ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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今回のあらすじ!

ちょろい。
似たもの同士な劣等感。
ちょろい。


対抗策と隠し事

「提督」

 

「おかえり、加賀さん」

 

ジロジロと身体全体を見回されて気恥ずかしいが、不快ではない。むしろ、もっと見てほしい。もっと自分に意識を裂いてほしい。

 

とくとく、と。使ったばかりの心臓が疼く。

 

「怪我、しなかったみたいだな」

 

「はい。鎧袖一触でした」

 

心配してくれるのだったら、少しくらい怪我をするのも良かったかもしれない。

 

「提督」

 

「ん?」

 

嫌いにならなかったですか。私のこと、怖くなかったですか。

 

感情を抑えているつもりはない。だが、表に出ない分突然噴出することがある。

 

特に彼が関わると、尚更。

 

「どうしたの?」

 

「……あの」

 

彼に危害を加えることは、ない。だけれども、収まりがつかないことがある。

 

彼の身に危険が迫ると、異常なほどに冷めるのだ。

意識が冷めて、怒りが燃える。

愛情が行き場を失って暴れているだと赤城さんには言われたのだけれど、このままではいつかおかしくなると思うのだ。

 

「加賀さん?」

 

「……!」

 

どうしたの、とばかりに肩に手が落とされる。

 

疼く心臓が、キリキリと締め付けられるように軋むように痛んだ。

 

「大丈夫、か?」

 

「……はい」

 

発作的に胸当てを弓懸で抑える。

 

この行為に意味はない。だが、本能的なものだった。

 

「ちょっと失礼」

 

胸当てを外し、着物の中の端から見れば比較的豊かな物の間に指が差し込まれる。

 

さらしを巻いているが故にすんなり差し込む隙間がないのか。少し胸を押しのけるようにして、ゴツゴツした指が触れた。

 

一番心臓に近いところに、思い人が触れている。

その事実だけで、心臓が激しく高鳴った。

 

「正常だけど……負荷がかかったのかもね」

 

一抹もの名残惜しさも見せず、指が抜かれる。

 

不満と安堵がごちゃ混ぜになったような心を隠すように、胸当てを付けた。

 

(……事務的なスキンシップは、どうなのかしら)

 

考え込んではいるが、何の焦りも興奮も示さない彼をチラリと見、溜め息をつく。

 

―――自分の魔術回路は様々な現象を引き起こす、恐らく彼が作った中でも最も多彩なものだ。

 

故に、何回か定期的なメンテナンスは受けた。いずれも全くの異常なしだったが、彼は自分が魔術を行使することを好まない。

 

「木曾の陸戦隊が掃討してくれてるから、加賀さんは寝なさい」

 

「私は、要らないの?」

 

「喪いたくないから、充分な休息をとってもらうんだよ。酷使し続ければ、壊れることもあり得るからね」

 

「壊れないわ。不具合もなかったのでしょう?」

 

そうだけどな……と言いつつ、頭をポリポリと掻く提督の右腕を掴む。

 

「ご褒美が欲しいわ」

 

「……ま、いいよ。何?」

 

「二個、いいかしら?」

 

「構わん。金ならあるしな」

 

恋愛=金、ご褒美=物品のイメージが未だ抜けない彼に内心で苦笑しつつ、一つ目。

 

「あなたは私を、女として見ているの?」

 

『死んでもいいよ』、とは言われた。だが、だが。

 

格納庫に指を突っ込んでおいて、無反応とはあんまりなのではないか。

 

「女としてみてるよ。正直、黒髪だし、好みだし。でもまあ、肉欲の対象じゃないね」

 

「…………に、にくよく?」

 

「異性を求める欲望のこと。つまり、愛したいと思っては付き合うけど、抱きたいから付き合ったりはしないってこと。

そりゃあ俺も男だから、加賀さんみたいな美人を抱きたいとは思うけわど……まあ、肉欲とか情欲とかで間違いは起こんないのよ。一歩踏みとどまれる感じ、みたいな」

 

解説などされなくとも、意味くらいは知っていた。

しかしながら、面と向かって言葉にされると、赤面と恥じらいが止まらない。

 

思考の中では、何回か使った。もういっそ、言葉ではなく身体で気持ちを伝えようと考えたときにめちゃくちゃにしてほしい、みたいな意味合いの言葉を言おうかなと思って、一瞬で止めた時に候補として出てきた。

 

だが。こうして聞くと死ぬほど恥ずかしい。

 

「……加賀さん、初心だね」

 

呆れたように、楽しそうに。

真っ赤になった顔を見せまいと俯いた自分の頭に、固い手が乗せられる。

 

「…………長門さんは?」

 

やっとこさ喋れるようになったのは、実に十数分後。

肉欲という言葉は、自分には少しばかり早すぎたようだった。

 

「甘え尽くして、優しさに溺れたい。あいつ、何だかんだ言っても窘めつつ許してくれそうな気がするんだよね」

 

「……………………」

 

未だに頭に乗っていた手を振り払い、頭突きで顎を狙い打つ。

 

「おぅっ!?」

 

「……………………そう」

 

頭が痛い。顎の骨に思い切りぶつけた反動で、頭蓋骨がしくしくと痛んだ。

 

軽い涙目になりながら、足音高くその場を後にする。

 

(長門、長門、長門)

 

自室と化している物置。そこに積まれた布団にダイブし、枕をポカポカと無言で叩く。

 

(長門さんには、甘えるのね)

 

自分には、何も見せてくれないのに。

上官としてフォローしてくれて、心と身体のケアをしてくれる。

 

完璧な面しか、見せてくれない。

事務的な面しか、見せてくれない。

 

 

『案外と奴は弱いんだ。私が居ない間は支えてやってほしい』

 

 

月の綺麗なあの夜に、戦艦長門はそう言った。

 

心の底から彼を案じ、自分に託してどこかへと去った。

 

(…………強い人よ、提督は)

 

強くて、有能で、優しいの。

陰が出来るときもあるし、敵には割とゲスだし、そのくせ味方には甘いけど、とっても軍人らしい軍人なの。

 

強すぎる人よ、彼は。

 

私なんか必要ないほどに、強い人。

 

(………………要らないのかしら)

 

必要とされてない。

そう考えるだけで、胸が張り裂けそうに痛む。

 

(……やっぱり私は、要らない子なのかしら)

 

―――ゼンブウバッテ、ソコニオサマレバイイジャナイカ。

 

(そんなことをしたら彼がとっても、傷つくわ)

 

―――バカラシイ。ソンナコトダカラ『ソンケイスルアネ』ニマケルンダ。

 

(黙りなさい、無能)

 

―――ドチラガ?

 

(座標を間違えるなと、言ったはずよ)

 

―――ハナシヲハグラカスナヨ、オクビョウモノ。

 

(黙れ)

 

意識を集中させ、幾重にも縛った封印を隙間なく閉め切る。

 

―――ムダダヨ、オクビョウモノ。

 

―――ワタシハお前で、オマエハ私。

 

―――『シンデモイイ』トイワレタカラ、ナンダ?

 

「黙りなさい」

 

白く、長い髪。艶な赤い瞳が扉へと消える。

 

―――コッケイ、ダナァ……

 

完全に封印を施し、凄まじい疲労に耐え切った。

 

技量特化の魔術回路に、範囲と威力を拡張させる。

身体が耐えきれないと判断され、凄まじく厳重なセキュリティーによって封印されているそれを外的要因で無理矢理に引き出し、行使した。

 

その結果が、この様だった。

 

「……あなたは、範囲の拡張だけを、やっていなさい」

 

鼓動するかのように赤く光る片眼が普段の落ち着いた色へと戻った瞬間、緊張の糸がプツリと切れる。

 

「ていとく……」

 

「何?」

 

呟いた瞬間、目の前に現れた。

正に噂をすればなんとやら、な提督の神出鬼没ぶりに驚き、積まれた布団に向かって後ずさる。

 

「な、何故居るの?」

 

「加賀さんさ、何か変なの食べたでしょ」

 

ビクリと、肩が動いた。

何故バレたのかはわからない。完全に隠していたはずだった。

 

「……はい、立って」

 

差し伸べられた手を掴み、笑う膝を必死に立て直して立ち上がる。

 

提督の顔は、全く笑っていなかった。

 

「加賀さん」

 

「なにかしら?」

 

「そんなに体内の魔力循環乱して、身体をガックガクにして何やってたの?」

 

「……何のことかわからないわ。私は至って正常よ」

 

差し伸べられた手が離れ、支えがいきなりなくなる。

 

「……く」

 

自分の重みすら支えきれずにガクリと膝が曲がり、そのままぺたりと床に崩れ落ちた。

 

「…………加賀さん、何食べたの?」

 

「……あなたには関係ないでしょう」

 

「まあ、関係なっちゃないけどさぁ……」

 

自分で言っておいて、自分で傷つく。馬鹿らしいほどに滑稽な自分を嗤い、提督の顔を見返した。

 

「ないけど、何なのかしら?」

 

「……いや、心配だったんだよ。お節介だったな」

 

冷たい態度で悟らせないという計画はどこへやら。最近痛みっぱなしの胸が鳴る。

 

「……ごめんなさい」

 

(加賀さん、一回デレると歯止め聞かないタイプか…………かなり心配になるレベルで、ちょろいな)

 

約三分で終了したツン期を振り返り、提督は一人、別の意味で心配する。

 

ちょろい。落ちるまでが大変だが、ちょろい。

 

彼の胸中は、そんな感じであった。

 

「まだ言えない?」

 

「……ごめんなさい」

 

「なら、いいよ。信じてるから」

 

またもや頬が赤く染まり、体温までもが上がりはじめる。

 

だがしかし。この提督は、『信じてるから』くらいな理由で放任を貫くのは長門くらいなもんである。

 

つまり、どのような症状が予想されるかということもわかっており、先ほど胸に触れたときに保険も仕込んでおいたのだ。

 

(……加賀さん、ちょろいな)

 

信じてるからといった瞬間、彼女の抵抗の意志とか、そう言った物が一気に消え去る。

 

可愛いが、少し心配になる提督であった。

 

 

 




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