君がカードを引いたなら   作:七紫ノごんべえ

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コミティアの準備でだいぶ投稿ペースが落ちています。
少しずつ書き進めているので、今後もお楽しみいただけたら嬉しいです。


楓ルート 十二

 

 いつものように登校すると、珍しく楓の姿が無かった。

 ホームルームで担任が楓の欠席を告げた。体調不良とのことだった。

 昼休みに楓に体調はどうかと連絡するも、未読のまま。

 

 それが、五日前のこと。

 今日もまだ、メッセージは未読のままだ。

 

 さすがに心配になり担任を問い詰めたが、母親からの電話ではそろそろ学校には行けそうとのことらしい。

 せめてお見舞いにと思ったが、楓の家が俺にはわからない。個人情報のため、担任も教えられないようだ。

 

 やり場のない不安を抱えたまま週末に入り、心も体もろくに休まらない日曜日。

 家のチャイムが鳴ったので玄関に向かえば、白栞が立っていた。

 

「結翔、デートしよ!」

「そんな気分じゃない。てか唐突すぎるだろ……」

 せめて事前に声をかけておいてくれればと思うのだが、どのみち今日はそんな元気はない。

 楓への心配で何も手につかないし、寝不足もある。

 

「なんか疲れてるね……大丈夫?」

「俺は平気だよ。楓のほうが心配だ」

「楓ちゃんなら大丈夫だよ。お母さまからご連絡いただいたけど、週明けには来れそうだって」

 お母さまとは、楓の母親のことだろうか。いつの間に連絡先など交換したというのだろう。

 一瞬違和感を覚えたが、こいつの行動力とコミュ力ならありうるか。

 

「ってわけで、デートしよ?」

「眠いからまた今度……」

「えー……。あ、じゃあ一緒に」

「言わせねーよ」

 俺は玄関の扉を閉め、部屋へと戻っていった。

 少し気になったが、明日になれば楓と会えるのだと思うと安心もできた。眠気は強くなり、布団に倒れこむ。

 意識はすぐに途切れ、次に目を覚ました時にはすっかり日も沈んでいた。

 

 

 翌日。

 一刻も早く楓に会いたかった俺は、自分でも信じられない時間に自然と目が覚めた。

 いつもより三十分は早く準備を終えると、そのまま家を出る。

 幼馴染二人には、今日は先に行くとメッセージを入れておいた。普段の待ち合わせ場所を早足で通り過ぎて改札を通る。

 こんな時間に学校に行くなんて、初めての経験だ。いつもより人口密度の高い電車に面喰いながらも、頭の中は楓のことでいっぱいだった。

 

 結局、楓に送ったメッセージは未読のままだ。よほど体調が悪かったのだろうか。

 もしかしたら今日も来れない可能性もあるし、いつもより遅く登校してくる可能性だってあったのだが、向かっている間はまるでそんなことは気にしなかった。

 今はただ、一刻も早く楓に会いたかった。

 

 最寄り駅から学校までは、走り出したい気持ちをこらえながら、競歩のごとく歩いて向かう。

 学校まで走り切れるほど体力は無い。それに、走って会いに行くなんて、余裕が無さ過ぎてちょっとかっこ悪い気がしたのだ。

 下駄箱で靴を履き替え終えると、段飛ばしで階段を駆け上った。

 

「お、おはよう」

 教室の戸を開け、挨拶しながら入室する。まだ生徒の姿はほとんどなく、椅子に座って、本を読んでいる女子生徒が一人のみだった。

 艶やかな黒髪は、窓から吹き抜ける風でサラサラと揺れていた。

 ようやく会えた。

 

「楓。お、おはよ」

 鞄を自分の机に置くのも忘れて、真っ先に楓の机を目指す。

 そんな自分があまりにも余裕がなくて情けなくなり、せめて挨拶くらいは落ち着いてと思ったが詰まってしまった。

 まったくもって情けない限りで、顔が熱くなった。

 

 楓はこちらを見ると、パッとした笑顔になった。

 

 それは、俺が今までに見たことのない笑顔だった。

 

「結翔くーん。おはよー」

 鼻にかかったような声。間延びした話し方。

 それが誰のものなのか、理解するまでに時間がかかった。

 

「心配かけちゃってごめんねー。もう大丈夫だよー」

 

 ゲームやラノベで、貼り付けたような笑みという表現を目にしたことがある。

 どうにもピンと来ていなかったが、今初めて理解した。

 目の前にいる、桂木楓はまさしく。

 

「改めて、今日からまたよろしくねー?」

 

 貼り付けたような、作り物のような笑みを浮かべていた。

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