ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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迫り来る『К』、巡り会うK《Ⅰ》

「……」

 

矢筒から烈風を変形させた一矢を抜き取り、つがえる。

震電は機密中の機密。『どうしても』と言う理由がないのなら使うべきではない。

富嶽ならばいい。あれは確実に真似が出来ないから。しかし震電は、機関の一部を真似するだけでも相手に利益が生まれる、工夫の固まりのような機体。

 

(そう簡単に手の内を晒すわけにもいかないわ)

 

攻撃隊の候補として二つの矢を選び、直掩隊としての烈風の展開を終える。

 

「提督。直掩隊、展開完了しました。攻撃隊を発艦してもいいかしら?」

 

「……そうだな、とりあえず視界潰す為に速さを重視した爆撃を。相手は完成品の『完全統制振動』を積んでる筈だから、起動する前に先制をしなきゃ充分な効果は得られないだろうし」

 

無言で頷き、念話でもって指令を下す。

目標地点、指定。攻撃範囲、指定。精度をプラスに、威力をマイナスに。速さをプラスに、技術をマイナスに。

 

「攻撃隊、発艦」

 

放ったのは、彗星一二型甲。富嶽と同時期に開発された、素速さ特化の機体である。

富嶽は航続距離と威力を求めたが為に精度と速度を犠牲にしたが、彗星一二型甲は航続距離はそこそこ(それでもなお世界から遥か彼方に位置する航続距離を保っているが)、軽量化した代わりに威力が落ちた。

 

しかし一航戦は格が違った。巨大な機体を誇るが故に機動性に劣る富嶽を完璧に使いこなし、彗星一二型甲のカタログスペック並みの速さと命中精度を叩き出して見せたのである。

そんなこともあってか、何かと不遇な彗星一二型甲だったが、この場合はベストな艦爆だった。

 

何せ一航戦が乗っているのだ。速さも精度も跳ね上がり、長所に磨きが掛かった形になる。

 

風を切り、放たれた矢から分裂するように現れた艦爆が見事な編隊を組んで飛翔、『十字架の騎士』連中の遙か頭上に姿を現し―――

 

「爆撃開始」

 

空を穿つような落下音、爆撃、その後の轟音。音を聞くだけでその威力のほどが伺える攻撃が、十字架の騎士たちに炸裂した。

 

「二機大破、三機小破、一機損壊……一応備えはしていたようね」

 

「まあ、戦闘行動に移る前段階に準備はしておくものだからね」

 

とっさの反撃すら許さない迅速さを以て帰還した彗星一二型甲を収容し、直掩隊の量を増やす。索敵機も様々な地点へと向かわせ、援軍の有無を再確認したのに、頷いた。

 

「さて、奪還しに行こっか」

 

機を見計らったかのように言われた、その言葉に。

 

「やあ、陸のの自動人形君」

 

「……なんですか」

 

爆撃の影響で軽く煤けたようにも見える月の乙女を一瞥し、悟る。

 

こいつは感情論で動くタイプだな、と。

 

「君には帰還命令が出ている。軍属の身でありながら好き勝手に行動し、その挙げ句に敵の口車に乗ってここに至る……そこに君の主人が居るだろう」

 

顎で指し、命令するかのような語気になるように声を調整。

さあ、第一交渉開始だ。

 

「彼の元に戻りたまえ。その場合、裏切り行為は不問に帰す」

 

「……それは、出来ません」

 

これはダメだ。提督はすぐにそう断じた。

いやまあ、隣にいる加賀さんとかは理性の面をかぶった激情家だけど、理屈を立てれば不本意なことでも従う。しかし、こいつは無理だ。今の行動からもそうだが、自分の立場を理解していない。

 

何でだ、と陸のが吼える。

理由を問うたその一言は、確かに誰もが思うことだろう。

 

「わからないかな、自動人形。出来る出来ないを聞いてるんじゃない」

 

 

 

―――俺は、戻れと言ったんだ。

 

 

 

にこやかな笑みを浮かべながらも、圧倒的な殺気が場を圧す。

重力を操っているのではないかと勘違いするような『重い』空気がその場の全ての人間にのし掛かる

腰に吊られた軍刀はカチカチと鳴き、主の殺気に当てられているが如く様相を示していた。

 

狂喜。認めた主の元で血を吸える至福が、その刀の刃を研ぎ澄ます。

 

「……できま、せん!」

 

必死の思いで殺気を振り払い、膝を笑わせながらも言い放つ。

黒髪の乙女は、勇敢だった。自分が主の生命を吸い取っていると言う証拠を見せられ、愛しい主から離れることを決めた彼女は、健気ですらあった。

 

「そうか」

 

重力が消える。丸めていた背中が伸び、反動で前につんのめる。

 

『十字架の騎士』も、その自動人形も、赤羽雷真も、その自動人形も。

 

全てが沈黙し、彼の次の言葉を待っていた。

 

「それは、裏切り行為だな」

 

反応が誰よりも早かったのは、加賀だった。直掩隊の半数をすぐさま『十字架の騎士』たちの抑えに回し、提督の進路を確保する。

 

一歩踏みだし、次の反応者が現れた。

赤羽雷真、『陸の』である。

 

「夜々、逃げろ!」

 

「遅い」

 

遮る者は肉塊一つ。しかもそいつは裏切り者を幇助した。

殺すに何の躊躇いもなし。

 

「零閃」

 

言い終わる頃には済んでいる。鍔と鯉口が軽い音を鳴らし、その終焉を告げていた。

 

飛ぶ斬撃が月の乙女の左肩から両断せんと飛来し、肉の壁によって一瞬止まる。

 

「囚獄ごろし―――霜曇り」

 

それで生まれた僅かな猶予。

甲高い音が、斬撃ごと周りの空気を氷結させた。

 

「……海の将校よ」

 

「何かな、雪の乙女」

 

「あなたが私の妹と、私の主を討つならば―――私もあなたの敵となる」

 

『十字架の騎士』、その保有する大破状態の自動人形を射線上に誘致し、斬撃が遅れたところを自動人形ごと包み込み、粉砕する。

 

雪月花三部作の長女・『雪の乙女』いろりは、零閃を防ぐという難行を辛くも成し遂げたのだ。

 

「なるほど、雪の乙女も裏切るか」

 

面白げに笑い、手をだらりと伸ばす。

居合いの構えから程遠い。故に油断を誘うその構えが完成する前に、雪の乙女は打って出た。

 

「雷真殿!魔力を!」

 

独力で大技を撃った際に磨耗した魔力に存分な供給が行われ、薄い青さを持つ湖面のような瞳が銀に輝く。

 

「刃傷ごろし―――」

 

提督は、笑った。迫り来る危機を目前にして。

 

充分な隙があった。数秒の間でも存分に零閃は放てたのだ。

ではなぜ、そうはしなかったか。

 

「氷割太刀」

 

ひわりのたち。そう言われた技は見事なものだったのだろう。

 

是非、見てみたい物だったのだ。『雪の乙女』の性能は。

 

「な―――」

 

気温が上がる。刃の如く固められた氷が、水蒸気が凍結してできたダイヤモンドダストが、全てが溶け、水へと還る。

 

「その魔術回路はもう見たのだけれど」

 

十字架の騎士を悉く粉砕し、その身に宿す魔術回路を駆動。

陽炎を立ち昇らせながら、正規空母はそう告げた。

 

「そう何度も同じ手が通用すると思っているのかしら?」

 

カチン、カチン。

 

自分の技が不発に終わった。そう認識してからではもう遅い。

耳に響くは終わりの音。

 

鯉口と鍔が、最早二回も鳴っていた。

 

「零閃編隊」

 

左肩から斜めに斬られ、月の乙女は崩れ落ちる。

何があったのか分からないと言うような顔をしている雪の乙女もまた、腹を真一文字に斬り開かれた。

 

「二機」

 

血飛沫を浴び、刀が喜悦する。

激動の数時間が幕を開けようとしていた。

 

 




読了ありがとうございました。最近『長門と加賀さんがうまく書けてる』と言っていただいて感激しております。

感想・評価いただければ幸いです。
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