ビッグ7は沈まない 作:ドラフェノク
「さて、種が割れた手品はただの茶番だし……終わらせようか」
装甲が紫色に染まり、英雄がその身体を霧散させたあたりに手を向ける。
「何するんデスカー?」
「いや、少し魔術をね」
母バレを防ぐための三重の封印を施した『セトの方の』魔力を解放、魔術を組み立て始める。
空間汚染、とでも言おうか。空間の分子を瘴気に置き換えると言う、セトの一族の異能に於ける燃料とも言える瘴気を補充・次の大技に接続するための基礎魔術である。
もっとも、この場合の基礎魔術と言うのは『術の発動のための基盤になる』ことを指し、決して簡単なものではない。この魔術はアストリッド・セト―――金薔薇でも使えないほどの高等技術である。
人を生贄するか、妖から貢がせなけければ補充できないものをどこにでもある空気から補充しようというのだから、当然と言えるが。
―――ここで、話は変わるが。なぜ英雄は身体はおろか、服や剣型自動人形に至るまでを空気に霧散させ、攻撃するときのみ実体化したのか。
そしてなぜ、零閃で虚空を切ったら軍服の切れっぱしが落ちてきたのか。
これらを考えた結果、俺はある結論に達した。
英雄・グレンダンの操る自動人形の内包する魔術回路は、体に触れている物の密度を操作するものではないか?
つまり、密度を薄めて霧散させ、密度を濃くして実体化する。攻撃するには霧散させなければ全くこちらにダメージを与えられないが、密度を薄くしてしまえば敵の攻撃を受け流すことが出来る。
しかし俺の刀は分子結合そのものを絶つ。いくら緩めておこうが素通りはせず、受け流せもしない。ただただぶった斬られるだけである。
敵の回避とか何やらを度外視してひたすら斬っていくのも面白いが、密度を薄くすれば英雄の身体は空気に溶けるのだ。
――――もっと効果的な方法があるだろうさ。
はい、ここで問題です。魚をコップ一杯の水に落としました。
この水が突然王水に変わったらどうなりますか?また、コップは王水に耐えられる物とします。
「セトの魔術第十三階悌三章五節、発動」
目の前の一万立方センチメートルの正方形分の空気が突如淀み、灰色と紫色と赤色の絵の具を混ぜたような汚い気体へと変質。その場に停滞を続ける。
「提督、なんデスカー?」
両手で金剛の目を塞ぎ、備え完了。
さあ、こいや。
「―――~~ッギ!?」
一秒も経たぬ内に肌が焼けただれたように崩れ、血管を紫色に染めた英雄がその場に崩れ落ちた。
手に持つ剣型自動人形は溶けて液体となり、軍服は皮膚と癒着していて取れそうもない。
目は白に染まり、完全に失明していることがわかった。
「残念だったな、英雄。俺のセトの魔術は毒特化――――腐蝕に始まって様々な症状を引き起こし、挙げ句の果てには全てを溶かす猛毒を作るのに全てのポテンシャルが注がれてんのよ」
行き場をなくしてさまよう瘴気を呼び出した蛇型自動人形に呑み込ませ、無惨か姿を晒す英雄に背中を向ける。
「死にはしないから安心しな。匙加減なら名人芸なんだわ、俺」
何せほら。暗殺者には黒幕吐いてもらわにゃならんだろ?
「ほーれ金剛。後ろ向けー、後ろ」
手で目を塞いだままくるっと身体を反転させ、長門にコツコツ体力を削られていく美人の方へと視界をシフトさせる。
実際、娘的な存在にあんなグロキモい光景を見せるわけにはいくまいて。
「うー……」
「おう、すまんすまん」
隠し事をされたのがいやだったのか、或いは活躍を見せたかったのか。
どっちにしても、金剛は果てしなく犬っぽい。人懐っこいし、わかりやすいし―――付き合いやすい人種だろう。主に腹のさぐり合い敵な意味で。
「金剛、金剛。お前さんの相手はあっちじゃ、あっち」
「……むー」
「へそ曲げんな。頑張れ。期待してるからさ」
なんということでしょう。軽く頭を撫で、心から優しい言葉をかけてやるだけで、あの頬を膨らました金剛が幸せそうににへらにへらし始めたではありませんか!
「じゃあ、頑張りマース!見ててくださいネー!」
……悪い男に引っかからんかどうか少し、心配になるな。この単純さ。
いや、純粋なのか。
金剛はすごく犬っぽいからあんまり『美人』としては見ていないが、この金剛も非常に美しい女だ。
長門が落ち着いた大人の女性。加賀さんがクールで知的な高嶺の花だとしたら、金剛は元気で快活な女の子と言ったところだろう。
長門は桜、加賀さんは桔梗、金剛はひまわり。
長門は日向で、加賀さんは月、金剛は太陽。
色々並べたが、大体のイメージはわかってくれるだろう。
「Burning Love!!」
強敵相手の援護射撃をしながらも相変わらずな金剛を見て、苦笑した。
見てて可愛い奴だよ、本当。こうも真っ直ぐに好意をぶつけられると疑ってしまうけども、な。
「金剛、全力でいくぞ」
長門森炎上事件以来、艦娘たちに架したセーフティーをカードを以て解除し、全力でセトの方ではない魔力を注ぐ。
同時に、長門にも魔力を注ぎ始める。
金剛→長門の全力で突破の流れ。この全力二連撃はいくらタフな敵とて防ぎ切れまい。
「了解デース!」
くるりと空中に身を踊らせると、腰に纏った艤装が空気に溶けていく。
代わりに彼女の下に現れたのは、巨大な船体。
巡洋戦艦『金剛』である。
「全砲門、Fire!!」
凄まじい快速は空中でも変わらず、威力減衰なしの凄まじい砲火でもって長門と交戦中だった黒髪ロングの身体を宙に躍らせる。
『……ッ!』
「これでFinish!?な訳無いデショ!
私は食らいついたら――――」
重心を下に掛け、一刻も早く攻撃を回避しようと足掻く黒髪ロングに対し、獰猛な笑みを浮かべた。
その表情には、卑しさのような物はないし、浅ましさもない。
明るく、激しく、ただただ強い。
品を失わうことない、気高い獣の獰猛さ。
「離さないワ!」
船体の衝角を横腹にぶち当て、遙か彼方へとぶっ飛ばす。
背後には海。そして、その海に立つのは世界のビッグセブン。
「ビッグセブンの力―――」
背負うは国。抱くは誇り。
鉄火の塊のような重武装を軽々装備し、ただ一つの標的へと狙いを定める。
「―――侮るなよ」
ニヤリと、男前に笑った。
その瞬間、光が瞬く。
鉄が飛ぶ。火が舞い、喰らった身体が粉々に消し飛ぶ。
全ての火力が一点のみに集注され、全てが余すところなくその威力を発揮した。
「……派手な花火だこと」
見て見て、勝ったよー!とばかりに二本角の背中から腹にかけてを爪で突き刺したままこちらに向かってくるほっぽちゃんを見て、ため息をつく。
流石に身体がしんどいが、終わった。
あとは……事後処理だけってか?
更なる仕事の訪れを悟り、傷口の痛みを実感し。
反乱騒動は、終わりを告げた。
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