ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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風邪をひいてしまい、投稿どころではありませんでした。すみません。


到着

蒸気が汽笛から噴出し、特徴的な高音と白い雲のような煙らしき何かが悠々と上がる。

 

「私を使って車両を強制停止させる―――と言うのもありだったんじゃないか?」

 

僅かな不信感を持ちながらも汽車の扉から続々と乗り込んでいく乗客達に手を振りながら、軽い気持ちで隣の男に尋ねた。

 

女性の中では、或いは男性の中においてトップクラスの上背を持つ彼女と互する身長を誇る彼の身を包むのは、パリッと決めた大日本帝国海軍の軍服。大使館もない大英帝国の町中ではともすればコスプレイヤーに勘違いされそうなほどに奇異な服装ではある。

 

「故障ってことを高々と披露して乗客をむやみやたらと混乱させてもアレだし、長門にもしものことがあったら嫌だからね」

 

目的地たるリヴァプールに着くや否や連行され、軽い事情聴取と社に所属している技術者との論争、完全論破を経てやっとこさ駅にまで戻ってきた大佐の顔には、明確な疲労が滲んでいた。

 

―――諜報活動、開始といこうか

 

脳にダイレクトに響く声に一瞬ピクリと身を竦ませ、周りを見回す。

 

隣には、面白げにこちらを見る大佐。

 

「かえって堂々としていた方がバレないものだぞ」

 

暗に意を潜めながらポツリと呟き、あたりをぐるりと見回す。

 

火薬の臭いもしない。機械の作動音もまた、自動人形が立てるごく当たり前の物しかない。

つまり、爆薬などはない。

 

視線も感じないし、身を潜めているような気配もない。

 

「奇襲とかこういうことには忌避感示さないのに何でサクッと見捨てられないかなぁ……」

 

目的地に着くまでの道程とは言え、任務に忠実に周囲の安全を確認する彼女の行動に気づいてか、或いは気づいていなくとも、か。

 

「奇襲もこれも立派な戦法だ。私は戦いは割り切るが、情に欠けることは容認できない」

 

ともあれ、答えるべきだろう。

そう判断し、怪しい視線の盾になるように立ち位置を変更しながらもからかい混じりの質問に答えた、その時。

 

(消えた?まあ、消えたならば問題はないが……)

 

今まで向けられていた視線がいきなり消え去った。

 

文字通り消失した気配を訝しみつつ、再び歩く位置を所定の位置へと戻す。

 

彼の右斜め後ろ。

利き手ではない右側と背中を守れるこの位置が、彼女の考え抜いた『護衛の定位置』であった。

 

周りに注意を向けながら、注がれる視線に含まれた意志を一々紐解き、注視するかを決める。

 

硝煙の臭いはしないか?

火薬の臭いはどうだ?

絡繰りの駆動音は?

馬車の生み出す震動は?

 

(問題はない、か)

 

部屋でカレーを作っていたりする普段の態度よりも、僅かに三、四度程。

しかし、見慣れた側からすれば分かりやすいほどに目の端をつり上げながら、その鷹の目で辺りを見回す。

 

油断はしない。慢心もしない。驕慢に陥らない。

 

自分の心臓とも言える『セトの原核』は通常作動しており、異常はない。魔力も身体を巡っているし、艤装はいつでも纏える。

 

心臓部である『セトの原核』さえ無事ならばソレが壊わされるまでこの精度を保てる。精神的な疲れなどはその名の通り気の所為だ。

自分の身体に疲労はない。人の身に限りなく近いが、疲労は一向に発生しない。そう言う風に作られているのだ。

 

艤装を一片たりとも纏っていない今は、普通の女性と変わらない肉体強度であり、その力は人の身が持てる限界にまで抑えられている。

艤装を一片でも―――つまり、掌から肩付近までを覆う簡易鎧さえ纏えば、その時から彼女の肉体強度と運動能力は戦艦のそれへと変貌する。

 

半身を置いてきた今では完全な『戦艦長門』ではない。劣化していると言われればそれまでだろう。

 

しかし、だ。

どの場合でも彼女はある程度の―――即ちその肉体強度及び運動能力に於ける最上の―――実力を発揮できるようにと鍛練を続けている。

 

武芸百般、と言う奴である。

 

いやまあ、戦艦には全く必要のない技術なのだが。

 

「お前は俺の最高傑作であり続けている」

 

いつかどこかで、彼は言った。

 

艤装やその他兵器の材料にはとっくの昔に失われた技術で作られた金属と現行の装甲としては最高級に(高いが)性能のいいNVNC甲鈑を複合させ、それをふんだんに使って作られている。

 

それをひたすら機巧魔術で強化し、内部構造も『不沈』と言うべき物に換えた。

 

いや、既に魚雷でも歯が立たない硬さなのだが、至近距離で爆雷を炸裂させられた場合傷が付くから内部構造と外部装甲を更に強化してみたらしい。

 

たぶん、一艦で制海権と制空権を奪われた状態の沖縄辺りに突っ込ませてもピンピンしてるんじゃないかとか、何とか。

 

対空装備に関しても同様だ。対空砲と装甲を追加し続け、尚且つ装甲の軽量化と機関部の強化を怠らない。

 

実際の表現として使えるほどに、愛が重いのだ。

 

改造される度に増える体重(現在40130トン)をデータとして見せられると、相当心理的に複雑な物があった。

 

人間体であれば艤装を付けても生活に不備のでないように重量を軽減化してくれているのだが、それは自分の努力ではない。

かと言って自分が日頃の運動を怠るのは許せない。

 

結果、筋肉が付いて体重が増える。

女性的な外見を損なわない程度に(ある程度までいった瞬間に製作者ストップがかかった為、しぶしぶ)無駄な脂肪を削りきり、しなやかな筋肉と卓越した技術を身に付けた彼女は、艤装を付けずとも凄まじく強い。

 

具体的に言えば、世界最強クラスの練度を誇る日本陸軍の精兵中の精兵とがっぷり四つに組み合って勝つほど強い。

そこら辺の自動人形には艤装を纏うための魔力を使うまでもなく勝ってしまうだろう。繰り返すが、戦艦としては全くの無駄な能力である。

 

普段の仕事には無駄なことでも一時的な仕事に役立つとなればせっせと取り組んでしまう生真面目さがよくでていた。

 

「着いたぞ、長門」

 

周囲に向けていた意識をとりあえず収め、警戒範囲を通常時まで収縮させる。

 

目の前には、牢獄を思わせる巨大な門。

身の丈を遙か越えるその雄大さは、世界一の大国である英国の意気を如実に現していた。

 

「ま、自動人形はここに一端入ったら卒業まで出られないらしいけど……俺たちには関係ないな」

 

「それでいいのか、とも思うがな」

 

自動人形の定義は『イブの心臓』を使い、機巧魔術によって動く人形全般。

長門に使われているのは『セトの原核』だから、規則の範疇には収まらないのだ。

 

「量産のメドが立ってないし、実質的に日本海軍+ビックセブンしか居ないわけだから仕方ない……ってことにしとこうよ」

 

「それもそうだが……私にはそれが屁理屈にしか聞こえない。論理の隙をついているようにしか見えないんだ」

 

巨大な門を片手で押し、人が悠々と通れるくらいまでに開け終えた長門の不満気な顔を眺めながら、門をくぐる。

 

さあ、どうするか。やはり正攻法で言いくるめるか、或いは話題を変えて煙に巻くか。

 

―――後者、だな。どーも頭の回転が鈍い。冬だし風邪か何かだろうが……嫌なタイミングで発症したものだ。

 

これからテストが始まるから体調は万全にしていたいってのに。

 

「自力で成長出来るってのは……ほら、自動人形にはない利点でしょ?区別化はされるべきだと思うけど?」

 

関連性を持たせながらも僅かに話の方向を変えるための話題は、一時期話題になったとある問題。

 

自動人形は、人形。つまり、身体を鍛えても何も変わらない。年を経ても外見は変わらないし、外見を好きなように弄くることすら出来る。

 

『セトの原核』を使用し、俺がその器を作った場合、身体を鍛えたら鍛えた分だけ成長する。筋肉も付くし、斬れば血が出る。

艦齢を経るごとに身体は衰えるが、こまめに改修をしてやれば一定の水準を維持することが出来るし、うまくすれば更なる強化が望めるだろう。

 

不完全な人形であり、不完全な人間。

だが、その二つを基本性能で凌駕する。してしまう。

 

――――この『限りなく人に近い』という問題に対して、魔術師協会はかなりお冠だったのだ。

 

魔術師倫理規定、と言う物がある。

 

人を作ってはならない。

人の一部を使って自動人形―――禁忌人形(バンドール)と呼ばれる―――を、作ってはならない。

 

魔術師としての最低限のルールを記したコレ。実はまるで眼中にないかのようにホイホイと破られていたりするが、あくまで破られているのは主に『人の一部を使って自動人形を作ってはならない』と言う一条。

 

これはまあ、別にいい。

人の一部、或いは生物の一部を使えば性能も向上し、より明確な意思と思考を持たせることが出来るし、ある程度までは自力での魔力供給が出来るようになると言うメリットだらけの人形。それが禁忌人形だからだ。

人道的には兎も角、禁忌人形は変なデメリットがある場合もあるが、概ね優秀な兵器として機能する。だから、破っても特に咎められることはない。軽蔑はされるかも知れないが。

 

だが。『人の製作』は、禁忌中の禁忌。理由はよく知らないが、わりかしヤバめな感じにヤバいらしいのだ。

 

故に長門を海軍に譲渡し、その解析が進んだ結果、召還寸前までにもつれ込んだ。

まあ、日本政府随一の外交官、石井菊次郎さんが何とかしてくれたからよかったものの、長門は謂わば再度いつ難癖付けられてもおかしくない自動人形以上人間未満のナニカ。だから譲渡から賃貸へと書き換えられたり何だりしているのだ。

 

まあ、俺が製作した戦艦、空母、重巡、巡洋艦、駆逐艦、水雷艇の全てが長門の技術を流用しているから何も変わんないんだけどね。

要はアレだ。公表しているかしていないかだよ。

 

「確かにあの者達からしたら私と彼らは違う存在らしいが……」

 

彼ら、と。

そう言った長門の視線の先には学生に連れられて歩く数多の自動人形達があった。

 

ある者は人型。ある者は機械的であり、ある者は四つ脚の獣型。

 

「いまいち実感がわかないと言うのが、実際のところだな」

 

再び訝し気に首を傾げ、戦艦長門は歩き出した。




読了ありがとうございました。読者の皆様方も風邪にお気をつけください。
感想・評価いただければ幸いです。
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