ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
後、ボーキ消費がマッハになりました。
「伯、これ以上の抵抗はやめておいたほうがよいと考えますが」
「そうかな?」
視線が交錯し、背後にある戦力と戦力の読み合いが発生する。
戦艦長門と戦艦ネルソン。ともに国家の顔にして、世界屈指の戦力である。
戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦。保有トン数が制限されている今、もはや彼女らの戦いの背景には重大な責任が伴う。一つ、ないしは二つしかない材料『セトの原核』を使用している以上、その機体には国家の技術の粋を尽くしているのが当然だと考えられるのだから、夜会などという公開の場で負けてしまっては国家の持てる技術力そのものに疑いの目が向けられてしまいかねないだろう。
強いことには強いが、無茶な運用は控えなければならず、場外で負けて学んでの試行錯誤ができない。軍用機である以上、夜会参加者の使う新魔術回路を搭載した実験機体や他国の軍用機のプロトタイプに負けるわけにはいかない。
文字通り国の威信を背負っている以上、どうしても運用にはリスクが発生してしまうのだ。
「君と戦うことで、僕には得られるものもあるんだけど」
当然ながら、竣工仕立ての彼女らビッグセブンには実戦経験はない。
戦争に参加することで可能となる実戦における性能チェックや他のビッグセブンとの性能の比較が無理ならば、同格の相手―――つまりは自国戦艦と演習を行えばいい。そうすればある程度の改善点が浮上してくる。魔術回路の欠点や、『セトの原核』という自律回路に加えて二つの魔術回路を積める新たな装置に対しての有効活用法など、まだまだ生まれたばかりのこの新たな戦力には直すべき点があるのだ。
「では、やりますか?」
「そうさせてもらおうかな」
にこやかな笑みを崩さずにそう言った瞬間、伯の背後の木々が引き倒されるようにざわめいた。
姿を現したのは、戦艦ネルソン。英雄の名を受け継ぐイギリスの最新鋭の軍艦である。
「……仕方ない、か」
「そんなことを言うな、大佐」
やる気が限りなくゼロに近い大佐と相反するように、やけにワクワクしたような顔を隠そうともしないながもんが、ここにいた。
「ひさしぶり……ッ!ひさしぶりのまともな戦いだ…」
「脳筋やな……」
ポツリとこぼし、一歩下がる。
最早全てを諦めた顔の大佐に、打てる手などはあまりない。わりかし長門は強情なのである。
つまり、このいざ尋常な勝負に口や手は出せない。出したらちょっとした非難の視線を浴びることになる。それは大佐としては避けたいのだ。
「もう、好きにやれ……」
「了解した……!」
怒れる41cm砲。一端スイッチの入った彼女を止める者は、何もない。
「戦艦長門だ」
片方を抑えきれない至福を堪えるように。
「戦艦ネルソン」
もう片方は怜悧な職務上の面を崩すことなく。
「主命です、その艤装を打ち砕かせていただきます」
「あぁ、いいぞ」
薄い装甲に覆われた腕を軽く振り、獰猛な笑みを見せる。
完全に、堂に入った構えだった。
右拳を前に突き出すように構え、左拳を顎のあたりにまで上げる。ただそれだけの動作に、戦艦ネルソンは圧倒された。
「戦艦同士の殴り合い、か……」
前へと滑るような足運びを見せ、開いた間合いを瞬時に詰める。
「胸が熱いな……!」
言葉と共に拳が炸裂。顎を完璧に捉えたかのように見えた一撃は、六角形の集合体のような壁に阻まれた。
なるほど、と。得心したかのような長門の顔にめがけ、ネルソンの主砲が狙いを定める。
40.6cm4MkI3連装砲。長門の主砲である41cm砲連装砲には劣る物の、きわめて性能の高い現在最新鋭の巨砲である。
「Fire」
ポツリとこぼされた発射命令。その一瞬後、火を噴くような砲撃音が夜闇に轟いた。
戦艦そのものの迫力は、主砲から吐き出す鉄の量、船体の雄偉さ、そして、その轟音によるところが大きいと言われる。
長門とは違い、ネルソンには消音器などは装着されていない。
人型でしかない今では船体の雄偉さこそ感じられないものの、その巨砲と轟音でその強大さは感じられた。
戦艦ネルソンは、極めて優秀な自動人形であり、戦艦である。
「効かぬわ」
だが、それは長門も同じ事。同系統の魔術回路を使用していることを示すように、強固な装甲に依存した六角形の障壁が主砲の砲撃を阻み、完膚無きまでに防ぎきる。
刹那、同じく轟音が響いた。
アホのような爆音と閃光を受けても全く怯まないように修練された鉄の精神と研ぎ澄まされた反射神経が可能とした、主砲と同速度での反撃。
正確に言うなれば『主砲の発射モーションよりも一寸速くなるように調整された反撃』。
化け物としか言いようのない練度が、そこにはあった。
「中々やるものですね」
「?」
敵から漏れた讃辞の言葉も、英語を解さない長門には届かない。わかるとすればせいぜいが『何か笑ったな』くらいなものである。
しかし、この場合には言語の壁などは何の意味も持たない。そこにあるのは勝者になるか敗者になるかの二択だけである。
腕が霞む程の速度で一打。障壁が張られることを前提に、掌底を用いて距離をとる。
後に残ったのは銃でも撃ったような軽い残響と、無理矢理に後退さしめられた戦艦ネルソン。
長門の手には、冗談のような大太刀。
決着の時が近づこうとしていた。
「伯、わかりました?」
「ああ、身に染みて」
一斬目で障壁の打撃によって損傷された部位を基点に切開し、二斬目で発射間近の主砲を切り飛ばして暴発じみた爆発を起こさせ、トドメの胴薙ぎ。
最後の胴薙ぎこそ大佐が防いだから事なきを得た物の、あれが当たっていたら冗談ではなかった。普通にネルソンは胴から上と下が泣き別れ、イギリスさん赤っ恥になっていただろう。
「戦艦長門のあのストライキングは……」
「自前です」
魔術回路でも使っているのかい、と言おうとした伯の言葉にかぶりを振る。
もうなんか、機巧魔術の秀才同士が大真面目に話しているにも関わらず超人談義みたいな様相を示しだしているここは、イギリスの拘置所……のようなもの。
「あの太刀は……」
「『魔靱』での硬度強化くらいなもんです。普段は使わない長門の魔術回路の代用品みたいなもんですよ。魔力流したら硬度強化、それだけです」
「……サムライ、恐るべしといったところか」
「そっすね。あいつはまあ、ちょっと練度が異常なんで……」
斬撃で学院内の多くの木を切り飛ばして謹慎処分を喰らっている長門を呼び出すための触媒のカードをチラリと見、溜め息をつく。
『種類:戦艦
名:長門
練度:99/99
装備:41cm連装砲
14cm単装砲
七二式対空機銃
61cm七連装(酸素)魚雷
耐久:120
火力:222(+22)
雷装:17(+17)
対空:104(+15)
装甲:280(+140)
索敵:49(+0)』
ちょっとすまなさげな顔をしているように見えなくもない長門のカードをポケットに入れ、さっさと手早く本題へと入った。
「伯、罪状は器物損壊罪にまで抑えておきました。それも『夜会という場に於いては当然』と言う風な形に持っていけたので、せいぜいが罰金でしょう」
「殺人の嫌疑に関してはどうなったのかな?」
「証拠を潰し、証拠を作り、アリバイを作りました。まあ検察はまだ疑っていますが、最早大勢は決まりました。後は謂わば処理です。私の弁護もいらないでしょう」
ここらが退き所です。
適当な弁護士を雇って事務弁護士と言う名の傀儡にし、自らは法廷弁護士となってこの一カ月の裁判を戦い抜いた大佐は、そう言外に臭わせた。
「そもそも、他国の軍人が他国の裁判の弁護をするというのが異例です。資格はあるとは言え、正直世論の目が辛い」
「今までは随分好意的な印象を持たれていたようだけど?」
「敵の警察も無能じゃないし、世論は移り気なものですからね」
私、全く学院に行けてませんし。
またも言外に臭わせ、さっさと決断を迫る。
正直なところ、長門の謹慎が痛かった。店の料理にも飽きてきたし、何よりも少し味がアレなのである。
「無罪にならない?」
「……」
「いや、無理ならいいんだよ?無理なら。でも、見込み違いだったかな?大佐殿なら僕を必ず無罪にしてくれると思って―――」
「無罪か、いいだろう」
黒を白にしてやんよ。
無駄なプライドと隠れ疲労。絶妙なシナジーを誇るこれらの魔力によって、大佐はまんまと口車に乗せられた。
だから、だろうか。
「……ん?」
気がついたら人気のない路地裏で、野蛮人に囲まれていたのは。
また暗殺者か、或いは裁判関連で雇われたマフィアか。
無造作にカードケースから一枚抜き取り、銃に装填する。
「駆逐艦でも倒せるだろ……」
装填する際にカードを見なかったのには、訳があった。
こんなゴロツキの阿呆どもは駆逐艦でも倒せるからである。わざわざ選ぶほどでもないし、その手間すら今は惜しい。
その慢心が、致命傷を生む。
問題。本来一番目に引くはずの長門は軍服の胸ポケットの中。
二番目に来るのは、誰でしょうか?
もっと言うならば、大佐は先の戦闘の際、誰を呼ぼうとしたでしょうか?
やる気なさげに引かれた引き金から、光の門が現れる。
門の戸には、『カ』の一文字。
「……」
呼び出された女性は、氷のような目で周りを見回し、呟くように言葉を発す。
「……私に何か用かしら?」
癖っ毛サイドテールに青い袴。弓道めいたアトモスフィアを醸し出すその女性の名は、加賀。
「やっべぇ……」
練度ランキング総合二位。全艦娘化け物ランキング堂々の二位。
総合成績は三位(陸奥・赤城)に大差を付けての二位。
最強のナンバーツーが現れた。
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