そうして……時は流れて入学当日。
駒草は心操と共に登校しておりこれから始まる高校生活を語り合う。
そうして教室に着くと山如は見知った顔ぶれと出逢う。
その直前に葡萄頭の小さい男子生徒が山如を見た瞬間……身長175cm、B118W61H98……唆るぜぇ、流石雄英と呟いていたが、幻聴だと信じよう。
八百万家の御息女……駒草一家はこう見えて世界的企業故に八百万家とも繋がりが深い、度々パーティーや寄付の集いで挨拶を交わすくらいには親交があり……山如の個性を知っておりそれでも上辺だけを見る事をせずに居てくれる心操と同様、数少ない友人の1人である。
手を振って呼びかける山如……向こうも気づいたのか綺麗なお辞儀をしてくる。
「お久しぶりです駒草山如さん……この前のパーティー以来ですね、お隣の方も初めまして……八百万百と申します、これからクラスメイトとして、ヒーローを志す者として、一緒によろしくお願いします」
そう告げられるが心操は軽く会釈をして無言で席に座ろうとした。
だが……山如がそれを許す筈もなく首根っこを掴んで引き摺り戻すと眼以外が笑っている笑顔を浮かべて語る。
「心操、挨拶……クラスメイトなんだから自分から壁を作ってたらダメでしょうが……心配しなくともお前の思ってる風にはならんて……何よりも、百は私の個性を知った上でこうして友人でいてくれている……この意味わかるだろ?」
山如も心操と同様に中学時代には心ない言葉をかけられ続けてきた。
そもそも個性の発動に『煙草』が必須で更に『精神操作』とくれば良くないイメージのオンパレードであり……心操以上に『犯罪者向き』とか『
……果ては何もしていないにも関わらず同じ中学に通っていただけの見知らぬ他人から急に浴びせられる暴言の数々……あまりの酷さに脅迫や誹謗中傷や名誉毀損にまで発展した事すら1度や2度ではない。
それらを理解してなお……八百万百は山如という人間を見てくれた、個性という上辺だけではなく……。
故に……心操に対しても大丈夫だと信じて八百万百へと挨拶させる。
「……先程は大変失礼を致しました……心操人使と申します……クラスメイトとしてこれから宜しくお願いします」
緊張しつつそう語る心操。
それに対して百も挨拶を返して会話を広げてきた。
「そう言えば……山如は随分と其方の心操人使さんと親しげですわね……教室にも一緒に入って来ましたし……その雰囲気から察するにもしかしてお二人は恋人同士とかですの?」
八百万のその言葉に……山如も心操もどちらともなく顔を見合わせる。
互いの家には4桁を超える程入り浸ってるし互いの部屋にも普通に入れる……中学校時代も登校するのはいつも一緒だったし……趣味も合うし、話も合う……互いに気心知れておりたまに言い合う冗談も気の合うモノ。
……数秒程、時が止まったと認識するかのごとくジッと互いを見つめ合い……どちらも同時に顔を酷く紅潮させ同時に背中合わせになる。
山如は顔が火照っており触ると火傷してしまいそうな程熱い。
それは心操も一緒だったようで……背中合わせでも分かるくらいに熱い。
恋人……意識しなかったけど……そんな関係になれたらいいな。
そんなこんなでアイスブレイクを交えた会話をしていると出入り口より響く言葉。
出入り口から高校生ではない人が寝袋に包まったまま語る。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
喧騒の中で鋭く響くその声音に一瞬で静まり返るクラス。
その人は寝袋から出てソレを見て語る。
「はい、君達が静かになるまで10秒かかりました、担任の相澤消太だ、さて各自机の中に体操服が入ってるからそれに着替えてグラウンドに集合」
唐突にそう告げられてクラス中が一気にどよめきたつ。
しかし指示には従うべきだと判断し特に驚く事なく机の中から体操服を取り出して更衣室へと向かう。
女子更衣室で着替えていると他のクラスメイト達も到着したのか着替えつつ自己紹介も兼ねて会話が弾む。
そして、当然ながら個性の話になる。
瞬間、山如の脳内には嫌な思い出が無数に蘇るが……どうせいつかやるであろう戦闘訓練でバレるのは目に見えている。
ならば遅いか早いかでしかない、意を決して自身の個性を語る山如。
「初めまして……駒草山如と申します、私の個性は『煙草の煙で精神を操作する』個性です……」
そう語り……周囲の人間の反応に怯える山如。
心ない言葉をかけられ続けて……もはやソレに対して酷く慣れてしまったとはいえ……高校生活初日、折角これから1年を共に過ごすであろうクラスメイトに早速距離を置かれるのは……心苦しいモノがある。
暴言を吐かれないだけ、まだマシだと信じて……そそくさと着替えて更衣室を出ようとした瞬間……ガッシリと腕を掴まれる。
振り返ると明るいピンクの髪にピンクの肌、色が反転した目に2本の黄色い触角を有した女子生徒。
その女子生徒は興奮した面持ちでグイグイ語って来た。
「ねぇねぇ‼︎ もしかしてさもしかしてさ‼︎ 煙草って言ったらさ‼︎ アクション映画の登場シーンみたいにカッコよく煙草を吸いながら登場とか出来る⁉︎ あっ、私は芦戸三奈‼︎ 宜しくね、駒草さん‼︎」
芦戸さんの言葉を皮切りに耳郎さんや麗日さんからも温かい言葉をかけられる。
あまりのテンションの高さについていけず、芦戸さんにグワングワンと肩を掴まれて揺らされるがままになっている山如。
……心操にはあぁ言ったものの、山如自身も不安を覚えない訳では無かった。
暴言の嵐……とまではいかなくても無視やスルーなどは今までもあった事だからと心構えが出来ていたが、山如の個性を聞いてなお、臆さずにこんな弾丸の様な速さでぶち抜いてくるとは思わなかった。
一筋の涙がツゥッと流れ落ちる。
突然涙を流した山如を見て芦戸さんからは心配な声がかけられる。
「どっ……どーしたの⁉︎ もしかして揺らしすぎて気持ち悪くなっちゃった⁉︎」
かけられるは善意の言葉。
それがとても嬉しい。
嗚咽混じりの声で山如は大丈夫と語る。
「いえ、大丈夫です……中学時代の人達は私の個性……個性を聞いたらその後は私を無視するか罵倒してくるか暴言を吐いてくるか……まぁ大体、心ない言葉のオンパレードでしたので……まさかカッコいいなんて言ってもらえるなんて思っても見なくて……」
そう呟くと芦戸さんはヒシッと山如へと抱きついて叫ぶ。
「無視なんて絶対しないよぉぉ‼︎ これからいっぱい楽しい思い出つくろぉぉ‼︎」
芦戸さんは私以上に号泣しながら更に激しくグワングワンと山如を揺らしながらそう叫ぶ。
気づけば葉隠さんや耳郎さんも山如に抱きついて泣いていた。
……あぁ、心操にはああ言ったが……他者との交流を避け続けていたのは私もだったか……。
久しぶりに他者からかけられる温かい言葉を噛み締め続ける山如であった。
そうして……ギリギリでグラウンドへと集まると告げられる。
「個性把握テストぉ⁉︎」
山如だけでなくクラスメイト達がオウム返しをするが相澤先生は気にも止めずに喋り続ける。
「あぁ、雄英は自由な校風が売り文句……そしてそれは先生側もまた然り、お前らも中学の頃にやっただろう? 個性禁止の体力測定、ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力測定、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈……爆豪……中学の時ソフトボール投げ何メートルだった?」
そう告げた相澤先生。
それに対して……爆豪と呼ばれた男子生徒は67mと答える。
その返しに……相澤は髪を掻きながら語る。
「……そうか、なら其処の円からでなきゃ個性使おうが何してもいい本気で投げろ……思いっきりな」
そう告げられ爆豪と呼ばれたクラスメイトは準備をしてボールを投げる。
特大の爆破音と凄まじい爆風を齎しながら。
ソフトボール投げ・705.2m。
その記録を見てクラスメイト達がはしゃぐ。
まぁ今まで個性を使えずに抑圧の檻の中で過ごして来たのだ……存分に個性が使えるとなれば水を得た魚の如く騒ぐのは当然。
誰かから面白そうとの言葉が響く、その瞬間……相澤先生は僅かの間を置いて語ってきた。
「面白そう……か、ヒーローになる為の3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断して『除籍処分』としよう」
除籍処分、その言葉を聞いたクラスメイト一同は驚愕の叫びを上げる。
最下位は即除籍とは理不尽との言葉に相澤先生は経験でもしたのかこう返してきた。
「自然災害、大事故……身勝手な
厳しいものになるなと……そう考える。
なんせ山如はこの場においては実質無個性に等しい。
それは心操と山如も同じであった……眼に見えて身体能力や諸々に秀でている個性ならばともかく……身体能力の向上には何ら寄与しない自分達の個性。
……これはなかなか初日から厳しい。
第1種目、50m走。
走り抜くが中学よりもそこそこ早くなった程度でしかない。
記録・7秒14。
第2種目、握力。
42kgw。
第3種目、立ち幅跳び。
勢いを付けて跳躍するも普通にキツい。
3m87cm。
第4種目、反復横跳び。
89回。
第5種目、持久走。
18位
第6種目、上体起こし。
結果、51回。
第7種目、長座体前屈。
これは単純に自前の身体の柔らかさしか無い山如は普通に取り組む他なかった。
普通の結果に終わる。
これで全種目終了して結果が発表される。
駒草山如・19位。
最後に除籍は嘘というとんでもないドンデン返しがあったが……最初に語った眼差しで山如は理解していた。
アレは本気で除籍する眼差しであったと……。
山如とのギャンブルで鍛え上げられた人心を読み解く力、それを踏まえて心操も同じ結論に達していた。
そうして長くて短い雄英高校での初日が終了した。