ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
因みに加賀さんの艦載機が倍になっているのは仕様です。矢筒と本体に載っければ二倍だな!とか考えたわけでは、断じて……断じてナインダ!
『種類:正規空母
名:加賀
練度:98/99
装備:試製富嶽(一航戦)/40
流星改(一航戦)/40
震電改(一航戦)/92
彩雲改(一航戦)/24
耐久:79
火力:92(+44)
雷装:28(+28)
対空:112(+33)
装甲:118(+59)
索敵:129(+50)』
試製富嶽(一航戦):『火力:+38
対空:+6
対潜:+6
命中:+8』
流星改(一航戦):『雷装:+28
索敵:+8
対潜:+11
命中:+10』
震電改(一航戦):『火力:+6
対空:+27』
彩雲改(一航戦):『索敵:+22
命中:+13』
読み込んだカードを取り出し、思った。
いつの間にこんなに強くなったのだ、加賀さん。と言うか搭乗員を鍛えすぎではないかね?
演習の時は普通の搭乗員だったというのに、最早別物……別妖精?だな。
俺がそんなくだらない感慨に捕らわれていたことに全く頓着することなく、加賀さんは至ってシンプルに状況を把握した。
矢筒に右手をやり、震電改を変化させた矢を放つ。
すぐさまミニチュアの戦闘機へと姿を変えたその一矢は反撃の暇すらも与えることなく腕と足を確実に撃ち抜いた。
筋繊維を寸分違わず撃ち抜かれ、地面に横たわって苦悶の体を晒す野蛮人どもをおっそろしく冷たい目で一瞥し、こちらへ改めて視線を定める。
「何か用かしら?」
「いや、もう用は終わったから大丈夫だ」
艦載機を収容し、野蛮人どもに完全無防備な背中を見せながら悠々とこちらへ歩いてくる加賀さんがトドメを刺さなかったのは哀れみか、それとも慢心か。まあ、どちらにせよ今気にする事じゃない。
「そう」
ジーっとこちらの目を覗き込むように見上げ、そのまま硬直する。
(……ここで逃げたら負けな気がする)
これはあれだ。剣士同士の鍔迫り合いみたいなもので、先に視線をずらした方が負け……と言うことなのだろう。たぶん。
「……」
「…………」
沈黙が続き、数分後。加賀さんの硬直が解け、せめぎ合っていた視線がはずされる。
ひたすら黙って我慢比べと言うのは当然経験したことはあるが、やはり実践となると話は違うな。緊張感と言うか、何というか。こんなピリピリしたような空気は訓練ではでていないように思える。
「一航戦、加賀。提督の指揮下に入ります」
海軍正式の敬礼の後、直立不動とばかりにまたもや動かなくなった加賀さん。
目は嘗ての冷厳なものでもなければ、野蛮人どもに向けるような物でもない。つまりは至って普通の目。
無感情に近いようだが、仄かにこちらに対する尊敬の念のようなものが感じられるような気もする。しなくもなくなくないくらいなもんだけども。
「提督は将官からだよ、加賀さん」
「知っています」
そう言うと敬礼の姿勢を崩し、右強化軟革の二重構造になっている胸当ての外側と内側を繋ぐ糸をスルリと引き抜き、空いた二重構造強化軟革の隙間に右手を胸当ての中に突っ込む。
そういうギミックは仕込んだような気もするが、いざ使うとなると微妙だな。微妙に出しにくいし、単発で再利用負荷なのは辛い。
「密封書類よ。貴方に辞令が下っているはずだからよく見て欲しいものね」
「はいよ」
とは言っても。こんな機密書類を路地端で開くのは少しアレだ。
情報部を再組織させた身としては、こんな迂闊を犯すわけにはいかないだろう。
「……見ないのかしら?」
「いや、場所がね?」
目尻をいぶかしむように少し下げ、僅かに感情を滲ませたような声でこちらへ問いを投げる加賀さんに、一応弁解の言葉を投げておく。
感情を表に出さない人を怒らせるのはやめましょう。死にます。
「…………そうね」
ホテルとすら言い難いロンドンの安宿の戸を開けるまでひたすら無言。私室の扉を開けようとしたその瞬間、ポツリと言葉が漏れた。
約五分越しの会話再開である。
「いい判断だわ」
心なしか自分に言い聞かせるように、わりかし強めにそう呟いた加賀さんを後目に、パリパリと密封書類を開封していく。
何というか、ろくに暗号化されてない電報一本で機密が伝えられるような数年前のアレな状況とは大違いだ。
何か、嬉しいな。進歩が目に見えて分かるというのは。
そこまで考え、ハタと気づく。
「加賀さん、何で加賀さんがこの書類持ってたの?俺が呼び出すかどうか分からなかったのに……」
「貴方は夜会に当たって戦艦と空母を一隻ずつ使うであろうということは分かっていました。それにあたっては連携を深めることが大切……即ち、夜会が開会されて直ぐにその『二隻目』は呼び出されることになると考えられます。
となると更に考えるべきは選出される空母に関してですが、二航戦は後二ヶ月は哨戒遠征に出ていますから、省かれます。
三航戦は軽空母群ですから、装甲重視の貴方が候補に入れるわけもありません。四航戦も同様の理由で省かれます」
いつの間にやら淹れていた緑茶を木製の御盆に乗せ、お茶菓子とともにこちらに押しやる。
……食っていい、と?そういうこと?
「問題は、赤城さんと私のどちらかが選ばれるかと言うところにまで行きました」
「五航戦は?」
「全航空母艦中最も練度が低い艦たちを前線に出すようなことはあり得ないと判断し、除外しました」
「…………」
ボロクソに言われたこの五航戦。実際のところ海外では世界水準軽く越えているエリート集団であることを知っていてほしい。
少なくとも、英米仏露独伊の列強連中の航空隊の極めて優秀な部類に入るであろう教官くらいは余裕で務められるほどの秀才ぞろいだと言うことも、覚えておいてほしい。
五航戦<<四航戦<三航戦<<<二航戦<<<<<<<超えられない壁<<<<<<<一航戦。ただ単に一航戦の妖精さんたち及び航空母艦が少し人外(元々人ではないが)なだけである。
「そこで赤城さんには訓練・食事・風呂・睡眠以外では常に何かを食べてもらうことにしました。私は赤城さんが物を食べている時間に寝、寝ている時間に弓の鍛錬と艦載機の整備をやることにより、確率を上げることに成功、及び目的も達成したというわけです」
「あぁ、巧い方法だな」
人は七十二時間寝ないで集中できるし、一日の間に寝さえすればいいんだろな。たぶん。
素直に感心している俺に、催促の視線が突き刺さった。
「……」
「……わかった、早く読む」
改めて封を開き、中の書類を引っ張り出す。
現れたのは、英数字の羅列。なんて事のない暗号である。
(戦時編制、か)
連合艦隊司令長官から参謀まで、ずらりと並んだ錚々たる顔ぶれ。長門は安定の第一艦隊旗艦で、大和武蔵の二大戦艦は連合艦隊司令長官直率。
第一艦隊司令官と連合艦隊司令長官が兼ねなくなったのは艦船の数が増加したから、か。まあ、妥当だな。
二頁目に突入。未だ加賀さんがこれを俺に持ってきた理由は分からない。
と言うか、一介の技術将校もどき政治将校未満にこんな戦時編制表を持ってこられても……
『第一航空艦隊
第一航空戦隊:赤城・加賀
第7駆逐隊:曙・潮・漣
第二航空戦隊:飛龍・蒼龍
第23駆逐隊:菊月・長月・卯月
第四航空戦隊:龍驤・祥鳳
島風・矢風
第五航空戦隊:翔鶴・瑞鶴
朧・秋雲
司令長官:毛利元景中将』
死んでもないのに二階級特進、か。将官になったら一階級しか上がんないはずなんだけど。
「加賀さん、辞退する権利は?」
「ありません」
「昇進が早いと思うんだ」
「山口中佐も少将へと任官がなされ、二航戦の正式な司令官へ。南雲少将は一航艦の駆逐隊の司令官へとなりました。事実上貴方の派閥が一航艦を独占した形になります」
南雲忠一。艦隊派の一の論客として謳われたが、何故かこちらの説得に応じて条約派に寝返った。生粋の水雷屋。どことなく不幸そうな感じもするが、雰囲気と頭の中身は関係ない。実に聡明であり、海軍内の意見分裂の折衝に長ける、有能な武人肌の軍人である。
強いて難点を上げるとすれば、慎重すぎることか。
山口多聞。例の演習で航空母艦に惚れ、更には二航戦の司令官のような感じになっていた将来の司令長官候補。俺を抜擢するなら多聞丸を抜擢してほしい。因みに俺は生まれた年は分からないが、恐らく同年代だと思われる。
二航戦を数ヶ月で日本水準の三分の二にまで引き上げた(当時の現役空母……一航戦&鳳翔お母さん)経歴を持つ訓練の鬼。付いた渾名が人殺し。もしくは気違い。俺の下に付いているのが果てしなく謎な男である。
多分海軍の中で『指令がないなら躊躇なく敵に向かって猛進せよ。それが司令官の意志に沿うものである』と言い放つのはこいつくらいだろう。兎に角、有能且つ勇敢な軍人で、基本的に指示を出さずにしておいた方がよかったりすることが、多々ある。
時々思いも寄らない情報を引っ張ってきては披露する癖があり、海軍きっての情報家だろう。
もう一度言うが、有能である。
難点は命を惜しみすぎないこと。どれくらい惜しまないかと言えば、君が死んだら代わりは居ないことを理解してほしいと言ったら、『それは大佐殿にこそ言えることでしょう』と一瞬の躊躇いもなく言い放つレベル。
実戦での選択肢が『装備を他国より遙か上にして、練度を上げて、情報集めて、場所分かったらそら奇襲』しかない俺にまともな戦い方を教えてくれることを切に望む。
「多聞艦隊に名前、変えない?」
「少将は艦隊を指揮できないから無理だと思うわ」
「奇襲しかさせないよ?」
艦の誇りとして、それはどうなのか?
長門ならば確実に釣れる質問を誇り高き一航戦・加賀さんを釣るべく垂らす。
こんなことをしてしまうほどに、俺は疲れていた。
具体的に言えば、栗鼠で長門は釣れるが加賀さんは釣れない。つまりはそう言うこと。
「勝利こそが私の誇りよ。手段はどうあれ、負けないことこそが一番」
キッとこちらを一睨み……と言うよりは見つめ、かな?
まあ兎に角こちらに視線をやり、加賀さんには珍しいことに感情を露わにし、言った。
「もう二度と、一航戦は負けないわ」
耳に痛い。痛烈な一撃。会心の一撃。最早致命傷不可避な一撃だ。流石世界の一航戦。その名は伊達ではないってか。
蒼い炎のような何かが幻視できそうな加賀さんを見て、ふと思う。
(意外と感情の振り幅でかいのか?)
どうやら長門の眼は腐ってなかったらしかった。
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