ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
なお、艦これでついさっき浦風と三隈が落ちた模様。
「起きよ、馬鹿息子」
反乱の報に際して家を後にしたとある民家。その一室に当然の如く不法侵入し、金髪の美女は妖艶に髪をかき分けた。
異常なまでの色気に、纏う魔力の濃密さ。前者は兎も角、後者は彼女が只者ではないということをこれ以上ないほど明確に表していた。
「む」
目を覚ました男は、帝国海軍中将。姓は毛利、名は元景。先の反乱軍との戦闘で一切の抵抗をせずに銃弾を三発喰らって行動不能に陥った男である。
「金薔薇か」
『金薔薇』。世界的なテロ組織、『薔薇の師団』の大幹部にして、もっとも著名なテロリスト。
強力な自動人形と自身の凶悪無比な魔術に、慢心気味ではあるが狡猾な知恵。どれをとっても最強クラスな猛者であり、容色にも優れている。
目の色、髪の色こそ違えども、どことなく顔つきの似た二人の視線が交錯し、提督は自身の置かれている状況を把握した。
応急措置ではあるが、割と丁寧に傷の手当はされている。銃創は依然として痛むものの、これに関してはその気になれば痛みをなくすことができるからセーフ。
万が一の幸運に備えて撃たれた箇所を急所から外し、身体の軟部に集中させたのがここにきて役に立ったらしい。
「如何にも、わしは金薔薇じゃ。しかし、実の母親を無碍な名で呼ぶとは……すげない奴だの」
「娘をモルモットにするような親を、一般的には母とは呼ばん」
「ああ、奴は無能じゃったからの」
「まあ、あんたならそう言うだろうな」
循環に足る血がないからか、頭は茫洋として働かない。
急所と主要な血管から狙いを外したとはいえ、出血量がものすごかったのだ。仕方ない、といったところだろう。
「じゃが、お主は有能じゃ」
「どうも」
「釣れない奴よのー」
ぺしぺしと寝転んでいるこちらの右腕を叩き、つまらなそうに足をブラブラと振りだす。
煽情的な格好をした金薔薇から目をそらし、適当に辺りに視線を向けた。
……窓から見る光景から察するに、ここはまだリヴァプール。学院に入って地号作戦の経過を見てみたいとこなんだけど。
「バハムート、来い」
自身の切り札たる獅子型の自動人形を呼び寄せて逃走を阻んでいるこの魔女をどうにかせんことには何ともならん。
(『完全なる獣』、か……)
バハムートと名付けられたそれは、俺が一桁の頃に――――つまりこの魔女が父と仲良く暮らしていた時に『俺が』改造した自動人形。『万物流転』というクソみたいに強い魔術回路をさらにチューニングした厨仕様。こいつの犯罪の片棒を担いでいることもあり、俺的にはもう二度と見たくない部類に入る。
「なあ、息子よ」
「何だ金薔薇」
「結社にこんかや?」
黄金の獅子を毛繕いしつつ、なんでもない世間話のようにそう切り出した。
少々面食らったものの、答えはすでに決まっている。
「断る」
「よく考えよ。今回お主がこんなザマを晒してるのは何故じゃ?」
「不覚を取ったからだ」
「くだらぬ俗世の理に囚われておるからじゃろうが」
確かにそれはそうだ。今回の敗因は即ち、反乱軍認定されていない英国軍に刃を向けることができなかったから。この要因が一番デカいだろう。
「結社は良いぞ。何をするにも実力主義じゃからの。己一人で何もかもが為せる。
お主もそこそこな自由を得ているが、わしや他の薔薇からすればまだまだじゃ」
「……何、最近の動向見てたの?」
「お主がラザフォードの小僧に助力してから何年かは見ておったぞ」
つまりあんたが出て行ってからずっとじゃねえか。
「ナガトとやらが生まれてからは少々つらくなったがの……まあ気を付ければ何ともなかったわ」
「プロだな、あんた」
まさか今に至るまでストーカー行為の被害を受け続けていたとは。いや、視線は感じてたけどさ、それは暗殺者とかのソレだと思ってたよ。
「まあ、わしの誘いは頭の片隅のおいておくとして、じゃ」
「久遠の彼方に、の間違いだろ?」
「お主、元気と無口を侍らしてウハウハしておるようではないか」
俺の寝ているベットに脚を伸ばし、投げ出す。
この魔女、年食ってる割にはやることが一々子供っぽい。俺の父親は果たしてこんな魔女のどこに惚れたのか。これは十九世紀最大の謎だろう。
そして、命名基準がおかしい。わかってしまう俺も俺だが。
「忠告をしておくが、女には気をつけるこ―――」
「あんたを見てたら女が魔物に見えてくるから心配はいらん」
「お主はモテん、女は裏切る。最悪な相性じゃからの」
「……何なんだ、あんた」
何?助けたのって俺の心を完膚なきまでに叩き折るためなの?馬鹿なの?屑なの?死ぬの?
というかあんたが『裏切る』とか言うと信憑性があるな。流石は俺の人間不信の原因だよ。
「まあ、最近はいつになくモテておるようじゃが……長くは続かんわさ」
「金剛と加賀さんのことだろ?」
「なんだ、案外と朴念仁ではないらしいの」
そりゃあんた。人の動作から感情が読み取れないようでは謀略家は務まらんさ。その感情をうまいこと利用すんのが仕事なんだから。
「気づいてなければいずれ離れていくし、こちらが傷つくこともないからね」
「そのスタイルが変わらんようで何よりじゃ」
眠そうに口に手を当てながら、こちらにグイッと顔を寄せる。
耳元にかかる息がくすぐったいが、しかし微塵もドキドキなどしない。
外見美人でも、中身は蛇か夜叉。つまるところはロクなもんじゃないからな。
「お主、武装をこれまた派手にぶっ壊されたようではないか」
確かに腰には銃はなく、軍刀代わりの鈍すらない。
この魔女が言っている通り、壊されたか持ち去られたことに間違いはなさそうである。
まあ。あの銃とカードは他人の手に渡ったら自壊するようになってるから機密は漏れない。日頃の周到さが身を救ったな。
「で、ほれ。母からのプレゼントをくれてやる」
顔を耳元から離した金薔薇から放られたのは、一本の長包みと小箱。
放られたそれらを空中で止め、構造を解析する。
長包みは、魔術的要素を多分に含んだ一品。おそらくは人体パーツに魔力を蓄積させたものを主材料として作られた何かだろう。
小箱は、只の金属環。魔術的要素は含まれているものの、その量は微弱だ。隠されている可能性もほとんどない。
「そう疑うな、ただの親心じゃよ」
「巷には娘を殺して禁忌人形の材料にする親心もあるらしくてな」
「……相も変わらずよく回る口じゃの」
取り敢えずとばかりに皮肉で返してやったものの、苦りきったように苦笑する金薔薇に珍しく嘘は見られない。
本気でこちらの身を案じているとは到底思えない、が……
「まあ、もらっておく」
「おうおう、もらっておけもらっておけ。他人の――――というか、わしの見せた久々な善意を受け取らないとあらば勿体ないどころの騒ぎではないからの」
適当に流し、長い方の包みを開ける。
見た感じこちらは武器らしい質感を持ってるし、外装と中身で材質が違うであろうことも解析してわかった。おそらくは仕込み杖だろう。
「……あん?」
本来柄があるところに黄金色の純金製&漆黒の魔術結晶のグリップ。無駄な凝り性に基づいて彫られた紋様のくぼみに沿って純金が流し込まれており、魔力的な意味での伝導率も高い。
だが。
「なにこの蛇は」
「お主の銃、あったじゃろ?その銃床の部分を流用した」
確かにこれはまあ……グリップ持って蛇の後頭部のとこを上にスライドさせると契約したカード&封印したカードを読み込めなくもなさそうだけども。
「邪魔」
「じゃ……!?」
上から金黒金になっている配色のグリップ。その黒の部分のみを左に回転させ、グリップから下の錆色の鞘に当たる部位が床に落ちる。なるほど、こうすりゃ楽に戦闘態勢に入れるわけね。
「居合抜きが少しばかり難しいけど……それ以外なら使えなくもないな」
「じゃ、ま……じゃと……?」
美術品としてなら一級品なんだろうけど、戦闘用の備品としてはいまいちだな。それでも使ってる材料は俺でも手が届くか届かないほどの超高級品だから今までのよりはいいんだろうが。
「それは置いておいて。この魔術マテリアル……誰のを使ったんだ?」
「ああ、そりゃわしのじゃ。私の右腕の骨を斬って抜いて溶かして加工した後、魔術的にも加工したんじゃ」
ほれ、とこちらに見せた右腕は仄かに黒ずみ、ひび割れている。おおかた禁忌を犯した秘法で治療中―――というか、再生中なのだろう。
「とにかく、蛇を取ることは許さんからの!お主が『魔剣』を手に入れたからこそその装飾をつけてやったというのに、その親心を無にするな」
「でもこれ、今カードを一枚も持ってないから使えな―――」
金薔薇の手から、一枚のカードが放たれる。
回転しながら床に角を突き刺さらせたそのカードの中に入っているのは、蛇。
そこには何故か製作途中の『魔剣』搭載機が封印されていた。
「―――くはなくなった、な」
『魔剣』のカードを拾い、無事だったカードケースに収納する。
中に入っているカードはほぼ全て白紙。契約を解除すると戦闘能力ががた落ちだ。
「……あら、ほっぽちゃんのはあるんだな」
契約を解除しても解除出来ないところに呪いの装備めいたアトモスフィアを感じなくもないが、ほっぽちゃんに積んでた金剛力と氷面鏡、あとは進化とかの関連カードを得られるのはうまい。
「では、行くとするかのう」
「どこに?」
「学院にじゃ。お主の立てた策、見せてもらおうか」
唐突な、保護者面談が決定した瞬間だった。
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