ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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大佐のポジションは後始末役だと思っていた読者諸君。

その通りだよ。

※評価を二つもいただきました!しかも高評価!ありがとうございます!


がんばれナガモン

「……フフ」

 

警戒心バリバリで門を抜け、市街へと出てまた帰る。

 

素晴らしいスピードで買い物を終えた長門は月が茫洋と輝く夜空を見上げ、呟いた。

 

「―――亡霊など、居ないじゃないか」

 

さほど広くもない索敵網を更に縮め、胸をなでて安堵のため息を吐く。

 

居ない居ないとわかっていても、やはり怖い。自分は本質的にこういう物は苦手なのだ。

 

プチ、プチ、と。

 

何か細やかな物が断裂する音が敷地内の森に木霊した。

 

「……」

 

それは例えば魔術回路に使われる導線であったり、イブの心臓と自動人形との身体を繋ぐ神経回路であったり、そう言った物が無理矢理引っ張られて絶たれる。そんな感じな音だった。

 

「……こ、こんな時間に雑草むしりとは感心だな。まじめな職員もいる物だ」

 

軍人にあるまじき現実逃避を行いながら、彼女の足は森へと向く。

ヴァルプルギス王立機巧学院の敷地は広い。夜会の会場たる開けた一角に設けられた遺跡めいたステージに、如何にも男女の逢い引きの恰好の場と言った感じの噴水を中心とした煉瓦敷きの広場。

 

そして、授業での演習に使うであろう草原に、森。

 

森。深い森。機巧魔術と言う神経をすり減らす学問の合間に森林浴でもどうですかとばかりに存在する広大な森が、彼女を迎えた。

 

「魔術喰いは、居ない。居ても亡霊では、ない。亡霊ではない、亡霊ではない、亡霊ではない………」

 

大佐が側にいたならば『固定観念壊すべし』と言い放つであろう凝り固まった精神を以て、戦艦長門は音源に向けて前進する。

 

「…………ぁ」

 

ぼぅ、と光を発する青い灯火。

 

胸を舐め溶かされ、心臓を抜き取られ、下に横たわる自動人形の骸。

 

骸の上にある、青白い人影。

 

「……」

 

亡霊の如き光に照らされる(彼女から見たら『亡霊の如き光を纏っている』だが)『魔術喰い』を見て、絶句している彼女を蚊帳の外に置き、種明かしをするならば。

 

『魔術喰い』は、光らない。

『魔術喰い』は、亡霊でもない。

『魔術喰い』の内包している魔術回路を駆動させているときのみ青白い光を発するのである。

 

その光と雲に隠れた月影が相まって一種幻想的なまでの光景を作り出していたのだ。

 

「…………腹を括るか」

 

食事を終えた『魔術喰い』が、その凶暴な牙をこちらに見せる。

そう。見せてしまった。

 

戦艦長門は、軍人である。

軍人は武器を目の前で振りかざされて臆するほど当たり前な精神構造をしていない。

武器を振りかざされたならば、如何にしてそれを撃退するのかと言うことを考えるのが軍人だった。

 

だが、しかし。

 

(怖いな、これは)

 

今まで戦ってきた者には実体があった。今回は有るかどうかすらわからないし、寧ろない方が自然だろう、と。長門は考えた。

 

しかもこの『魔術喰い』。正直射程がわからないからどこに気を使えばいいかわからない。

長距離射程ならば今からでも心臓をくり貫かれるかもわからない。近距離ならばまだましだが、亡霊ならば普通にパクリといただかれるのがオチだろう。

 

「……『魔術喰い』、一つ良いことを教えてやろう」

 

艤装を纏い、主砲と副砲が腰回りに配置される。

普段はここで装備は終わっていた。

 

「全力攻撃は彼の補佐が必要だが……それでも、一撃くらいは放てる」

 

脚を鎧が覆い、覆った鎧あら砲が顔を出す。

両肩、手の甲、腕。全てが軽い鎧に纏われ、その節々から砲が生えた。

 

「いつの時代も火力を極めた者が上を行く」

 

戦艦一隻、巡洋艦二隻、その他機関砲や、試作段階のレーザーライフルまで。

様々な砲口がただ一つ、敵のみを見据えて時を待つ。

 

「ビックセブンの火力、侮るなよ!」

 

一気に負荷を掛けられた魔術回路から余剰魔力が迸り、電流のような音を立った、その次の瞬間。

 

雷が吼え上がり、天地が震えた。

遠雷などと生易しいものではなく、消音など考慮に入れたことなどないとばかりに次々に放たれる砲弾と、側肩部から放たれる赤いレーザーライフルが夜の闇を真昼に変えた。

 

主砲が唸り、副砲が哮る。機関砲が鉄の雨を振らし、そして装填を終えた主砲が再び轟音を上げて放たれ、ロケット砲から噴き出した高温の噴射ガスが強固な耐熱鎧を撫でると同時に鋭く尖った先頭が標的めがけて飛翔する。

 

この日。学院の敷地面積の四分の一が更地と化すレベルの理不尽な砲火が森を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、ビックセブン」

 

「……はい」

 

少しは加減しろよお前馬鹿。

 

すまない……ああいうのは苦手なのだ…

 

「なあ、ビックセブン」

 

「……はい」

 

「俺がさあ、全力で砲撃キャンセルしなかったら森全焼だよ?」

 

「すまなかった!」

 

デキる男特有の勘で長門を覗いてみるとあら不思議。森のど真ん中で全砲門斉射しようとしている馬鹿が。馬鹿がいた。

砲弾がオール魔力製でなければ砲弾が雨霰と降り注ぎ、火の七日間もかくやといった騒ぎになっていたであろう。

 

「砲撃の着弾キャンセルと火をせき止めるので魔力物凄い消費したんだけど?」

 

数秒前に土下座したっきり顔を伏せっぱなしのビックセブンを見下ろし、さも大儀そうに言い放つ。

 

発射された砲弾を着弾する前に衝撃だけ残して消し去ると言う荒技をやってのけたことを考えれば、大儀ではあるのだが。

 

「まあ何とか被害過小で事なきを得たけど?長門は何故森の中で、よりにもよって森の中で放とうとしたの?」

 

「『魔術喰い』が居た。そしてそれが如何にもその……亡霊らしかったものでな。少し過剰に対応してしまったのだ」

 

「ほう、主砲四セット三回射撃、副砲二セット三回射撃、機関砲を全弾撃ち尽くして試作品のロケット砲を計二回、一発きりのレーザーライフル十挺を使い尽くして、『少し過剰な対応』、か……実に素晴らしいじゃないかビックセブン。俺の私財で作ったレーザーライフルとロケット砲を使い尽くして『少し過剰』。全く素晴らしいなぁ、ビックセブン」

 

たった今まで書き込んでいた収支表で土下座状態から少し身体を起こした長門の頭をリズミカルに叩き、叩き、叩く。

 

「単独交戦、禁止な」

 

「はい……」

 

明らかに元気のない長門を引っ張り起こし、またもや収支表で頭を叩いて、告げる。

 

「あと、『魔術喰い』は泳がせるから」

 

「……つまり、正体の目星はついているのか?」

 

「そ。でもこのまま他の奴らを脱落させてくれるんならこっちにとっても都合がいい。バックボーンもよーくわかった以上、表立って敵に回す機はないから、そのつもりで」

 

「了解した」

 

特に反論することもなく、すんなりこちらの提案した戦術を受け入れる長門の目に反抗はない。

 

主兵装が砲だとバレたことは痛手だが、規模まではバレてはいないだろう。ならば、この失敗を好機に変える。

即ち普段ならば反論が雨霰と降り注ぐことが請け合いで実行することが困難な戦術をガンガン実行に移すのだ。

 

「こちらの秘匿していた情報アドバンテージは失った。ならば多少汚くとも権力と謀略で何とかする。わかったな?」

 

「わかった」

 

口惜しそうに顔を歪める長門を背に個室に戻ろうとした、その時。

 

「すまない」

 

万感の念を込めた一言が、背後から放たれた。

 

「情報を露呈させ、あまつさえ仕留めきれずに後処理を貴様に押しつけるという不始末……」

 

「あぁ、別にそれはいいよ。現場の失敗も込みで利用すんのが後方待機役のやることだから」

 

遠距離戦特化であるかのように見せびらかして、火力全振りの鈍足盾役って感じに偽るのが最善だろう。近接戦の優秀さは偏に長門の努力によるものだから悟られにくいはずだし、隠し駒としてとっておく。

二重三重の隠し駒があるとは言え、あって困るもんじゃない。だが、出し惜しみはしない。

 

「この失敗は、必ず戦いで取り返そう」

 

目に闘志を宿らせ、如何にも熱い感じな戦士となった長門の頭に軽く手を置き、軽い調子で諭すように言う。

 

「まぁ、気負わず頑張れ。信頼はしてんだから」

 

「もう二度」

 

「ん?」

 

頭に置いていた手を元の位置に戻し、再び個室へと戻ろうとしていた俺の軍服の裾が細い手に掴まれる。

 

振り向くとそこには何かを決意した長門の顔があった。

 

「もう二度、その信頼を裏切らないことを誓おう」

 

熱くなりすぎんなよ、と言っておきたかったが……士気が上がることは悪いことじゃない。

 

「死なない程度に頑張れ」

 

「死んでは勝てない。当然だろう」

 

どこか危ういと言う感情を感じながら、冬の一夜は終わりを告げた。




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