなオーラだ……」

夏油はナイフとフォークのように両手を構え、恍惚の表情で舌なめずりをした。

「メインディッシュのお出ましだね。」

 

 

 

「行っておいで。私の『踊り食い用(オードブル)』たち」

 

夏油傑が指揮棒のように指を振ると、調理済みの自立型呪霊たちが一斉に襲いかかった。こんがりと焼かれた足を持つ多脚呪霊や、甘辛いソースに塗れた飛行呪霊たちが、湯気を立てながら殺到する。

 

「里香、みんなを運んで!」

『ユ゛ウ゛タ゛……!』

 

乙骨憂太は刀を振るい、襲い来る呪霊を切り裂く――のではなく、その身に噛み付いた。 ガブリ。グチャリ。 生温かい肉感と、口内で爆ぜる冒涜的なスパイスの味。乙骨は眉一つ動かさずそれを咀嚼し、飲み込むと、湧き上がる呪力で真希たちを瓦礫の影へと放り投げた。

 

一方で里香は苦戦していた。戦闘力ではない。味だ。 彼女は巨大な手で『呪胎のテリーヌ』を鷲掴みにし、口に放り込んだものの、あまりの不快感に「オ゛ェッ……」とえずき、吐き出そうとしたのだ。

 

「何をしている、里香ッ!!」

 

乙骨の鋭い怒号が飛んだ。

「吐き出すな! それはこの場の全てを支配するための『力』だ! 味わうな、喉で押し込め! もっと、もっと食べるんだ!!」

 

普段の温厚な乙骨からは想像もできない、狂気を帯びた命令。里香は涙目で首を横に振ろうとしたが、乙骨の真剣な眼差しを見て、震え上がった。

 

『ごめ、なさい……ごめんなさい、ゆうた……! きらわないで……!』

「怒ってないよ。だから食べるんだ。僕たちのために」

 

里香は泣きながら、目の前のドロドロした呪霊料理を両手で掬い、猛烈な勢いで口に詰め込み始めた。

『たべる……たべるぅぅ……!!』

 

「そうだ、いい子だ里香」

乙骨自身もまた、手近に飛んできた昆虫型の呪霊――見た目は巨大なゴキブリの素揚げそのもの――を迷わず鷲掴みにし、頭からバリバリと喰らいついた。

「……んぐ。不味い。でも、力が漲る」

彼の瞳は決まっていた。仲間のためなら、泥水でも、汚物でも、ゴキブリでも啜ってみせるという、底知れぬ覚悟と狂気。

 

その光景を見て、夏油傑はハンカチを目元に押し当てていた。

「うっ、ぐすっ……。素晴らしい……なんて美しい愛の形なんだ……」

 

夏油は嗚咽を漏らしながら、感動に打ち震えた。

「初めての呪霊料理だというのに、あれほどの量を、躊躇いなく……! 偏食を克服し、愛する人のために箸を進めるその姿! これこそ食育! 私が夢見た食卓がここにある!」

 

感動する主催者をよそに、乙骨と里香は、口元をドス黒いソースで汚しながら並び立った。 二人の視線は冷ややかに夏油を貫いている。

 

『リカ……あいつ、きらい……』

「奇遇だね、僕もだよ」

 

乙骨は口の中の異物をゴクリと飲み込むと、吐き捨てるように、しかし強い絆を確かめ合うように言った。

「さあ、おかわりだ里香。あの自称コックを叩き潰すまで、全部平らげるよ」

 

 

 

 

ビュッフェ会場の端、デザートコーナーとして設営されていた一角の料理を全て平らげ、乙骨憂太と特級過呪怨霊・折本里香が戻ってきた。 二人の姿は、数分前とは明らかに異なっていた。乙骨の痩身からは陽炎のように濃密な呪力が立ち昇り、里香に至っては、その外殻がより堅牢に、より禍々しく肥大化している。彼らの口元は、様々な色のソースや体液で汚れ、それはまるで野獣が獲物を喰らい尽くした後のような凄惨さを帯びていた。

 

「おかえり。良い食べっぷりだったよ」

夏油傑は三節棍を肩に担ぎ、まるで成長した息子を迎える父親のように目を細めた。その足元には、無数の空になった大皿が散らばっている。

 

「……なんで攻撃をやめた」

乙骨が刀を構えながら、油断なく問う。食事中、背後から襲う隙はいくらでもあったはずだ。だが夏油は、心底不思議そうに首をかしげた。

「感動で前が見えなかったんだ。君たちが偏見を乗り越え、私の料理を糧としてくれたことが嬉しくてね。……さあ、続きを始めようか」

 

ドンッ! アスファルトが砕け、二つの影が激突した。 特級呪具と刀が火花を散らす。純粋な体術と剣技の応酬。だがその合間に行われている会話と行為は、呪術戦の常識を遥かに逸脱していた。

 

「人は食物連鎖の頂点に立つ生き物だ!」

夏油は游雲で乙骨の斬撃を弾くと、左手で宙を舞う『低級呪霊のフリッター』を掴み、自身の口へ放り込んだ。

「牛、豚、魚、虫。あらゆる命を食材として加工し、糧としてきた。だというのに、なぜ呪霊だけ『調理』しない? 目の前に無尽蔵のエネルギー資源(ごちそう)があるのに、それをただ祓って消滅させるなんて、おかしいと思わないかい!?」

 

「思うわけないだろッ!!」

乙骨は絶叫し、渾身の突きを放つ。だがその直後、減った呪力を補うように、足元に転がっていた『呪胎の姿焼き』を拾い上げ、ガブリと喰らいついた。

「んぐッ、あぐッ……!」

 

「ほら、食べてみたら意外といけるだろう? 結局はただの食わず嫌いなのさ」

夏油は余裕の笑みを浮かべながら、乙骨の剣戟を躱す。

「こんなもの……ッ、食べたいと思うはずないだろう!!」

「頑固だねぇ。だが舌は正直だ。君の体内の呪力回路は、既に私の料理を歓迎している」

 

乙骨は口の周りをドス黒い体液で汚しながら否定するが、その手は止まらない。戦うために、勝つために、彼は目の前の「料理」を摂取し続ける。里香もまた、主人の意思に従い、周囲の呪霊たちを片っ端から捕食していた。

 

「私が望むのは、呪霊すら支配下に置いた完全なる食物連鎖だ」

鍔迫り合いの中、至近距離で夏油が語りかける。

「今はまだ試作段階だ。味にばらつきがあるのは認める。だが……あと十年。もう十年もあれば、下処理の技術も確立し、もっと美味しくなる。品種改良も進むだろう」

 

夏油の瞳が、理想郷の輝きを帯びる。

「そうすれば、呪霊は恐怖の対象ではなくなる。スーパーの精肉コーナーに『呪霊もも肉』が並び、一般家庭の食卓で『今夜は呪霊パエリアよ』なんて会話が交わされる。……平和で、満ち足りた世界だと思わないかい?」

 

「……狂ってる」

乙骨は、最後の一口を飲み込んだ。喉を通る際の異物感、鼻を抜ける腐臭。だが最初に感じたほどの吐き気は、もうない。脳が、体が、それを「栄養」として認識し始めていた。

 

「どうだい、乙骨君。正直になりなよ」

夏油が攻撃の手を緩め、笑顔で問いかける。 乙骨は刀を握り直し、自分の中で変質していく感覚に戸惑いながらも、事実は事実として認めた。

 

「……慣れて、きた」

 

不味い。けれど食えないことはない。力になる。 その言葉を聞いた瞬間、夏油傑は、この日一番の、慈愛に満ちたニッコリとした笑顔を見せた。

「そうか。やはり君は、こちらの側の人間だ」

 

ドゴォッ!!!!

 

刹那、乙骨の拳が夏油の鳩尾に深々と突き刺さった。 ただのパンチではない。摂取した呪霊カロリーを全て打撃力に変換した、重すぎる一撃。

 

「がはっ……!?」

夏油の身体がくの字に折れ、砲弾のように吹き飛んだ。クリスマスのオーナメントで飾られた街路樹を数本へし折り、ビュッフェの長机を粉砕しながら地面を転がる。

 

「……ッ、はぁ、はぁ」

乙骨は拳を振り抜いた姿勢のまま、荒い息を吐いた。夏油の笑顔を見た瞬間、理屈ではなく感情が爆発したのだ。

 

瓦礫と料理の残骸に埋もれた夏油は、仰向けのまま空を見上げていた。口の端から血を流しているが、その表情は晴れやかだった。

「……やるじゃ、ないか」

彼はゆっくりと上半身を起こし、腹の埃を払った。

「議論の余地なし、という拳だね。私の理想(レシピ)が気に入らなかったかい?」

 

「……わかんないよ」

乙骨は俯き、震える声で絞り出した。

「高専以外の呪術師は知らないし、お前の言ってる『食卓』とか『食物連鎖』とか……お前が正しいかどうかなんて、分かりたくもない。」

 

乙骨は顔を上げた。その瞳には、迷いではなく、純粋な決意が宿っていた。

「でも! 僕がみんなの友達でいるために! 友達の苦しみを分からせるために! 僕が、僕を生きていていいって思えるように! こんな狂ったビュッフェは終わらせる! それだけだ!」

 

夏油は眩しそうに目を細めた。

「自己中心的だね」

彼はよろりと立ち上がり、法衣の乱れを直した。

「だが自己肯定か。生きていくうえでこれ以上に大事なこともないだろう。……君のそのエゴ、嫌いじゃないよ」

 

夏油の纏う空気が変わった。 先ほどまでの「料理長」としての余裕が消え、一人の「呪術師」としての凄絶な殺気が膨れ上がる。

「ならばこちらも、全霊をもって君を倒そう。もう質も量も妥協しない。私のフルコースを味わってもらう」

 

夏油が印を結ぶと、彼の中で異変が起きた。 食事によって数倍に肥大化していた肉体が、急激に圧縮されていく。

「今まで食べた数千の呪霊……その全てのカロリー、全ての呪い、全ての旨味を一つに凝縮する」

 

彼の体は元のスマートな人型に戻ったが、その掌には、周囲の空間すら歪めるほどの超高密度のエネルギー体が生成されていた。 「呪霊操術・極ノ番」 黒い球体が渦を巻く。それは通常の『うずまき』ではない。無数の呪霊たちが溶け合い、混ざり合い、煮詰まり、漆黒の輝きを放つ、究極の一。

 

『フルコース』

 

特級呪霊も雑魚呪霊も全部ごちゃまぜだ。一口舐めれば即死級の濃厚さを誇る、呪いの塊。 夏油はそれを掲げ、勝負に出た。

 

対する乙骨も、刀を構え直す。

「里香」

『なぁに、ユウタ』

「僕の全部、未来も心も身体も……全部里香にあげる」

乙骨は愛する異形の怪物に、優しく語りかけた。

「これからはずっと一緒だ。愛しているよ、里香」

 

その言葉は、呪いにおける最強の縛り。 里香の瞳孔が開いた。歓喜が爆発する。

『ユウタ……ユウタぁ!! 大好きだよぉぉぉ!!!』

里香のリミッターが外れた。彼女自身もまた、先ほどの食事で莫大なエネルギーを蓄えている。それが乙骨の命という生贄を得て、青白い閃光となって解き放たれる。

 

夏油はその光景を見て呆れたように、しかしどこか楽しげに笑った。

「そう来るか。……女たらしめ」

 

「失礼だな」

乙骨は刀に里香の全呪力を込め、夏油を見据えた。

「純愛だよ」

 

「ならば」

夏油は黒い球体を構え、吼えた。

「こちらは大義だ!!!」

 

放たれる『フルコース』。 迎え撃つ純愛の砲撃。

 

二つの強大な力が真正面から衝突した。 瞬間、音すら置き去りにする衝撃が新宿を飲み込んだ。光と闇が混ざり合い、暴風となって吹き荒れる。ビュッフェの屋台も、クリスマスツリーも、残された料理も、全てがそのエネルギーの奔流に飲み込まれ、蒸発していった。

 

轟音。閃光。 そして、世界が白く染まり――。

 

やがて、静寂が戻ってきた。 空を覆っていた黒い帳が、陽炎のように揺らぎ、ゆっくりと上がっていく。 新宿の夜空には、いつの間にか雪が舞い始めていた。

 

瓦礫の山となった交差点。 そこに立っている者がいるのか、あるいは倒れているのか。 ただどこからともなく漂う、焦げたような、それでいてどこか懐かしい、ごちそうの匂いだけが、戦いの終わりを告げていた。

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