ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
しかも今回は六人もの方々から感想をいただけました。本当に、ありがとうございました!
二枚のカードが宙を舞い、地に伏した二体の自動人形に突き刺さった。
「夜々、いろり―――」
陸のの悲痛な叫びも虚しく、二枚のカードは粛々とその機能を果たす。
二体の自動人形を光が包み込み、そして――――
「契約完了」
二体の自動人形を吸い込むようにした後、重力を無視するように再び宙を舞って手に収まった二枚のカードをしげしげと眺め、カードケースへと仕舞い込む。
カードの名は『金剛力』と『氷面鏡』。描かれているのはメタリックな光沢を持つ獣と、空間に咲く氷の華。
中々に使えそうだと軽くほくそ笑んだ提督に、加賀が疑問の声をかけた。
「破壊と言うことではなかったのかしら?」
「手に余ってもいなかったからね」
「………そう」
おどけるように軽く首をかしげながら言った提督に、加賀はそっけなく(そう見えるだけだが)返す。
元より彼女にこだわりはない。ただ、意思を確認しただけである。
「おい、陸の」
何事かを言おうとした彼の機先を制する形で、提督は馬鹿にするかのように声をかけた。
「君はもう少し、考えて行動すべきだったね」
「それは、お前もだろうが……!」
義憤に肩を怒らせて、赤羽雷真は憎々しげに目の前の男を睨み付ける。
「あんたらが『十字架の騎士』連中をやったってことは、世界大戦の引き金を引いたってことになるんだぞ!」
「進むばかりの猪がやっと周りを見ることを覚えた、か」
嘲りを隠すことすらせず、提督は目の前の裏切り者を見据えた。
陸のが言っていることは、日本の大使館に先日送られた『我が国は友好を望む。しかれども悪意ある中傷は看過しない。熟慮にも熟慮を重ねるべし』という発信元不明という不明ということになっている電報が大きな要素をなしている。
要約するならば、『迂闊なことをすれば戦争になるぞ』。
世界大戦の引き金になりかねないと言ったのは『ドイツが日本に宣戦布告したらイギリスが宣戦し、ロシアもその機に乗じてドイツに宣戦、フランスもドイツに宣戦し、イタリア・オーストリア・ブルガリアが日本等に宣戦する』といった戦争発生の連鎖をさせかねない複雑な国際情勢を指しているのだ。
「ローゼンベルグが失脚した。これで世界大戦は起こらない。まだ、ね」
地に伏せる者の内の一人がこちらへ射るような視線を向けてくる。
なる程、あれがローゼンベルグの御曹司か。
「実に不幸な出来事だった。反日親米の大家で名高かったローゼンベルグ郷が失脚するなんて。まさか取るに足らぬ政敵であったはずな親日家のアーベライン伯に政権から駆逐されるなんて……何とも、悲嘆の念を禁じ得ません」
「貴様……ッ!」
失脚した没落貴族の御曹司が何かを呻き、噛み締めたその唇からは血が滲む。
「貴様、父上を嵌めたのか!」
「人聞きの悪いことを。俺はなーんもしてませんよ。運が良かっただけです」
ただ夕張総業がアーベライン伯に政治資金の援助をし、スキャンダル情報を掴んだ青葉がアーベライン伯にたまたま会って情報を売っただけ。
その程度の工作で揺らいだのはそちらだろうに。
「まあ、陸の。君の懸念に関しては問題ない。今ごろはドイツ本国での工作も終わっているさ」
山下大佐に頼み、且つ言い含めておいたからね。『ローゼンベルグの政敵と接触し、情報をねじ込んでくるように』って。
世界大戦は理想的な形で行わねばならない。ドイツの陸軍と、イギリスの海軍という両翼は離すわけにはいかないんだよ。国内情勢の為にも。
―――陸軍には親独家が多い。山下大佐がドイツに行っているのを見れば分かるとおりに、ドイツ行きのチケット=出世コースだ。
いまいち信頼できないけども、あの人たちは意外と夕張総業におけるお得意様だし、それであるが故に内部情報を掴むのが容易。イギリスとの仲は植民地関連のこともあって決してよいとは言えないが、最近はどちらも折り合いをつけるべく外交に勤しんでいる傾向にある。
まあ、ドイツはロシアとフランスを。イギリスはアメリカを敵に回してドンパチやろうってんだから『こいつに構っている時間はない』みたいな思惑があるんだろうけどな。
「提督、長門さんから入電よ」
「ん?」
「あの喧噪が聞こえる?」
確かにまあ、騒がしいっちゃあ騒がしいが、リヴァプール王立機巧魔術学院では騒ぎが絶えない。特に今は学院内では四年に一度のビッグイベント『ヴァルプルギスの夜』が。学院外では『エクスポ』が進行しているから、いつもより少しうるさいくらいが普通なはずなんだが。
「何かあったのか?」
「長門さんが言うには―――」
途中まで言いかけて口をつぐみ、いつもより少し速いペースで歩いてくる。
そりゃあもう睫毛が見えるんじゃないかと思うくらいに近づいたとき、加賀さんの手が『少しかがんでください』とでも言うような感じに動いた。
「襲撃、らしいわ」
少し屈んだ俺の耳に手を当て、少し背伸びをした加賀さんが告げた瞬間に。
―――宿命
そんな一語が頭をよぎったのは気のせいなのだろうか。
その否定を打ち消すように、広場で砲撃が鳴り響いた。
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