ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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加賀さん、がんばる。


『T』に別離を《Ⅸ》

「申し訳ありませんが、詰め所まで同行を願います」

 

英雄を布にくるんでしょっぴかせ、黒太子もまた手錠を掛けてしょっぴかせ、俺もまた任意同行と言う名のしょっぴきを喰らい、リヴァプール市の警備隊の詰め所へと連行される。

 

「ご苦労なことじゃの」

 

「金薔薇か」

 

しょっぴかれた先の詰め所の一室で聞こえてきたのは、老獪さと狂気を兼ね備えた世界有数のテロリストの不愉快気な声。

何かが勘にさわっているらしいな。どうも。

 

「あんな奴ら被害なんぞ気にせずに都市区画ごと吹っ飛ばせばよかったものを………最後のナガトとやらの一撃も海上に向けて放つなどという体たらく。当たったからよい物の、外れたら逃げられておったじゃろうに」

 

「長門は外さんし、それに今回の偽善的な行動―――避難とかは、英国の世論に好印象を植え付けるためにやったもんだ。都市区画ごと吹っ飛ばせば顰蹙を買うことは免れない。

それが必要なことであったとしても、世論は自分の環境を破壊されることを嫌う。馬鹿なもんさ」

 

「お主の父ならばもっと効率よく潰しておったわさ」

 

「娘どもは極力危険にさらしたくないんでね」

 

兵器としての危険さは請け負ってもらわなければならないが、俺個人の計画で危険にさらすことはない。戦ってはもらうが、勝算がなければ突っ込ませないのが鉄則だ。

 

「矛盾じゃの」

 

「人と兵器と言う要素を同居させている時点で矛盾なんじゃない?」

 

作った当初は使い潰すもよし、量産もよしで作ったが――――今はそんなことはできそうもない。義務は果たしてもらうが、捨てはしない。捨てる必要に迫られないように上手く戦いを運ぶことを選ぶ。

 

「ふん……お主、随分甘くなったの」

 

「血は繋がってないとは言っても、やっぱり娘は可愛いもんさ」

 

「理解できなくもない、が。無能は切るべきじゃろうて」

 

「家の娘に無能は居ないからご安心を」

 

茶化すように言い放ち、掛けている椅子の背に体重をかける。

 

「早死にするぞ、馬鹿者が」

 

その言葉を最後にふっ、と気配がたち消えた。どうやらどこぞに帰ったらしい。

 

……まあ、金薔薇には理解しがたいだろうな。実の娘をモルモットにするようなやつだし。

 

そう一人ごち、目の前に泰然とあったドアが開く。

 

「閣下、迎えに参りました」

 

「ご苦労。迷惑をかけたな」

 

「いえ、あの場合は動かなかった方が厄介でしたから、何ら問題はございません」

 

迎えに寄越された大使館駐在武官に連れられ、俺が設計した量産型高級車――――実際には夕張総業が作っているものだが――――に乗り、なんの取り調べも受けることなくその場をあとにする。

やはり工作と言うのはやっておくものだな。解決するまでの過程においても役に立つし、解決してからも楽になる。

 

「これからの予定は?」

 

「閣下に勲章が授与されることとなりましたから翌朝正装していただき、すぐさまバッキンガムに向かっていただきます」

 

「決定がいやに早いな。何かあったのか?」

 

「英国は陸と海の二方面からリヴァプールを強襲、これを占領するつもりでした。これには自動人形が使えないこともあって多大な苦労と犠牲が伴うと予想されていたのです。

なので当然ながら閣下が鎮圧したという成果はすぐさま報告され、このようなことになったのだと考えられます」

 

なるほど、道理だな。

それにしても、黒太子もまた面倒なことをしでかしてくれたもんだ。この一件で政治も軍も大きく変化することは確定。

何せ軍の最高戦力の司令官の内の一人と皇太子が起こした乱なのだから。

 

しかし、こちらがアクティブに働きかける必要はない。俺を利用しようなどともくろむ命知らずは最早議会には居ないし、後処理はウォルター・キングスフォート伯が何とかしてくださるだろう。

 

それに正直、今はあまり頭が回らない。傷が少し熱を持っているような気もすることだし、一通り終わったら三時間くらいは眠りたいのだ。

 

「着いたか」

 

開いた車のドアからあまり身体に衝撃を与えないようにゆっくりと降り、学院内へと足を運ぶ。

 

「おかえり、提督」

 

「ただいま、長門」

 

寮の前でいつものpuka-pukaエプロンを付けて掃除しながら出迎えてくれた長門に軽く返事を返す。

 

「加賀さんは?」

 

「今帰ってきたところだ。再び2Pカラーと戦っていたらしい」

 

「負傷は?」

 

「ない」

 

殆どの艦載機を攻めに偏用してたからロクな直掩隊も付けてないんじゃないかと思ってたが……そんなことはなかったらしいな。

流石は加賀さん。捨て身の猛攻に見せかけた釣り戦法とは、相当にやる。

 

「自分の半径500mに近づく前に全て爆散させていたからな」

 

「直掩隊は?」

 

「全機を攻撃・邀撃に回していたから……まあ、攻撃に回していたんだろうな」

 

アカン奴じゃん、それ。

もう完璧に全部の札を引ききって攻撃に全振りしたような戦い方は危ない。一機でもその半径500mの哨戒線内に侵入を許せば確実に一撃喰らうってことなんだから。

 

「だが、凄まじかったぞ?加賀一人で航空戦の片手間に千機を葬っていたし、何よりも敵を叩くときの判断速度が群を抜いていた」

 

「損失は?」

 

「五機。烈風三機と彩雲二機がその内訳だな」

 

つまり航空戦で烈風を、全体の戦闘内で偵察機―――目の役割を果たす彩雲を集中的に狙われて墜ちたんだろう。

 

全機を使い切ると九十八機。艦攻は魚雷積んでるから使用不可で七十八機。七十八機中五機の損失―――まあ、予想される物からすれば非常に軽いものだ。

 

「搭乗妖精の回収は?」

 

「全員完了している。目立った負傷もないから機体さえ補充されればすぐさま実戦投入が可能だぞ」

 

「落とした敵艦載機は?」

 

「九十七機」

 

相変わらずの練度のキチガイっぷりは顕在どころか、キルレートが1:19に上がっている。どうやら捨て身の猛攻は思いの外効果がある物らしい。

俺の戦法は慎重さと先制を重視しているからもちろん、直掩隊は大量に展開するつもりだったが……直掩隊を攻撃隊に転用するという行動も一応選択肢に入れておこう。使わないと思うけど。

 

「じゃあちょっと加賀さんとこ行ってくるわ」

 

「ああ、労ってやれ」

 

長門との事務的な成分が多く含まれる会話を終え、寮の自室へ。

俺の自室は三階丸々。部屋は多いし使える場も広い。研究にもってこいな環境である。

 

加賀さんの部屋は三階の二号室。一号室が長門だから、八八艦隊計画長女と三女は隣部屋なのだ。

 

因みに次女こと陸奥は今連合艦隊旗艦だから、普通にここには来られなかったりする。

 

「加賀さーん」

 

「……」

 

無言で鍵穴が回り、ガチャリという機械音が虚しく響いた。

 

「加賀さん、久しぶり」

 

加賀さんは、何も喋らない。

この不気味なアトモスフィアは、実際コワイ。正直なところ、激怒モードな加賀さんは初めてみるからどういう反応をするかわからないのだ。

 

「……?」

 

眼つきが大きく違っているが。間違いなくそれは加賀さん。

いつもの温かみと感情が仄かに感じられる眼差しは一転し、ただただ暗い。例えるならば、彼女の扱う魔術回路の奥義的な技であるところの重力操作でできるアレ。それでわからないなら……輝きを無くした石炭、とでも言うか。

 

「俺だ」

 

閉めたドアから少し進み、セクハラ気味に頬をペチペチと叩く。

何故か全くの無反応。ここまで何の応答もないと怖いと、初めて身に染みたと言ってもいいだろう。

 

それに追い打ちをかけてくれるのが光がない感じな目。いや、無いはずはないんだが……何というか、無いようにしか見えないのが不思議だ。

 

「か、加賀さーん?」

 

「…………」

 

こちらを胡乱げな目で一目見、頬を叩いている俺の右手をむんずと掴む。

なんだろうか。潰される気がする。

 

「……提督なの?」

 

「ハイ。そうです」

 

カツカツカツとこちらにひたすら前進してくる加賀さんにぶつからないように後ろに下がるが、残念ながら背後にはドア。

開けている暇も与えてくれず、加賀さんがすぐ側にまで迫ってきていた。

 

「……提督」

 

「……はい」

 

ふわりと、戦闘後とは思えないほど混じりっ気のない良い匂いが鼻孔をつく。

 

一緒に仕事をしていると時々香る加賀さんの匂いだった。

 

「……加賀さん?」

 

口をへの字にした自分の顔を、俺の軍服に埋める。

両腕はおずおずと背中に回され、言うなれば『狭いところでイチャつく恋人同士の図』の如く。

 

何だろうか。最近―――というか今日一日で、二人もの美女に抱きつかれている俺は、非常にヤバいことをやっている気がする。

 

「……てい、とく」

 

絞り出したようなか細い涙声で俺を呼び、ぎゅーっと色々柔らかい身体が押しつけられた。

 

続けようとしたであろう言葉も嗚咽にのまれ、嗅覚と触覚と聴覚を封じられた俺はただただ立ち尽くすのみ。

泣いている女性の扱い方を、誰か教えてください。

 

軍服がしとしとと濡れていくのはまあ良いとしても、あのクール系美人加賀さんが泣くというのはヤバい。

何せ、普段やりそうもないことが目の前で起きているのだ。

 

加賀さんが泣くということは、長門がちゃらんぽらんになるくらい、金剛が俺を『クソ提督』と呼ぶくらい有り得ないことなハズなのだ。

 

「……質問があります」

 

「はい」

 

「何故私を無理矢理逃がし、自分だけあの場に残ったのかしら?」

 

一時間にも、一分にも思える時間が流れ、加賀さんは少しいつもの語調に戻り始めていた。

勿論目にはちゃんと光が灯っている。

 

「加賀さんは俺の大事な部下だから無意味に使い潰すわけにもいかないし、上の命令でもないのに勝ち目のない戦いをさせるわけにはいかなかったんだよ」

 

「私は勝てたわ」

 

「交戦許可が下りないまま戦ってたら、加賀さんはよくて解体処分。そんな目にあわせるわけにはいかなかったんだよ」

 

「私の解体であなたの命を数分でも長らえることができるならば軽いものよ」

 

思わず引っ張りたくなる頬を俺の胸にもたれさせながら視線だけで俺を見据える。

少々変則的ではあるんだろうが、これが『上目遣い』と言う奴か。

 

「加賀さんの命と俺の命じゃあ到底釣り合わないさ」

 

「それを知っているからこそ、『軽い』と言ったのだけれど」

 

「逆だよ、加賀さん」

 

猫が甘える様に頭を俺にもたれさせる加賀さんの肩を持ち、少し強めに引き離す。

 

腕の分だけ空いた隙間を肩に乗せたままにすると言う方法でうまくキープしつつ、言い放った。

 

「美人の命は男より重い。加賀さんは綺麗だし、俺の娘みたいな感じなんだから―――ちゃんと、俺の後に死んでもらわないと」

 

娘が親より先に死ぬのは親不孝もいいところだ。

戦争がある以上、そこに彼女たちを兵器として運用する以上、親不孝者がでるのは仕方ないが―――

 

「俺の目の前では、娘たちを親不孝者にはしないから」

 

「……私は」

 

軽く顔を俯かせ、嬉しいような悲しいような感情が内面を満たした加賀は、思った。

 

私はあなたに死んでほしくないのだ、と。

娘としてではなく、一人の女としてそう思うのだ、と。

 

一番にはなれなくても、自分を女と見てほしい、と。

 

浅ましさを自省し、前を向く。

 

狂おしいほどに愛しい人が、そこには居た。

 

最初は大嫌いだった。何故自分を己の好奇心の犠牲としたのか。何故自分を正しく作ってくれなかったのか。

憎悪しか抱かず、親しみなどは持つ由もなかった。

 

その心の絶叫をぶつける度に、懇々とこれからの海上戦闘について説かれた。

意味が分からなかった。狂っているとしか思えなかった。

 

実際のところ、自分と赤城さんに期待を抱く者はいなかったのだ。待遇も悪く、いつも不満を抱えていた。

 

彼の説く次代の海上戦闘について、理解しようとしたこともあった。

しかし、理解できなかった。違う世界に住んでいるのだとすら、思った。

 

大嫌いだった。目の前の男が大嫌いだった。

理解できない自分が、憎らしかった。

理解できないから、何も言い返せない。ただただ不満を述べるだけしかできない。

 

そして、作られてから初めての演習の時がやってきた。

狂人の指揮下に入ることになり、嫌々ながら命令を聞いた。

ロクに鍛錬もしていなかった。自分をどう動かすのかを、自分が一番知らなかった。

 

―――勝つよ、君達は

 

戯言を鼻で笑い、艦載機を放つ。

言われた通りに動き、矢を放つ。

飛行甲板からの艦載機と矢筒の艦載機、レーダーによる正確な爆撃。

 

言われる通りに動いていたら、気がついたら多くの船の撃沈判定をもぎ取っていた。

 

今から思えば、対空装備がなかったことが大きいのだろう。

 

戦艦を着実に削っていき、初めて指示に反して欲をかいた。

 

華美な扱いを受けていた戦艦連中を見返してやりたかったから。

 

あっという間に中破判定を受け、赤城さんも引き吊られる形で大破判定。

指示に反して後退を怠り、索敵を怠り、負けた。

 

やってしまったのだと、思った。

指示に反しなければ負けなかったのだろう。指示通りに動いて勝ち続けていたのだから。

 

あの狂人は今までどんなことを言っても一度も怒らなかったが、今回ばかりは怒るだろうと。

 

そう思って、彼の私室に赴いた。

 

―――ごめんね、加賀さん

 

開口一番、彼は謝った。

 

―――今回の敗北は君は悪くないんだよ。俺が悪いんだ

 

すまなそうに、ただ実直に頭を下げる。

慌てて謝るのをやめてほしいと、強い語気で言った。

そして彼は悲しげに笑い、呟いたのだ。

 

―――やっぱり、父とは比べ物になんなかったよ、俺は

 

彼が無念気だったのを、覚えている。

 

彼が初めて挫折したのを、覚えている。

 

その原因が自分にあって。それ以来彼が指揮することをやめていることを知って。

 

後悔に苛まれて、彼のことを知りたいと思ったことを、覚えている。

 

「加賀さん?」

 

「はい」

 

「これ、プレゼント―――というか、お詫び。強制支配してごめんねって言う気持ちを込めて」

 

お洒落な紙袋を開け、中身を取り出す。

シンプルな、銀色の輪。

 

小さな、指にはまってしまいそうなほどに小さな―――彼と歩いていたときに自分が見ていたそれが、この場にあった。

 

「加賀さんが見てたから一応買っておいたんだ。これでよかったよね?」

 

「はい」

 

「なら、よかった」

 

ふと、頭に『あること』が過ぎる。

 

―――今なら、できる気がした。

 

今なら伝えられる気が、した。

 

「提督」

 

「ん?」

 

指輪を両手で包み込み、声をかけた。

これからやることを考えるだけでも、心臓が破裂しそうになる。

 

「この指輪、何で出来ているの?」

 

横に重ねた手を貝のように開き、上からでは見れないように調整しながら彼の前に突き出した。

 

「これはね―――」

 

のぞき込むように、頭が動く。

 

背丈の差で普段は届かない、彼の首に腕を巻きつけ―――

 

「……ん」

 

―――唇を、無理矢理押しつけた。

 

心臓が爆発しそうで、血が頭に上っていくのがわかる。

 

時が止まるような感覚の中、加賀は何分、何秒かかったかわからないほど酩酊して、唇を離した。

 

「提督―――」

 

必死に声を絞り出す。

 

最早自分でも何を言っているかがわからないし、思い出せもしないだろう。

 

彼女はただただ、自分の気持ちを言い切った。




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