七月と言うと夏のイメージだが、未だに梅雨は明けず。今日も外は雨が降っていた。
天気予報によると、雨は午後に止んで曇りになるようだが、窓の外から見える景色にはそんな様子はまるでなかった。
「結翔くん、今日は部活寄る?」
「いや……今は先輩たちが気合い入ってるし、集中乱しちゃ悪いから。帰ろうかな」
アビカ甲子園の地区大会は今週末に行われる。それに向けて、先輩たちは最後の追い込みに入っている。
昨年の成績でAWGのシードを決めている白栞と、先日の店舗代表決定戦で優勝した千夏は、先輩たちを手伝いながら自分の練習もこなしていた。
みんないい人たちなので、俺たちが端でアビカを遊んでいても気にしないと言うだろう。だが、こちらとしては少し申し訳ない気持ちになるのだ。
楓とアビカをするだけなら、ショップでも良い。そのため、最近は部室に立ち寄らずにショップやカフェで過ごすことが増えつつあった。
「じゃあ、久しぶりにうちの近くのカフェでもどう? 結翔くんには少し遠回りさせてしまうけど……」
「全然大丈夫。あそこのコーヒー美味かったし、気にしないよ」
以前、ショップバトルにと楓に誘われた日に立ち寄ったカフェ。あの時はまだ、ただのクラスメイトだと思っていた。
今は違う。明確に楓を意識してしまっている。何気ない日常の会話ですら、常に頭を回転させ続けて言葉を選んでしまう。不自然になってないと良いのだが。
「結翔、ちょっといいか?」
不意に千夏から声をかけられる。
「ん? どした」
「今日の部活なんだけどさ。久々に来ないか? 最近来てないだろ」
そうだっただろうか。思い返してみるが、一週間程は顔を出していない気がする。
「そんな久々ってほどでもないんじゃないか? 先週頭には行った気がするけど」
「あー……まあ、あれだ。普通部活ってのは参加するのが基本だろ」
言われてみれば確かにそうだ。だが、うちの部は参加自由の緩さも売りなのだし、特に気にする必要は無い。
「一理あるけど、今日はやめとくよ」
そう言えば、千夏は困ったような顔になった。
「あんまり桂木ばっかり構ってると、ハニーが拗ねちまうぜ」
千夏の言うハニーというのは白栞のことだ。
白栞が頻繁に俺にくっついてくるので、小学校では周りからは夫婦と揶揄われたし、その名残りなのかもしれないが……。
「なあ、そのハニーってやつ、そろそろやめようぜ」
今まではそこまで気にしていなかったが、今の俺には、どうしても勘違いされたくない人がいる。
「俺と白栞はただの幼馴染だ。あいつもインフルエンサーとしての活動だってあるし、俺も周りに変な誤解をされたくないしさ」
少なくとも、今まで白栞に惚れたことはない。他の男と話していても特段何も思わないし、もし誰かと付き合うとなったら祝福するだろう。相手がろくでもない男なら一発ブン殴るかもしれないが、それは大事な幼馴染だからだ。
楓に恋をしてから、白栞に対して恋愛感情は持っていないということがはっきりと分かった。
「……何かあったのか」
千夏が怪訝な顔で俺を見ている。
「まあ、な。そのうち話すよ」
この恋が実るのかは分からない。ネットで調べたら初恋は実らないと書いてあったのを見た時には結構落ち込んだ。
どんな結果になっても、千夏には話すだろう。こいつはこいつなりに、俺のことを気にしてくれていそうだしな。
──白栞side──
「千夏ダメだよー。もっとプッシュしてくれなきゃ」
毎回直接誘ってもしつこいだろうと思い、千夏に頼んだが、結局効果が無かった。
最近、結翔は楓ちゃんに構いっきりだ。なんとなく嫌な予感がしていたが、残念ながら的中してしまったようだ。
とはいえ、私には絶対的なアドバンテージがある。
「まあ、この後でひと悶着ありそうだし。まだ動かなくて良さそうだけど」
先ほど偶然聞こえてきた女子たちの会話を思い返す。裏で徒党を組んで一人を断罪しようとするその様は、男子の知らない世界だろう。
「女子って怖いよね」
この先起きる事を想像し、私は自身の勝利を確信した。