ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
それはそうと。スマホ投稿から慣れないPC投稿に切り替えました。書くのがとろい(確信)
艦これはまあ、金剛が改になりました。2‐4クリア目指してひたすらレベリング中です。
「長門、大破進軍は?」
「ダメ、ゼッタイ」
「中破進軍は?」
「油断大敵」
「戦力の逐次投入は?」
「愚策」
「包囲されたら?」
「正面突……撤退」
高々と強攻を叫ぼうとした長門を視線で黙らせ、強制的に意見を塗り替える。
「……長門君」
「何だ」
「君は有事の際は提督の代行もしなければならない立ち位置にある」
「ああ」
「まあ、現場で面倒を見ない提督などあり得ないが……」
貴様も前線に出たくないとかなんとか言ってたじゃないか、と言う至極真っ当な意見を引っ込め、黙って聞く体制に入る。
相手が喋っているときはひたすら聞きに徹するのが、彼女のスタンスだった。
「でも、あり得るかもしれない。違いますか?
司令官やら提督やらは後方で将棋打つのが仕事じゃないんですよ、長門君」
「わかっている」
「相手が駆逐艦ならば軽巡で行け。軽巡ならば重巡で行け。重巡ならば戦艦で向かえ。戦艦が来たら空母三隻で射程に入る前に囲んで叩け」
慎重論を好む大佐の言い分を聞き終わり、長門は黙って立ち上がる。
胸の内にわかだまっていた疑問を、今こそ払うために。
「何故今なんだ?」
「今だからだ」
唐突に始まった戦術講座を真面目に板書をしつつ、訝しんだ。訝しんだだけで、特にどうということではないのだが。
明治時代の日本陸軍もかくやの従順さで言われたことをしっかりとこなしていく辺りは流石――――と言うか、そうでもなければこうも長年気難し屋たる大佐と付き合ってはいられないのだろう。
「大佐、現在時刻はヒトマルマルマル。陸軍からの留学生が試験を始める時刻だぞ」
「特にどうこうとは言われてないしアンチョコ渡しただろ?大丈夫だよ、多分」
「……ん、む…いや、どうも嫌な予感がするのだが」
ノートを取る手を休め、ペンの頭を頬に当てる。
「……例えば、例えばだが」
考えられる事態としては、何が挙げられるか。不確定であり不確実でしかない『勘』だけでは、彼は絶対に納得しない。
このことをわかっているからこそ、戦艦長門は思考を巡らす。
「また鉄道が故障し、その留学生が止めたとすると……やはり、身元確認が済み次第日本大使館が動かざるを得なくなる。
……こうした場合になると、アンチョコは渡せないのではないか?」
前回はそれで大使館の役人に迷惑をかけたじゃないか、と。実例に基づき、長門は言った。
「有り得ん」
「となると?」
「留学生はランキング上位十三人が一人、『元帥』マグナスを根深く恨んでいるらしき情報が入った。謂わば彼は復讐者で、彼の自動人形はその手段と言ったところだろう」
ピッと指を天に向かって一つ立て、彼は確信を持って言い放った。
「自分から戦力を開示するような馬鹿な真似は、しないさ」
大佐が行動を読めるのは、同種に属する官僚と、これまた同種の国益第一の人間のみ。
彼は山口県出身であった。
この土地は古くは長門と呼ばれ、明治の元勲を数多く排出した国である。
もう一つの元勲排出国である薩摩には黒木為禎、野津道貫等日露戦争でも活躍した野戦攻城で鳴る武闘派が多いのに対し、長門では謀略家タイプの人材を多く排出した。
児玉源太郎がその最優とも言える人傑であろう。彼は長門国で生まれ得る個性と言う物のいいとこ取りをしたような感があり、謀略、軍才はおろか経輪の才にすら長け、しかもその性格は国家のためには死をも惜しまないという覚悟とカラリと晴れた陽性を以て構成されていた。
これに対して大佐も謀略の才はある。経輪の才は無学であるが故に少しばかり外すことはあるが、先に行われるであろうと噂された高橋是清の軍縮について―――軍人でありながら―――賛成し、海軍そのものを軍縮へと引っ張っていくような、謂わばその程度の才はあった。
軍才は卓上の上では名将であるが、無理を嫌うことから勝率はあまりよくはない。負けてもいないが、勝っていない試合が多くあるの割には勝つときは殆ど完勝であることを考えるとそこら辺の才は有るのかもしれないが、実戦がそう簡単に戦闘放棄することができないということを加味すれば、ともすれば凡才に終わる器であろう。
しかし、長門国特有の陰湿さというか、感情を内に籠めておくようなところがあった。
即ち、その性格は―――幼少期の経験によって作られた人格は―――陰性だった。カラリと笑えず、そうしようとしても苦笑とか、失笑とか、嘲笑とか言う類になってしまうような感じである。
長門国特有の謀略の才と陰性を帯びた性格。国の為に命を捧げる覚悟と、押し込められがちな激情。
有る意味彼も、典型的な長州人だった。
彼を気に入り、度々『陸にこないか』と誘いをかけている山縣有朋もこの同類。陸軍に顔が利くのは彼の才覚も大きいが、典型的な長州人であるといったところも大きいであろう。
「赤羽雷真の性格は知らんが、少し統一性のある戦略を建てようとする脳があるなら騒ぎはおこさんさ」
「……誰もが貴様のように損得貸し借り合理主義で動くわけではないんだぞ?」
「そりゃ長門君。君がそういう類の人種である以上は俺もそんなことはわかってるさ」
長門と言う名前でありながら長州人の典型と類似点が見受けられない旗艦殿の肩に手を置き、心配そうにこちらを見つめる彼女の目を見つめ返す。
透き通るように白い肌に、宝石のように綺麗な紅目。
どこまでも大和撫子な外見でありながら、その中で一つだけ外れたその紅い目がまた、いい。
夜会で戦う以上、彼女を盾として、銃として戦っていく以上、彼女に甘ることは許されない。口説くのも、一年間お預けだ。
だが、こいつは美人だ。美人なのだ。
ただ、そこに居るだけで美しい。戦っているときはもっと美しい。
全身のしなやかな筋肉が躍動し、雌豹のように引き締まった無駄のない身体が、その機能性をいかんなく発揮する様は、見ていて気持ちいいほどだ。
口説きたい。自分の物にしたい。この紅い瞳に自分だけを映してもらいたい。
或いは―――
「だけどまあ、そっちの方が確率的には少ないんだわ」
―――悲しみに、歪めてやりたい。
泣く様はいらない。絶望した様が見てみたい。嘗て自分がそうしたように、絶望の奈落へと身を委ねさせてやりたい。強靭で屈することを知らない意志を奪ってやりたい。
歪んでいるのは、こちらか。
軽く自嘲し、目を逸らす。
絶望の中に居る彼女を救い、自分に依存させたいわけではないのだ。ヒーロー願望などありはしない。
ただ、無性に見てみたいだけで。
見て、楽しむのか?
或いは後悔するのか?
そんなことさえ考えない。先のことすら見えなくていいから、こいつの意志を奪いたい。
常に自分が危うさの中へ落ちそうなときに辛うじて正気の淵へと引きずり戻す―――謂わば、心理的な安全装置である彼女が居なければ、どうなるのが知りたいのか?
わからない。わからないが、落としてみたい。
「大佐」
「うん?」
「………目が澱んでいた。時々そうなるな、貴様は」
惜しかった。今、あと数瞬あったら外道になれたのに。
「人間だれしも傷があり、心が澄み切っているわけではないが、貴様のそれは特に深いな」
「気の所為じゃない?また根拠がない勘とやらがその根拠なんでしょ?」
「……いや」
ちょっとこちらの様子を伺い、首を傾げる。
可愛いなおい。
というか、思考が正常だと普通に可愛いと感じるんだよな、俺。
「……私が見た時はちょっと心配になるくらい目が暗かった。近頃ますます暗くなってきているし……何か悩み事でもあるのか?
私にできることならば何でもするし、原因が私にあるのならば、何がなんでも直す覚悟だ」
悩み事。悩み事ね。
んー、悩み事かぁ……
「悩み事と言うか、質問なんだけど」
「構わない。どこに貴様の危うさを直せる鍵になる可能性があるのかがわからないからな」
非情に真摯な目だ。可愛い。危うさの中にいる俺なら『その真摯さを粉々にしてやりたい』とでも言うんだろうが、生憎今の俺はノーマルな大佐なんでな。可愛いとしか感じないさ。
「お前さ、何で俺をこう……せっせせっせと世話焼いてくれんの?
いや、我ながらめんどくさい奴だし、割りかし気が狂ってる口だからな?」
「……見ていて危ういからだ」
自分で自分を物狂いと言わねばならないこの悲しさに涙しつつ、返ってきた返答に驚きを示す。
示しただけで、先を促しているあたりがちゃっかりしているから……と言うより、気狂いをしていないからだろう。
気狂いしていたら思考がそちらの方に回ってしまうから、駆け引きなどできたもんじゃない。
「昨夜にともすれば砕けそうなほどに脆いような部分が少し見えたから、そう思うのかもしれないが」
……へぇ。案外と鑑定眼はあんのか、こいつ。まぁ、有るに越したことはないんだけどね。
「無礼だとは知っている。馬鹿にしていると言われればそれまでだし、勘違いで終わって欲しいとも、勿論思う。だが………その、私は戦い以外でも貴様の役に立ちたいんだ」
こちらを見る目はどこまで疑っても誠意しかない。
うん、こいつに惚れてるんだけども、やっぱり苦手だわ。少しくらい腹に含んだものがないと、どうも。
頭の先からつま先まで誠意と気遣いしかない女は、苦手なのだ。毒気が抜かれてしまうというか、何というか。
狂気の波も消されたし、話術で騙くらかそうにもどうにも頭が働かん。
「気持ちだけは受け取っておこう。だが、俺に深入りしても得などないよ?」
「得とか、損とかじゃないさ。私が役に立ちたいし、貴様に欠けているところがならば何とかして埋めてやりたいと思っているからするんだ」
ストレートな言い方に面食らい、思わずそっぽを向く。
「相変わらず訳の分からん奴だな、お前」
思わず漏れたのは、本音と照れ隠しのあいのこのような何か。
「訳が分からなくてもいいさ。貴様の不利になるようには働かないから、有る程度の信頼をもらえると嬉しいな」
男前に笑うと、綺麗な足運びで後ろを取る。
この長門めが、天然の癖にいちいちこちらが拒めない風な空気を作り出しやがって……
「天然の癖に……」
「?」
天然の癖に、男を蕩かす仕草を自然に(ここ重要)する。
わざとやったならば、笑い飛ばせる。なぜならその行動には『そうしようとした』意志と『そうしようとした』事実があるから。
だが、自然に―――つまり、その仕草に違和感を持たせずに完璧にやられては何にも言えない。ただほいほいと釣られて行くのみである。
「……意外とがっしりしているんだな」
「軍人だから、そりゃな」
後ろに体重をかけながら、背中に当てられている双丘の感覚を楽しむ。
筋肉がここにもついているかと思いきや、思ったよりも遙かに柔らかい。
「何だ、あれだけ言ってやれることがこれだけ、と言うのもダメだと思うが……私は心理学にはあまり詳しくはないから、貴様がやって欲しそうなことをやってみた」
「……お前さ、馬鹿だろ」
背後を振り向かなくとも何故かわかってしまう。
こいつ、今ドヤ顔で言い放ちやがったな、と。
「……私も、な?」
「はい?」
「正直恥ずかしいし、馬鹿だと思っている。未婚の女としてはあるまじきことだということも、な。
だが、私の頭ではこれしか他に思いつかなかったし、私は何というか……貴様に甘えられるのが嫌いではないのだ」
馬鹿じゃないのに、ああ長門よ。なぜあなたはそんなにも抜けているのですか?
というかお前、いつにも増して体温高いな。
「何よりも、貴様は見ていて危ういんだ。荷を誰かに背負ってもらうことを知っていないから、少し異常な量の仕事をこなすだろう?」
「ああ」
「そして休まず徹夜で働いた末に身体を壊す」
ぐうの音も出ないとはこのことか。
「いずれ死ぬか、壊れるぞ」
何回も何回も。刷り込み教育のように繰り返し繰り返し言われ続ける決まり文句に辟易し、されど正論と善意には抗うことはできずに、ただただ目をつむってやり過ごす。
「寝たのか?」
返答はない。軽く頬をつねってみても、何も返ってはこなかった。
「寝るのはいいことだ。惰眠を貪るという言葉もあるが、貴様にはそのくらいが丁度いいのだからな」
真面目の権化で働け働けとうるさそうなお前がそれを言うか、と。
何時の間にか膝に乗っけられていた頭を軽くずらしながら、思う。
ああ、単位とってるって最高だな。視覚の一部は教室に向かわせてるから授業を聞きのがすということもないし。
頭の中で新兵器の案を考えつつ、身体はゆっくりと休みだした。
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