ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
天津風「ドーモ」
陸奥「ドーモ」
長門が来ない。長門が来ない。(e-1突破しました)
長門が来ない。長門が来ない。(丙で天津風と陸奥と阿賀野と明石と能代と初風と浜風が落ちました)
掘ろうにも掘れないから建造で狙ってみているが……5時間が着任以来出てねえからな……
さて、見に行くか、と。
そう大佐は切り出した。
「何を?」と返すのは簡単だが、それでは頭がついている意味がない。
「―――陸のが、何か引き起こしたのか?」
内容まではわからないし、わかりようがない。昨日の夕暮れ時、トータス寮の前を箒で掃いているときに顔を合わせ、軽く会釈した程度の面識しかないし、与えられている情報もあまりに寡少だ。一目見た限りでは機敏で快活そうな、つまり明快ながらもどこか裏と陰があるような大佐とは真逆の印象を受けたに過ぎない。
その少ない情報と無駄のないタイミングでの初顔合わせといったようなものを大佐が狙っているのだとしたら、何事かが起きたに相違ない。なにせ彼は一行動で二兎も三兎も追う男なのだから。
「ああ、そうだ」
全校生徒の下から二番目という素晴らしい成績を叩き出した同輩との協力関係を築くということを一旦切り捨てたはずのこの男は、その劣等生がこれからやろうとしていること、その解へとたどり着いていた。
少なくとも(編入試験の場合にはもうけられないが、中間期末には実力試験もあるため『少なくとも』)100位以内に入らなければ夜会には参加することができない。
だがしかし、その上位100位以下の劣等生に有資格者たる『手袋持ち』が敗れるようなことがあったら?
「上位十三人(ラウンズ)が一角、『君臨せし暴虐(タイラントレックス)』シャルロット・ブリュー嬢へ挑戦するつもりらしい。さっさと勝って参加して、いい感じに活躍してもらっていただこうか。駒は多いことに越したことはないからね」
赤羽雷真は焦っていた。
彼には自分の持つ自動人形が世界最高の性能を持つという確信はあったものの、敵の実力を見て判断する力に欠けていた。
『君臨せし暴虐』シャルロット・ブリューは、強い。ラウンズに入っているだけあって実力も知識も備えているし、何よりも彼女の操る竜型自動人形・シグムントの内包する魔術回路『グラム』が強力だった。
形あるもの全てを消し飛ばし、生成する『魔剣(グラム)』の魔術回路。宇宙の心理にも関わっているとすら謳われるその古代以来の秘術は伊達ではない。付け入る隙といったものも見とれず、自分のような下位生に対しても一切手を抜くことはなかった。
自らの戦闘スタイルである術者―――すなわち自分自身―――と彼の自動人形である夜々とで格闘戦を仕掛けるといった型が早速実施できなかったこと。
それに伴い戦闘動作が単調になったこと。
彼の自動人形、夜々の魔術回路は『金剛力』。自己領域内の単子を超高度物質化することで、筋力を数千倍まで高め強靭な身体と強大な膂力を生み出すという、単純ながら奥が深い、如何にも玄人好みの魔術回路であった。
だがしかし、『魔剣』とは致命的なまでに相性が悪い。
防御力を高めようが「形ある物すべてを消し去る」という性質を持つ『魔剣』には意味がない。
硬化によって上がった攻撃力もまた、空を飛ばれては当てようがない。
攻撃をする時に降下してくる癖がなかったならば、文字通り手の打ちようがなかっただろう。
数度の攻撃を回避してのち―――魔術回路の性能は知らなかったが、彼は天性の直感によってあれを食らったら拙いとわかっていた―――読んだ攻撃パターンのもとに攻勢に出るべく、魔術回路を励起させる。
低空飛行を続けながらこちらを睥睨する竜に視線を戻し、傍らに立つ夜々と視線を合わせる。
以心伝心。血の滲むような努力の末に得た力であり、自分の掛け替えのないパートナー。
そのパートナーから伝わってくる無言の信頼に後押しされながら、赤羽雷真は空を支配する敵に視線を向けた。
八メートルもあろうかという巨体が旋回し、その口がひらかれる。
時が緩やかに流れ落ちていく。そんな感覚が身体を包んだ、その瞬間。
こちらへと凄まじい速さで飛来してくる巨竜の身体を、横っ腹から隕石の如き衝撃が襲った。
何が起こったのかすらわからぬまま、巨竜は地へと叩きつけられる。
撃ち抜かれたのは、四枚の翼の内の二枚。爆風でその機能性を損失したのが一枚。
急降下に向けて翼を折りたたんだ瞬間に狙撃されるという、謂わば誰であろうと考えられない不運に見舞われたシグムントと『君臨せし暴虐』は真っ逆さまに落ちていく。
赤羽雷真のホームグラウンドである、地上へと。
「ナイススナイプ」
「児戯に等しいさ、あんなもの」
大佐が立てた正確無比な予測に乗っかる形で14㎝単装砲による狙撃を成功させた長門は、自分の腕を誇るでもなくただただ淡々と観測を続ける。
不意打ちという形になったが、彼女に不意を打ったり打たれたりすることへの罪悪感などは微塵もない。
戦艦長門は当然ながら戦艦である。唐突に横から砲撃されても「索敵不注意」で片付けられ、如何にして敵を先に見つけて撃沈させしめるかを考えるのが戦場における観戦というものであり、それは彼女とて例外ではなかった。
日本海軍の得意技が「夜襲」な時点で察せられることであるが。
「『副砲で、翼を砲撃する』ということで良かったのか?」
「そ。主砲は封印中だからそれでよろしいのだよ、長門君。
翼を奪ったのはあくまでもこの戦いの主役が陸のであり、俺たちではないから。援護にはいい塩梅だし、そもそも俺たちが『君臨せし暴虐』―――六位殿を撃破してしまっては陸のは夜会への参戦権限が得られないからね」
隣に浮かぶ「目」と呼ばれる自動人形、その分体に声をかけ、指示されたことを全うした旨を告げる。
返ってきた
「勝負に水をさされては素直に勝利を喜べない気もするが……いつもいつも正々堂々の正面対決ばかりというわけにもいかない。そこらへんを容れられる男であればいいな」
「俺だったらこれ幸いと止めを刺すけど、みんながみんな利己主義ではないだろうしなあ……ま、六位殿は頭に血が昇り易く、陸のとは真正面からの戦いは避けるべきだとわかっただけでも僥倖だ」
わざわざ光線やらなにやらが飛び交う戦場に派遣され、持ち前のクソ度胸と精神的修練の成果か、眉一つ動かさずに戦闘経過とそれぞれが抱いているであろう思惑に対する考察やらなにやらとそれに伴う戦闘スタイルからの性格診断も兼ねてやってのけた長門に労いの言葉をかけようと大佐が一旦押し黙った瞬間、長門が少し不満げに口を開いた。
「私は勝てると思うのだが」
「何?」
「私は陸のの……赤羽雷真の自動人形に勝てる」
珍しく反抗した長門の様子に口をつぐみ、はて、と首をかしげる。
いつもは諫言、今回は意地、ないしは傷心。大佐にはこの反応の意味が分からないし、いつもとの違いも分かりはしない。
「そうか?」
「そうだ」
ピシャリと言い捨て、少し不満げな雰囲気をまといながら口をへの字形へと変える。
陸のの自動人形は天下の人形師、花柳斎硝子が製作した三部作、『雪月花』の内の『月』の夜々。戦艦一隻分もの金を投資して作られた超のつくほどの高級品。
かかっている金では負けはしないし、性能でも負ける気はしない。人格は兎も角、世界最高の人形師に作られたという自負もある。
その自負に恥じないように、その誇りを汚さないために。彼女は身体を苛め抜いた。
後付けの装備だけではなく、最高クラスの性能だけではなく。
「私は貴様の最高傑作なんだろう?」
「ま、ね」
性能だけなら大和型の二隻に負けた。建造中の信濃にも、多分負ける。空母であれ何であれ、自分の製造費を超える予算さえつけてもらえたならば後期型の艦の方が性能的には勝つに決まっているのだ。
今までは予算だったり艦種の違いだったりで辛うじて自分を超える性能の艦は居なかった。
扶桑・山城からなる扶桑型戦艦、伊勢・日向からなる伊勢型戦艦は設計されてから『セトの原核』を設置しただけで、金剛・比叡・榛名・霧島ら金剛型戦艦は竣工早々高速戦艦へと改造された挙句に『セトの原核』によって全く別の艦へと変貌したからある意味全てが彼の手によって作られたわけではない。最初から鳴物入りで迎え入れられた大佐であったがその頃はロクに顧みられもしていなかった。故に、予算もあまり付かなかった。
本格的に(つまり陸軍における花柳斎硝子のように人形師一人に莫大な建造費の裁量を任せる、といったような)予算が付くようになったのは大和型の建造指令が出された頃だった覚えがある。
最後までしつこく「鋼材と燃料と金の無駄。戦艦ならもう足りてる」と建造には反対していたのだが、進化型空母である翔鶴型の建造計画とある程度の首切り権限を引き換えに渋々承認……というか、引き受けたのだ。
見ず知らずの天才より、身近でこんなふうに苦労しながらも寝る間を惜しんでせっせと頑張っている大佐の方を(まあ、彼も天才ではあるが)正直なところ、贔屓してしまうのは当然なところだろう。
自分には感情というものが『搭載されている』のだから。
彼曰くより高度な自律行動をもたらすため……らしいが、本当のところはわからない。
つまり、やる気とかそういったもので案外と身体能力とか、砲撃の精密性とかが変わったりする。
何故、不確定を嫌う彼がそんな不確定要素を埋め込んだのかもわからない。
だがしかし、この場合は有利に働いた。
「なら、負ける気は毛頭ないさ」
誰にも彼にも、大和にさえも。決意をにじませ、前を向く。
「さて、長門君」
「ああ、大佐」
眼前には、無粋な乱入者によって更なる追撃を受け、地面に叩きつけられた竜型自動人形―――シグムントの姿。
「来るかもしれないと懸念されていた不確定要素の処理は現場の仕事だ。頼んだよ」
「任せろ」
数の差などは問題にならない。
あたかも小隊の如き編成を見せる10人の乱入者を潰すべく、戦艦長門は新たな敵にその砲を向けた。
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