ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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逆風

「……何故こうなった」

 

「今考えれば、些か以上に配慮に欠ける行動だった。それは貴方ももう既に知っていることだろう」

 

横須賀鎮守府に鯨を土産に作り上げた自動人形もどきを売り込みに行ったら捕縛された挙げ句、専属技師に任ぜられることになった。

 

まあ、別に良いけど。元々海軍機関学校を受けるつもりだったから、手間が省けて非常に宜しい。

 

「現状『セトの原核』は貴方にしか作れないのだから仕方ないことだと考えるしかないのではないか?」

 

幾度もの精密検査と過去の凍結された予算案などの資料によってその存在が国のためになることを証明された彼女は帝国海軍に所属している。

 

それも、次期旗艦として。

 

目下の所は僚艦がまだ就役していないこともあって正式に辞令が下されたわけではない。殆どの者から近々そうなるだろうと言われているだけだ。

 

「こっちは殆ど原核を作り終えた。お前の僚艦にあたる陸奥は原核の起動まで終えてる」

 

任に着いてから長門の設計図のコピーを渡した技術者たちと、高速作業に一役買った目の前にいる次期旗艦の怪力によって同型艦たる陸奥は約半年と言う短期間で完成の目を見ることとなった。これは初代航空母艦『鳳翔』から天城型航空母艦『天城』・『赤城』に続く加賀型航空母艦の一番艦『加賀』と二番艦『土佐』を同時進行・完成させていることも鑑みれば奇跡的とすら言えるだろう。

 

ま、八八艦隊計画に記された艦の殆どが完成しかかってる今では別段異常なことじゃないけどね。

 

「航空母艦……と言ったか。貴様が提案した新型艦は」

 

「あぁ、そうだけど?」

 

どこか不満げな様子を感じ取り、椅子を回して後ろに振り向く。

 

「成功することがわかっていたのか?」

 

振り向いた俺の目の前には、いつも軍人らしい引き締まった表情に僅かながら不満を滲ませた初代自動人形もどき、長門。

 

「何だお前、俺が確信のないことに金出すように懇願した挙げ句に自分の時間削って草案を作ると思ってたの?」

 

「……まあ、それは無さそうだが余りにもトントン拍子に貴様の案が通るものだからな」

 

「そりゃ俺はスーパー技術者だから当然だ」

 

上層部にはせっせと媚びを売り、時には鼻薬も利かせてやっかみを買わないように気を使い、与えられた命令には忠実にこなす。

しかも普通の技術者にかかる金の数分の一で、その技術者よりハイクォリティーに。

 

「妹の就役が遅れて嫌だったか、長門」

 

「国事に私情は挟む気はない」

 

膠も無い語調でバッサリと切り捨てるが……ま、不満ではあるだろう。最初は長門型の僚艦となる陸奥が先にされるって話だったんだから。

 

「ワシントンにて軍縮会議が開かれたことは、知っているな?」

 

「あぁ……条件は決まったの?」

 

近頃急激に海軍力が増化しちゃったばっかりに目を付けられ、他国―――主に米国―――の都合も相まって開かれたワシントン軍縮会議。当初は古い艦を廃棄、建造中の物まで廃棄ということだったが……長門がここにきたと言うことは、何かしら動きがあったってことなんだろう。

 

心なしかすまなそうな顔をしているところを見るとロクなことじゃないってことだけはわかるけど、肝心要の条件がわからんのじゃ話にならない。

 

「貴様の技術の一部提供により建造中の艦の破棄は免れると、そう言うことだ」

 

「へー、譲歩したもんだね」

 

視察が入るとかそういう話だったのに技術提供でそこまで妥協したか、米英。

 

「……貴様の努力の結晶を軍の一存でばらまくのはすまないと思っている」

 

「それはお前が、だろ?」

 

このことは本意ではないとありありと顔に書いてある。

軍部的に言えば……そうだな。『国の機密を晒すのは困るが、資金を無駄にすることになるのは尚困る』って感じなんだろうな。

 

「まあ、陸奥、天城、赤城、加賀、土佐に使う『セトの原核』なら運用はできる状態で、実際に不具合無く運用できてるら良いとして、紀伊とかになるとまだ艦装すらできてない状態だからな……俺にはどうしようもない。いい落としどころでしょ」

 

実質ブラックボックスだから真似されることはほぼないし、な。

 

「で、どの国にどのくらい渡すわけ?」

 

「英国に二つ、米国に三つ。この二国は私と同規模、同程度の戦艦として運用ができる物を望んでいるらしい」

 

「わかったわかった。細工は?」

 

「無しだ。気づかれたときに大変なことになるとのことだからな」

 

無理矢理開いたら壊れるとか遠隔操作が可能とか、指揮権をこちらに上書きするとかできたんだけど……ダメか。

 

「で、秘密裏に進めてるのはどうする?」

 

「だからこそ、『建造中の艦の廃棄を免れる』としたんだろう。好きではないが、搦め手と言うヤツだ」

 

「なるほど、それならいいな」

 

駆逐艦連中の建造も取りかかるだけ取りかかって『建造中』、巡洋艦も『建造中』。それらを見越しても技術の秘密を暴きたかった訳ね。ご苦労なことで。

 

「技術は独占されると無性に恐怖心を覚えるってことだな、長門(げんきょう)」

 

「……言い訳はしない。私の責なのだから、好きにしてくれて構わない」

 

陸上戦艦ダイダロスを越すスペックと、時代を乗り越えてワープしたかのように現れた長門は全世界の注目を集めた。

通常の戦艦の二倍の巨体を持ちながら巡洋艦より速い。資源は使わず、魔力のみで走る癖に、その魔力すら一度注げば殆ど自前で賄える。

 

走攻守揃った世界最強の戦艦として、否が応でもその存在が知れ渡ったのだ。

 

―――長門だけで戦艦三隻は相手にできるのではないか?

 

あまりの巨大さに、各国は自らの矮小な戦艦を見て思った。そしてその危惧はとある事件を経て現実の物となる。

 

戦艦長門は人型決戦兵器長門になれる、と言うことが白日の下に晒されたのだ。

耐久性は巨大な戦艦。火力は少し落ちるが馬力は変わらず、人型だからこそ狙いが付けにくい。

都市に秘密裏に侵入され、せっせと破壊工作に勤しまれたら対処の仕様がない。

 

「そのお陰で俺は何回も刺客に狙われたんだぞ、長門」

 

「それに関しては演習を終えた私が極力貴様の護衛に付くようになることで解決したではないか」

 

「おかげで長門に変わる旗艦とその僚艦を作ることになったことについては?」

 

「……溺れかけていた幼子を見捨てられなかったのだ。本当に貴様には迷惑をかけていると思っている」

 

甘いねぇ、こいつ。ま、いずれ発表されることだったってことにしてお咎め無しにしたの俺だから、俺も相当甘いんだろうけど。

 

「私が非情に徹しきれなかったばっかりに、貴様に多大な被害を与えることになったことについてはこの身朽ち果てるまで償うつもりだ。元々私は貴様の物だったのだしな」

 

「期待しないで待ってるよ、旗艦殿」

 

重々しい決意表明をいつもの如くさらりと流し、窓の外に見える海を見据えた。

 

―――今日もやってんな、娘ども。

 

俺の作った『セトの原核』で動く自動人形もどきの中には、明らかに俺より精神年齢が上な奴もいるし、餓鬼っぽい奴もいる。だが、作った側から見れば娘も同然―――というか、色々世話をしたくなってくるのだ。そこら辺は各鎮守府の提督に任せざるを得ないけども。

 

「……やっているな」

 

「意志もあれば休みたくもなるさ。お前はそう言うの無さそうだけど」

 

「私は……そうだな。あまりそう言うのは得意ではない。身体を動かし、万が一に備えている方が性に合う」

 

「忙しい奴だね……もっとゆとりを持ったらどうよ?」

 

「これでもゆとりはある。貴様と居るときには警戒は怠らず、されど本を読んだり休んだりしているのだからな。まるっきりゆとりがないというわけではないさ」

 

その読んでる本も戦艦の歴史とかだけどね、お前は。

 

軽く伸びをし、窓から見える光景から目を反らす。

 

さーて、作業でも始めるかね。




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