ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
大日本帝国には、『長門』と『陸奥』。
大英帝国には、『ネルソン』と『ロドネー』。
アメリカには、『コロラド』と『メリーランド』と『ウエストバージニア』。
世界的な海軍の軍縮によって生まれた環境下において最強を誇る七隻は、『ビッグセブン』と呼ばれた。これらの艦は『とある技術者』が開発した、イブの心臓に次ぐ新たなる機巧核『セトの原核』を使用している。
『セトの原核』はイブの心臓と違って複製もできないほどに緻密であり、一般向けに対する大量生産には向かない。謂わばどちらかといえば使いにくい部類に入る発明品である。
しかし、とある特性を以てイブの心臓に優越していた。その優位には、とある魔術における絶対法則が背景としてある。
『魔活性不協和の原理』。機巧物理学の基礎概念であり、端的にいえば異なる二種の魔術回路は同一のボディに存在できないということである。これは現時点でもそれは解消されていない。
これまではこの絶対法則にあらがうことができたのはただ一つ、イブの心臓だけだった。そして、イブの心臓を以てしても同時に搭載できる魔術回路は『二つ』。自動人形の自律行動による人間の反応速度を超えた高速戦闘を行うために、自律回路を一つ。
あとの一つに如何に工夫を凝らした魔術回路を仕込むかというのがそれまでの人形師たちの思考の対象だった。如何に高性能且つ量産可能な魔術回路を開発し、国に認められてその名を世界に轟かすのか。その過程には様々な創意工夫があり、技術の数だけの苦悩があった。
何せ、一つの自動人形に一つしか搭載できないのだ。軍の次期主力モデルに選ばれるにせよ、夜会でその力を振るうにせよ、その魔術回路一つでどんな状況でも対応できるようにしなければならない。この制約を受けた人形師たちは自然と二つの派閥に分かれた。
一つは、万能派。どんな状況にも対応できるという『理想』を求めた開発者たちがこれに属した。
この派閥の欠点は、結果が出るまでに時間がかかることである。
常に他の技術者たちは新たな魔術回路を開発する。
雨後の竹の子のごとく現れるそれらの対策に奔走するあまり、本来のコンセプトから離れてしまったり、発表からわずか数ヵ月で対応できない新たな魔術回路が開発されたりと、機巧魔術が進歩したーーーつまり、新たな魔術回路の開発が容易となった今ではかなり不遇を囲っている。
しかし、歴史上で大きな業績、戦績を残した自動人形は軒並みこれに属するため、不遇不遇とは言われても未だに根強い人気がある。
もう一つの派閥は、特化派。ある特定の場所での運用に特化させることによって『自分の得意とするフィールドでは』絶対に負けない、という風な魔術回路を量産化することで現在主流となっている派閥である。
機巧大国の英国がこの派閥に属する人形師の製作した自動人形を軍に採用したため、各国の軍隊は陸海問わずこれらの特化型を先を争うように採用、優秀な人形師を自国のものとした。
花柳斎はどちらともいけるタイプだが、どちらかといえば圧倒的な性能に裏打ちされた万能型を作る確率の方がたかい。雪月花三部作の一号機、雪のいろりと件の朧富士がその『高性能故に万能』に分類され、『月』の夜々と『花』の小紫が特化型に該当する。
ところが、この『セトの原核』はいとも容易くその制約を超えた。特化に更なる特化をーーー例を挙げるならば陸戦特化に海戦特化の魔術回路を組み合わせることが可能となったのだ。
世界はこの知らせを受けた瞬間、まず一様に失笑した。先にそのようなことを言い、結果的には虚偽の報告だったというような事件が起こっていたからである。
ーーーあり得ない。
これが世界の一致した感想だった。
戦艦長門が実際にやってのけるまでは。
彼女はデモンストレーション用の身体水化の魔術回路と気候操作の魔術回路を同時にやってのけ、製作者の名を誇らしげに明かした。
「私を作ったのはーーー」
明かしたその名に、全世界は注目した。その渦中にあった日本は鈍かったが。
そのときからである。
「ながもん、外国でおちおち出歩くことすらままならないこの現状、誰が作り出したんだっけか?」
「……私だ」
狙撃銃の弾を片手の甲で叩き落とし、独特のエフェクトを発生させながら硬いはずの弾丸を粉微塵に粉砕。
あきらかに常人以上の力を見せながらもその身体を罪の意識に俯かせ、戦艦長門は少し……否、相当すまなそうに口を開いた。
「予想していなかった、ということで許されることではないが……本当に、あの頃の私には配慮が欠けていた。まだまだひよっこだった、というのが正しいのだろうが」
あくまでも謹直に。悪びれもせず開き直りもせず、ただただ謝意を前面に押し出すような長門の反応に満足する。
やられる方はたまったものではないだろうが、こちらとしては非常に面白いのだ。趣味が悪いことに関しては……まあ、自覚している。反省や後悔はいっさいないが。
「というか、『ながもん』とは何だ?」
私の名は長門なのだが。そういわんばかりに顔をしかめ、こちらの翻意を促すように顔を覗き込む。
相変わらずの美人顔である。釣り目気味なのに気性が荒くないという稀有な性格ながら、もう一つの特徴であるところの気の強さは余すところなく受け継いで?いる。
釣り目は気が強い、かつ性格がキツイ。
この世の中にはこのような法則があるようだが、長門には当てはまらないようである。
因みに、キツイと気が強いは似ているようでいて多いに違う。天と地ほど、とまでは言わないが、長門と磯風ほどに違いがある。つまるところはそういうことだ。
「ながもんは……」
ながもんは、そうだな。ながもんは…
今までの思考を一段落させ、目の前にいる長門の質問に答えるべく頭を回す。
さて、どうやって答えるべきだろうか。
「ながもんは?」
「抜けてる長門のことだな」
へたれた長門はヘタレながもん。少女趣味の長門はメッキが剥がれたながもんだから、厳密に言えばながもんの定義とは『普段が冷静沈着な態度を保っている癖して抜けてる長門』ということでいいはずだ。解釈は人それぞれだが、俺の解釈はこんな感じであるからして。
「なるほど、確かにかつての私は『ながもん』だ。しかし今は違ーーー」
「幽霊相手にへたれた癖に……」
一生引き釣り続けられる持ち札を見せ、長門の主張を完封する。ヘタレながもんは可愛いが、なまじっか火力を持っているから質が悪い。へたれた挙げ句に猛反撃を開始する辺りが特に。
「この長門、一生の不覚……!」
「お前の一生に何回一生の不覚はあるんだろうな、ながもん」
「長門だ」
学園の門をくぐり、一路風紀執行部の部室へと進む。
大佐が先行し、長門が注意しつつ追従するいつものスタイルで彼らが向かうのはフェリクス・キングフォートの執務室。
現在もっとも有力な同盟者候補である。