君がカードを引いたなら   作:七紫ノごんべえ

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楓ルート 五

 

 アビカ甲子園の予選が目前に控えており、選手も部員もますます熱を入れて練習に取り組んでいる。

 それを尻目に、俺は楓とアビカでゆるく遊ぶ日々が続いていた。

 白栞も千夏も、部活に来ると大勢から対戦やティーチングを申し込まれる。そのため、ショップバトルなど外部での練習が増えているようだ。

 また俺も二人の邪魔をしては悪いと思っていたため、最近はあまり二人とアビカをしなくなっていた。

 逆に、同じ熱量で遊べる楓との対戦が増えてきたのだ。

 

 また、部活も部員に対して理解があり、選手たちはサポートするが、ライトに遊びたい部員は自由参加というスタンスだ。

「結翔くん。そろそろ帰ろうか」

「そうだな。結構遊んだし、週末だから宿題も多いしな」

 そのため、このように途中で抜けるのも問題ない。俺たちは荷物を纏めると、部長に声をかけ、玄関へと向かった。

 

「あれ、桂木じゃん。もう部活終わったの?」

 部室から出て廊下を少し歩くと、楓が男子生徒に声をかけられた。

「まあね。近藤くんも?」

「そう、ちょうど終わったとこ。……隣の人は?」

 どうやら近藤というらしい男子が俺に目を向けた。

「クラスメイトで同じ部活の結翔くん。あ、こっちは隣のクラスの近藤くんだよ」

「ども」

 突然隣のクラスの人間と対面しても、何を話せばいいのかさっぱりわからない。とりあえず軽く会釈だけした。

 向こうも同様だ。何やら気まずい沈黙が流れた。

「じゃあ、またね」

 楓が近藤にそう告げると、再び玄関に向かって歩き出した。俺も後に続く。

 

「楓って結構交友範囲広いんだな」

 入学から三ヶ月ほどだが、違うクラスのやつと交流する機会など碌に無かった。部活を除けば選択科目で若干名とは話すが、まだぎこちない。

「そうかな? まあ、偶然そういう機会に恵まれることもあるだけだよ」

 そういうものだろうか。

「俺は他のクラスに友人とかはいないからなぁ」

「入学後のレクリエーションとかも無かったからね。まあ、僕はこの話し方だし、興味を惹くのかもしれないね。あまり異性という感じもなくて、話しやすいんじゃないかな」

「いや、異性って感じがしないってことは無いだろ」

 改めて見れば、楓はかなり美人だと思う。独特な言葉遣いは、どこかミステリアスな雰囲気すら醸し出している。

「おや。と言うことは、結翔くんは少なくとも僕を異性と見てくれている訳だ」

「あ、当たり前だろ」

 ニヤリと笑みを浮かべて問いかけた楓は、俺の返答に満足したのか、一段階ごきげんな笑顔になっていた。

「それは良かった」

 口調はともかく、楓は紛れもなく女子だ。

 さっきの男子生徒だって、もしかしたら楓のことを……なんてつい邪推してしまいつつ、玄関にたどり着いた。

 

「あ」

 下駄箱から靴を取り出し、上履きを履き替えようとした時。不意に楓が声を上げた。

 見ると、白い封筒を手に持っている。どうやら下駄箱に入っていたようだ。

 これは、ラブレターというやつではないだろうか。

 大概の用事はメッセージで何とかなる昨今、まさか下駄箱にラブレターなどという古典ラブコメのような手段に出るやつがいるとは。

 などと考えている間に、楓は封筒を開けて中身を見ていた。

 

「ど、どうだった?」

 気になって咄嗟に聞いてしまったが、どうだったは無いだろうと言った瞬間に思った。慌てて言い直す。

「中身。あの、もしかしてそれってさ」

 ラブレターなんじゃないか、と続けようとして

「ごめん、結翔くん。先に帰ってて」

 という楓の一言で、喉まで出かかった言葉は霧散した。

「ちょっと用事ができちゃった。また今度、一緒に帰ろうね」

 それだけ言うと、楓は踵を返して階段へ向かっていった。

 

 

「あれ、やっぱラブレターだよな……」

 結局一人で帰宅し、宿題でも片付けようと考えたが、やはり気になってしまって手が付けられなかった。

 こっそり見に行くか、せめて外で待ってみようかとも考えたが、もし楓が知らない男子と一緒に歩いてきたらと考えると、何か嫌な気持ちになってしまったのだ。

 鳩尾の辺りを掻き回されているかのような不快感に耐えられず、足早に学校を後にしていた。

 

 スマホを見ても、メッセージは何も届いていない。

 楓はかなりマメなやつで、部活終わりなどはメッセージをくれたりもするのだが。

 たまには俺から送ってみても良いだろうか。

 悩んだ挙句、「今日も部活お疲れ」とだけ入力し、送信する。

 

 しばらく画面を見ていたが、既読にはならなかった。

 あれから一時間以上は経過している。もう用事が済んでいてもおかしくないと思うのだが。

「……何やってんだ俺」

 スマホを机に置くと、椅子から立ち上がり、ベッドに倒れ込んだ。

 何をそんなに気にすることがあるというのだろうか。昔、白栞が先輩に告白されたという話を聞いた時には全くこんな気持ちにはならなかったというのに。

 白栞の方が、付き合いは遥かに長いのだ。なら、気にするべきは白栞の方じゃないか。

 しかし実際には、俺は楓の方が気になってしまっている。

 まさか──

 

 ピロン、と音がした。スマホがメッセージを受信したのだ。

 慌てて体を起こし、机の上のスマホを掴む。画面に表示されていたのは……。

 

「──なんだよ、白栞か……」

 メッセージの主は白栞だった。明日の練習に付き合ってくれという内容で、語尾にはハートの絵文字が付いている。

 楓からの返信ではなかったことに肩を落としつつ、最近あまり対戦していなかったし、気分転換には良いかもしれないと考える。

 特に明日は予定もないため、オーケーとだけ返信した。

 すぐに既読になり、待ち合わせ時間と、いつもの駅前広場に集合と返事が来た。

 その後、メッセージは数回往復し、その間に風呂や夕食などを済ませていくと、日付が変わる時間となっていた。

 ベッドの中で白栞に就寝のメッセージを送ってから、再び楓とのトーク画面を開く。

 

 メッセージは、未だ既読になっていなかった。

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