ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
羊飼い様、展開が遅くて済みません(本気の土下座)。
因みに作者は一航宗加賀派です。
機巧の祭典、通称エクスポ。各国の最新気鋭のデザイナーや企業、果ては軍部までが幅広く参加する機巧魔術の万国博覧会である。
開催都市は世界に冠する機巧都市・リヴァプール。
四年に一度、魔術界の王たる『魔王』を決める王立機巧魔術学院があることでも著名なその都市は、この時期になると特に賑わう。
各国から観光客が訪れ、技術の粋を集めた自動人形を見て楽しみ、或いは買って楽しむ。
各企業から当然のように展示品が出され、販売スペースの確保競争が行われた今年のエクスポも開催前の賑わいに片がつき始めてきた時。
「はい、こちら提督の三番電話です。この電話は夕張総業ように設置されています。陸軍の方は一番電話へ、海軍の方は二番電話へ、明石工蔽関連の報告は四番電話におかけ下さい」
『提督、夕張よ』
電話から聞こえてきたのは、懐かしの声。夕張総業の社長さんである。
「おう、商業スペースの確保は済んだか?」
『勿論、それに関してはバッチリ何だけど……売ってもいいものなのかしら?』
売る物は勿論、自動人形だ。
人体機巧のスペシャリストである俺が端正にこしらえた、限りなく人に近い有機パーツを組み合わせて作り上げた『禁忌人形』よりもそれらしい自動人形。魔術師倫理規定にも違反しないし、修理には夕張総業の手助けが不可欠だから大量に買い込まれても全然問題はない。
「軍の許可は得たし、あくまでも単純且つ威力の弱い回路を二つ積んだものでしかないし……改造しようとすれば自壊するから問題はないさ」
『それならいいんだけど……いい造形よねぇ……これは』
本来、ただの技師として出店出す分には軍部の許可は必要ないんだが、くだらないことで言いがかりは付けられたくない。細心の注意は払っておくべきだろう。
『この有機パーツの結合部分の見事さ!ねぇ、どうやったらこんなに人に近く作れるのかしら!?』
「弟子一号。君も似たような物作れるじゃないかね」
『似たような物じゃ足りないわ!完璧に模倣したいの!』
野心バリバリな夕張総業社長さんとの回線を切り、最近作り続けていた自動人形の納品書を作成、実物と共に部屋から運び出す。
……五万体完売を目指そうか。まず初日は二千体のみ出して早めに売り切らせることで他の客からの注目を集め、二日目以降は五千体。四日目以降は大口の買い手が付くのを待つ。
「ハハハハハハハハ!金が儲かるッ!」
「提督さん、今まで何をしてたの?」
「七徹で人形作り。いや何せ、千載一遇の商業チャンスなんでね」
ドアの前でスタンバっていた五航戦の黒い方に襟持ち引きずりを喰らわされながら、至って冷静に答える。
金ッ!稼がずにはいられないッ!
「風呂入ってご飯食べて、軍服新しいのに代えて、下見に行ってきなさい」
馬力任せに風呂場に放り込まれ、追撃に軍服が投げ込まれる。
あの五航戦……軍服をなんだと思っていやがる……
勲章やら何やらを外し、風呂に入る。
加賀さんとの生死をかけたお出かけまで、あと半日にまで迫っていた。
「じゃあ、行こっか?」
「……はい」
まだまだ肌寒い中、いつもの軍服スタイルな俺と、いつもとは違って洒落た上掛け姿の加賀さんが連れ添って寮を出る。
今日はエクスポ三日目。我が夕張総業の出店も計算以上の売り上げを叩き出すことに成功し、大口の顧客も得た。
利益は一機売るごとに原価分はいるので(つまり定価が原価の二倍なので)非常に儲けることができることが出来ている。
ここ二日は新たに二万体作り上げることに全力を注いでいたため、マトモな生活をしていないが、そんなことは問題ではない、
「商業の方は順調?」
「ん、ああ。やっぱり人間に近い自動人形は人気があるよ。二日で二万体ちょい売れたし」
「そう」
ちらっとこちらを見上げ、少し首を傾げる。何かに気づいたのか、或いは俺が日本軍以外に人形を売ることが意外だったのか。
いや、俺としても心中複雑だが、金がなければ新たな技術は作れない。故に『最新鋭の戦闘技術』を使っているわけではないというこの一点に絞って自分を納得させているのだ。
今回作ったシリーズに共通する特徴は、『美人』。言うなれば西の一品斎が手掛けた『月下美人』シリーズである。
ガチ戦闘用に作った場合は髪の色から目の色までがその身に流す魔力の質に、容姿が自立回路に秘めた性格によって変化するから美醜に頓着するわけにはいかない。というか、面倒くさい。しかし何故か美人が多いのだがね。
その美人が多い現象を逆手にとり、目の色髪の色顔のパーツを弄くればあら不思議。立派な美人の完成です。
「最近女を作るのになれてきたのが怖いよ。
………ほら、男の方が金持ってるし……ね?」
「……――ええ、そうね。いい判断だと思うわ」
氷のような視線に射られ、慌ててごまかしと言い訳に走る。
加賀さんの怒りの壷はよくわからん場所にあるのだ。
「ええ、実にいい判断だと、私は思うわ」
「お、おう…」
いちいち区切るのが堪らなく怖い。
そのことを意識してやってないなら尚怖い。
「あなたが日頃見慣れてるのは知っているもの」
「女の裸体を?」
視線で人は殺せないが、意志と心を潰すことは出来るんですね。
この私、二十年近く?生きていましたが、まさかそんなことを知り、実感する日がこようとは思いもしませんでした。
「……作った子たちに思い入れはないの?」
「いや、全く」
「そう」
嬉しいんだか不安なんだかよくわからない複雑な表情でそっぱを向いた加賀さんの肩に手を置き、こちらに視線を戻させる。
「あのさ、加賀さんとかにはちゃんと思い入れあるし、売ってといわれても売らないから心配いらないよ?」
「それについては心配したことなどありません」
「なんで?」
いやまあ、日本軍が手放すとは思わないけどね。
「私はまだあなたにとって有用な存在よ。あなたは役に立つ道具を切り捨てはしないわ」
真っ直ぐこちらを見る目には、少しの悲しみのような物があった。
……道具。つまり、加賀さんは自覚しているわけなんだ。
役に立たなくなったり旧式化したりしたら、すぐさま棄てられてしまうものだということを。
「でも加賀さん、もう役に立たなくなっても俺は加賀さんを切り捨てないよ」
真摯に、しかし寂しげに。
こちらを見る加賀さんにいじらしさを感じて口を開いた。
「……それは除籍されたあとのことを言っているのかしら?」
「ああ」
「……そう」
キュッと握り込むように自分の上掛けの裾をつかみ、胸に手をやる。
何故か少し満足げに目を閉じて、加賀さんは再び口を開いた。
「それなりに期待はしているわ」
「失礼な。俺はここぞと言うときにしか嘘を付かないんだぜ?」
「そちらに期待しているわけではありません」
ピシャリと言い捨て、歩き出した加賀さんの足取りは何故か軽い。
今までのやりとりにいかなる嬉しくなる要素があったのかははなはだ疑問だが、機嫌がよくなるに越したことはないだろう。
ふと見渡してみれば、最早エクスポ会場のど真ん中にきていた。何やら話し込んでいる内にふらふらと足だけが動き、来てしまったらしい。
「あの人混みは何でしょうか?」
「……ああ、あそこ俺の出店だわ」
紳士と軍人と貴族が群がるその場にはためく一品旗。由緒正しき毛利家の家紋であり、『西の一品斎』の作品についている血統書みたいなものである。
そのマークがあるイコール品質保証なので、真似できないよう細部のディテールにわりかし拘って作ってあるのだ。
「盛況ね。三日目なのでしょう?」
「いや、俺もまさかこれほどまでとは思ってなかった。実際に足を運ばないとわかんないこともあるもんだな」
夕張がキラキラ状態だから、てっきり暇している物かと。
『フフフ……やはり皆、品質の良さこそ正義だとわかったようね…!
さあ、いくらでも売りさばいてやろうじゃない!』
変なテンションだな、夕張。やはり君はこういうことに燃えるタイプだったかと見た自分の目を褒めたくもあり、変な趣味に目覚めさせてしまったかと思って後悔しつつもあり。中々に複雑な気分だよ。
一日目は安価な他の出店に負けそうになったこともあってイラついていたようだが、今は問題は―――
『フフフ…ハハハハハハハ!』
……ない。ないな、うん。
「笑い方があなたそっくりね」
「因みに口癖もな」
色々試してみてもいいかな!?は元々俺の口癖だ。今は夕張の口癖と化したからあまり使ってないが。
「行こうか?」
「そうね」
女の前で他の女(弟子一号)の話をしたというのに、加賀さんの機嫌はかなりいい。
『あなたの作品が認められることは私にとっても嬉しいこと』ということらしいが。その本当の心まではよくわからん。
まあ、それが本心だったらうれしいことだ。他人の成功を喜んでくれる人というのは珍しいものだしな。
「というか加賀さん。いつもの加賀さんに戻ったね」
寮を出たときは右手と右足が一緒に出るような案配だったのに、くだらない話をしている内にすっかりいつもの加賀さんに。食べる姿もいつも通りに元気なものだ。
「そうね……ありがとう、と言っておきます」
「別に意識してやったわけじゃないから気にしなくていいさ」
飯を食い終わり、店を出る。少しこ洒落たレストランに行ったからエクスポ会場に戻るのには時間がかかるが、俺も早足、加賀さんも早足。さほど時間はかかるまい。
「…………」
と思った、道中。加賀さんの視線が横に向く。
少し気になったので追ってみると、そこにあったのは……指輪?
「指輪?」
「違います」
「さ、さよか」
強い語気で言い切られ、黙る。
確実に視線が銀の輪の方に行っていた気がするのだが、そう言うことならそう言うことにしておこう。
「……あの」
「ん?」
「少し肌寒いと思わないかしら?」
すっごい棒読みだった。なんかもう、意図的にやってるんじゃないかと思うほどに。
―――考えろ
この棒読みから内包される感情は当然、読みとれない。しかし、その内包された感情を覚らねば死が待っている。
『寒いと思わないかしら』。今は春先から初夏。日本では暑くなってくる頃だが、英国ではそうでもなく、僅かに肌寒い。加賀さんのセリフには事実がある。つまるところは比喩ではない。
俺にその話を振ったということは、俺が出来る範囲で行動を起こせと。そう言うことだろう。
―――謎は、全て解けた。
「……!?」
……ある動作を、起こした。
肩から頭までをビクリと動かし、いつになく女っぽい色気を持った視線が俺に突き刺さる。
「これで寒くないんじゃないかな?」
加賀さんは、動かない。
加賀さんは、喋らない。
ただ僅かに、首が縦に振られたような気が、した。
読了ありがとうございました。感想・評価いただけるとひっじょーに、幸いです。
難産でした……自分には加賀さんの魅力を引き出しきれなかったような気もしますが、これが全力です。
艦これやってない読者の諸君。本物は何倍も可愛いからね!勘違いしないでよね!