ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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あの父にして、この娘あり。


父と子とⅤ

先程のニンジャとは違った流暢な英語と、胸に突き刺さる冷たい刃。

その冷たさはすぐさま焼けるような痛みとなり、彼の身体を隈無く巡る。

 

(あの闇の空間は、陽動―――)

 

凄まじい魔力と、優れた魔術回路。その奥義すら囮とし、確実にこちらを殺しにくる敵の精神に図らずも敬意を抱く。

 

しかし、こちらは『魔王』だ。

 

剣で傷つけられるほど、衰えているわけではない!

 

「チッ!」

 

胸元に突き立っていた刃が引き抜かれ、隻眼の狼は大きく飛び退く。

 

ライコネンの身体は、この期に及んでもただならぬ魔力に満ちていた。

 

「まだ、負けん」

 

篝火めいて燃え上がる身体から火の粉が散り、胸元の傷が炎へと変わる。

 

その姿は、最早魔神の如き異形だった。

 

「あはは……ちょっと、分が悪いかなー……なんて」

 

「ああ、だろうな」

 

先程魔力―――もとい血中カラテを大量消費し、尚且つ負傷しているニンジャが頭をポリポリかきながらこぼし、もう一人が獰猛な笑みを浮かべる。

 

この姿になろうが戦意を失わないその姿勢は、すばらしい。

だがそれは、蛮勇だ。

 

「ハッ!」

 

自らの熱によって膨張したかのようにすら見える、莫大な魔力。それを潤沢に、されど無駄なく配分し、身体を炎へと変える。

 

標敵は、ニンジャ。

ニンジャはおそらく、自動人形。かなり人に近く、精巧無比に作られているが間違いはない。

 

つまり、あの隻眼が使い手だろう。

 

(実戦では使い手を狙うのがセオリーだが、そんなことは向こうも承知の上。ならば―――)

 

裏をかき、奇をてらうほうが得策。

 

そう考え、酸素を伝って火焔の身体を瞬時に移動させる。

 

影に潜まれるのであれば、潜む前に焼き尽くせばいいと言うもの。

 

「甘い!」

 

火の蛇がニンジャを飲み込む寸前に、ニンジャの身体が吸い込まれるように自分の身体の後方に向かう。

 

確実にそれは、ニンジャ自身が反応したわけではなかった。

 

―――外部からの、干渉。それが最も可能性のある選択肢だろう。

 

一定の時間経過によって炎と化した身体が実体を持ち、振り向いた。

 

「甘過ぎる!」

 

振り向きざまに、一刀。それを軍刀で辛くも防いだ瞬間、気づく。

 

嵌められた、と。

 

言い換えるならば、踊らされた、と言ったところだろう。

 

片手に刀、もう一本の手の内には銃。

精巧に作られた、ハンドガンがそこにはあった。

 

一拍遅れてやってくる、貫き穿たれたかのような痛み。

 

銃声はなかった。しかし、鉛の弾が体内に在る。

 

更に背中には、銀剣の刀身。

 

「八重霞……か」

 

「隠し玉は最後まで取っておくもん、だろ?」

 

雪月花三部作、花の乙女。内蔵する魔術回路は『八重霞』。

 

理屈までは分からないが、己の気配を絶ち、確実な奇襲を行える一級品のものだった。

 

―――情報には、あった。『迷宮の魔王』グリゼルダ・ウェストンの元に、日本の人形師・花柳斎の手の者が弟子入りにくるであろう、と。

そしてその近辺には雪月花三部作のいずれかが侍っているであろう、と。

 

しかし、油断した。心のどこかに慢心があった。自分相手に学生風情が牙を剥くことなど有り得ないだろうという、慢心が。

 

二対一であると錯覚させられていた。派手な奥義に目を奪われた。全力で意識を向けなければ身が危うい、殺すための技術に注意を削がれた。

 

否、今思えば最初から嵌められていたのだろう。

 

最初の一太刀で、注意力が新たな敵を―――新手がくる可能性を探るのをやめた。止めざるを得ないほどの領域に達していたことは否定できないが、それにしても言い訳すら出来ないほどの不覚だった。

 

主導権を握れていたのは、ほんの最初期だけ。それからは常に敵方が主導権を握っていた。

 

後手後手に回り、注意力も散漫。目の前の敵に精一杯になり、遂には致命傷を二度も食らった。

 

強者特有の『他人の手は借りない』と言うような意地もない。

 

「勝たなきゃ意味がないんでね―――悪いが、数で押させてもらった」

 

『勝つ』と言う執念だけが、そこにはあった。

 

「……月並みに、無念だとでも言っておこうか」

 

「それはこっちも同じことだ」

 

そっぽを向き、どこか残念気にそうこぼす。

 

「……見逃してやるよ」

 

「何?」

 

魔力が尽きかけの敵を目の前に隻眼の狼はそう言うと、外套を翻してこの場を去った。

 

花の乙女もその使い手ごと気配を消し、火と刃が煌めく激戦の跡地に自分だけが残される。

 

「―――意味がわからんが、俺もまた『悪党』の端くれだったと言うわけか」

 

悪党は、死なない。

死ぬべき時がくるまでは、決して死なない。

 

何があったのかなど関係ない。今はただ、この『敗北』を隠す。

機巧魔術に秀でていると言うだけで重用されている一国の将官が、誰とも分からぬ女に負けたとあっては恥も恥だ。

 

だが。

 

「いつか、この借りは返そう」

 

弱々しいながら、どこか強い決意の力を感じさせる火の粉が舞い上がり、ライコネンは姿を消す。

 

――――二人の因縁が再び交錯するには、数ヶ月を要さねばならなかった。

 




ラスダンクリアした喜びの元、書き上げました。木曾、カットインありがとう。
そして読者=サン。読了ありがとうございます。感想・評価いただけると幸いです。

ユーちゃん、秋津州、早霜、巻雲、Littorio、葛城、ゲット。掘りはしません(燃料弾薬五桁切ったから)。
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