ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
地号作戦。二ヶ月前に王位継承権第一位たる黒太子・エドマンドの反乱計画を掴んだ俺が、伯と日本大使館に働きかけて実行寸前までに漕ぎ着けた作戦である。
まず第一段階。夕張をイギリスに出張らせ、自動人形を大量に保持していたとしても不自然ではない状況を作る。これはエクスポがあることもあってうまくいった。
次に、第二段階。主力になるであろう機動部隊を無理のない状況で呼び寄せる。
これもうまくいった。黒太子が養殖した―――と言うよりは某国が開発した魔導生物を根刮ぎパチってきた薔薇の師団が養殖していた手駒をあんなに派手に使ってくるとは思っていなかったが、諜報網に抜かりはない。流石に規模までは掴めなかったが、それをトリガーに戦力増強も完了した。
最後に、第三段階の政治工作。これは時間こそかかるが失敗はない。伯と伯の父親であるウォルター・キングスフォート伯は陛下の信任篤く、政治手腕にも優れているし、日本軍は元々好戦的な性格をしているから全く問題はない。外交官にも伝手はあるし、何よりも反乱計画の幇助ではなく鎮圧なのだから問題になる要素は薄い。
あるにはあるからせっせと政治工作をしたのだが。
しかし、もうすぐ実行準備完遂という時点で肝心の俺が行動不能に。長門がいるから作戦は続行されているんだろうけど、それでも進行速度が落ちていることは明白。
そもそも広場を占領・網の目のような街道を封鎖―――つまり、兵力が分散している状態にある反乱軍を日英戦艦部隊が中央から、夕張に預けてある自動人形群が左から。第一機巧師団内で寝返らせた一旅団相当の兵力を右から突っ込ませ、機動部隊でアウトレンジと言うのが作戦だったんだが。
「……何というか、修羅の形相じゃの」
「せやな」
二旅団相当の兵力が寝返ってるし、日英戦艦部隊(長門・ネルソン率いる警備部隊群)は安価な量産品とは思えないほどの攻めの苛烈さを見せている。
自動人形群は被害を無視して戦闘続行、艦載機の皆様方は敵軍すれすれを飛行・爆撃しているし、何よりも命中率が凄まじい。九割五分は敵の人形使いに一切致命傷を負わせることなく自動人形のみを爆散させている。
キチガイ練度が更にキチガイになっていることが一目でわかる、この急降下っぷり。
「これさ」
「ん?」
「後ろからこう……突っ込めば、ね?」
三方向から突撃が敢行され、空にはキチガイ集団が急降下爆撃を繰り返している。
これ、後ろから新手を出せば確実に潰走だろう。というか、裏切られた挙げ句に三方向から攻められて崩れてないのがすごいんだが。
流石英雄、流石機巧師団。こちらが人形使いを狙わないように手加減していると言え、凄まじい強さだ。
「じゃが、わしが千、お主が千殺せるとは言っても集の力には代え難いじゃろう。後ろから『敵襲団』に襲われ事で奇襲となるわけだからの」
「……あぁ、それについては」
胸の二重ポケットをまさぐり、一枚のカードを抜き放つ。
それは無地の白カードではなく、きちんと刻印が為されていた。
「なんじゃそりゃ」
「いや、外見がキモいから使いたくはなかったんだけどね」
指輪に魔力を込め、錆色の鎧が身体を包む。
茶色と灰色の間の子のような鎧には僅かな力も感じられない。
「………これならまあ、『量産型かな?』で済むじゃん?」
「というかお主、魔力を通せばよいものを」
通したら悪趣味なメタリックパープルと金の彫刻が出るんだもの。
明らかに蛇がモチーフだし。性格的な面で似ていることは否定しないが。
「あくしゅ……!?」
「金薔薇。君の趣味は少しばかり……こう、アレだからな」
「メタリックパープルになるのはお主の魔力の問題じゃろうが……」
金薔薇がどこからともなく取り出した錫杖の先に鷲を止まらせたような赤茶色の杖には、安定の金色の装飾。金薔薇だからといってこいつ、黄金を使えばいいとか思ってるんじゃないかと思うほどの金色好き。
なお、作ったのは俺な模様。
「で、なんじゃそれは」
「増殖」
具体的に言えば、使った対象を任意の数にまで増殖させる。効果時間・量は魔力に依存。
「は?」
「この世の中には分身系の魔術回路多いけど、分身しただけ元の力が割られていくみたいなのが多い」
「ま、まあ、の。身体能力が倍になるわけではあるし、数を揃えるというのは実際切り札になりうるからの……その分リスクがあるのは当然じゃろうが」
「でも、それでは完全とは言えない。というか、分けるから減るんだよ。
分けて減るなら増やせばいいのに、何故皆揃って分けることに執着するのか」
常識が死んでいく断末魔を鼓膜で感じつつ、金薔薇は顔をひきつらせた。
この子はいつもそうだった。何か変な方向に驀進し、何らかの成果を斜め下辺りから持ってくる。
六歳の時に時を操る『万物流体』の機能を三つに分割・カード化にして簡略化し、少量の魔力で複雑な大魔術の発動を可能にした。
一見カードを読み込むという行程を踏むことから無駄が多いと思われがちだが、効率も発動までに至る時間も桁が違うのだ。
「まあ、痛みが増殖数分増えるけど―――」
蛇の後頭部を撫でるように上げ、片手に用意していた『増殖』のカードを読み込む。
「―――当たらなければどうという事はない」
纏う鉄錆色の鎧の輪郭がブレ、左右に分裂を開始する。
鉄錆色の騎士が、百体以上ずらりと並んだその光景はまさに圧巻。
「金薔薇は見てるだけでいいかもね」
「阿呆、わしもやるわさ」
細部のデザインこそ違うもの、黄金の鷲を意識したようなその意匠は、どことなく提督のそれと似通っていた。
「これがあるじゃろ」
「……そう言えばそうか」
遺伝子のような螺旋構造。青と赤が天を目指して渦を巻き、そのカードに仕込まれた魔術回路の特異さを際だたせる。
一回錫杖に装填し、排出されたソレを再装填。
そう、そのカードは―――
「『何にでもなれる魔術回路』とはよく言ったもんじゃな」
「まぁ、天才だしね」
「知っとるわ」
誰が褒めて褒めて、挫折感の欠片も味わわせずに育てたと思ってるのか、この息子は。
自分に絶対の自信を置いていること。
格下に対する素晴らしき慢心。
異常なまでの周到さと、勝ちへの執念。
戦闘に対する飽くなき執着。
不意打ち第一の先制主義。
これらを授けたのが『セトの魔女』アストリッド・セト―――金薔薇であり。
父からはこの金薔薇を嵌め殺すレベルに緻密な謀略と、部下への甘さを。自身の嘗て置かれていた境遇からは捨て鉢な勇敢さを、それぞれ得ている。
「……じゃ、行こか。というかあんた、バレないようにしろよ」
「案ずるな。この姿をさらしたことはお主からこの錫杖をもらってから一度もないし………黒薔薇の阿呆の養子には何の愛着も何もないしの」
計二百体となった、一人でもやりようによっては二千を殺せるであろう二人の怪物が第一機巧師団へと突撃を開始した。
読了ありがとうございます。感想・評価いただけると幸いです。