君がカードを引いたなら   作:七紫ノごんべえ

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学園ものの青春ラブコメが読みたかったので書いてみた。


プロローグ

「それじゃ、行ってきまーす」

「行ってらっしゃい。第一印象は大事よ、しっかりね」

「はーい」

 

 まだ慣れない制服に身を包み、母に見送られながら家を出る。

 スカートは膝より上になるように折っているが、空気はすっかり暖かくなっているので丁度いい。

 向かいの家に植えられている花が咲き始めており、改めて春を実感した。

 

 あの赤い花はアネモネか。確か、愛を伝える花言葉を持っていたはずだ。他の色は果たして何だったか。

 

 今日は高校の入学式だ。

 母の要望通りの高校へ無事進学でき一安心したのも束の間、課題や予習に追われていたらあっという間に高校生になっていた。

 どうにも実感が沸かないまま、駅まで歩みを進める。同じ制服を着ている生徒を見かけるかと思ったが、今日登校するのは一年生のみであるためか、駅までの道中では発見には至らなかった。

 結局電車の中にポツポツといた程度だ。駅が同じなら声もかけられたのだが。

 

 家から高校までは、徒歩と電車で二十分ほどの距離だった。家から適度に近く、その中でも進学率が良い場所。偏差値も比較的高く、難易度の高い大学へ挑戦することも可能な範囲だ。

 外観はいたって普通の公立高校だが、グラウンドは広く、また教室数も多い。部活動に力を入れている高校で、在校生は基本的に二年間以上の部活動所属が義務付けられている。

 

 言ってしまえば、堅実な選択。その結果がこの衣川双葉高等学校だった。

 

 

 事前に案内のあった教室に入ると、初日ということもあり、既に半数以上の生徒が着席していた。

 教室内に会話は無い。慣れない環境に戸惑い、緊張しているのが伝わる。

 見渡すと、教室内の机にはそれぞれ名前の書かれた札が立っていた。札は三角形をしており、まるで政治家のようだ。

 自分の名前を見つけて、席に着く。机は比較的綺麗で、特に文字が彫られているといったこともない。

 中学校では穴の開いた机も見かけたが、さすがに高校生にもなればそんなことは無いのか。

 

 段々と席が埋まってくる。あと二十分ほどで、入学式前の挨拶が始まる時間になると、何やら話しながら教室に入ってくる生徒たちがいた。

 

「結翔は隣の席ね!」

「なわけあるか。こういうのは、大体五十音で席が決まってんだよ」

「おい、目立ってるぞ……」

 

 やりとりから、付き合いの長さを感じる。

 女の子が二人と男の子が一人の組み合わせは中学生からではあまり起きえない。

 ということは小学生か、それより前からの付き合いだろう。

 

 黒髪の女の子は、どうやら男の子のことが相当好きな様子だ。赤髪の子は分からないが、物言いの遠慮のなさや距離感を見るに、信頼しあってはいるようだった。

 

 女の子二人は、相当レベルが高い。黒髪の子は容姿に相当気を遣っているのが分かるし、赤髪の子も素材が良く、磨けば光る逸材だ。

 そんな女の子に挟まれている男の子は、やや長めの前髪で目元が少し隠れているので、はっきりと顔が見えたわけではないが、特筆して優れているようには感じない。

 内面が素敵なのだろうか。それとも、学業やスポーツに秀でているのか。

 

 いずれにしても、黒髪の子が彼のどこに惚れているのか興味があった。

 

 

 入学式と自己紹介も終わり、自由時間となった。

 クラスの男子は一通り見たが、少なくとも母のお眼鏡に適いそうな人はいなかった。

 

 個人的に気になるのは、先ほどの三人組の男の子……鳴海くんくらいだ。

 自己紹介や女の子との会話から、少しだけ人となりが見えてきた。多少口調は荒いが年齢相応で、性格の良さが十分うかがえる。

 黒髪の女の子……久遠さんとは、どうやら付き合ってはいないようだ。あれだけの美人にアプローチされても靡かない所を見るに、異性に対しても真摯なのかもしれない。

 

 彼ならば、あるいは。

 

 そちらに目をやると、赤髪の子の机に集まっている。

 どうやら部活動についての話をしているようだった。耳を傾けると、入部届やアビカといったワードが聞こえてきた。

 アビリティカードバトル……昔、父に買ってもらい、兄と二人で遊んでいたカードゲームだ。

 まだ、家族四人で暮らしていた頃。人生で一番幸せだった時間。

 確か、自室の押し入れにしまっておいたはずだ。探せばきっと見つかるだろう。

 鳴海くんとお近づきになれれば良し。そうでなくとも、部活を通じて交流を広めることにもメリットがある。

 

 席を立ち、彼らの元へ向かう。

 彼が母のお眼鏡に適う人物なら、ぜひ仲良くさせてもらおう。

 

 何もかも打算で動く自分に心底嫌悪を感じる。それにも関わらず、浅ましくも願ってしまうのだ。

 

 願わくば。こんな『僕』のことを──

 

「──君たち、カードの部活に入るの?」

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