ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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迫り来る『К』、巡り会うK《Ⅳ》

「今だ、圧し返せ!」

 

味方が怯んだところを見逃さずに大喝し、怯みが前線から後陣に伝わる前に打ち消した。

 

百の味方で千の敵を圧倒する。彼が聞いたら苦い顔をしそうなものだが、自分にはそれくらいしかできないのだから仕方がない。

 

圧倒的な火力・兵力を集中し、充分な補給で士気を高め、敵の情報を探った後、『出たら勝つ』という状況にしてからやっと出てくる某提督のような才能も手腕も権力もなにもかもが、自分にはない。

 

ならば、この身を張って戦い続けるだけのこと。

 

指揮官とは誰よりも勇敢で、誰よりも前線で戦っていなければならない。

 

嘗て『前時代的な考え方だ』と一蹴されたその考えは、このときばかりは正しかった。

 

誰よりも戦い、誰よりも殺す。統制されていない学生たちを統率し、規律を持たせるにはこれが一番効果がある。

 

「長物隊、攻撃準備!前衛は隊列を維持して後退!」

 

何とか敵の第四波を圧し返し、防衛線を押し上げ多と思った瞬間、すぐさま指示が頭上を走った。

 

長物隊とはその名の通り『遠距離攻撃の出来る自動人形』を集めた部隊である。

最初は秩序も作戦もなにもなく、ただただ個人個人が戦い、或いは逃げていただけだったのだ。

そのような場においてこの場をまとめ上げ、更には僅かな時間。それも戦闘中に新たな部隊の編成すら完了させるその手腕には見事なものがあった。

 

「て――ッ!!」

 

敵の沈黙した火砲に代わり、壊乱した警備隊から回収した重砲や、光線・熱線などが空を翔け、敵の後方集団を吹っ飛ばす。

 

敵の撤退先は南側。彼女に率いられた混成部隊は北に位置するトータス寮を起点に、敵集団を南へ圧迫しつつあった。

 

「よし、小休止!」

 

号令と共に、学生や警備隊の隊員、その自動人形が崩れ落ちる。

なれない団体戦闘に血と硝煙が吹きすさぶ光景に、彼らは疲労しきっていたのだ。

 

北からは長門ら。西からは航空機の爆撃と装甲車が、東からは異形の悪魔たちが、それぞれ増殖を続ける侵入者を駆逐してきていた。

 

「東は頼りにはならない、か」

 

一定のラインにまで押し上げてから全く動きを見せない東方集団の現状をカタパルトから発艦させた偵察機に調べさせ、認識する。

 

残りの希望は西側の機動部隊だ。

偵察機からの情報を見るに、こちらが何倍もの敵を息急ききって叩いて回っている内に、彼らは陽動と漸減を繰り返し、釣り上げた敵主力集団を塵へと変えていた。

合流するにせよしないにせよ、連携して戦いたいものである。

 

「まああの癖の強い戦いからして、指揮官は大――提督なんだろうけどな……」

 

戦艦クラス十五体と重巡クラス二十体、駆逐艦クラス十体を相手に陽動として防御力において劣る機動部隊を出し、敵集団の半分を釣り上げてから装甲車に包囲させ、爆撃と砲撃で完勝。

その後はなおも進撃する敵を爆撃で漸減していき、接触すら出来ずに敵集団が撤退しようとしたところを機甲車に回り込ませて包囲殲滅、被害は装甲車一両。異常に軽微である。

 

いやらしい戦いのお手本みたいな戦い方を見せたと思えば、その戦いで主力が壊滅し、退こうとした敵集団を一気に正面から攻めつぶすような大胆さも持っている。

 

「あいつは本当に空母が好きだな……」

 

好きなことは一方的に殴ることです、と言って憚らない男だから当然の好みとも言えるが。

 

「長門さん」

 

「何だ」

 

慌てて通訳機を起動させ、少し笑っていた顔を引き締める。

 

「援軍がきました」

 

「本当か?」

 

「本当だよ、疑り深いな」

 

今までの慇懃な態度はどこへやら。いきなりタメ口になった伝者の姿がゆらゆらと揺らぎ始める。

 

「よう、ながもん。助けに来たぞ」

 

「待っていた、提督」

 

右手に加賀が控え、その後方には赤城・瑞鶴・翔鶴がつづく。

 

ここ数時間で大体事態は収束し、分裂していた戦力はまとまりを見せる。

 

襲撃事件の終わりが近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ」

 

「どうしたんですか、伯」

 

「いや、いいときに呼んでくれたものだと思ってね」

 

長門集団と機動部隊が合流する数時間前、電話一本でとんぼ帰りしてきたフェリクス・キングスフォートと提督は悠々と道を歩いていた。

 

「この混乱の中でこそ、陰りを見せた名声復活のチャンスだというわけかな?」

 

「はい。まず、この機動部隊……装甲車五十両と、空母艦娘たちですが、これらの部隊がこれからたてる功績を、全部あなたに譲ります。そして、後に実行されるであろう三方面作戦に於いて主攻を担ってもらおうかなと。

成功はまず間違いないですから、一応言っておきます。成功したら英雄ですよ、伯」

 

後方からの射るような視線×6に気づかないのか、或いは気づいていて無視をしているのか。それはわからないが、兎も角自分にはこいつが必要だということは、わかった。

 

「指揮は任せるよ、提督殿」

 

「え?」

 

 

結果、大勝した。釣って減らして囲んで殺し、弱くなったところに追撃をかける。

 

意外に鮮やかな手並みに驚いたフェリクス・キングスフォートは確信した。

 

(この男が何かしらの戦闘部隊の長となったときイコール戦時編成と考えて間違いないのかもしれないな)

 

これはまあ、事実だった。

今は公式だけども非公式なために発表されていないが、提督は第一機動艦隊の指揮官ということになっているおり、それを含めた全体の編成が日本の戦時編成となっている。

 

間違っている点は、提督には指揮能力について全く見込まれておらず、ただただ航空母艦という兵種を理解しているという一点において選ばれたということくらいだろう。

 

「勝ったね、諸君」

 

「はい。よい作戦指揮でした」

 

「上々ね」

 

手元に残しておいた航空母艦四隻の内、一航戦の二人が上機嫌で答え、五航戦の二人が少し苦しげに頷く。

 

「五航戦、あなた方の今の練度では正直、先が思いやられます」

 

戦艦クラス・重巡クラスの必死の射撃もむなしく、全く艦載機を落とせずに終わった一航戦とは違い、五航戦にはそこそこな損害があった。

 

「加賀さん、でもさ。相手が対空に特化してきたら一航戦言えどもバシバシ落とされてたと思うよ?

ほら、運が悪かったんだということで納得してよ。ね?」

 

そんなにキツく当たらなくてもいいんじゃないですかねぇ、という意味を暗に含ませた提督に、加賀は少し不満げではあるが口を噤み―――

 

「五航戦。あなたたちもあなたたちなりによく頑張りました。これからも精進することです」

 

次に言ったのは、お褒めの言葉。

カツカツと下駄を鳴らして去っていく加賀を五航戦の二人は呆然と見送り、数秒後には正気を取り戻した。

 

「て、提督さん……?」

 

ちょっとこいやとばかりに手をこまねく瑞鶴に釣られ、襟掴まれて引きずられていく。

 

え、何?何事?

 

「加賀に何かしたの?」

 

「あん?」

 

瑞鶴の質問に何故か頬を赤く染めている翔鶴は取りあえず放置し、何かの内容を考え始める。

 

何か。皆目見当がつかないし、そもそも俺が加賀さんに何かしたのかと言われるようなことをいつしでかしたかすらわからない。

 

結論。どうしようもない。

 

「いつになく機嫌いいじゃない、あいつ」

 

「瑞鶴、先輩に向かって『あいつ』はダメだ。せめて呼び捨てに止めておけ」

 

「……何で加賀は、あんなに機嫌がいいの?」

 

「え、よかった、の?あれで?」

 

いつもならば無言の猛特訓の後、ひたすら説教されることになれていた鶴姉妹は驚愕していた。

 

『よく頑張りました』

 

有り得ない。普段の加賀から考えれば有り得ないような台詞だった。

 

翔鶴は加賀の『強くなって欲しい』という気持ちをキチンと理解しているし、瑞鶴とて本気で嫌っているわけではない。ライバルとして見て欲しいだけであり、その一心で突っかかっていっているだけである。

 

故に、この二人は割とまじめに加賀の体調を心配していた。

 

「さあ、吐きなさい。今日加賀とやったことは?」

 

「……あぁ、加賀さんとバイクに乗ったな」

 

「もしかして、タンデムですか!?」

 

五航戦の白い方が何故か釣れたが、残念ながらそいつは違う。

あのバイクは強化装甲で鎧った最新式。二輪なだけで車体も広く、四人乗れるように拡張されているし、空も飛べる。

故に、タンデムは出来ないのだ。

 

「他には!」

 

「……エクスポに一緒に行くことになった」

 

「二人きりで、ですか!?」

 

「うん」

 

よく釣れる五航戦の白い方の問いにうなづき、何故か頭に手をやっている瑞鶴に尋ねる。

 

「ああ、加賀さんとエクスポに行くときに一緒に来る?」

 

「死にたくないから行かないわ」

 

え?加賀さんとの外出ってそんなにデンジャラスなの?

 

悉く攻撃を(翔鶴に)逸らすことが出来る天然の能力を保持しておきながら、死の危険が迫り来るの?

 

「翔鶴―――」

 

「提督。女の人が頑張って誘ったのに、その後に他の女の人を誘ってはいけませんよ」

 

「え、何で?」

 

「……うわ」

 

「……はぁ」

 

「……ふぅ」

 

ドン引きした目で見るのをやめてくれないかな、五航戦。

後赤城。ナチュラルに混ざるなや。

 

「兎に角、長門さんも誘ってはダメです。男の人も、ダメです」

 

「……え、俺に死ねってこと?」

 

盾を奪われた兵士な矢の雨の中に突っ込めと言うようなもんですよ、それは。

 

「兎に角、加賀さんとは二人きりで、お洒落をして、行くことにしてください。いいですね?」

 

「いや、軍服の着用は義務づけられて―――「い・い・で・す・ね?」アッハイ」

 

謎の迫力を持つ五航戦の白い方に圧され、頷く。

 

俺の死期は、近い。




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