ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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遅れました。


幕間

長門がイギリスから一路日本へと帰国したのだとわかったのは、夏休みの帰省ラッシュを利用して帰っていった赤城と五航戦が呉についてからのことだった。

 

どうにも一時的に――――つまり有給のような形で、長門は日本から外洋に出ていったらしい。

まあ、魔力を基本的に自給自足できる奴だから心配ではないが、どこに行っているのかすらわからないと言うのは心情的に寂しいものがある。というか長門に見捨てられる俺はいったい何をしでかしたのだろうか。

 

『冬には帰る』と言い残していったらしいから、秋冬らへんにはひょっこり帰ってくるんだろうが……

 

「……まさかあの後二週間寝込むことになるとはね」

 

「傷口が熱を持っていたのだから当然よ」

 

甲斐甲斐しく世話してくれている加賀さんをチラリと見、ため息をつく。

初夏――――つまり、七月初頭から九月くらいまで学院は休み。その内開幕二週間を傷の治療と加賀さんとのコミュニケーションに費やし、療養期間の二週間を含む計三週間ほどをイオネラ・エリアーデの弁護に費やした俺は、何をするでもなくゴロゴロしていた。

 

イオネラ・エリアーデは、先の反乱の核となった魔術回路『絶対王権』の制作主であり、首謀者である黒太子から資金援助を受けていた。

 

これらの怪しすぎる行動は当然ながら英国の知るところとなり、半身が爆発により吹っ飛ばされた彼女の自動人形―――『絶対王権』を積んでおり、黒太子誘拐されたとは言っても反乱に荷担していた―――も没収。あわや死刑と言うところにまで進むことになった。

 

しかし、ここで陸のがまたまた首を突っ込んできたのである。

 

『イオネラが研究成果を渡してもいいと言っているから、それを対価に弁護を頼めないか』、と。

 

無論、笑って突き返した。もう視認してしまった物なんぞ、量産はともかく複製までは楽々出来る。俺をなめないでいただきたい、と。

 

『じゃあ軍艦二隻分の研究予算が与えられてるから、それを報酬にして弁護を頼めないか』と言う妥協案のような形で食い下がられ、俺はしめしめとほくそ笑みながら弁護をする事になったのだ。

 

まあ、奴も俺の使い方を覚えてきたらしい。俺は払った報酬分は働く。莫大な金額を気前よく出されればこちらとて受けざるを得ない。

 

イオネラ・エリアーデが学院から与えられた研究予算を流用していいかは知らないが、そんなのは俺の管轄外。弁護で無罪をもぎ取った後、報酬分はキッチリ現金でいただいた。

 

そして現在。

 

 

 

「暇だね」

 

「……偶には休息も必要よ」

 

加賀さんは有能なので、事務仕事ならば確実にこちらに回さない。長門はちょくちょくこちらに回ってきたから働く必要が差し迫ってきていたが、加賀さんに限ってそれはない。

 

つまり俺は、ただいまニート。穀潰しである。

 

「そんなに暇なら何かを作ったらどうなのかしら?」

 

「試作品はもう五種類くらい夕張のとこに送っちゃったからさ………生産能力の限界に達しつつあるんだよね、向こうも」

 

「……そう」

 

帰り際の赤城に何やら言い含められたらしい加賀さんは、告白以来積極的だと言える。

 

というか、告白して振った―――とまではいかなくとも先のばしにされた相手と普通に会話ができるというのはすごいと思うのだ。

 

本人曰く、『気持ちを知っていただけただけでも収穫でした。戦後に選んでいただけるよう積極的にあなたを攻略していく所存です』ということらしいが。

 

「加賀さんってさ、最近いやに元気だよね」

 

「好きな殿方と二人きりですから」

 

書類を捌き終わり、こちらを真っ直ぐに見据え、言う。

言い切った後に、やはり恥ずかしかったのか。殆ど無意識に少し目を俺の目からそらしたその行動に無性に加賀さんの頭を撫でたくなる。

 

「……ぽ?」

 

書類仕事を終わらせた加賀さんの膝の上に座っていたほっぽちゃんが、かくりと首を傾げた。

 

……二人きりではない、な。うん。

 

幼心にも自分が無視された……というか、女として数えられていなかったことを察したのか。

どちらが正しいかは知らないが、加賀さんの膝の上でぴょんぴょんしている以上、全身で不満を表していることは間違いないだろう。

 

「……ふ」

 

無表情ではあるが、心の中で加賀さんはドヤ顔をしていたのではないだろうか。

そうしか思えないほどの余裕の笑い声(のみ)を見せた加賀さんがほっぽちゃんを膝から下ろすのを見て、思う。

 

(アホのように平和だな)

 

温い。警戒を解いてもいい相手との緩慢とした時間とは、ここまで温い物だったのだろうか。

 

座っていた俺の膝下から膝の上に登ろうとえっちらおっちらやっているほっぽちゃんの脇を持って抱えてやり、お望みの場所に座らせる。

 

長門と過ごす時間は、あくまでも彼女が護衛という任であるが故にどうしても職務的な雰囲気があった。

 

しかし、今の加賀さんはただの加賀さんだ。職務を終え、静かに茶を一服している、一人の女性に過ぎない。

 

俺も、ちみっこの面倒を見るただの穀潰しに過ぎない。

 

うとうととしてしまいそうな春の陽気のような雰囲気の中、大人しく膝の上に乗っかってるほっぽちゃんから目をそらし、加賀さんの方へと視線を向ける。

 

「……?」

 

一目見ただけでは、冷たい感じの美人。

ちゃんと内面までを理解しようと務めて付き合えば、この温い雰囲気その物のような暖かな内面を持っているとわかる。

 

性格は、冷静ながらも頭に血がのぼりやすい。俺と同じ激情家だが、陽の方―――つまり、パッとその場で炸裂するタイプ。陰に籠もって取り繕い、後でじっくり嵌め殺す俺とは真逆。

 

容姿は、他の艦娘の例に違わず優れている。万人受けする美人ではないが、千人には受ける。

欠点は、表情筋が死滅してるかと思うほどに無表情なこと。この欠点は可愛いところとイコールで結ばれているが、欠点だと本人が思っている以上は欠点なのだろう。

 

「私の顔に、何かついていて?」

 

「加賀さんは美人だなーって思いながら見てるだけだから……まぁ、気にしないでいいよ」

 

「………………そう」

 

二文字からなる簡潔な返事の後にそらされた目を追い、再び視線を合わす。

そらされたら、また追いつく。

そらされたら、また追いつく。

 

ひたすらこれを繰り返し、三十分が経過した。

 

「……あの。何故私と目を合わそうとするのかしら?」

 

「加賀さんがそらすからだよ」

 

「…………なら、いいわ」

 

ジーっとこちらを見る加賀さんの目を捉え、こちらは自然体そのもので見据える。

こんなのは、意識して見始めた方が負けってことが決まってるんだよな。

現に、加賀さんの目がそれはじめたし。

 

「加賀さーん?」

 

「何かしら」

 

その後数十分にわたった執拗な追撃を絶つためか、少し目を伏し気にしていた加賀さんに声をかけ、少しうわずった声を堪能する。

 

加賀さんは感情がはっきりと、わかりやすく表に出ることはない。

しかし、一動作一動作に注意をこらせばかなり感情豊かな面が読みとれるのだ。

 

「私を見ていて楽しいのかしら?」

 

「楽しいっつーよりは、飽きない…かな」

 

「私は、恥ずかしいのだけれど」

 

遠慮がちに、しかし確実に己の意志を伝え終えた加賀さんから初めて視線をはずす。

 

それに対して加賀さんは、少し安心したような、しかし物足りなそうな、複雑な感情を僅かに滲ませた。

 

彼女の表情は変わることはない。だが、腕とか目とかまでが不動な訳ではないのだ。

 

それにしても、何故提督はこのような行動に走っているのか。それにはキチンとした理由がある。

 

それは、『信用できるか、信頼までいくか、或いは警戒態勢を崩さないか』という己の示す態度についての見極めであった。

 

長門が相棒、青葉が目で、夕張が縁の下の力持ち。

木曾が文字通りの懐刀―――というのが、今までの彼の周りにいる信任できうる存在たちだった。

 

報告不要の独立行動権を認めているのが木曾だけとは言え、青葉・夕張にもある程度の裁量は任せているし、長門はその倫理観から監視が必須だったのものの、護衛を本業としながらも他の艦娘たちの統率役も兼ねさせていた。

 

纏めるならば軍事・私的な面を長門が、情報面を青葉が、財政・政治面を夕張が、裏の面を木曾が担当するという分業制で『毛利元景』と言う存在が支えられていたのである。

 

有史以来最強の天才であるナポレオン・ボナパルトすらも、イギリスやドイツの編み出した分業制に敗れた。

この有史以来の天才の再来と謳われた父すらも、分業制を是とした。

 

つまり、それは父の下位互換でしかない彼にも分業制は必須の制度と言えるのだ。

 

「加賀さん」

 

「……?」

 

今までのふざけたような口調から、どこか真摯さすら感じさせるような語気へと変化させた提督の表情を伺うような雰囲気を出しつつ、無言で首を傾げる。

 

「長門は信頼の置ける相棒だ。青葉は諜報能力に於いては他の追随を許さないし、夕張も商機を見逃さないカンを持ってる。木曾は、俺の用心深さと人殺しの技術を受け継いだ、分体みたいなもんだ」

 

「はい」

 

「では君は、俺にとって何?」

 

敢えて、厳しい言葉を投げつける。

その言葉は、この場にいることを決めた彼女に対する存在意義を問うていた。

 

「……私は」

 

一拍の間も置かず、一瞬の逡巡もない。

 

「あなたの思想を体現したモノ」

 

そして。

 

「あなたと言う存在への、肯定者よ」

 

「それは、盲従と言うんじゃないかな?」

 

「思考は捨てないし、全てを肯定するわけではないわ。ただ、あなたの決断には絶対の服従を誓います」

 

執務室を沈黙が包み、全くの無音が場を支配する。

 

「なるほど」

 

その沈黙を破ったのは、誓われた側の人間だった。

 

少し愉快気に笑いながらも、目は真剣そのもの。何かを得心したように頷きながら、彼は感情を押し殺した声で、言った。

 

「なら、俺が決断をする限りは死ぬまで働け。国の為にな」

 

「はい」

 

―――なるほど、感情と言う物はやはり面白い。

 

どこか自虐的にそう思い、加賀の頭をくしゃりと撫でた。




読了ありがとうございました。次回からは短編挟んで、私にその気があれば視点を変えて、原作に入ります。
つまり、原作から反れます。より艦これ寄りになると言うことですね、ハイ。

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