ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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緋色の譜様、kasim様、SSQ様。評価していただきありがとうございました。とりあえず本日二話目をどーぞ。

加賀さん「これは油断ではないわ。余裕というのよ」

提督「陸の?まあ、いつでも摘めるわけだし放置安定で雑魚狩りに従事していただこうかね」





慢心

「大佐、お前……!お前の相棒も禁忌人形じゃねえか!」

 

今隣に立っている女性も、二ヶ月前に自分が助けてもらった彼女も。

 

「今は中将だ。更に言えば『たいさ』ではなく『だいさ』だ。そして、こんな駄作と俺の心血注いで作り上げた彼女らを一緒にしないでくれ。馬鹿にしてるのか、君は」

 

更に雷真が言い募ろうとした瞬間、凄まじい熱波が吹き荒れる。

 

「『下から二番目』、無駄だ」

 

「ロキ……」

 

制止を促したのは意外や意外、『剣帝』ロキ。同レベルに沸点低そうな二人なくせに、彼はいやに冷静そうな声をしていた。

 

沸点の低さから言えば『加賀さん(ただし温度固定、上がっても下がっても不可)>>提督(陰気陰湿嫌な奴。三度死んでも恨み忘れず。表立っては怒らない。思いも寄らないときに背中から刺す)>>赤羽雷真=ロキ(自動人形人権保護団体)>>越えられそうな壁>>長門(大人)=フレイ(悪意に鈍い)』なのだが、この場で怒っているのは二人だけである。

 

「おい、そこの東洋人」

 

「何かな、モルモット」

 

侮蔑には侮蔑を。無礼には無礼を。嘗て義理の父親にモルモットにされていたことを抜け目なーく調べていた提督はすぐさま言い返し、相手の反応を待つ。

 

「俺は謙虚で寛大だが、どうしても許せない物が三つある。鼻持ちにならない奴、無駄にプライドばかり高い奴、身の程知らずの東洋人だ」

 

彼の膨大な魔力に当てられて凄まじい熱波を放っていた傍らの自動人形・ケルビムを本格起動させ、臨戦態勢を取った。

 

「なるほど、そう言えば君も身体を弄くられてたんだったけかね」

 

駄作だよ。機巧を仕込まれたことが原因で死にそうになるような改造しかできないなんてのは。

 

この爆撃によって壊れた奴らも先は長くない。それはイブの心臓に自壊プログラムが仕込まれていたことからも明らかだ。

 

「そうだ。だからこそ今の発言は容認できない。俺はこの馬鹿のような甘っちょろいことを言う気はないが、第一にお前が気に食わない」

 

自動人形の機械としての面を剥き出しにしたような機体を持つケルビムは、ロクに発達した技術があるわけでもないのに人体実験に明け暮れた挙げ句に自分の飼い犬―――目の前にいるフレイ・ロキの姉弟に手を咬まれて死刑を宣告された残念なイケメン、ブロンソンが社長を勤めていた会社である『Dワークス』で製造された自動人形シリーズ『エンジェル』の内の一機である。

ケルビム自体はよくしらないが、『エンジェル』シリーズは基本的には極厚のブレードになっている両腕と、背中からミサイルのように飛来する8本の短剣を駆使して戦う。

搭載している魔術回路は『熱風操作』。

熱風を収束した高熱の刃は、実験に使った超々ジュラルミンをも切り裂いていたから攻撃力に関しては優れた物を持っていると言ってもいいだろう。風の噴射を利用して、地面を滑るように移動したり、内部機構によって巨大な剣に変形し、人形使いが魔術で振り回したり、上に乗って飛行することも可能と、万能型に分類される自動人形だろう。

その戦闘能力はDワークスの前作品である犬の生体部品を使って量産化を可能とした『ガルム』シリーズをはるかに凌ぐと言われ、整備性も極めて良好。しかし自律性が低く、操作が難しい。それをカバーする機構として八つの短剣をセミオートで起動させる「剣の結界」という自動防御機能があり、背中の短剣群が術者を中心に円を描き、その円内に踏み込んだ者を自動的に切り裂く。

 

なぜ俺がこんなことを知っているかと言えば、社長が『魔術師協会倫理規定違反』と言う重罪で捕まりガタガタになったDワークスを私財で買い取ったからである。リヴァプール郊外という立地条件もさながら、兎に角不祥事でトップが消えただけに安かった。故に一発で買い取ることに決めたのである。

 

「……どうするのかしら?」

 

ふわーと加賀さんのサイドテールに向かいかけた手を抑え、発作を物理で押さえつける。

 

「あ、ああ。壊さない程度に返り討ちにするから、加賀さんちょっと端に寄って」

 

ケルビムの右のブレードをかわしつつ、夜会のフィールドの端へと退いていく。

夜会のフィールドは大雑把な円形を描くように設置されている。これは嘗てコロシアムのような建造物の中で夜会を行っていた際の名残であり、伝統的なものだ。

それが今回、俺にとっては不利となる要因になりうる。四角形だったら加賀さんを角っこに寄らせて、攻撃進路を塞ぐように俺が立っていればそれで結界が張れ、殆ど無敵な要塞が完成する。まあ、魔力が尽きたら終わりだが。

 

(円形なら魔防のスキルを使うのは効率が悪いな)

 

進路を妨害するのを目的としているのなら、かなり長距離にわたって直線上に壁を張らねばならない。

なら、どうするか。

 

観客席がどよめく。一時は多数を敵に回して圧倒的な勝利を得た提督が『剣帝』を相手にして全く歯が立っていない。逃げに逃げて、端に追いやられるだけである。

 

「……」

 

フィールドの端に着く。ここ出てしまえば失格であるし、失格は夜会からの脱落を意味する。

 

「終わりだ」

 

宣告と共に、ケルビムの身体が変化を始めた。ブレードとなっている両腕は気をつけの姿勢を取るように中央の胴体に寄り添い、巨大な一本の剣となる。

 

『ケルビムに斬れぬ物はない』とまで『剣帝』が豪語した必殺の構え。

 

「おー、ヤバ」

 

その光景間近で見ることとなった提督は、全く危機感を感じさせない呑気な声で呟き、今更ながら真っ直ぐに向き直る。

 

「廻れ、ケルビム!」

 

『I'm ready』

 

コマ送り。視界に捉える景色がブレ、動き、ズレ、牛歩の歩みの如くゆったりと流れる。

 

刃の側面から熱風を噴射し、優勢な推力を得てこちらへと向かう。あの方式で進んでいくとするならば、俺を飛び越えて加賀さんだけを攻撃する軌道を描くことも可能だ。

しかしそれは、容認できない。

 

「………」

 

チラッと後ろを振り向くと、そこには悠々と飛行甲板の手入れをしている加賀さん。何というか、凄まじく余裕な態度だね。

 

パチン。

 

再び響く、ほんの僅かな金属音。右手は鞘に、左手は柄に。構えた頃には終わっている一にも見たぬ零の閃めき。

 

「!?」

 

『剣帝』の顔が驚愕に染まり、ケルビムの左腕にあたる部位を斬り飛ばされた片刃の剣があらぬ方向に突き刺さり、人型に戻る。

 

両腕で熱風を噴射することで推力を得ていたのだ。そりゃまあ、片方を斬り離されては戻らざるを得ないのだろう。

 

「……なるほど」

 

飛来するケルビムの陰に隠れるようにして直ぐそばまで来ていた月の乙女が何やら得心が言ったような感じに頷く加賀さんの直掩隊に叩き落とされたのを確認した後、自分の自動人形と共にこちらに迫ってきていた陸のの腹に蹴りをプレゼントしてやる。

 

文字通り、一蹴と言うヤツか。

 

「加賀さん、何が『なるほど』なの?」

 

「あなたが行った行為について得心がいきました」

 

つまりは、何やったかわかったってことか?

 

「長門ですら見切れなかったのにすごいな、加賀さんは」

 

「見切ったわけではないわ。事象を理解しただけよ。

何はどうあれ、あなたは自分の間合いには言った物に致命的な一撃を与えることができる攻撃を放つ手段を有している、と。それだけ理解していれば事足りるもの」

 

……せやな。

南雲論争以来の筋の通った論理を叩きつけられて何やら新鮮な気分になっていた間に、加賀さんが俺の右斜め前にトコトコと歩いてくる。

 

「とどめはどうするのかしら?今ならここに居る全員を討つことが可能なのだけれど」

 

「それはまだ―――」

 

そう言い掛け、異変に気づく。

 

耳に捉えた僅かな駆動音。何者かがこちらに向かってきている。

 

「……何か」

 

あったのかしら、とでも続けようとしたのか。

俺の様子と地面に倒れている二機に注意を向けていた加賀さんは、完全に無防備な状態だった。

 

「加賀、伏せろ!」

 

殆ど無音。風を切る音しか聞こえない。

かろうじて反応できた俺は、加賀の頭をほとんど力ずくで無理矢理に下げさせる。

 

左手で持つのは軍刀の柄。加賀の盾代わりになった腕の飛行甲板型の艤装が砕け、今まで彼女の頭があった場所を音を置き去りにした刀が通り過ぎた。

 

手応えはある。鞘に戻した剣の鍔からは血が垂れていたし、かなりの手傷を負わせたことは確かだ。

 

「加賀、怪我は?」

 

「…………た」

 

見たところは無事だし、飛行甲板は本体にフィードバックするようなもんじゃなく、ただの補助具みたいなもんだから無くても別に問題はない。加賀くらいならば使わなくても全然大丈夫……とまではいかんが、艦載機をうまく操れば収容も可能なはずだ。

 

「はい?」

 

そんな目算の元に問い掛けたものの、答えはない。かろうじて一文字が聞こえたくらいなもんである。

 

「……頭にきました」

 

「…………」

 

……雲行きがおかしい気がしなくもない。

何だろうかこれは。割とシャレにならない不穏さを感じてしまうのだが。

 

「ま、まあ。落ち着きなさいな加賀さんや。飛行甲板くらい何枚もストックがあるし―――」

 

「落ち着いています。あと、人を呼ぶ際に使用する二人称は統一していただけますか」

 

「いや、加賀さんは加賀さんとしか呼んでないよ?」

 

「無自覚」

 

ピシャリと言い放ち、いつになく鋭い視線でこちらを見据える。

 

「提督」

 

「はい」

 

「私はこの人たちはどうでもいいわ。あなたの好きにするといいでしょう」

 

「はい」

 

元々切れ長の目が異常な鋭さを帯び、いつになく明確な殺意が彼女を包んだ。

何だろう。その怒りをこちらに向けさせてみるのも面白いと囁く内なる自分が居るのは。

 

例えば髪をこう、グイッと引っ張ったりとか。

 

「聞いて」

 

「はい」

 

「飛行甲板を砕いた者に関しては私がやります」

 

「どうぞ」

 

参戦義務の一時間が経つまで待ち、寮に帰る。

誰だか知らないが、加賀さんに奇襲を仕掛けた奴の冥福を祈ろう。あの飛行甲板、よっぽど大事な物だったらしいし。




読了ありがとうございました。感想・評価もありがとうございます。本当に執筆意欲の糧になります!
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