ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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す、すまない……こう言うのは苦手なのだ……!(by某連合艦隊旗艦)

ながもん度重点。


冬の怪談(壱)

「完璧に風邪引いちゃってたね、俺」

 

ドアによって半ば隔離されていた部屋へ長門が顔を出したことを察知し、寝台に横たえていた身体を起こす。

長門の手には、お盆。

お盆の上には、ティーカップ。

 

「風邪は治しきらなければいつまでも引きずる。病根絶つべし、だ」

 

そして、ティーカップの中には熱々の生姜汁。

言葉と共に膝下に置かれたスライド式の机の上にコースターを置き、更にその上にギリギリ飲める程度の熱さまで調整された生姜汁を置き、お盆を胸に抱く。

 

「さあ、書類裁きは一端中断だ。急がず焦らず、ゆっくり飲め」

 

「はいはい」

 

記述試験を一位で通過し、実技を戦略的ボイコットした結果、俺の全体順位は50位となった。

夜会の参加資格を得るためには100位以内に入っていなければならない。

50位より上―――即ち49位から1位までの連中は実技に於いても優秀でないとなり得ない順位であるため、俺に与えられた『50位』と言う順位に含まれた意味は『筆記だけの頭でっかち』と言うことに相成る。

 

1~49位が実技+筆記の上位49人を。

50~100位が1~49位に選ばれた者を抜いた状態での上位51人を選出し、順位が振られるのだと考えてほしい。

 

あぁ、因みに。

筆記試験は下級生から上級生全てに同じ問題が出される都合上、総知識量的な面で上級生の方が有利だったりする。

これは学校として考えるとおかしいのかも知れないが、これから夜会と言う魔術世界の一大イベントに参加するための資格を得るために戦うのだと考えるとおかしくはないと、俺は思う。

学校単位のイベントではなく、世界規模の一大イベントなんだからな。そりゃあ社会にでたら年の上下で求められる知識量が変わる何ざないわけだからしかたないと。まあ、そう言うことだろう。

 

「おぁ……身体が熱い」

 

「身体の芯から温める為の飲み物なのだから当たり前だろう」

 

常識を言って聞かせるような優しさをこもった声に辟易し、とりあえず当たり前のことを感想として言うまいと心に誓う。

長門の優しさが、時々痛い。

 

「……あ、長門」

 

「何だ?」

 

威圧感を与えない為か、或いはなにも考えていなくともそこら辺に気を配れるのか。

 

寝台の横に置いておいた椅子に腰掛け、上半身だけを起こしている状態の俺と目線を合わせながら返事を返す。

 

「お前凛々しい凛々しいとばかり思ってたけど、案外可愛い系の顔つきだな」

 

「……大佐、からかい半分に女を口説くならば貴様が求めている反応を返してくれる人にやるといい。私はそこら辺が堅いのでな」

 

「本気だよ、俺は………というか、今のは長門の顔見て衝動的に口走ったんであって本題じゃあないんだ」

 

本題ではないという言葉を受け、心なしか長門の目が二度ほど吊り上がったことには、話している二人は気づかない。

当人は勿論だが、大佐は大佐で色々考えていたのである。

 

 

「貴様は衝動的に女を口説くのか?」

 

「白米と調味料のたぐいは兎も角、野菜が切れそうだからさ。買ってきてよ」

 

鋭い指摘を慌てず騒がず的確に逸らし、用件とメモを同時に渡す。

 

「……む、了解した」

 

メモを一読した後に二つ折りし、財布の中へと忍ばせる。

深くは追求しないところは嬉しいが、そこまで追求する事ではないと考えられていると思うと悲しい。泣きそうだよ。

 

「吐くならばもう少し信憑性のある嘘を吐け。貴様が泣くところなど想像すらできんぞ」

 

声音も少し堅くさせ、pukaーpukaエプロンをバサリと脱ぐ。毎度恒例の脱衣ショーではあるが、下に着ているのが外出用の黒セーターであることを考えた場合、露出は増えない。

よって、男の夢とロマンも増えない。

セーターもセーターで中々にいい感じなロマンが内包されてはいるのだが、やはり白い肌を見せてくれた方が心躍る。

下はいつもの極ミニスカではなく、脚線美を強調するかのようなパンツ。ズボンだと言わなかったこの意志と誇りに喝采を。だってズボンって言うよりパンツって言った方がこう……クる物があるんだもの。

 

「いい脚線美だ。感動的だな。だが露出零だ……」

 

「いつも脚はこんな物じゃないか?」

 

足元をチラリと一瞥し、可愛く首を傾げながら長門は言う。

わかってないな、こいつは。全く以てわかってない。

 

「あれは違う。絶対領域のロマンがあるし、はみ出した部分がまたいいんだよ」

 

「…………もう本当にどうでもいいな」

 

じゃあ何故こんな無駄話を律儀に聞くのか。

どうでもいいとか言いつつ服装を整え(皺伸ばしたりとか、その程度ではあるが)始めた長門を生暖かい目で見た後、手元の資料を彼女の目の前に突き出した。

 

「これは?」

 

「魔術喰い(カニバルキャンディ)についての資料。対策と襲撃傾向と襲撃された自動人形、それらが内蔵していた魔術回路の一覧乗っけてあるから目を通しておくように」

 

ハー2ー34と銘打たれた資料の表紙を捲り、戦艦長門は考えた。

 

イが、海軍系の資料。

ロが、陸軍系の資料。

ハが、機巧魔術系の資料。

ニが、兵器開発系の資料。

 

ハー2ー34は大括りにすると機巧魔術関連の資料であり、2と言うことは夜会関連の物。それの34番目の考察及び情報……と言うことだろう。

 

よくもまあ留学することが決まり、今寝込んでいるまでの僅か数ヶ月の間にこれだけ調べられたものだ、と。長門は密やかに舌を巻いた。

通常の職務もあったし、彼が居なくなると進まなくなる企画を全て終わらせたりしていたのだ。一日中全てを情報収集に使えたわけではない。

 

一日の内に通常の職務をこなし、新たに開発する武器や自動人形の模型を作って企画を終わらせ、私をからかって遊んでまた働いて寝る。

 

この激務の中に、一体いつそんな情報を纏める暇があったのだろうか。

 

「いつの時代も情報を極めた者が上を行く」

 

ピシッと鼻先に突きつけられたら万年筆を受けて一歩後ずさり、それを見た彼が満足げに笑う。

からかう……と言うか、無駄な考えを無理矢理に中断させられた感じだな、今のは。

 

「収集は常日頃から怠らんさ」

 

考えても無駄だと暗に諭しつつ、ふらふらと空をさまよう手が頭に二度三度乗せられる。

 

「まぁ、不確定の情報だからそこには書いてないけど魔術喰いの正体にも目星はついてる」

 

ポンポンと一定のリズムで頭上を叩く手を意識の外にはじき出しつつ、出来るだけ真摯に問いかけた。

 

情報収集にプライドを持っている彼としては、不確定の情報はなるべく漏らしたくはないのだろう。

だが、こちらとしても候補くらいは知っておきたいというのが心情だ。

 

「教えてもらえないだろうか。その、候補とやらを」

 

「一つは、この学院の生徒。それもかなりの権力者をバックに付けている筈だ」

 

丁寧に接せば横柄に返しはしないというのが、彼の付き合いやすいところだろう。

傲慢さには数倍のそれを以て返すし、横柄な態度には恐ろしい臍の曲がりっぷりを見せるが、こちらがある程度信用を得ている場合は誠意にさえ気をつければ話してくれる。

 

プライドプライドと言うが、彼はあくまでも合理主義者なわけだしな。

 

「理由は?」

 

「犯罪すれすれの行為を国の威信を懸けた留学生共が個人の判断でやれると思うか?また、バックに何もついていない奴が国という強大なバックボーンを持った者共を闇討ちできると思うか?

これらを加味して現実味を帯びさせれば、自ずとわかる。リスクとリターンの天秤、という奴だな」

 

国の威信を背負っていた場合、下手をすれば外交問題に直結するようなことはやらない。

魔術喰い(カニバルキャンディ)の渾名の由来は、舐め溶かされたような傷口を残して『イブの心臓』が喰われていることから。

 

各国が血眼になって開発した技術を盗むというのは、一口に言うよりもずっとヤバい問題になるのだ。

とても個人の判断で国の威信は懸けられないし、一人で国に刃向かう馬鹿も居ない。

ならば国からの指示か、有力なパトロンからの命令か。或いは―――

 

「自ら姿を見せぬままに、有耶無耶にする自信があるか、か」

 

「そ。まあ、ここで散っていった自動人形達の怨念が集結して結合し、まだ生きてる自動人形達をこちら側に引きずり込もうとしている―――なんて説もあ「やめないか」

 

いつになく真剣な様子でセリフをぶったぎられたことに目を驚かせつつ、大佐は僅かに微笑する。

 

「そうだな。あまりにも非現実的だし、形ない物にお前が負けるはずもないか」

 

「あ、いや。もっと聞かせてくれても―――」

 

「確かに、少々お前を侮っていたようだ。亡霊の類に負ける大日本帝国連合艦隊旗艦ではないからな」

 

新たに出していた『亡霊の倒し方』なる資料を暖炉に投げ込み―――

 

「ぁ、ああ!?」

 

『何故か』暖炉に向けて物欲しげに手を伸ばしている長門に、大佐はにこやかに告げた。

 

「行ってらっしゃい。魔術喰いはもうバリバリ活動しているような時間だけど、連合艦隊旗艦の敵ではないからな。それが喩え」

 

 

 

 

 

 

 

「亡霊だとしてもな」

 

 

 

 

 

 

 

実にいい笑顔で『行ってらっしゃい』とばかりに手を振る大佐に、長門は(表面上は)凛と動じずに、こう返す。

 

「連合艦隊旗艦を侮るな……よ」

 

冬の怪談が、始まった。




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