ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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迫り来る『К』、巡り会うK《Ⅲ》

「……どこの誰だか知らないけど、ここに攻め込むなんざ命知らずもいいとこだね」

 

「それはどうでしょうか」

 

走りながらポツリと零した言葉に、加賀さんから返事が返ってくる。

 

「どういうこと?」

 

「私たちは統制がとれているわ。私はあなたを指揮官とし、長門さんがあなたのパートナーとして。役割と命令伝達経路がしっかりしているのだから当然だけれど……」

 

「うん」

 

サクサクと木の葉を踏みしめ、公道を歩くよりも速く広場に着けるであろうショートカットをしつつ、加賀さんの言葉を耳に傾ける。

 

「……でも、皆が皆そう言うわけではないわ」

 

「つまり?」

 

「なれ合っている者もいれば、物扱いするあまりロッカーに入れっぱなしにしてしまい、咄嗟の襲撃に対応できない者も居る。

―――襲撃者が組織的な行動によって襲ってきたならば、各個撃破の憂き目にあうことすらあり得るでしょう。統制をとれているのは私たちと教師陣、警備隊くらいなものなのですから」

 

広場が、燃えていた。

 

自動人形の骸が落ち、人の死体すら転がっている。

 

「あー、加賀さんの言うとおりだったね」

 

「……私もここまで酷いとは思っていませんでした」

 

広間の真ん中には、鬼のような角を生やした黒髪の白人。

後ろに背負っている化け物さえ居なければ、タイプな容姿をしていた。

 

『ミツケタワ……』

 

「加賀さん、彼女は何を見つけたのだろうかね?」

 

「眼鏡とかヘアゴムとかでは?」

 

目の前の現実から目を逸らし、加賀さんと顔を合わせる。

ああ、なんかヤバい。あの化け物に関わるとヤバい気がするんだ。

 

『ミツケタ……!』

 

「……加賀さん、退こうか」

 

「そうね、それがいいと思います」

 

開いた銃床に抜きとったカードを装填し、再び閉じて情報を読み込む。

呼び出したのは、バカでかいバイク。

 

『マチナサァイ……!』

 

一歩踏み出す度に大地が揺れる。

最早恐怖しか感じない。

 

「加賀さん、助手席」

 

「わかったわ」

 

加賀さんが助手席に乗り込むや否やシートベルトを絞めたことを確認し、試製光子力エンジンを起動させる。

 

速い。景色がぐんぐんと色を変えていき、誰も俺に追いつけないのだと言うことを感じ―――

 

「提督、後ろ」

 

「あ?」

 

向こうとした瞬間、空が一気に暗くなる。

 

『オイツイタ、ワ』

 

行く春や、進路の先に、危険物。

 

「飛べッ!」

 

俳句を詠んでいる暇があれば、最後まで足掻くべきである。

機体の強度が持つかははだはだ疑問だが、もはやそんなことを言っているばやいではない。

 

『ニガサナイ』

 

後方に背負った馬鹿でかい何かが手を伸ばし、砲塔がこちらに向く。

 

「加賀さん、操縦桿」

 

「十秒でいいかしら?」

 

「何故に?」

 

「命の保証ができないわ」

 

くそまじめな顔には、一片の嘘も見られない。この加賀さんはマジでこのセリフを言っているのだ。

 

そうかー、運転できないのかー、加賀さん。

 

「五秒で終わらせる」

 

「期待します」

 

 

振り向く。

 

亡者が生者を地獄に引きずり込もうとするが如く背後に迫る化け物の腕を叩き斬り、次いで放たれた砲弾をX字を書くように居合いで撫でた。

 

さあ、後は加賀さんの操縦が―――

 

「やられました」

 

爆音が響き、エンジンがショートする。

原因はたぶん、四分割した砲弾の破片がぶっささったからだろう。機体の強度が足りていなければ車体ごと貫通されてお陀仏していたことを考えると、俺が起こした非常に重い失態といえた。

 

「加賀さん、ごめん」

 

「いえ、私が回避行動をとればこんなことにはなりませんでした。私の責任です」

 

ドンドン高度を下げていく車体に施す手は余りない。

あるとすれば―――

 

「……これかね」

 

先に回収した氷面鏡。これを使ってやることをやるしか、ない。

 

操縦を代わり、進行方向を黒髪鬼人へと変更。直線的に落下する車体になんら手を打つことなく、ただただ衝突の時を待つ。

 

「……」

 

隣で悠々と弓の手入れをしている加賀さんを頼もしく思いつつ、操縦桿から手を離した。

 

「……(どうしたらいいのかしら、私の失態で提督を死なせるなどと言うことはあってはならないはずよ。本来ならばこの一命に変えてでもその生を長らえていただかなければならない人と心中など冗談ではないわ。何とか、何とか新たな解決策を……よし、)あの」

 

「はい?」

 

離したとたん、冷静な加賀さんから声がかかる。

 

「提督は逃げる気はないのかしら?」

 

「勝つ気ならある」

 

手短に答え、一秒先にまで迫った衝突に備える。

使うカードは先に回収した二枚のカード。

 

まずは一枚目、氷面鏡。

 

『対象を凍結・機能停止させる』

 

という効果を持ったこのカードは、非常に幅広い範囲で使える。

今は敵を完全氷結させるだけだが、様々な利用法があるとだけ言っておこうか。

 

これでもって進路上にいる敵を氷結させ、二枚目の金剛力で車体の強度を高める。

 

そして、思いっ切り衝突して敵をぶち抜く―――或いは、車体の運動力を止めて凍っている間に逃げおおせる、と言うのが本来の作戦なのだが。

 

「……まさかこんなにうまくいくとは」

 

下半身をぶち抜いた挙げ句に、車体は噴水にぶつかってやっとこさその運動を止める。

爆発は、しなかった。これもまた僥倖だろう。

 

敵も相当強そうだったんだが、下半身が千切れては何も出来まい。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

達成感に満ち溢れた俺にいつも通りの平坦な声が突き刺さる。

と同時に、覆い被さるようにして加賀さんを抱いているこの現状にも、気づいた。

 

だが、言い訳をさせてほしい。この作戦は衝突が前提。なればこそ、衝突の際になんか変な物が飛んでくるともしれなかったのだ。

射手の命は目。ならばこそ、魔防を以てその破片とか何やらを防げる俺が盾になるのは当然なことだったのである。

 

覆い被さる形になったのは車体が狭かったし、説明している時間がなかったから。決して下心などは微塵もないのだ。

 

「ごめん、加賀さん。嫌だったとは思うけど、これが適切な行動だったと思うんだ」

 

「わかっています」

 

完全に言い訳のような感じになった自分の口調に辟易しながら、車のドアを開けて外へと出る。

 

「……わかっています」

 

車から降り、加賀さんがなにやらポツリと言葉を零した。

 

「相手としてみられていないことは、わかっています」

 

ぎゅっと胸を抑え、弓を持つ手に力が籠もる。

 

胸に手をやりながらトコトコとこちらへ近づく足は、心なしか重い。一ヶ月前に戻ったような気すらする歩き方だ。

 

「……大概にしてほしいものね」

 

「……すまん」

 

「あなたに言ったわけではないわ。どうしようもない私自身に言ったのよ」

 

『あなたに言ったわけではないわ』と言われたが、それは違う気がする。

何せ加賀さんに直接何かしたのは俺だけなんだし。

 

「加賀さん」

 

「……はい」

 

「あのさ、どっか怪我したの?」

 

相変わらず胸に手を当てながら危なげに歩く加賀さんに目をやり、軽く後悔する。

 

聞くんじゃなかったのではないか、この質問は。

 

「……元々私は壊れています」

 

「へ?」

 

衝撃の告白に開いた口が塞がらない。

設計的にも穴はなかった。機能的にも本来想定されていた物を凌駕しているし、性能は空母の中でも随一だと言ってもいい。

 

「長門さんや陸奥さん、赤城さんに比べると私は壊れていると言っていいでしょう」

 

「いやいやいや、設計的にも機能的にも故障個所は見当たらないんだけど……」

 

更に言い募る加賀さんに、一応の弁明らしき物を行う。

今簡易的にスキャンしてみても見当たらなかったし、カードにもそうは書かれていない。

彼女は健康体であり、バグなどは何もないはずなのだ。

 

「……私は、作られたときは完全でした。今はどうしようもなく壊れていますが、いずれ直る……ハズです」

 

「胸が痛いのが治るってこと?」

 

「はい」

 

……これ、アレじゃない?衝突した際に何かあったんじゃないの?

今まで何回か胸を抑えてたのは知ってるけど、こんなに長く続くことはなかった。

やはりこれは、償いを込めて言い出すべきだろう。

 

「加賀さん、あなたに提案……というか、お願いがあります」

 

「……?」

 

「何でも言うことを聞くから、さっきのことを償わせてくれないかな?」

 

沈黙。少し首を傾げたまま、一向に動かない加賀さんの故障?が非常に気になるが、そんなことは後で何とかなるし、今考えることじゃあない。

 

今はただ、一心に許しを乞う。それだけだ。

 

「……何でも」

 

「そう。好きな物を何でも買ったげられるし、欲しい物を言ってくれれば造ってあげることもできる。

案外と俺は何でもできるんでね」

 

「……そう」

 

目を瞑って少し考え、何かを決意したように瞼を開く。

 

「なら、お願いがあります」

 

「おう、何でもこい」

 

土地くらいまでなら楽勝だぞ、財力的に。甘いものが好きならその道の達人を呼んで作らせてもいいし、高級料亭で好きに食べさせることも―――

 

「新しく作った飛行甲板にまた、『カ』と書いていただけませんか?」

 

「え、それだけ?」

 

心の底から驚きを漏らす。

未だかつて、これほど素朴なお願いに俺は出会ったことがない。

 

というか、元々『カ』って書くつもりだったからこれ、償いにはならんのじゃないかね?

 

「加賀さん、元々書くつもりだったから、他のは?」

 

「……そうね」

 

よく考えてみれば、学院は未だ大混乱中。なのに俺はなにをやってるのだろうか。

 

勝手に引き起こした罪の償いを加賀さんに強制させているだけ……なのでは?

 

「わかりました」

 

自分の浅ましさとかそう言うことについて考えていると、加賀さんの仄かに上気したような顔がずいっと視界に入る。

 

どうやら背伸びをしているらしいが、顔は変わらず無表情。ある意味芸の域にまで達しているな、この鉄面皮。

 

「来月、自動人形エクスポが開かれます」

 

「ああ」

 

「私はそこに行きたいのだけれど」

 

「おう、いってらっしゃ―――」

 

 

 

 

 

 

 

「あなたと、行きたいのだけれど」

 

鋭い視線に黙らされ、俺はただひたすらに首を縦に振る。

 

学院は、まだまだ砲撃やらなにやらで騒がしかった。

 

 

 




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