紫煙少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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らしく戦う

 山岳ゾーンと思われる場所に飛ばされた山如と心操。

 心操と背中合わせになりつつ煙管を深く吸い込み煙を吐き出す山如。

 ゆらゆらと漂う煙は空気に乗って散らされる。

 今少しの間は互いに個性が不明な状態で緊迫している故牽制はされども手は出して来ない……勝負を仕掛けるなら今しかない。

 山如は、自身の臀部や胸部を下卑た眼で見てくる(ヴィラン)の1人に向かって……ゆらりと語る。

 

「君達は私を知らないか……残念だ……一応『彼』と取り決めていた筈なんだが? 情報を流す代わりに私には手を出さない取り決めを、それを踏まえて聞くぞ? 本当に知らないか? この私を」

 

 そう語ると(ヴィラン)達は互いに顔を見合わせてしばし考え込む。

 山如は相手の心の隙間に入り込む技術、人心を掌握し誑かす技術は稼業で鍛え上げられただけあり群を抜いている。

 心操も同じ事はある程度までならば出来るが山如には遠く及ばない。

 自分達が知らされていないだけでこの女は仲間なのではないか? そう言った疑問がいつの間にか吸引させられている煙と共に広がりヒーロー候補生を眼の前にして思考の海に溺れ立ち尽くす(ヴィラン)達。

 その眼は何処か別世界に旅立っている様な虚な眼をしている。

 眼の前で手を振ろうとも微動だにしないのを確認してから心操と共に安全な場所、即ち先生達の居る場所へと戻る為に行動を開始する山如であった。

 移動しつつ心操は山如に問いかける。

 

「なぁ……さっきのって……知ってる奴らだったのか?」

 

 先程の会話について質問をして来た。

 まぁ当然だよな、いきなりあんな事を言い出せば。

 可能な限り接敵しない様に警戒しつつ歩きながら山如は心操の言葉に肩を竦めながら返す。

 

「あぁ……さっきの? いいや? 全然知らない、顔も見た事なければ名前すら知らない正真正銘赤の他人……」

 

 それを聞き心操は山如の恐ろしさを再認識せざるを得なかった。

 ブラフとハッタリで、言葉一つであそこまで戦線を混乱させ、撹乱させ、果てはあの様に崩壊させる事が可能……末恐ろしい思いが過ぎるが被りを振ってそんな邪な考えを振り払う。

 自身と同様、ヒーローを志して、今ここにいる……ならばその技術を悪用する様な人間ではない事は15年間一緒に居る心操が1番、誰よりも理解していたしその様な上辺で相手を語るのは……自分達が最も嫌う行為だろうがと自分自身の心の中を怒鳴りつける。

 上辺だけで、個性だけで(ヴィラン)や犯罪者などと揶揄されてきた……その様な揶揄が何よりも傷つくのは誰よりも理解している。

 そうして……暫し歩き続けると轟と合流した。

 どうやら轟の所に当てられていた(ヴィラン)達も大概木っ端だったらしくすぐさま氷漬けにして情報を搾り取ったらしい。

 

「……2人はどうやって?」

 

 短く問われたその問いかけに対して山如が口を開く。

 

「肉体的な技術や力押ししていけるだけの個性じゃないからね……口八丁手八丁と煙管(これ)を使ってどうにか言いくるめて寝てもらった……正面戦闘出来る轟さんが羨ましいが……らしく戦うだけさ……だがいかんせん私も心操も力押しをしてくる相手やそもそも話が通じない、話をしない相手とは相性が最悪なので……その時は期待してもいいかな? 轟さんに」

 

 そう語る。

 事実、山如や心操だって緑谷や爆豪、轟らの様な派手で誰が見ても分かりやすい個性が羨ましくないと言えば嘘になる。

 だが……配られた手札で勝負を仕掛けるのが人生ってゲームの醍醐味……ならばこの配られた手札を思う存分使いこなしてやろう、そう志して……今ここにいる。

 そうして……磨き上げた技術と話術を巧みに使いこなしてきた。

 正面戦闘に向いた個性ではない故に……火力担当はお願いと、暗にそう語る山如。

 そうして暫し歩き続けると……ようやく噴水の見える中央エリアに戻って来れた。

 しかし、山如達の眼に飛び込んで来たのは……筋骨隆々の肉体と黒い体表、そして頬が無く、頬が裂けた様な印象を与える様に開かれている大きい口……そして何よりも剥き出しの脳が特徴的な2〜3mはあろう巨躯が……その身の丈に似合わぬ速度を以てして相澤先生の背後に立ち、人間など掌でペシャンコに出来ると簡単に理解出来る大きさの手で、相澤先生の頭部を掴む瞬間であった。

 即座に轟が氷結を放ち相澤先生のフォローへと入り間一髪の所で危機を脱する。

 脳無と呼ばれていた黒い大男は思考能力の欠落故か死柄木弔と呼ばれていた『手』の装飾品を着用している(ヴィラン)の声にのみ反応している様子であった。

 それを踏まえて山如は考える。

 相澤先生はどうにか轟さんが助けられたがこの後の一手が何もない。

 死柄木弔と呼ばれた(ヴィラン)は後方に居る山如と心操という足手纏いに眼をつけて脳無に指示を出して……2秒も経たない内に死を具現化したとでも言う存在が2人の眼の前にいた。

 脳無と呼ばれていた(ヴィラン)は丸太を思わせる筋肉が隆起している巨大な右腕を振りかぶって……山如と心操に死を与えようと振りかぶる。

 刹那……山如はあまりにも分の悪すぎる賭けに出ざるを得なかった。

 隣にいる心操へと小声で語る。

 

「心操さん、あの(ヴィラン)……手の装飾品を付けたあの(ヴィラン)声で‼︎ あの(ヴィラン)の声帯模写で黒い大男に命令を‼︎ 命令は常に声で出されていました、しかしながら……あの手だらけ(ヴィラン)の声にのみ反応して他の(ヴィラン)には一切反応してませんでした……音声認識なのかは分かりませんが……動くなでも止まれでも……そう叫んで下さい‼︎ 速く‼︎」

 

 切迫した声音でそう叫ぶ山如。

 眼前には死が迫っている。

 これが成功しなければ、自分達はミンチよりも酷い事になるのは考えなくても理解できる。

 心操が何とか声帯模写をして死柄木弔の声で叫ぶ。

 

「脳無‼︎ 動くな‼︎」

 

 そう叫びながら、心操は脳無の拳が山如に当たるのを少しでも遅らせようと盾になるが衝撃はいつまで経っても襲って来ない。

 恐る恐る眼を開けると、鼻先数センチの距離でビタァッと止められている拳。

 それを見て……即座に轟と共に退避して距離を取る山如と心操。

 煙管を深く吸い込み煙を手だらけ(ヴィラン)の元へと拡散させ吸引させる。

 自身の個性にかかった事を感覚で認識しながら虚脱状態に追い込む。

 黒霧という(ヴィラン)、ワープゲートを兼ねているであろう(ヴィラン)が微動だにしない死柄木弔を抱えて退避しようとするが相澤先生が『抹消』しており逃げる事が出来ない。

 脳無も腕をだらんっとさせて動く事がない、主犯格2人を捕縛布で捕縛しようとした

 刹那……死柄木弔と黒霧、そして脳無の口から泥の様な液体が出現し3人を纏めて包み込んで行き……最初から何も無かったかのように消えていった。

 その後……飯田天哉により異変を察知した雄英に残っていた教師陣が到着し、USJ内に残存していた(ヴィラン)達は全員捕縛された。

 

 そうして、初めてのレスキュー訓練は……幕を下ろしたのであった。




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