新宿の街並みが、地図から消滅した。
歌姫の舞、楽巌寺の旋律、そして伊地知の結界術、止めに夏油の呪霊料理(3日分)による完全なるバックアップを受けた五条悟の『虚式・茈』。その出力は、理論値を遥かに超える200%。 新宿から四ツ谷近くまで、瓦礫の山へと変わっていた。
土煙が晴れていく中、瓦礫の中心にその男は立っていた。 両面宿儺。 だがその姿は伏黒恵のものではない。 五条の奇襲によって致命傷を負い、十種影法術まで使用不可になった宿儺は、切り札である呪具『神武解』を自身の肉体に打ち込み、強制的に受肉による変身を再開させたのだ。
右顔面が仮面のように肥大化し、四つの眼が琥珀色の光を放つ。 巨躯からは四本の腕が生え、口は腹部にも裂けている。 平安の世において、術師を震え上がらせた「呪いの王」の真の姿がそこにあった。
「……ふん。小癪な真似を」
宿儺が煤を払うように腕を振るう。 対する五条悟は瓦礫の山の上で膝をつき、大きく肩を上下させていた。 彼は先ほどの『茈』を放つ直前、三日間詰め込み続けた呪霊料理のエネルギーを全て使い切り、さらに胃の中に残っていた未消化の固形物を全て吐き出していた。
「おえぇ……っ、はぁ、はぁ……」
口元を拭い五条が立ち上がる。 顔色は悪いが、その表情はどこか晴れやかだった。 胃袋という枷がなくなり、体が羽のように軽い。
「あー……スッキリした。これで心置きなく暴れられる」
「ほう。汚物を撒き散らしての開戦か。品のない男だ」
「うるせぇよ。こちとら地獄のフルコースを完食してきたんだ。テメェごときに負ける気がしねぇよ」
最強同士の、第二ラウンドが始まった。
その光景を少し離れたビルの屋上から、冥冥の操るカラスのモニター越しに見つめる男がいた。 夏油傑である。
「……悟の呪力出力、やはり落ち始めているね」
吐き出したため、三日間の「貯金」は初撃の200%紫で大方使い果たしている。 ここから先は、自身の呪力回復と消費のイタチごっこだ。相手は呪力総量が五条の倍以上ある宿儺。長期戦になればジリ貧になる。
夏油は立ち上がった。手には、重箱のような大きな風呂敷包みを持っている。 中身は彼が丹精込めて調理・調伏した、選りすぐりの特級・一級呪霊たちだ。
「行くのかい?」 家入が壁にもたれながら問う。
「ああ。今の悟には『燃料』が必要だ。それに親友が戦っているのに、引きこもっているわけにはいかないだろう?」
夏油は爽やかに笑うと、呪霊『虹龍』を召喚し、戦場へと飛び出した。
「待っていろ悟。今、おやつ(呪霊)を届けるよ!」
戦場は人知を超えた領域に達していた。 五条の『無下限呪術』と、宿儺の『解』『捌』が激突するたびに、ビルが豆腐のように切り裂かれ、衝撃波が嵐となって吹き荒れる。
「赫!」
「甘い」
五条の放つ衝撃を、宿儺は四本の腕で見事にいなし、即座に反撃に転じる。 体術において、腕が四本あるアドバンテージは計り知れない。五条の術式を二本の腕と呪力でこじ開け、残りの二本で殴打する。
「ぐっ……!」
五条が吹き飛ばされた瞬間、空から巨大な影が降ってきた。
『ギャアアアアアア!!』
夏油が放った特級仮想怨霊(チョコ風味)だ。宿儺の死角から襲いかかる。 だが宿儺は振り返りもせず、指先を軽く振るった。
「雑魚が」
シュンッ。 一瞬で呪霊がサイコロステーキ状に解体され、霧散する。 そこへ夏油本人が着地した。
「傑!?」
「遅くなってすまない、悟! サポートするよ!」
本来なら2人以外参加不可能な頂上決戦。だが夏油は呪霊料理によるバフと、五条との1+1=200となる友情パワーが、この戦いへ参加可能とした。夏油は流れるような動作で、風呂敷からテニスボール大の物体を取り出した。 それは苦悶の表情を浮かべた呪霊の顔がそのまま凝縮された、見るも無惨な肉団子だった。
「悟! 新しい顔(おかわり)よ!!」
夏油が豪速球でそれを投げる。 あまりにもグロテスクな光景。
「ああ、もう!!」
五条は叫びながらも、宿儺の追撃を避けるついでにそれを口でキャッチした。 ガリッ、ブチュッ。 口の中に広がる、腐った雑巾と生乾きの靴下を煮詰めたような味。
「んぐッ……!!」
だが効果は絶大だった。 不快感と共に湧き上がる爆発的な呪力が、五条の枯渇しかけたタンクを潤す。 五条の呪力にキレが戻った。
「オラァッ!!」
「チッ……小賢しい真似を」
宿儺は舌打ちした。 五条単体でも面倒極まりないのに、横から「給油」をしてくる夏油の存在が鬱陶しい。しかも夏油は、宿儺が五条を攻めようとすると、絶妙なタイミングで別の呪霊を嗾けて視線を逸らさせる。 一撃で壊される前提の捨て駒戦法。だがその一瞬が五条の回復時間を稼ぐ。
「……五条悟を殺すには、まずあの呪霊使いを始末すべきか」
宿儺の思考が切り替わる。 その殺気を感じ取ったのか、夏油は不敵に笑い、次なる一手を用意した。
「悟、次だ! これで決めろ!」
夏油が取り出したのは、これまでとは色の違う、どす黒い紫色の塊だった。 表面には血管のような筋が浮き出ており、微かに脈打っている。 それは以前の試食会で五条が「これだけは死んでも食いたくない」「味が概念として間違っている」と泣いて拒絶した特級呪物より怖い黒い塊だった。
「げぇっ!? そ、それは……!!」
五条の動きが止まる。 宿儺の斬撃が迫る中、五条の脳裏に「食うか、斬られるか」の究極の二択が過ぎる。
(あれを食うくらいなら、腕の一本くらいくれてやった方がマシじゃねぇか……!?)
その一瞬の逡巡。 それこそが、宿儺の狙っていた隙だった。
「貰うぞ」
宿儺が消えた。 五条への攻撃フェイントから、瞬動。 夏油が投げたその「料理」の軌道上に、宿儺が割り込んだのだ。
「あっ」 夏油の声。 宿儺は空中でその呪霊料理を片手で掴み取ると、ニヤリと笑った。
「貴様の回復源、俺が絶ってやる。呪霊ごとき、俺が喰らえば糧になるのは道理」
宿儺は大きな口を開け、それを一息に放り込み、咀嚼した。
グチャ、ベチャ、バリボリ……。
戦場に、異様な咀嚼音が響く。 五条は青ざめた顔でそれを見ていた。「うわ、あいつ食ったよ……」というドン引きの表情で。
ゴクン。 宿儺が飲み込んだ。 強大な呪力が宿儺の腹の底から湧き上がる。確かに、呪霊としてのエネルギーは純度が高い。回復には十分だ。
だが。
「……おぇ、不味い。何だこの刺激は…」
宿儺の四つの眼が、過去最も不味いものを食べたと底知れぬ不快感で歪んだ。 単に味が悪いのではない。この味付け、この風味。 舌に残る、スパイシーではない遥かに強い刺激と、甘ったるい後味の不協和音。 記憶にある。 虎杖悠仁の体の中にいた時、あるいは受肉のために取り込んだ「指」から感じた、あの冒涜的な味。
宿儺はゆっくりと夏油傑を指差した。
「……料理人。貴様だな」
地獄の底から響くような低い声。
「俺の指……特級呪物に、カレー粉や醤油、あまつさえチョコレートで味付けをしていた馬鹿者は」
戦場に静寂が落ちた。 そう、夏油は高専で保管されていた指や、回収した指に対し、「そのまま飲み込むのは虎杖に酷だ」という謎の配慮を発揮し、様々なマリネ液やソースに漬け込んで味変を試みていたのだ。だが宿儺の指は強度が高く破壊不可能、それ以上の調理は不可能だった。
それは宿儺にとって自身の魂への直接的な侮辱であり、テロ行為に等しかった。
「取り込んだ時、何故か『カカオの風味』がした時の俺の屈辱が分かるか? 貴様、呪いの王を駄菓子か何かと勘違いしているのではないか?」
宿儺の全身から、これまでとは桁違いのどす黒い呪力が噴出した。 五条に向けられていた殺意のベクトルが、完全に夏油へと向く。
「五条悟の次に殺してやろうと思っていたが、予定変更だ。貴様を先にバラバラにして、そのふざけた舌を引き抜いてやる」
しかし。 対する夏油傑は、宿儺の激怒を前にしても、涼しい顔で肩をすくめただけだった。
「やれやれ。これだから千年前の人間は困る」
夏油は憐れむような目で、呪いの王を見下した。
「味付けもせず、素材のままで摂取するなど野蛮極まりない。料理とは進化だ。工夫だ。愛だ」
「何……?」
「君は自分が美食家、コックのような口ぶりだが、私から言わせれば、君の指は『料理にすらなれない出来損ない』なんだよ、宿儺。煮込んでも切っても料理不可能なのだから」
更に夏油はコックコートの襟を正し、言い放った。
「そもそもコックとは多くの人のために振舞うものだ。君は大勢に料理を振舞わなかっただろうに、料理人を気取っているのかい?」
ブチッ。 宿儺のこめかみで、何かが切れる音がした。
「……ハッ、ハハハハハハ!!!」
宿儺が空を仰いで哄笑する。 その笑い声に合わせて、新宿の廃墟がガタガタと震え、地面に亀裂が走る。
「良い。実に良いぞ、料理人!!」
四つの眼がカッと見開かれ、四本の腕が印を結ぶ。 それは五条悟ではなく、夏油傑という「害悪」を消滅させるための本気の構え。
「その減らず口ごと、ミンチにしてやる。調理されるのは貴様の方だ!!」
「やれるのかい?1000年前の包丁が錆びてないと良いね」
「傑! 挑発しすぎだバカ!」
五条が慌てて割って入る。 宿儺の領域が展開される気配。 だがその場の空気は、もはや悲壮な決戦のそれではなかった。
「食の恨み」と「料理人のプライド」までも懸けた、史上最もレベルが高く、かつ最も邪悪なグルメ&呪術バトルが、今ここに再開されたのである。
新宿の空は、呪力の衝突によってどす黒く変色していた。 瓦礫の山と化した戦場で、戦況は明確に傾きつつあった。
両面宿儺が優勢――いや、圧倒的であった。
「どうした、2人とも。その程度か」
四本の腕を振るい、変幻自在の斬撃を繰り出す本気の宿儺に対し、呪霊料理でパワーアップした夏油はある程度身を守ることができた。だが夏油も五条も防戦一方になりつつあった。 頼みの綱であった夏油傑による「補給」も、完全に断たれていた。
夏油が隙を見て投げ込む『特製呪霊団子(自動ホーミング機能付き)』は、五条に届く前に宿儺の『解』によって空中で微塵切りにされ、ただの生ゴミとして地面に散らばっていく。もったいない。
「小賢しい真似を。貴様の料理など、二度と口にさせるか」
宿儺は学習していた。あの不味いナニカを口にすれば回復はするが糞不味い。ならば破壊するまで。 夏油が援護のために放つ特級呪霊たちも、宿儺の圧倒的な出力の前には紙切れ同然だった。次々と祓われ、夏油の手持ちの在庫は着実に削られていく。
「くっ……! さすがに『呪いの王』か……!」
「傑! なんかないのかよ!」
「文句を言うな悟! こっちも必死なんだ!」
五条の『無下限』による防御も、宿儺の技と絶え間ない猛攻により、徐々に削り取られていく。 まだ宿儺は無下限呪術に適応しきれていなかったが、千年研鑽した呪術の極致と、そして何より圧倒的な呪力の差が、徐々に最強の天秤を傾けていた。
(そろそろ、決めるか)
宿儺は冷徹に勝利への道筋を描いた。 五条の反転術式による回復が追いつかなくなる一瞬。そこへ最大出力の『開(フーガ)』を叩き込む。 そのために宿儺は腹の底から呪力を練り上げた。
ズズズ……ッ。
その時だった。 最強の呪力を練り上げようとした宿儺の丹田(腹)に、違和感が走った。
「……?」
痛みではない。 あえて言葉にするなら不快感。 重く、湿り気を帯びた鈍い感覚が、胃の底から這い上がってくる。
(なんだ……? 呪力の乱れか? いや、違う)
宿儺は構わず戦いを続行しようとした。だが拳を振るう動作一つ一つに、妙なノイズが走る。 脂汗が噴き出す。視界が明滅する。 関節の節々が震え、力が上手く入らない。 まるで極度の風邪と船酔いを同時に発症したかのような、生物的な不調。
「……ぐ、ぅ……?」
宿儺が膝を突きそうになる。 千年の時を生きた彼にとって、戦闘中に「体調不良」などという生理現象に襲われるのは初めての経験だった。 毒? いや、多くの毒に耐性を持つ自分が、これほど蝕まれるなどあり得ない。
宿儺は呼吸を荒げながら、少し離れた位置にいる袈裟姿の男を睨みつけた。
「……おい、料理人」
「おや、どうしたんだい? 顔色が悪いよ」
夏油は心配そうに、しかし口元には隠しきれない邪悪な笑みを浮かべていた。
「貴様……一体、俺に何を食わせた」
先ほど宿儺が五条への補給を阻止するために奪い取り、自ら咀嚼して飲み込んだ「アレ」。 五条が最も嫌がり、受け取りを拒否しようとした「アレ」だ。
夏油はまるで料理教室の先生が生徒に教えるように、穏やかな声で解説を始めた。
「知っているかい、宿儺。魚には『苦玉(胆嚢)』があり、フグには『卵巣』があるように、どんな生物にも『決して食べてはいけない部位』というものが存在するんだ」
「……ああ」
「それは呪霊とて同じこと。怨念の塊である彼らの中にも、呪力として還元できず、ただ純粋な『穢れ』として沈殿する部位がある。私はそれを丁寧に取り除いて料理しているのだが……」
夏油はクスクスと笑った。
「さっき君が食べたのは、私が10年かけて集めた『廃棄部位』を凝縮して固めたブロックだよ」
戦慄が走った。 五条ですら、「うわぁ……」という顔で一歩引いている。
「以前、私が興味本位でその欠片を、ほんの小指の先ほど齧ってみたことがあってね。結果、半日間トイレから出られず、上からも下からも魂が抜けるほど吐き続けた。特級術師の肉体を以てしても、だ」
それは料理ですらない。 高濃度の産業廃棄物と呪いを煮詰めた、生物兵器そのものだった。
「名付けて『ヘドロ』。悟は六眼でその『ヤバさ』を本能的に察知するから、絶対に口にしない。だからこそ、君への罠としては最適だったのさ」
「貴様ァ……ッ!!!!」
宿儺が激昂し、叫ぼうとした瞬間。
ゴロゴロゴロゴロ……ギュルルルッ!!!!
宿儺の腹の底から、雷鳴のような音が響き渡った。 それは呪いの王の威厳を粉々に砕く、あまりにも人間臭い音だった。
「うっ……!?」
宿儺が口元を押さえ、腹を抱えてうずくまる。 吐き気が喉元まで込み上げてくる。 今すぐ胃の内容物を全てぶちまけて楽になりたい。生物としての本能がそう叫んでいる。
だがここで宿儺に致命的なジレンマが発生した。
(吐くわけには……いかん……!!)
宿儺の胃の中には、受肉の強度を高めるために取り込んだ『宿儺の指』、そして先ほど食べた『ヘドロ』が混在している。 もし今ここで嘔吐すれば、毒素と共に、力の源である指まで吐き出してしまうことになる。 それは大幅な弱体化を意味する。
(ならば、反転術式で毒のみを中和……!)
宿儺は体内で正のエネルギーを回す。 だが毒が強くすぐには治らない。痛みは引かない。むしろ腹の動きが活発になる。 なぜか。
(馬鹿な……!? 反転術式が効かないだと!? いや、違う……!)
反転術式は「負傷や毒」を治すものだ。 しかし今、宿儺の体に起きている嘔吐や下痢という反応は、体内の毒物を外に出そうとする、生物としての正常な防御反応であり治癒行為なのだ。 体を治そうとすればするほど、肉体は「じゃあ早く全部出そうぜ!!」と手伝いを始める。
(止められん……!! 括約筋への呪力強化……間に合わん……!!)
「んぐ、ぐぐぐ……ッ!!」
四本の腕で腹と尻を押さえ、脂汗を垂れ流して耐える呪いの王。 その姿には、もはや覇気など欠片もなかった。あるのは公衆トイレを探して彷徨うサラリーマンの悲哀のみ。
一瞬の生物的に仕方のない思索。 便意と吐き気との孤独な戦い。 だがこのレベルの頂上決戦において、意識を「トイレ」に向けた代償は、死に直結する。
「宿儺ァ!!」
五条悟は見逃さなかった。 宿儺が尻に意識を集中させたその刹那、五条はトップスピードで懐に潜り込んでいた。
右拳に纏うは、吸い込むような『蒼』。 そして空間が歪むほどのインパクトの瞬間に生じる、黒い閃光。
『黒閃』
狙いは一点。 宿儺の、今まさに爆発寸前の下腹部。
ドゴォォォォォォォォォォッ!!!!!!
「がはァッ!!!!??」
強烈な衝撃が、宿儺の腹を貫いた。 その衝撃は、物理的なダメージ以上に、限界を迎えていた消化器系への「決定的な引き金」となった。
宿儺の体から、黒い火花が散る。 それと同時に、口から勢いよく何かが射出された。 まるでロケットのように飛び出したのは、赤黒い蝋のような物体――特級呪物『宿儺の指』数本。
カラン、カラン……。
吐き出された指が、虚しくアスファルトの上を転がる。 弱体化。明確な力の喪失。
「おやおや」 夏油がやれやれと首を振りその指を遠くへと蹴飛ばす。
「やはり、宿儺の指は自分でも消化できない食材だったか。もし消化されて栄養になるものだったら、君の勝利は堅かっただろうにねぇ」
「……」
五条は夏油の方を見なかった。 呪術師では無く料理人視点の解説を聞くのが恥ずかしかった。 そして宿儺に食わせたヘドロの件も事前に聞いておらず、あまりにも汚い勝ち方だからだ。だが勝機だ。
宿儺はもはや反撃どころではなかった。 口から指を吐き出しただけではない。五条のパンチの衝撃は、下の方にも致命的な決壊をもたらしていたからだ。
「貴様ら……よもや……このような……屈辱を……ッ」
膝をつき震える宿儺。 そのプライドを尊厳を、完全に破壊し尽くすために。 最強の二人は、慈悲のないトドメを用意した。
「今度は油断は無しだ。悟。」
夏油が、無数の呪霊を一つに束ねる。渦巻く呪力が、巨大な螺旋を描く。
「呪霊操術・極ノ番『フルコース』」
五条が指を弾く。 生み出される仮想の質量。
「虚式・『茈』」
「ぬ、ぐ、おおおおおおおおッ!!!!」
宿儺の絶叫は、二つの極大エネルギーによって掻き消された。
ズガァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
新宿の廃墟が、光に包まれた。
砂煙が晴れると、そこには仰向けに倒れた伏黒恵(宿儺)の姿があった。 変身は解け、四本腕の異形から、元の少年の姿に戻っている。 もはや立ち上がる力は残っていない。
彼は虚ろな目で空を見上げていた。 その口からは、未消化の「宿儺の指」が10本以上ポロポロとこぼれ落ちている。 そして下半身の方からは――茶色い、液状の何かが、止めどなく垂れ流されていた。 あたりに漂うのは、硝煙の匂いと、形容しがたい悪臭。
五条悟は鼻をつまみながら、倒れた宿儺を見下ろした。 夏油傑は満足そうに頷きながら、汚れたエプロンを脱いだ。
「勝ったね、悟」
「……ああ。でもなんか、スッキリしねぇ。」
「何を言うんだ。これぞ王道の友情、努力、勝利。そして呪いの王すら倒した……」
夏油は夕日と汚物に染まる戦場を見渡し、高らかに宣言した。
「私たちは最強なんだ」
五条は深くため息をついた。 だがその横顔はどこか晴れやかだった。 これで世界は救われた。手段は最低最悪だったし、新宿は焼け野原になったが、確かに彼らは最強だったのだ。
「帰ろうか、悟。帰ったら宴だよ」
「傑は作るなよ!!!!」
二人の喧嘩する声が、平和を取り戻した新宿に響き渡った。 それが呪術史に残る激戦、人外魔境新宿決戦の結末であった。
原作通り裏梅さんは秤さんが抑えてくれました。
鹿紫雲は皆が抑えてくれました。