ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
屋根裏様、アマ公様、断ヤオ様、kasim様、sinren様、妖史様、五月雨亭草餅様、評価いただき光栄です。ご期待に添わないように更に精進していく所存であります。
「あー、釣りってええなぁ……」
「ぽ」
怒れる正規空母の醸し出す死の雰囲気に呑み込まれた私室から逃れ、彼は海づりに来ていた。リヴァプールは海洋都市。提督が釣り糸を垂らしている分には全く、格好な環境だと言える。
長門は犠牲になったのだ……避雷針製作のための犠牲、その犠牲にな……
馬鹿なことを考えつつ、釣り糸を垂らす。
隣にいる幼女もまた、見様見真似で釣り糸を海へと放った。
「幼女、お前は俺を襲いに来てるんじゃないの?」
「ぽ?」
遡ること二時間前。一時間ぶりの大物と格闘していた提督の頭上をたこ焼きが横切った。彼は何か明らかに怪しい感じなアトモスフィアを感じたため、例の片手間居合い抜きで斬撃を飛ばして撃墜、再び魚との格闘に戻った。
しかし、そうは問屋が卸さない。今度はメチャクチャな編隊を組んで、新たなたこ焼きが飛んできたのである。だがこれも日頃一航戦の変態機動を見ている提督の目を驚かせるには至らず、つまりは全機が撃墜された。彼は再び魚との格闘に戻り、その数分後にまたもやたこ焼きが飛んでくる。
そのパターンを何回か繰り返し、提督が大物を釣り上げた時に、現れたのだ。
今回の週刊暗殺者と思わしき、幼女が。
「ぽ!」
何やら瞳を輝かせている白髪赤目の幼女とエンカウントするはめになった彼の状況を表すと、こんな感じになる。
ていとくは、すごいつりざおをつかった!
・・・・ひいてるひいてる!
たこやきがあらわれた!
ていとくのぜろせん!
たこやきは、しんだ!
ていとくのいあいスキルが、1あがった!
なぞのようじょがあらわれた!
ていとくはどうする?
「さらばだ幼女。恨むなら君を差し向けた国を恨め」
ていとくの、つかでなぐる!
ようじょは、ないた!
ていとくのざいあくかんに、ちしりょうのダメージ!
ていとくは、だきょうした……
結果。
「幼女、釣れるか?」
「ぽ……」
先ほど提督が釣り上げた大物、その肉片を口の端っこ辺りにつけながら、幼女は悲しげに首を振った。
餌もつけていない竿にかかる魚は存在しない。古事記にもそう書いてあった。
実際そんなことして釣れるのは周の文王くらいなもので、その唯一釣れる文王は食用には適さない。
「ぽ!ぽ!」
しかもどうやら飽きてきたらしい。何とも気分屋な幼女である。
しきりに提督の軍刀の柄を叩く幼女にため息をつき、竿を上げる。
今回の釣り果は幼女一匹。更にその幼女はリリース対象に認定されているから、結果的に収穫はゼロだ。
「おい幼女、お前は何者なわけ?」
釣り用具をしまい終え、思い出したようにそう尋ねる。
何やらこの幼女、人ではないらしい。かといって自動人形でもなければ神性機巧でもない。
「ぽ!」
まるでその問いに答えるかのようにチカリと身体の輪郭を光らせ、その姿を変えてゆく。
人型の時とは違った厳つい印象。呉や横浜など見たようなその偉容は、ミニチュアのようになっても忘れるはずがない。
「軍港か。造りかけの」
軍港と飛行場が混ざったような感じがするミニチュアを見、相変わらず軍刀の柄を叩き続ける幼女に腰を屈めて視線をあわせる。
「……幼女、一緒に来るか?」
「ぽ!」
しつこく軍刀を叩き続ける幼女の前に右手を差し出すと、何やら嬉しそうに握り返してきた。
(いい素材が手に入ったな)
正直なところ、軍港とかそういった陸上施設を人型にして持ち運ぶという方式は考えたことはあった。しかし、まず基幹となる軍港やら空港やらを造るのに土地が足りなかったため、泣く泣く取りやめたのだ。
しかしこの幼女を基幹にすれば話は別。軍港と空港の二パターンを組み込んでしまえば、いつどんなところでも一瞬で基地を展開することができる。実際、我が艦隊の足りないところを補う存在だと言えるだろう。
「ぽ」
歩きながらも軍刀の柄をぺしぺし叩くことを止めない幼女は、まさに幼女らしい幼女。幼女の模範とすら言えるだろう。
「幼女、名前は?」
「ぽ?」
右手に持った軍刀の柄を旋回軸に目の前をちょろちょろしていた幼女を幼女幼女と言い続けるのもどうかと思い問いかけてみても、帰ってくるのは『ぽ』の一文字。他に何か言えんもんかね、幼女。
「ぜろ、ぜろ」
「はいはい」
俺の十八番の居合い抜き、『零閃』でたこ焼きを堕とされたことでも思い出したのか、『ぽ』の他にしきりに『ぜろ』を連呼し始める。
とりあえず言葉を教えることを心に決め、腰のカードケースから白紙のカードを一枚抜く。
「幼女、とりあえず入ってなさいや」
「ぽ」
軽く頷いたような動作を見せ、ちっこい身体がカードの中へと消えていった。
幼女の身体がカードに印刷されたが、名前の欄はやはり白のまま。種類のところもまた、白紙。
めんどくさいものを拾ってしまったかも知れないと告げる予感を敢えて無視し、一路ふらふら学院へと戻る。
学院でまたもや事件が起こっているとも知らずに。
読了ありがとうございました。前は三話に一個あればいい方だったのに、最近沢山感想・評価をいただき嬉しいです!