ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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南雲機動部隊揃いました。長かった……


嫌悪

「ほぉ、中々陸のもやるみたいだね」

 

『白い幻霧』。『魔術喰い』が収集した42の魔術回路の内の、切り札とでも言うべきものである。

 

能力は身体そのものを万物を腐食させる毒霧へと変化させること。これに対抗しようにも術者の身体は霧であり、光線も物理攻撃も効きはしない。

 

流体を操る、或いは流体そのものになる魔術回路はさほど珍しいものではない。しかし、いざ使われると厄介なことに変わりはない。

 

言わば、王道にして邪道とでもいうべきだろうか。

 

「……流体か」

 

戦艦長門の攻撃は基本的には物理攻撃に分類されるものが多い。優勢な火力で敵を圧倒、その身体を粉微塵に粉砕する、といったような戦い方が彼女の望むところであり、この戦い方ーーーつまり真っ向からの殴り合いーーーが実践できる相手ならば、まず彼女の敵にはなり得ないだろう。

しかしながら、流体ではキツい。勝ちの目が『敵の人形使いの魔力が尽きるまで耐える』というものしかなくなってしまう。

 

「なるほど、しかしながらあれはキングスフォート伯の判断ミスだな」

 

「?」

 

「流体系の魔術回路を詰んでる機体には特殊な加工がしてあるもんなんだよ。たとえば『身体を構成する流体の質量のみを以て機体と判断する』みたいな」

 

嘗て机上の空論だとか、骨董品のみの代物だとか言われていた流体系の自動人形。

現在に至るまで強力な一形態として存在してきたこの分類が何故『机上の空論』のようなそしりを受けていたかといえば、それは単純なことである。

 

体内に対戦相手の一部を取り込んでしまい、二種の魔術が共存してしまうからだ。

『魔活性不協和の原理』。一つの機体に二つの魔術は共存できないという世界共通の認識であったこの原理が働き、『イブの心臓』と『取り込んだ魔術回路』双方の活動を乱す。

そうなったならばどうなるか。

 

流体化もできず、なにも出来ないデクが生まれる。

 

その致命的欠陥を補う形で生まれたのが、自身の肉体を固定し、不純物の侵入を防ぐ機体だった。古人の遺産を解析して作られたこの機体が発明されることによって、流体系自動人形は生まれた。

 

「まあ、皆はこんなこと知らないから仕方ないけど、この勝負は伯の敗けだね」

 

「博識なものだな、貴様は」

 

「まあ、技師だからね」

 

ちょっと感心したようにこちらを見る長門のプラス方面の視線を受け止め、軽く胸を張る。

長門が向けてくれる視線が心地いいな。

 

そんないつぞや以来の感覚を楽しみながら、眼下の光景に目を凝らす。

 

「頑張っているな、彼は」

 

「そうだねぇ」

 

腰の左側に吊っているカードケースを取り、カパリと開く。

いつもなら状況に応じたカードが引きたい時に引けるんだけど、今回に関しては正規空母やら戦艦やらを呼び出すかもしれないから一応呼び出す艦娘の様子を見てからじゃないと普通に『引いても使うに使えない』という状態になりかねない。

 

金剛…『就寝中』

 

比叡…『就寝中』

 

榛名…『就寝中』

 

霧島…『就寝中』

 

イギリスに居て、簡単に呼び出して簡単に帰宅させられる高速戦艦群が軒並み使用不可。川の字で…というよりは四人並んで寝ている光景が目に浮かぶようだ。

 

「……勝手に呼び出しても訓練に影響しないのは空母連中、か」

 

もう完璧に大半の軍人からは厄介者扱いを受けてるわけだから、呼び出されても全く問題はない。はっきり言って、加賀・赤城・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴の六隻は現状フリーな状況だからな。

 

八八艦隊計画そのものが大幅に改変されて、一番艦が長門(戦艦)、二番艦が陸奥(戦艦)、三番艦が加賀(航空母艦)、四番艦が土佐(戦艦)、五番艦が天城(戦艦)、六番艦は赤城(航空母艦)、七番艦が大和(戦艦)、八番艦が武蔵(戦艦)、九番艦が信濃(航空母艦)、十番艦が蒼龍(航空母艦)、十一番艦が飛龍(航空母艦)、十二番艦が翔鶴(航空母艦)、十三番艦が瑞鶴(航空母艦)。残りを筑波(戦艦)、鞍馬(航空母艦)、河内(戦艦)の旧型戦艦の素材を流用して半ば改装して終了。

後の戦力増強には金剛型とか扶桑型とか伊勢型とかを改造したりして間に合わせたからそれ以語は軍縮条約に批准して旧型戦艦の武装を解除させたり解体したり新規開発の兵器の標的艦にしたりしていたからそれ以上の軍拡はなし。そのせいでおもに今は兵器開発に全力を注ぐことができているわけで。

 

しかし、だ。その暇してる集団たる空母群の中にも、約一名地雷がいる。

 

赤城はまあ、いい。翔鶴ら五航戦も、蒼龍ら二航戦も、いい。そこそこ良好な関係を築くことに成功している。

 

 

地雷こと加賀さん以外は。

 

 

というか、今までの俺の言動を考えてみてほしい。上官殿には尊敬しているが故にかろうじて敬語だが、人名は基本的に『本名プラス階級』、呼び捨て。赤羽雷真なんかは『陸の』。夜戦のランカーたちに対してはからかい混じりの『順位プラス殿』。長門に至ってはただの長門orながもんである。

 

その俺が、さん付け。もうなんか、凄まじい異常事態だとわかっていただけただろうか。

 

赤城…『食事中』

 

ダメだ、安定の頼りにならなさ。

 

蒼龍…『航行中』

 

飛龍…『航行中』

 

二航戦は多聞丸と演習中、安定の真面目っぷり。しかしこれは現在において最悪である。

 

翔鶴…『入渠中』

 

安定。安定の不幸っぷりだ。むしろ予定調和とすらいえる。

 

瑞鶴…『改装中』

 

 

「おわった、な」

 

「何がだ?」

 

これからどうせ空母も呼び出すことになるだろうから初戦にも参加させ、ついでに伯にも紹介するつもりだったのだが。

 

「何だ、加賀がいるじゃないか」

 

手元に広げたカードをチラリと見、事もなげにそう呟いた長門は、『あいつは頼りになるぞ』といわんばかりの顔をしている、が。

 

「加賀さんはほら、こう…個人的に罪悪感じみた感情があってね」

 

開口一番が『何故私だけが戦艦になれなかったのか、説明してほしいのだけれど』だから、正直なところ個人的に腰が引ける相手である。多分、あまた居る艦娘の中でトップクラスに苦手としているといっても過言ではないだろう。

 

「ああ、確かに加賀は貴様に不満の意を抱いていたな」

 

「『いた』んじゃなくて『いる』んだよ」

 

「そうか?」

 

加賀さんとの気まずい関係はそれこそまさに『出会った時から』続いているわけだが、その気まずさを加速させる出来事があった。

数年前の大演習ことである。

 

そこで俺は二隻の空母の指揮をすることになったのだ。一介の佐官に預けられる戦力としては過剰もいいところだし、少佐といえばまだまだ下っ端。駆逐艦の艦長にすらなれるかどうか怪しいといったところである。

それが、空母二隻。常識から考えればあり得ないが、それだけ空母が不確かな戦力として数えられていたということ、それにこの二隻の空母が竣工したてであり、まだ誰も運用法を確立していなかったことがこの『あり得ない』判断の根幹にあったことは間違いない。

 

まあ何にせよ。俺は加賀と赤城という空母二隻の指揮権を一時的に与えられることになったのだが、そこでうまいこと使いこなしてやれなかったのだ。

 

挙げた戦果は重巡三隻の大破判定に、戦艦一隻の中破判定、駆逐艦四隻の轟沈判定。こちらは加賀が中破判定、赤城が安定と信頼の大破判定。

最早芸術的な負け方だとすらいえる。何故これからの時代を担っていくであろう艦種を預けられてこの程度の戦果しか挙げられないのだろうか。

空母二隻の俺を見る視線が痛かった、あの夏。俺は二度と艦隊を指揮したくないと思ったのであった。

 

「私からすれば貴様が一方的に苦手意識を持っているように見えるのだが」

 

「お前の人物鑑定眼も衰えたな、長門。赤城は人格者だから例外だが、加賀さんは常識的な判断能力を持ち合わせてんの。嫌われてることに何の疑いも差し挟む余地もないの」

 

もしもの時……つまりは伯が戦艦ネルソンを使用した時の切り札として、或いは示威行動の為。

現在どこの泊地、または鎮守府にいるやらわからない正規空母を呼び出す準備を整え、俺は姿を現した。




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