ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
(敵の構成は)
切込み役らしき騎士型、盾役と拘束役を兼ねたようなゴーレム型、空戦用らしき鳥人型、変則的な戦い方を生み出す為であろう水の乙女の如き自動人形。
索敵用の犬型、後方支援用の弓使い型、槍を持っている中近距離型。それに、白い魔導士のような風貌の自動人形。
鉄球のような武器を振り回し、シグムントへ追撃の一撃を与えた自動人形は赤羽雷真が食い止めている。
即ち―――
(一度に相手にする敵の数は4から5。いけるな)
白い魔導士が一体何の役割なのかは気になるが、敵に関しての情報などはわからないのが普通。今更気にすることではない。
スッ、と滑らかな歩法で前へと出て、艤装に備え付けられた四門をフレキシブルに動かす。
照準などは、確認せずとも定められた。
「すまないな」
ほんの一秒にも満たない一瞬、目を瞑る。自分の放つ弾が直撃すれば、その自動人形は機能を停止する。再起不能になることは請け負いだし、こちらとしてもそのつもりでやる。
戦いにはマナーが必要だ。捕虜にはできうる限りの高待遇をしなければならないし、民間人には銃を向けない。略奪などは以ての外だ。
しかし、敵に対して甘さはいらない。撃ったら敵は死ぬ。だが、撃たなければ自分が死ぬのだから。
甘さと情けは違う。それは例えば、善意と余計な行動ほどの差違があるのだ。
誰の目にも止まらぬほどの瞬間速度を出せるにも拘らず、彼女は敢えて視認できる程度(これでも一般の艦砲射撃の弾速よりは速いのだが)の速度を以て砲弾を撃ち出す。
装填、照準、発射。幾度となく繰り返してきたその動作は寸分の狂いもなく、敵の胴から上を消し飛ばした。
「は?」
蝋を溶かすように容易く上半身が消え去った自身の自動人形を見、何が起こったのかわからないとばかりに目を丸くする操者(人形使い、ともいう)を一瞥し、新たな標敵を射線上に誘う。
一撃四殺。近接戦闘型の自動人形とその背後にいた後衛二体を消し飛ばし、腰に纏った艤装とは別な砲を肩に背負ったような構えを取る。
未だ届かぬ『ソレ』の照準が終わり、射撃準備をも終えたその瞬間。
「連装高角砲。これもこれとて消音仕様だから気兼ねなくぶっ放せ」
来ることはわかっていた。彼の判断能力ならば第一線の掃討が終了した時点で残る敵の認識を終えるから、必然的に対空戦の装備へと換装するだろう、と。
ズシリと来るのは信頼の証。自分の信頼に応えてもらい、彼の計算通りに戦いを進め、その信に報いた証拠。
空に舞う鳥人型を一射で落とし、白い魔導士型に向けて右手を突き出す。
「ご注文の連装砲だ」
指の働きを損なうことなく両腕に備え付けられたのは、35.6cm連装砲。一般的な戦艦の主砲である。
装備された時点で艦娘用の艤装となり、少々コンパクトになる代償として威力が落ちるが―――
「充分だ」
細い魔導士型の身体を徹底的に壊しつくす分には充分すぎるほどの戦力だった。
魔力で生成された砲弾を受けた身体のパーツが粉微塵に吹っ飛んでいき、遂には原型をなくすまでに至った白魔導士の内包する魔術回路は、『修復』。一度も使われなかったが、半壊までなら自動人形が負った損傷を数秒と経たずに直すことのできる強力な魔術回路である。
「何なんだ、お前は!?」
声に振り向き、正面に迫るは、雪の巨人。
「艦種は戦艦、艦名は長門だ」
通じぬ言語で答えた自分の迂闊さに嘆息しつつ、迫る脅威を前から見据え、動作を追う。
遥か上に見える肩の機巧が動き、左腕が力を持った。
見た光景が少し、ずれる。
刻一刻と動く巨腕。まともに食らえばこの細い身体などは砕け散ってしまいそうなほど大きく、強固なのだろう。
身体をほんの少し、動かした。具体的に言えば自分の頭目掛けて繰り出された拳の狙いを外し、右肩部分へと狙いを変更させる程度の行動である。
反射、というか、生存本能のような何かでギリギリよけることができたのだと言い訳できる程度の回避行動。
その僅かな抵抗を意に介すことなく、華奢な身体を叩き潰さんとばかりに拳が叩きつけられ――――――些細な回避を意に介さず剛拳で捉えたはずの肩が、ずぶりと下方へ沈み込んだ。
水面に浮く木の葉に触れようとしたかのように、叩きつけられた拳は目標を捉えあぐねて下方へ下方へと沈んでいく。
無論、本当に肩が沈んでいっているわけではない。力加減を緻密に調整していくことでその様に感じさせているだけである。しかし、相手のゴーレム型自動人形は少なくともそう感じていた。
そして、自然とゴーレム型自動人形は確実に敵の身体を捉えるために動く。彼には自律行動できるほどの性能はない。だが、現場の微細な判断くらいは下せる程度の知能はあった。
更なる深みに手を伸ばし、籠める力を増幅させ、自然と無理な体勢を作った。
長門の一連の動作によって、作らされた。
(かかった)
周りにそれとばれるような体術は禁止。ならばばれなければ使ってよいということ。
暗黙の内に秘められた気遣いに感謝し、仕上げに入る。
――――――体術も剣術も力学とか心理学だろ?
――――――禅剣一如なんざくだらん。理屈の理もない今のお前にゃ俺ですら勝てるわ、アホ。
あっさり投げられ打たれ叩きつけられ、文字通り手も足も出なかった過去を踏みしめ、やられたことを理解し、習得する。
それだけしかできない。しかし、それさえこなせば、一歩一歩進んでいける。
巨人は無様に地面にこけるようにして崩れ落ち、その後起き上がる間も与えられることなく分厚い装甲を徹甲弾が穿ち、内部で大爆発を起こす。
爆炎の中、無傷で居た彼女を見つめる視線は、羨望か、或いは警戒か。少なくとも、彼女が気にすることではないことは確かだった。
周りから向けられる視線に対する処置とか対策とかは大佐の管轄だし、謀略とかをおもに仕掛ける側の彼ならばよこしまな考えなどは見破り、逆に嵌めてしまうだろう。自分のやることは最後の最後の実力行使だけ。
「ほう」
赤羽雷真が見事な手並みで鉄球使いとその他を圧倒しているところを見、少し笑む。
「大佐、二年前の貴様のような手並みじゃないか」
「そだね」
密かに要塞化した自室に引き篭もっている大佐に分体を通じて話しかけ、懐かしいものを見るように目を細めた。
二年前。大佐は体術に凝っていた。発端となった理由は至極くだらないもので、要は嫉妬である。
体術は何を使いますか。
身体です。
教える方法は何ですか。
身体接触を含む近接戦闘。
身体接触を、含む、『近接』、戦闘。
彼はまず、ここでキレた。
男の嫉妬は醜い。執念もまた、醜い。才能に飽かした滅茶苦茶な修練で指導資格を(殆ど規則を無視して無理矢理に)得、あの手この手で押しとどめていた長門にこう言った。
『この俺が教えるから、道場には行くな』
素直な長門を言い包め、一切の身体接触を生むことなく理屈と直接指導で長門を何とかかんとかして達人に仕立て上げ、ふと振り返ってみれば。
―――馬鹿か。
ということになった。
第一に、国のためにならない。いや、全ての行動が国のために行われたわけではないが、正直時間を使いすぎた。柔道―――それに付随してやってみた剣術も―――大して大事ではない。護身などは長門が(頼めば不眠不休で)やってくれるし、海の上で何の役に立つというのか。
『俺はひょっとしてこいつがからむと馬鹿になるのではないか?』
自分の頭に自信を持ちすぎるほどに持ちすぎていた大佐の、初めての自問自答であり、そして同時に初めての問題放棄だった。
「もうさ、触れないでくれよ」
「?」
「若気の至りなんだ……」
あまりに無邪気に頑張るもんだから積極的攻勢に出ることもできず、かと言って放り出すわけにもいかず。
黒歴史に鬱々し、長門がらみの判断能力の欠如が身に染みる。かと言って手放したくないし、理性的にはあまりよろしくない状況だとわかっている。
どうしたもんかと思考を巡らせた、その時。
「おい、あんた」
『陸の』こと、赤羽雷真が声をかけた。
長門に。
長門に。
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