ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

74 / 74
セト家の良心、登場。因みにタイトルは何の関係もありません。たぶん。


さんを付けろよデコ助野郎

「……最近の学院は、なんだ。比較的静かだねぇ」

 

「そうね」

 

何がどこで噛み合わさり、影響を与えるかどうかわからぬ世の中。

 

夏休みを越え、二カ月後。学院は表面上の平穏を貪っていた。

 

第一機巧師団の叛乱という大事件を前には、何もかもが霞んで見えるのかもしれないが。

 

「最近あったことと言えば、ブリューの娘が呪術を受けたくらいな物だし……水面下では相変わらずだけれど、表には出ていないと言ったところかしら」

 

「セト系列の呪術はまあ、誰にでも使えるわけではないけど優秀だからね」

 

キンバラーはノーリスク・ノータイムで発動でき、提督はノーリスクで大量に敷設できる。

 

が、普通に優秀な魔術師がやろうとしたらハイリスク・ハイリターンな博打と変わらなくなってしまうのだ。

呪術は『強力だがリスクがつきまとう』物。

故に本来そうあって当たり前なのだが、提督はどうでもいいことで自分のみを危険にさらすことを好まない。

 

なので、質を下げた。蓄積疲労が未来の過労死を招くように、質の低い呪いでもノーリスクで大量にかけられるならばやりようはあるのである。

 

ならば他の魔術師たちも質の低い呪術を大量にかければいいじゃないかと思われがちだが、これは違う。

 

質の低い呪術は、消費魔力が少ない。

消費魔力が少なければ構造は簡単な物になり、基本的に解除しやすくなるのだ。

 

即ち、一つ解除できたならば後は連鎖的に解除されることとなる。

呪術一つ一つにかかるリスクは小さい。しかし、蓄積したら普通に死ぬ。

 

自分が試みたことがそっくりそのまま返されることになり、まさにインガオホーなざまになる。

 

リスクがないからこそのコスパの良さであり、セトの一族の呪術に秀でたエリート個体にしかでき得ないことなのだ。

 

「……どういう物があるの?」

 

「大きく分けると二つ。心理的に働きかけてジワジワ殺すのと、直接的に肉体そのものに働きかけて殺すのに分けられるな。

嫌悪感を植え付けるとか、根源的な恐怖を抱かせるとか―――心理的に働きかける呪術の方が俺は得意だ」

 

「では、金薔薇は逆?」

 

「そ。攻性呪術―――オフェンシブとか、ブリュー伯にしかけたヤツとかだな。肉体を損壊させたり、肉体の変調を死に直結させる呪術を使う。簡単に言えば俺は遅効性の毒で、金薔薇は速効性の毒だってこった」

 

解説を終えた彼は軽く欠伸をし、寝台に寝込む。

 

一ヶ月前に引いた風邪がぐずぐすと風邪が長引いており、未だ本調子とは言い切れない状態なのである。

 

「提督、大丈夫?」

 

数日前、いつもの通りにこう聞いてきた加賀に、提督はからかい半分にこう答えた。

 

「加賀さんの柔らか膝で膝枕してくれたら、治る気がする……」と。

 

その数分後、寝台には自分から言い出したくせに緊張して眠れない馬鹿と、満更でもない加賀がいたとか、何とか。

 

(実際あの膝は凶器だった)

 

緊張はどこやら、加賀が醸し出す女の匂いもあいまって殆ど一瞬で眠りに落ちた。

 

それはいい。だが、その後加賀を抱きたくてたまらなくなったと言う前科があるので、そう頻繁には頼めないのである。

 

「大丈夫だ」

 

「……あの、私はあなたに死んで欲しくないの」

 

「おう」

 

冷えた手を握り、胸元にまで持って行く。

人肌よりも少し温度の高い温もりが手から伝わり、体温の下がった身体の末端を暖めた。

 

「……いつ、治りますか」

 

「さあ……」

 

冬場は寒い。加賀はちょっと珍しいほどに体温が高い。

 

冬に重宝する艦娘ランキングぶっちぎり一位は彼女であろう。

 

「……ごめんなさい」

 

「え?」

 

「あなたが一番、不安な筈なのに」

 

私があなたに、不安をぶつけてしまった。

 

そうポツリと呟き、外を見る。

 

午後十時。

今日も今日とて、夜会の幕が開かれた。

 

「……いくか」

 

「はい」

 

軍服の上にマフラーを着て、立ち上がる。

 

追従する加賀は、最近随分とその従順さを増していた。

そして提督は、身体的な脆弱性が増している。

 

これらは、比例しているのかもしれない。

提督が弱る度に、加賀は従順さを増していった。負担をかけないように聡くなり、存在意義を依存しながらも行動は自立の道を歩むことになる。

 

根本的な依存は彼の死の恐怖と共に深まったが、意識自体は独立した。

行動も何もかもが指示を待ち、下されてから実行するのではなく、自分で考えて『最良』を選ぶ。

 

(提督)

 

隣に居る、彼を見た。

元気がない。肌にも活力がないし、血の気もない。

食欲も、あまりないようだった。

 

(怖い)

 

時々思い出したかのように鎌首をもたげる狂気も、執念深さも鳴りを潜めている。

 

蛇の蛇足る由縁が、大物を喰らうための毒にのみ集約されていく、この感覚。

 

役目を果たしたらいつの間にか死んでいそうな、この不吉。

 

「おぉ、早いな」

 

いつの間にやら自分よりも下位の者が揃っている。そのことに一つ驚きの声を漏らし、そのまま夜会の舞台へ立つ。

 

『五十位、『Admiral』が参戦しました』

 

アナウンスが厳かに参戦を告げると共に、観客の中にざわめきが生まれた。

 

今をときめく大日本帝国御用達の天才技術者が、魔王の座をも手にしようと言うのだから当然ではあるが。

 

「……で、やるか?」

 

雪月花と剣の天使、群れた犬がすぐさま臨戦態勢に入り、近接線の鬼である彼から適切な距離をとる。

 

距離をとっても加賀から爆撃をくらうだけだが、一瞬で反応する間もなく斬られるよりは遙かにマシであり、対処がきくのだ。

 

加賀は異常な練度を誇るものの、やはり道具を何個も介す以上はタイムラグが生まれる。

落とされてから避ける訓練を積んできた彼らにとって、加賀の爆撃は脅威ではあるが致命傷にはなり得ないのだ。

 

「少し待ってもらおうか、モトカゲ殿」

 

こちらに向けて一礼し、舞台に立った金髪の美女。

 

外見的には、似ようにも似ようがない二人。

しかし、自信に燃える獰猛な笑みと怜悧な切れ長の目がとてもよく似通っていた。

 

『金薔薇』アストリッド・セト。彼女から老獪さと毒気を抜いて傲慢さを薄めて成長させたかのような彼女は、朗々たる美声を響かせた。

 

「執行部の諸君、観客の紳士淑女に告げる。

私ことオルガ・サラディーンは《第三位》の地位を捨て、《三十五位》にまで降格したい」

 

あたりが静寂に包まれ、一瞬後にざわめきが戻る。

 

「おい、学年総代。一体、どういうことだよ?」

 

そのざわめきをも断ち切り、疑問が呈された。

呈した男は、赤羽雷真。雪月花の三人を連れて心機一転、夜会で快進撃を続けている『下位組』、或いは『赤羽組』の中心人物である。

 

「群雄割拠、と言うわけだ。陸の」

 

「何?」

 

オルガ・サラディーンが口を開く前に、ここから導き出される結果のみを端的に口に出す。

 

風邪を引いているとは言え、学年総代たる彼女がここに来た時点で、目的と結果くらいは悟ることができたのである。

 

「お前等三人を単独で相手どれるのは、現在の順位ならば俺とキングスフォート伯くらいなもの。しかし、キングスフォート伯は現在夜会を離脱しており、戻るのは少なくとも二ヶ月後。

俺はやる気がない。つまり、二十位から三十五位までの奴らには止める手だてがないんだよ」

 

「それが何で群雄割拠になるんだ?」

 

「オルガが降格すればどうなるかを考えろ。意味を考えろ。結果を考えろ。過程を考えろ。意義を考えろ。背景を考えろ。そうすればだいたい読めるもんだ。

お前みたいな意味も結果も過程も意義も背景もクソもなく、その場の感情のベクトルで動く奴なら兎も角、彼女は聡い女性だからな」

 

お前みたいな善意気違いは読めん、と言外に漏らす提督も一流の狂人だが、彼の尺度で測るならばまだマシな狂人である。因みに加賀も軽く病んでいるが彼の尺度では『健全』に位置する。コワイ。

 

因みにこの場合の『マシ』は、突如として味方を敵に変えたり敵を味方にしたり寝返ったり裏切ったりしたりしないことをさすのであって、精神科にかかれば提督の方が逝っていることは確定的に明らかであった。

 

「流石の慧眼、お見事だな」

 

「……どうも」

 

セト家特有の切れ長の目同士が見つめ合い、それる。

 

「夜会は国家間の利害や、賭博も絡む国際競技。君たちの進撃は素晴らしいものだが、彼らからすれば面白くない、と言うわけだ」

 

「……面白い試みだが、俺たちに倒されちまえばそれまでだぜ?」

 

「やってみるといい。そして、知るといい。君たちでは、私には勝てないと言うことを」

 

この会話を聞いていた加賀は、女版提督のような自信家だな、と思った。

提督の自信も裏付けと勝算と裏工作があるが、この金髪もそうなのだろう、とも。

 

(……私は、下の名前なんて呼べないのに)

 

だが、そんなことは彼女にはどうでもよかった。重要なことじゃあないのである。

 

下の名前。元景。

 

久しく、下の名前で呼ぶ人間を見ていなかった加賀からすれば、それはタブーに近かった。アウトを限りなく通り越したアウトである。

 

元景様。

 

元景さん。

 

元景殿。

 

ていとく人形相手に何回か言ってみたものの、何かしっくりこなかったので彼女は未だに『提督』と呼んでいた。

 

この現象をわかりやすく表すならば、海軍内での加賀自身が好例である。

 

加賀は加賀。呼び捨てにしてもいいし、ちゃん付けでも問題はない、筈なのだ。

だがしかし、皆が皆加賀さんと呼ぶ。

 

 

何故か。

 

 

そうとしか呼べないから、ではない。しっくりくるからである。

 

呼び捨てにするには、抵抗がある。

 

ちゃんを付けるには、大人っぽすぎる。

 

渾名を付けることにも、地雷を感じる。

 

これらに比べて、加賀さんとは何としっくりくる響きであろうか。現に提督は親しくなった今でも何故かさん付けのままだった。

 

「さて、異論がなければ私が降格する許可をもらいたい―――」

 

「お待ち下さい!」

 

そうオルガが言った時、加賀の類似品っぽい女袴を付けた黒髪美人が舞台へあがる。

 

夜会は、学院は、またもや波乱を迎えようとしていた。




金薔薇=論理感死滅

提督=人間性破綻

オルガ=まとも

なんだオルガっていい奴じゃん!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。