ビッグ7は沈まない   作:ドラフェノク

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景品

「……旅行用品を買うんじゃなかったのか?」

 

「グリコは旅行用品でしょ」

 

何個か買ったグリコのキャンペーン対象商品を開き、引換証を抜き出す。

 

麻製の買い物袋にこれでもかと詰め込んだ日用品(購入者:大佐)と食料品(購入者:長門)が闇市のごとき無秩序さを持って広がる食卓で、大佐はニヤリとほくそ笑んだ。

 

「これで百枚ッ……」

 

パクパクとグリコのお菓子を口に運んでは舐め、運んでは舐めを繰り返す長門の前に新たに三箱を追加して置き、立ち上がる。

 

「むぐ……どこへ行く?」

 

今まで口内でコロコロと転がしながら大切に舐め続けていたグリコキャラメルを噛んで飲み終え、戦艦長門は口を開いた。

 

端から見ればただの姉か嫁かにしか見えない彼女ではあるが、本人からしてみれば至極真面目に護衛という任務に取り組んでいる。

実際彼女は数人の誘拐犯と暗殺者と浮浪者を撃退していたし、いざという時の盾代わりになる覚悟も決めていた。

 

油断して一人で外出されたばっかりに彼が死んだら溜まったものではない。

 

あくまで真面目な彼女らしさが護衛と言う任務を行うに当たってよく出ていると言ってもよかった。

 

「グリコの引換証と景品を引き換えに、な。ま、五分で戻る」

 

「供をしよう」

 

目の前に積まれた三箱の上に今まで食べていたグリコキャラメルの入った箱を置き、後を追うように立ち上がる。

 

外していた脚部の戦闘用艤装を日常用のそれと切り替え、いつもの見慣れた鋼鉄の踵を持つブーツのような装甲が彼女のすらりと伸びた足を覆った。

 

腰を覆うように現れる砲塔型の艤装こそ纏っていない物の、既にその肉体は戦闘に耐えうる強度にまで瞬時に変化している。

肉体硬度と皮膚の硬度を本来の姿である戦艦のそれへと戻した長門は、平均以上の俊敏性を以て隣に並び立つかのように追随した。

 

「真面目な奴だなー……」

 

「命を受けたからには全力を尽くす。それだけだ」

 

どんなことでも一生懸命にやるその姿には胸を打たれるところがある。

自分は全くそうなりたいとは思わないが。

 

「それに貴様には恩もある。私は恩はキッチリ返す主義なんだ」

 

ほいほい裏切るほどチョロくはない。だが、性格的に味方に付ける分には苦労しなさそうだな、こいつ。

 

恩を着せれば忘れないばかりか、犬のような忠実さで返そうとする。自分の所属している軍を裏切ることはないだろうが、武士の情けとか何とか言って敵を取り逃がしたりしそうだ。

曹操に対する関羽がいい例だろう。敵ながら恩を着せられてしまったばっかりに関羽は主君の宿敵である曹操を討ち果たせなかった。討ち果たせば曹魏の隆盛はなく、それどころか滅ぼすことすらできたかも知れない。

当然ながら蜀漢の滅亡もなかっただろう。滅亡の憂き目にあわせるであろう魏が滅んでるんだから。

 

まあ、あの時点で曹操を殺してしまったら呉の一人勝ちになっていたかも知れないが……中華の勢力図がどのような状況にあろうと、関羽はあの時は曹操を見逃しただろうから言い訳は利かない。

 

武士の情けとか意味わかんないしね。

 

「逆手に取られて利用されないようにしなよ?」

 

「ああ」

 

何やら疑問を滲ませた顔で頷く長門を見て、悟った。

 

信用できないな、こいつ。信頼はできるけど、信用は無理だ。なるべく恩を着せられない感じで運用しなければ肝心なときに見逃したりなんだりする気がする。

 

「一つ聞いてもいいか?」

 

「何だ?」

 

グリコの支店に引換証を見せに行こうとした直前、後ろから待ったをかけるように声が掛かる。

 

「景品とは、何だ?」

 

何故こいつは後少しというところで質問を投げるのか。

そんな疑問が頭を過ぎり、消える。

 

まあいいさ。答えることによって発生する損益は零なんだから。

 

「軍艦の模型」

 

「……どの軍艦だ?」

 

つり気味の目がより鋭さを増し、赤い目に朧気な対抗心が宿る。

背後に仄かな修羅の気配を感じたのは、恐らく気の所為ではないだろう。わりかし真面目に熟練の戦士特有の威圧感があったのだ。

 

「勿論長門だ。だから誰よりも早くわざわざ百枚も集めたってわけ」

 

「フッ……そうか」

 

修羅の気配が霧散し、どことなく通所運転時よりも柔らかめな長門が顔を出す。

恐らく模型だとはいっても数ある艦艇の中から自分が選ばれたのが誇らしいのだろうな。実際は吹雪、熊野、長門の三種類しかないんだけども。

 

(ああ、こいつ……意外と餓鬼っぽいところあるんだな……)

 

背後でそわそわしている長門を無視―――しているように見せかけてバッチリ視界に納め、引換証と景品の交換を終える。

 

「よし、長門ゲット」

 

「しかし貴様も物好きだな。本物がここにいるにも関わらず苦労して模型を手に入れるとは……フフッ」

 

心にもないことを言った挙げ句、感情も隠せていない長門を温かい目で一瞥し、向けた視線に気づかれる前に余所を向く―――と見せかけて、広げた視界でバッチリ捉え続ける。

 

いや、やはり肉眼で見るのが一番いいけど、感覚を同調させることで広げた視界で見るのもいいな。表情がいつになく崩れっぱなしだから非常に見ていて楽しい。

 

「そりゃあ、好きな艦だから当然でしょ」

 

「な、なに?」

 

意識的に漏らした一言に、狙い通り長門が凍り付く。

一端表情が崩れ始め、それにつられて軍人モードが崩れると後は一直線に素がでるのも非常によろしい。

赤面長門可愛いよ。いつもは綺麗って感じたけど、いつもと違った魅力がいい感じだ。

 

「最初に作った艦だから思い入れもあるし、何だかんだでぶっちぎり一番護衛として派遣されてきてることが多いから戦闘中の意志疎通もやりやすいし。だからこそガンガン改装したり改造したりしてるわけだよ」

 

「私の半身がドックに入ってばかりだとか何とかよく言われることになってしまったがな……」

 

戦艦長門は俺が帰ってからの約半年間もの間、ひたすらドックへ入っていた。

 

そのあまりの長期間の改造の結果、近代化改修と言うよりは近未来化改修に近くなってきているんだけど……ま、どうでもいいでしょ。

 

主砲の45口径41cm連装砲4基、副砲に50口径14cm単装砲18門、40口径12.7cm連装高角砲4基、25mm連装機銃10基。対空用も兼ねてるから

装甲には水線355mmに甲板75+132mm、主砲前盾457mm、主砲天蓋257mm副砲廓155mm。厚くしたり変えなかったりとあったが、国民にとって軍艦の象徴である長門に轟沈されては堪らないからな。一応重装備にしてみた。

 

俺が盾にしやすいし。

 

速力はまあ、最大28,7ノット。 100,445馬力の化け物機関を使用したはいいが、この機関は機巧魔術と科学の結晶だからそうホイホイと量産できない。壊れたらまあ……海軍艦政本部の第五部『造機部』と俺の属する第八部『機巧部』が悲惨なことになる。長門は盾ではありません。大事に扱いましょう。俺は盾にするけど、大事に扱いましょう。

 

走攻守、三つ揃ってまさに完璧!対潜装備を積めば無敵!

俺の身銭までをも切って改造し続けた甲斐があったと言うものだろう。

 

「海戦に出られれば、だけどね」

 

「なんだと?」

 

「いや、別に?箱入り娘になりかねないなー、と」

 

ここまで強化しきった戦艦沈められたらたまんないとか、戦艦の象徴的存在が沈んだら士気によろしくないとかそう言う理由で出撃できない気もしなくもなくないけど、それは俺が悪いんじゃないし。

 

出撃できないから俺の護衛に回してるんだとか思っても口にしない俺は、我ながら非常に空気の読める男だと自負している。

 

「箱入り娘になりかねないとはどういうことだ?」

 

「自分で考えろ、旗艦殿」

 

ま、英国への留学に同伴するんなら箱入り娘ではなくなるか。戦艦としてそれでいいのかどうかはわからないが―――いや、ただの留学としてではなく、『魔王(ワイズマン)』へとなるために開かれるであろう来るべき夜会に向けての一歩と考えれば、本望なのかね?

 

(まあいい。国の目的は魔王の座で、長門の目的は戦うこと。俺の目的は―――)

 

空は海のようにただ、青い。

 

各国の思惑が交差する激動の時が、すぐそこまで迫ってきていた。

 




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