少しずつ書き進めているので、今後もお楽しみいただけたら嬉しいです。
いつものように登校すると、珍しく楓の姿が無かった。
ホームルームで担任が楓の欠席を告げた。体調不良とのことだった。
昼休みに楓に体調はどうかと連絡するも、未読のまま。
それが、五日前のこと。
今日もまだ、メッセージは未読のままだ。
さすがに心配になり担任を問い詰めたが、母親からの電話ではそろそろ学校には行けそうとのことらしい。
せめてお見舞いにと思ったが、楓の家が俺にはわからない。個人情報のため、担任も教えられないようだ。
やり場のない不安を抱えたまま週末に入り、心も体もろくに休まらない日曜日。
家のチャイムが鳴ったので玄関に向かえば、白栞が立っていた。
「結翔、デートしよ!」
「そんな気分じゃない。てか唐突すぎるだろ……」
せめて事前に声をかけておいてくれればと思うのだが、どのみち今日はそんな元気はない。
楓への心配で何も手につかないし、寝不足もある。
「なんか疲れてるね……大丈夫?」
「俺は平気だよ。楓のほうが心配だ」
「楓ちゃんなら大丈夫だよ。お母さまからご連絡いただいたけど、週明けには来れそうだって」
お母さまとは、楓の母親のことだろうか。いつの間に連絡先など交換したというのだろう。
一瞬違和感を覚えたが、こいつの行動力とコミュ力ならありうるか。
「ってわけで、デートしよ?」
「眠いからまた今度……」
「えー……。あ、じゃあ一緒に」
「言わせねーよ」
俺は玄関の扉を閉め、部屋へと戻っていった。
少し気になったが、明日になれば楓と会えるのだと思うと安心もできた。眠気は強くなり、布団に倒れこむ。
意識はすぐに途切れ、次に目を覚ました時にはすっかり日も沈んでいた。
翌日。
一刻も早く楓に会いたかった俺は、自分でも信じられない時間に自然と目が覚めた。
いつもより三十分は早く準備を終えると、そのまま家を出る。
幼馴染二人には、今日は先に行くとメッセージを入れておいた。普段の待ち合わせ場所を早足で通り過ぎて改札を通る。
こんな時間に学校に行くなんて、初めての経験だ。いつもより人口密度の高い電車に面喰いながらも、頭の中は楓のことでいっぱいだった。
結局、楓に送ったメッセージは未読のままだ。よほど体調が悪かったのだろうか。
もしかしたら今日も来れない可能性もあるし、いつもより遅く登校してくる可能性だってあったのだが、向かっている間はまるでそんなことは気にしなかった。
今はただ、一刻も早く楓に会いたかった。
最寄り駅から学校までは、走り出したい気持ちをこらえながら、競歩のごとく歩いて向かう。
学校まで走り切れるほど体力は無い。それに、走って会いに行くなんて、余裕が無さ過ぎてちょっとかっこ悪い気がしたのだ。
下駄箱で靴を履き替え終えると、段飛ばしで階段を駆け上った。
「お、おはよう」
教室の戸を開け、挨拶しながら入室する。まだ生徒の姿はほとんどなく、椅子に座って、本を読んでいる女子生徒が一人のみだった。
艶やかな黒髪は、窓から吹き抜ける風でサラサラと揺れていた。
ようやく会えた。
「楓。お、おはよ」
鞄を自分の机に置くのも忘れて、真っ先に楓の机を目指す。
そんな自分があまりにも余裕がなくて情けなくなり、せめて挨拶くらいは落ち着いてと思ったが詰まってしまった。
まったくもって情けない限りで、顔が熱くなった。
楓はこちらを見ると、パッとした笑顔になった。
それは、俺が今までに見たことのない笑顔だった。
「結翔くーん。おはよー」
鼻にかかったような声。間延びした話し方。
それが誰のものなのか、理解するまでに時間がかかった。
「心配かけちゃってごめんねー。もう大丈夫だよー」
ゲームやラノベで、貼り付けたような笑みという表現を目にしたことがある。
どうにもピンと来ていなかったが、今初めて理解した。
目の前にいる、桂木楓はまさしく。
「改めて、今日からまたよろしくねー?」
貼り付けたような、作り物のような笑みを浮かべていた。