ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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長門回です。同時に伏線回でもありますが。


『T』に別離を《Ⅹ》

「……提督」

 

傷の熱と気だるさ、何よりも昨日のことが影響しているのだろう。

 

勲章授与式から一連の行動に於いて、全く身が入らなかった。

今も今とてただただ何をするでもなくぼーっとしてるだけなわけだし。

 

「提督」

 

「……あ?」

 

式典が終わり、金剛が大使館に帰宅し、加賀さんが空母寮と(俺に)称されている区画―――二号室(加賀)、三号室(赤城)、四号室(翔鶴)、五号室(瑞鶴)からなる―――の自室に入ってから数時間。絶賛自棄酒中の俺の元に、ふらーっと長門がやってきた。

 

「何かあったのか」

 

「……ああ」

 

隣に座り、何を言うでもなく酒を注ぐ。

こちらも無言で杯を空にし、ため息をついた。

何も聞かれないというのは、時に聞かれるよりも話しやすくなるものだ。

 

「加賀に好きだと言われでもしたのか?」

 

「よく知ってんじゃん」

 

そう言うことに鈍そうな奴が一番聡い、とはよく言ったもんだと思う。

事実こいつは武人然とした性格しながらも、回りの人間の心の変化の機微に敏感なのだ。

 

「まあ、加賀はどことなくあなたにどう接すればいいのか戸惑っているように見えたし、あなたもまた加賀との距離を測りかねているようだったからな。

うまく隠していたが、わかるさ」

 

「……それだけわかればもうわかってると思うけど、断ったんだよ」

 

「だろうな。今はあなたにとって時期が悪すぎる」

 

少し苦笑し、こちらへ向き直る。

 

寝間着代わりの和服を着た長門は、いつも通りに素晴らしく美しかった。

 

「戦争が始まることが確定したんだろう?」

 

「ああ。いずれ彼の国とあたるならば装備・艦艇の質に於いて遙かに凌駕している今をおいて他にはない」

 

「……そうか」

 

情報機関も整えた。装備も他国より遙かに優れた者を量産化することが出来たし、長期戦の心得のようなものも上層部に提出し終わっている。

 

経済においても日本は飛躍的に発展した工業技術を武器に年々豊かさを増してきていた。

イギリスと日本、ドイツ。この三国が組めば、現状太刀打ち出来る国はいない。

 

叩くならば、今なのだ。

 

「……戦争が起これば私たちは第一線で戦うことになる。当然、あなたは私たちを見捨てる覚悟を決めなければならないときがくる。

だから、特別扱いしてはならない」

 

「……そ。加賀さんは特別扱いしても『何の問題もない』艦だからこそ、恋仲になるわけにはいかないんだよ」

 

練度・搭載数に於いて圧倒的な物を持つ彼女は文字通り他より群を抜いて優れており、性能に関しても最新型である翔鶴型に劣らない性能を持つ。

速力も30ノットを越え、艦隊運動に支障を来すことはない。

 

つまり、彼女は今や加賀一艦の為に他の艦を犠牲にしても何の疑問を抱かれないほどのスペックを持っているのだ。

そこに私情が入ったとしても不自然だとわからないほどの能力を持ってしまっている。

 

「加賀さんの告白には、こう……正直なところ、グラッときた。物凄く惹かれる物を感じたし、今も惹かれていることは間違いない」

 

「……そうか」

 

あんな美人に告白されて嫌な男が居るものか。

しかもあの時の加賀さんを見るに裏切らなそうな一途さだったし、いつも無表情ながらすごく頬を赤らめてて可愛かったし。

 

俺の保有する鉄の理性がなければ落ちていただろう。

 

「だけど、部下を恋仲だからって贔屓するわけにはいかないじゃん?」

 

「あなたは割と贔屓しやすい性格をしているし、その判断は間違っていない……が」

 

「が?」

 

カツン。

酒を飲み干した器を机に打ち付け、ぽりぽりと頭をかきながら戦艦長門は口を開いた。

 

「もうすでに手遅れだな」

 

「……は?」

 

思わず疑問の声が漏れる。

手遅れとは何なのか。俺が最近長門へのアタックを無期限延期していたことが実は無意味だったりするのか。

そんなことが頭をよぎり、消えた。

 

「加賀に対するあなたの態度はもう変わってしまった。最早普段の物に戻したところであまり意味はない」

 

「……ぬ」

 

「それに、あなたに惚れている女は一人や二人ではない。加賀を口火に戦火は広がることが確実だ」

 

デースはわかるが、後の数人がわからない。

加賀さんは、手をつないでくれと言う要望を受けたときに『もしや加賀さんは俺に気があるんじゃないか?』とわかったが、如何せん無表情であるため分かり難く、先の告白で確定した。

 

他に俺が積極的に関わってる艦娘は……情報機関の統括として使ってる青葉と飲み友のキソー。顔を見せる度に甘えてくる暁型の四人。

 

しかし、駆逐艦は父親のような感じで接しているからない。あり得ん。

 

ぜかましは手綱を握れるのが俺くらいと言うことで一時期艦長も務めたから関わりはあるが、あいつはまあ、速さが全てな奴だから除外していいだろう。

 

他には誰?と聞かれれば、出てこないのが現状だ。

強いて言うなら空母寮メンバーとはよく緊急時のこととか戦術的なこととかを話すが。

 

俺が思考にふけっていることを何となく察したのか、長門は特に何も言わずに押し黙る。

 

その気遣いに感謝しつつ、思考を巡らし早一時間。俺も相当酔いが回ってきていた。

 

「……長門はさぁ」

 

「何だ?」

 

「俺のことどう思ってんの?」

 

「大事な存在だ」

 

「そうじゃなくて、男としてだよ」

 

チラッとこちらを見て、ため息。

 

ただ酒を飲んでいるだけの俺を見ておいてため息をつくとはどういう了見なのだろうか、こいつ。

 

「酔っているだろう」

 

「かんけーないだろ、答えろよ」

 

「……愛している」

 

顔を仄かに赤らめてポツリと零した長門を見て、サーッと酔いが覚める。

え、何この可愛い生き物。普段とのギャップがすご―――

 

「とでも言えば酔いが覚めるか?」

 

「長門サイテー」

 

ケロッと乙女らしい表情を引っ込め、悪ガキのような笑みを浮かべた長門に酒を飲みつつ悪態をつく。

 

「男の純情を踏みにじるなんて……」

 

「ならば、女に無理矢理返事を迫るな」

 

ごもっともで。

 

「まあ、私もこの身を国に捧げる以上はあなたと結ばれるわけにはいかないんだ。すまないな」

 

「……俺もめんどくさい女に初恋を奪われたもんだね」

 

「私の所為ではないだろう、それは」

 

いつになくにこやかな長門に違和感を覚えつつ、酒を注ぐ。

 

無性に身体が怠く、今にも崩れ落ちそうなほどに眠かった。

 

「だが、加賀にも惚れた。違うか?」

 

「否定はしない」

 

惹かれていることは確実だし、加賀さんはデレたときの破壊力に関しては他の追随を許さない。

アレは最早戦略兵器だと言わざるを得ないだろう。

 

「浮気者め」

 

「元々好いてもいないくせにその言い方はないだろう」

 

「…………どうだろうな」

 

少し寂しげに笑った長門の髪を撫で、甘えるように身体を凭れさせる。

 

「長門はさ、それでいいんだと思うよ」

 

「うん?」

 

「長門は、届かないままでいいんだよ。たぶん」

 

こいつは恐らく、軍人として在る限りは一生女になることはないだろう。

俺よりも軍人らしい軍人だとすら言えるそのスタンスは見事なものだ。俺からしたら辛すぎるが。

 

瞼が落ち、意識が朦朧とし始める。

傷の熱と体温がぐちゃぐちゃに混ざり、周囲に気を配ることすらできない。

 

「……お休み」

 

気力でそう言い残し、バッタリと机に倒れ伏す。

 

意識はとうに消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

困ったものだ、と独りつぶやく。

 

無防備な彼の背中が隣にあり、手を伸ばせば首にすら指をかけられる。

 

(―――いつになく、不用心なものだな)

 

最後に撫でられた髪を手櫛で解かし、彼を挟んで逆方向に回り込んだ。

 

今まで見えていた首ではなく、あどけない寝顔がそこにはある。

 

「……私は、少し留守にする」

 

面と向かって言いたかったが、言えなかった。

彼の側を離れたくなかったから、だろう。恐らくは。

 

「外洋に出るんだ、私は。今回の戦いで、ヘンな物が見えたこともあるし―――少し、行きたいところもある」

 

箱入り箱入りと言われたが、イギリスからアメリカにまで行けばもう箱入りではないだろう。

 

「再び会えるのはいつになるだろうか?

その時にはあなたは誰かと共に歩いているのか、な」

 

彼をおぶり、私室にまで連れて行く。

ベットにその身体を下ろした最後まで、とうとう勇気は出なかった。

 

「加賀は、よくもまあ出来たものだな……」

 

ポツリと。先ほどと同じく、今度も本気の言葉を呟く。

 

嘘をつくのは、苦手だった。隠し事も、苦手だった。

 

「さようなら、提督」

 

音もなく脱出した学院を振り返り、戦艦長門は姿を眩ます。

 

月が綺麗な夜だった。

 

 

 




感想・評価ありがとうございました。これにて第一章は一応終了です。

エピローグ書いて、夏休み編を挟んで、第二章に、行くことになります。それまでもこれからも、お付き合いいただければ幸いです。
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