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小説を書くのが初めてなので不安も多いですが、面白い作品にできるように頑張ります。
──楓side──
朝。澄んだ空気に小鳥のさえずりが響く。
母と自分の朝食や弁当を用意するため、毎朝五時には起きている。夏と言っても、この時間ならまだ過ごしやすい気温だ。
作業を進めながら、最近関係が良好な男子生徒──結翔くんについて考えていた。
第一印象とは異なり、学力は大きな不安なし。教科によっては学年でも上位なのではないだろうか。
どうやら英語は苦手としているようだが、国語や暗記科目には強いようだった。大学受験に関しても、平均よりは上の学校に行けるだろう。
友人関係も良好だ。幼馴染二人とやや距離が近すぎるが、クラスの男子とは普通に打ち解けている。ただ、幼馴染がクラスでも人気の高い女子だけに、一部からは嫉妬されていそうだが。
それでも、社交性は低くない。カードショップで初見や歳上の相手とも充分にコミュニケーションが行えていることも、それを裏付けている。
人間性に関しても問題は見当たらない。子どもに好かれているのがその証拠だ。子どもというのは敏感な生き物であり、人間性に問題があるならあそこまで好かれることは無い。
身近に困っている人がいれば手を貸すといった様子もあった。
クラスで揉め事が起きた時には、遠くで傍観していた所を見るに、厄介ごとにはあまり首を突っ込みたがらないようだ。だが、その保守的なスタンスはごく普通のことであるし、下手な正義感で自身や周囲を危険に晒すリスクも少ないと言えるだろう。
総じて、母の前に連れて行くには充分な資質であると言えた。
そして、少しずつではあるが、確実に僕に気持ちが向いてきていることも分かっている。
兄との外出を見られた後は少し危なかったが、結果的にはいい方向に転がったようだ。偶然に感謝しなければならない。
このまま何事も無ければ、交際に至るのは時間の問題だろう。ネックになるのは、幼馴染の存在だ。
幸い、アビカを通して二人とは比較的良好な関係を築けている。千夏ちゃんは、おそらくこのまま傍観に徹してくれるだろう。結翔くんに僅かばかり恋心を抱いている可能性もあるが、それよりは気の置けない親友といった関係性だ。
問題なのは。
「久遠白栞、か」
僕はアビカを長く離れていたため知らなかったが、相当な有名人らしい。実際、ショップに足を運ぶとその知名度を実感する。
クラスでも、入学式初日から白栞ちゃんを気にしている人が男女問わず数名いた。クラスや学年を問わずかなり人気であり、それが僕にとっては一番大きな障害となる。
「簡単に諦めてくれたらいいんだけど、そんな上手くはいかないよね」
本人が公言している以上に、白栞ちゃんは結翔くんにベタ惚れだ。結翔くん本人も、そばに居る千夏ちゃんも、白栞ちゃんの病的な恋愛感情を正しく理解できていないだろう。
あれは、危険だ。
仮に白栞ちゃんの目を掻い潜って結翔くんと付き合えたとしても、後から何をしてくるか分かったものではない。
世間や周囲からの評判も良いし、幼馴染というだけあって結翔くんの親御さんにも気に入られている可能性が高い。
外堀を完全に埋めているはずだ。
つまり僕の勝ち筋は、付き合う前に結翔くんに完全に惚れてもらい、そして白栞ちゃんの心をへし折ることだ。
認めさせる? そんな生やさしいゴールがあるものか。
あれは、四肢を失っても喉元に喰らいつく獣の目をしているのだから。
一通りの家事と母との朝食を済ませ、学校へと向かう。
今日は部活が無いので、彼は直帰コースだろう。またカフェに誘ってみるか、カードショップで遊んで帰るのも悪くない。
初めは結翔くんと接点を持つためのアビカだったが、彼と一緒に遊んでいる内に楽しさを見出してきた。
生来、論理的な思考は得意なタチだ。既に部活内で僕と戦えるのなんて白栞ちゃんと千夏ちゃんくらい。デッキパワーや相性の問題で二年生の何人かにも負けているが、プレイスキルはこちらが上だ。
結翔くんはデッキにこだわりがある……ということにしているから、僕が勝ち越しているけれど。同じデッキを使って対戦したらどうなるだろうか。
彼のアビカに対するスタンスには、どこか影がある。それでも僕と遊んでいる時は純粋に楽しそうだが、大会には消極的なところを見るに、真剣勝負というのがガラでは無いのだろう。
それ以外にもあるのかもしれないが、さして興味は無い。遊びたいように遊べばいいのだ。
お弁当の準備がいつもより少し時間がかかってしまい、一本遅い電車で学校に着く。
それでもまだ、生徒は半分ほどしか登校していなかった。
「おはよう」
誰へともなく挨拶をしながら教室に入ると、いつもは若干名から返ってくる挨拶が今日は無かった。
不思議に思い、教室を見渡す。
女子の数名が固まって、こちらを見ていた。
「……どうしたのかな」
剣呑な雰囲気。明確な敵意。
「桂木さん、少しいい?」
ああ、厄介ごとの気配がする。
ちらりと教室の端を見る。結翔くん達はまだ登校していなかった。
彼がくる前にケリが着くといいのだが、そろそろ彼らも登校してくる時間だろう。
「いいけど、場所を変えても良いかな?」
廊下に出て、近くの階段の踊り場へと移動した。
ここでは結翔くんが登校してきた時に気付かれてしまう可能性が高い。
「あの、できればもうちょっと人目に付かない所にしない? ここじゃ目立つと思うんだ」
と、場所の変更を提案したが。
「桂木さん、私の彼氏に何をしたの?」
我慢の限界だったのだろうか。彼女達はここを話し合いの場と決めてしまったようだ。
「何って言われても。僕は君の彼氏が誰なのかも分からないし」
「優太よ。小田優太、知らないわけじゃないでしょ?」
僕の話を途中で遮って挙がった名前は、二年生の名前だった。
「ああ、小田先輩ね。別に何もしてないよ。何回か話したことがあるだけ」
「その時に何かしたんでしょ!」
再び僕の話を遮り、感情を昂らせるクラスメイト。どうでもいいが、名前はなんだったか。
「優太が、最近しきりにあんたの事を聞いてくるのよ! どういう子なのか、何が好きなのかって! 連絡先も聞かれたわ、知らないって言ったら急に冷たくなって……! それに、あんたが優太と楽しそうに話してたのは、この子達が見てるのよ!」
この子たち、というのは彼女の横に並んでいる取り巻き達の事だろう。何をゾロゾロ引き連れてと思ったが、証人として呼んでいたようだ。彼女達はしきりに頷いていた。
「僕にそんなつもりは無いし、悪いけど、小田先輩には恋愛的な興味なんて無いよ」
「前から思ってたけど、その喋り方も変よ。男みたい」
「今、喋り方に何か関係のある話があったかな」
バカみたいだ。とにかく攻撃できる部分は攻撃しようという魂胆なのだろうか。
とにかく、この無意味な時間を早々に終わらせたい。厄介ごとの多い女だと結翔くんに思われては、今後の計画に支障をきたす恐れがある。
だが、彼女達はそれを許さなかった。
「桂木さあ。昔はそんな喋り方じゃなかったよねえ」
先ほどからこちらを見ていた取り巻きの一人が、不意に声を上げた。
そちらに目をやるが、あまり見覚えがない。少なくともクラスメイトではないだろう。
「覚えてないって顔してるねえ。小学校で同じクラスだったこともあるんだけど」
その言葉に、先ほどまで感じていた虚無感は消え去り、一瞬で戦慄した。
僕は中学への進学と同時に引っ越している。隣の県から来たのだ。
だから、同じ小学校の人間がいるとは思いもよらなかった。
まずい。
「何のことかな。人違いじゃない? それより今は小田先輩の話だろう」
話を本題に戻そうとするが、目の前の女子はニヤリと笑っている。
「私はー、昔の桂木さんの話がしたいなー。だってー、昔はこういう喋り方だったよねー?」
「うっそ、何それー! ぶりっ子じゃーん!」
「今時そんな喋り方するやついないだろ! え、マジで言ってんの? ウケるー!」
ゲラゲラと、醜い笑い声が響き渡る。
「今は関係ないだろ。昔のことを持ち出して、何があるっていうんだ」
こいつは、過去の僕を……私を知っている。母に作られた、仮初の私を!
「小田先輩のこともー、こうやってたぶらかしたんじゃないのー?」
「キモ、まじかよこいつ」
「男の前ではぶりっ子してー、ギャップ萌えでも狙ってるんですかぁー?」
「ちがう、僕はそんな」
そもそも、今は人前ではその話し方はしていない。それをするのは、必要がある時だけだ。
事実無根の言いがかりもいいところだが、彼女達の中では僕への攻撃手段を手に入れたという喜びと、男へ媚びる女だという誤った事実を手に入れたということが大きいらしい。
既に覆せない流れが出来てしまっていた。
「そうやって私の優太にちょっかい出したんだ。男に擦り寄って人の男奪って満足?」
僕を呼び出した女子が更に詰め寄ってくる。
もはや何を言っても、この場は収まりそうにない。
それに、過去を知っている人間の登場は、僕に少なからず動揺を与えていた。このままでは、そう遠くないうちに結翔くんたちも知ることになってしまう可能性がある。それだけは避けたい。
何とかしようと、言葉を続けようとした瞬間。
「もうやめろよ」
僕の後ろから、男性の声が静かに響いた。
「結翔、くん」
声の主は、この場に一番いてほしくなかった人物。
「昔の話とか、どうでも良いだろ。朝から聞いてて気分悪いんだけど」
「鳴海は関係ないでしょ。さっさと教室行きなさいよ」
「んじゃ、お前の取り巻きは何なんだよ。性悪モブ女ってのは現実でも取り巻き引き連れてんだな、漫画の悪役と同じだ」
わざと挑発するような言葉を吐きながら、結翔くんは僕の前に立つ。
まるで、僕を守ってくれるように。
「はあ? なんだよこいつ。ナイト気取りかよ」
「ああ、鳴海も桂木にたぶらかされてるんだ。こんな風にー、言い寄られちゃったのかなー?」
関係の無い結翔くんにまで攻撃してくる彼女たち。
まずい、この流れはもう止められない。せめて結翔くんだけでも……。
「よく分かんねーけど。今、アタシの幼馴染をバカにしたか?」
ドスのきいた女性の声がした。同時に、階段を登ってくる音。
「なあ、それはアタシにケンカ売ってるってことでいーのかな」
現れた千夏ちゃんは、鞄を結翔くんに預けると、結翔くんと女子達の間に立った。
普段、結翔くんが千夏ちゃんのことをヤンキーと呼ぶことがある。実際には全くそんなことはなく、すこし声がハスキーなのと、目つきが悪いだけなのだが。
しかし、それは彼女のことをよく知らないと分からないことだ。いや、知っていても惑わされるかもしれない。
今この瞬間、彼女から溢れ出るプレッシャーは、番長と言われるようなものだった。
「男子が女子シメたら問題になっちまうけどさ。女子同士だったらケンカで済むよなぁ」
「い、いや……」
「ひぃふぅ……六人か。六対一なら、アタシの方が情状酌量ってことになるかもな」
「ち、ちがうの。鳴海くんは関係なくって……」
先ほどまで勝利を確信して、数に物を言わせていた女子達が震え上がっている。
「もう四人くらいいてもいいぜ。そんぐらいのハンデが無いとさ、お前ら全員大怪我になっちまうからよ……!」
「ゆ、ゆるして……ごめん、ごめんなさい!」
そう言うと、僕を呼び出した女子は階段を駆け登って逃げていった。取り巻きもそれに続く。
踊り場には、僕と結翔くん、千夏ちゃんだけが残されていた。
「……ったく、胸糞悪い」
「悪い、千夏。ありがとな」
「ほんとだよ! 後先考えずに飛び出しやがって。アタシがいなかったらどうするつもりだったんだよ」
そう言って、鞄をひったくる千夏ちゃん。
「悪かったって。すげー迫力だったぜ、ケンカしたことなんて無い癖に」
「あんなビビられるのは複雑だぜ……アタシのハートは傷付いた……」
女子達は消えた。
だが、僕の問題は何も解決していない。
一番見られたくない人に、見られてしまったのだから。
「……二人ともありがとう。ごめん」
手短にそれだけ伝えると、階段を駆け降りる。
「お、おい! 楓!?」
後ろから結翔くんが呼ぶが、立ち止まることはない。
今は、ただ一人になりたかった。
千夏がメインヒロインのルートは小説家になろう様にて投稿中です。
今回の話で千夏の好感度が上がったという方や、カードの対戦メインを読みたいという方にはそちらもおすすめです。